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とある王女の恋物語  作者: 藍田 恵
第三章 解かれた封印
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2

 ポットに用意されたお茶が無くなる頃を見計らったかのように、仕立て屋のお針子達の来訪が告げられた。

 エリーは彼女達を部屋に招き入れると、サラの寸法を測ってもらう。

 成人式のドレスを作る時も、他愛ないお喋りをしながら姉達にこうしてあちこちを測られた。

 つい昨日の事のように思い出せるのに、あれからものすごく時間が経ってしまったような気がする、とサラは思った。

 採寸はすぐに終わり、入れ替わりに入って来た大臣から戴冠式についてざっとした説明を受け、部屋はまた二人だけになった。

「…なんだか急に、緊張してきたわ」

「大丈夫よ。戴冠式は成人式とあんまり変わらない、って大臣も言っていたじゃない」

 しかしその成人式をサラは抜け出している。いっそのこと戴冠式も逃げてしまいたいが、エリーの名誉の事を考えるとそんな事はとても出来そうにない。

 せめて居眠りだけはしませんように。

 祈るような気持ちになっているサラを見て、エリーはくすりと笑った。

「今日はこのあとお昼ご飯と、お茶まで付き合ってね。私がサラの話ばかりするから、王様も王妃様もサラとお話をしたがっているのよ。その後、お城の中を散歩しない? さっき説明があった神殿の近くは、庭がとても素敵なの。それから、上の階から見る街の景色も綺麗だから見せたいわ。きっと気に入ってくれると思うの」

 きゅっとサラの手を握ってエリーは微笑む。サラもその笑顔につられて微笑んだ。



 昨日のお城からの差し入れは一度ではとても食べ切れず、娘達は残った料理に少し手を加えて昼食の支度をしていた。

 その美味しそうな匂いに誘われて、デラはふと目を覚ます。

 昨夜遅く帰ってきたデラはクレイの気遣いにより、目が覚めるまでの間ぐっすり眠る事が許されていた。

 騎士にあるまじき事だと思うが、疲れていたので主君の好意は有り難かった。ただでさえ昨日は朝早く起きて木苺狩りをし、それから夜遅くまで働いていたのだ。

 今まで蓄積していた疲れもあったのだろう。目覚めた時には日はすっかり高くなり、当然の事だが部屋にはクレイの姿はない。

 程よく空腹になっていたので、デラはまっすぐ食堂に向かった。

 台所ではケイトとセレナが二人で昼食の準備をしている。

「あら、デラ。起きたのね」

 デラに気付いたケイトが微笑む。

「今朝は失礼しました」

 朝食の席に出られなかった事を詫びると、セレナがふふっと笑った。

「もっとゆっくりしてても良かったのに。疲れは取れた?」

「はい」

「良かったわ。昨夜クレイが、デラが良く眠れるようなお茶はないかって尋ねるから、私が寝付けない時に飲むお茶を用意したんだけど…効いたかしら?」

「あっ…はい」

 その言葉にデラは驚く。

 そのお茶はデラだけではなく王子も一緒に飲んだはずだ。その王子は普段通りに起き、自分だけ寝坊したことを考えると…やはり、自分は相当疲れていたのだ、とデラは思う。

 デラにとっては初めての外国への旅であり、王子の随行員としての仕事だ。当然のように、普段の護衛の仕事より気は張っている。

 王子が休めと言ってもなかなか休もうとしなかった数日前の夜のことを思い出し、デラは小さく溜息を吐いた。

「あの…王子は?」

 マイリの姿は見えないが、一応声を小さくしてデラは尋ねた。

「外で馬の世話をしているわ。ジェスもマイリも一緒のはずよ」

 ケイトが料理を皿に移しながら言う。

「もしクレイの所に行くなら、他の二人にも昼食の準備が出来たから戻るように言ってくれない?」

「あの…サラさんは今日、お城に行かれているんですよね。いつ頃帰って来られるんですか?」

「積もる話があるでしょうから、夜までには帰って来るんじゃないかしら」

「夜?」

 予想外に長かったので、デラは驚きの声を上げた。その驚き方に、尋ねられた方のケイトがびっくりする。

「どうしたの? サラに何か用が?」

「いっ…いえ。大した用では」

 王子に頼まれて調達した剣の事があったが、自分からケイトに話す内容ではないだろう。

「どちらにしても今日中には戻ってくるわ。あの二人はね、村ではいつも一緒だったの。ここに来てから一緒にいる時間が減ってしまったから、たまにはいいんじゃないかしら。クレイには悪いと思うけど、サラとエリーが一緒にいられる時間はあと少しだから、どうせならゆっくりさせてあげたいの」

 戴冠式が終われば、ここの姉妹は村へ帰る。デラも王子と一緒に一旦国へ帰る事になる。

 …そして王女は一人、城に残るのか。

 デラはそうぼんやりと考えて、ふと気が付く。

 幼い頃から孤児同然で、独りでいることが当たり前だった。城にいた時だってそうだったのに。

 なのに、ここに来てからいつの間にか誰かと一緒にいる事が当たり前になってしまって、誰か一人でも留守をしていることが妙に落ち着かない。自分だって用事があれば留守をするのに、だ。

 今まで、あまり考えた事もなかったが…。

 家族というものは、こういうものなのだろうか。

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