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…向かい合って食事をすることがこれほど気まずいなんて。
本当はサラがクレイを意識しすぎていることが原因なのだが、サラはクレイの存在に居心地の悪さを感じながら美味しいはずの料理をのろのろと口に運んでいた。
クレイはエリーと楽しげに雑談している。それでいいとサラは思う。エリーも気負わず会話を楽しんでいるようだし。
だけど時折クレイが自分を見て笑顔を向けるのはどういうことだろう。
「ねぇ、サラ?」
エリーに呼びかけられてサラははっとした。
「え?」
「ひどいわ。聞いてなかったの?」
エリーは拗ねたように膨れてみせた。
「ごめん、エリー。何の話?」
「戴冠式の話よ。サラは私の運命を切り開いた騎士として、戴冠式に参加してもらうことになったのよ」
「え?」
サラは言われた意味がよく理解出来ず、エリーの瞳を見返した。
「だから正装してほしいの」
「正装って…成人式の時のドレス? それともまさか、甲冑とか着るんじゃ…」
「やぁね。ちゃんとした戴冠式用のドレスよ」
エリーは笑う。
「戴冠式のドレスは代々、国王が選ぶんですって。だから私のドレスも、王妃様のドレスも、サラ、あなたのドレスも国王が選ばれるわ。採寸するから明日、お城に来てね。その時に儀式の説明もあるわ」
「そんなに急に…」
思いもしなかった急な申し出にサラは青ざめた。
「サラが騎士だとマイリが言っていたのを聞いたけど…。王様もサラが騎士だと認めているのかい?」
事情を知らないクレイは不思議そうにエリーに尋ねた。
「ええ。サラは私が森の女王に王女として認めてもらう為に、騎士の証明をしてくれたのよ」
「騎士の証明?」
「私が王女として正しく在れるかどうかを、身を以て精霊に証明してくれたの」
「どうやって?」
言葉通りの問いを持つクレイの瞳がサラに問う。
「勇気よ」
その問いにはケイトが答えた。
「あまり詳しくは話せないけど。サラの勇気のお陰でエリーが王女と認められたのは本当なの」
「それで戴冠式へ…。すごいな、サラ」
ケイトに追求を咎められたことを感じたクレイはそれ以上の話は止め、ただ感心したようにサラを見つめていた。
その日の夜遅くにデラは帰って来た。
先に眠ってしまった娘達に代わり、明かりのついた食堂でデラの帰りを待っていたクレイは、馬の足音を聞きつけると静かに外へ出た。
「ただいま帰りました」
「ご苦労だった」
深夜ということもあり密やかな声と動作で馬から降りたデラは、真っ先に手にしていた剣をクレイに渡す。
「これをサラさんへ」
「ありがとう、デラ」
剣の重さを確かめてクレイは頷いた。それは母国で作られた剣の中でも良質なものだった。
「良い物を手に入れたな」
「エルマ王女のお陰です」
「エリーが?」
意外な名前が出たことにクレイは驚く。
「あの美しさならやはり、と言うべきか…。国王夫妻はもとより、城の住人の心を完全に摑んでいらっしゃいます。我が国の間諜までもが全く同じ有様でした。忠誠心と言うよりは恋心と言った方が近いでしょう。王女のお役に立てるなら、と、最良の物を用意してくれました」
「末恐ろしいな」
「城内の人間は王女に骨抜きです。言い換えれば素晴らしい統率力があるということです。良い方を伴侶に出来ますね」
「…そうだな」
「王女の評判は良いものしかありません。城へ来てまだ日が浅いせいかとも思いましたが、本当に愛らしい方だからという理由のようです」
実感のこもったデラの口ぶりに、クレイは心の中で苦笑する。この若い騎士見習いは、今日初めて会ったエルマ王女のあまりの美しさに雷にでも打たれたかのような衝撃を受けていた。
普段子供らしからぬ冷静さを保っているデラの狼狽えぶりはクレイも驚くほどで、むしろそんな反応を見慣れている様子のエリーの姉妹達の方がずっと冷静にデラの反応を受け止めていた。
「分かった。…それで間諜の報告の方は?」
「ハーヴィス王国の動きは、戴冠式まで何もないようです。もともとステファン王子はリブシャ王国の食糧と資源にしか興味はない様子なので、エルマ王女自身に具体的な働きかけをしようとは思っていないのではないでしょうか、との見解でした」
「妖魔の動きは?」
「まだないそうです。森の女王のお膝元ですから、そう容易くは動けないでしょう。動きがあるとすれば、戴冠式の後かと」
馬をしっかりと繋ぎ終えたデラは、馬具を外して他の荷物と一緒に腕に抱えた。
「そうか。…ところで夕食はどうした、デラ? ケイトがお前の為にスープをいつでも温められるようにと準備してくれているが」
「明日の朝いただきます。王女との会食は如何でしたか、王子?」
「楽しかったよ。料理も美味かった。マイリが作ったパイもね。お前の分も、ちゃんと残してあるぞ」
「上手く出来たんですね」
デラは月明かりの中でもはっきりと分かる笑顔になった。
「嬉しそうだな」
「私が摘んだ木苺で作ったパイです。楽しみにしていたから、もちろん嬉しいですよ」
「食べてから寝るか?」
「そうですね。…ええ、そうします。なんだか急に甘い物が食べたくなりました」
「そうか」
デラの笑顔につられるようにクレイも笑った。
「セレナが準備してくれた香草のお茶があるから、そのお茶を淹れよう。僕もお茶に付き合わせてくれ」
「勿論です、王子」
「それから、明日サラが城に向かうことになった。だからエリーは来ない。時間が空いたから森で久し振りに剣の練習をしないか? ここに来てから鍛錬らしきことをしないから体が鈍りそうなんだ。付き合ってくれ」
「いいですね。正直、私も剣の腕が鈍りそうで心配だったのです」
「決まりだ。明日が楽しみだ。その時にこの国の城下町の様子も教えてくれ」
「はい」
二人は小声でそう話しながら、静かに食堂へと向かった。




