第33話 ポストを鑑定するんじゃない。
ある日の昼下がり。
路地裏にやたらと自信満々な顔をした若い男がやってきた。
高価そうな外套をまとい、手には怪しげに光る『水晶玉』を握っている。
(……また変なのが来たな。占い師か何かなのか?)
男は俺の前に立ちはだかると、不敵な笑みを浮かべた。
「ふん、街を騒がせる『守り神』の正体、この俺の最高位鑑定スキルで見破ってくれるわ!」
(……見破らなくても、ただのポストだけどな)
男は水晶玉を俺に突き出し、大真面目な声で叫んだ。
「──『鑑定』!」
まばゆい魔法の光が俺の投函口の奥へと差し込む。
男の水晶に、俺のステータス画面が表示された。
│ 『種族:郵便箱』
│ 『ポスト力:9999』
│ 『能力:《預かる者》』
│ 『特技:ポストなのにパンが食べられる』
│ 『備考:ルミナかリリル早くこないかな』
│ 『──鑑定に必要な情報が不足しています──』
│ 『──再鑑定を推奨します──』
│ 『──判定不能──』
男の顔が、一瞬で真っ青になる。
「し、種族、郵便箱……!? そのままだ、あまりにも、そのまますぎる……神ではないのか!?」
(おお。ゲーム画面みたいで面白いな)
「それに、ポ、ポスト力9999だと……!? レベルや魔力ですらない、未知の概念の限界値……!」
男はガタガタと膝を震わせながら、食い入るように水晶を凝視している。
「特技、ポストなのにパンが食べられる……? これは一体どんな暗号だ……。恐ろしすぎる……!」
(意味なんてないぞ。パンはうまい!)
「さらに備考、『ルミナカリリル早くこないかな』だと……!? ルミナカリリルとは何だ。この神が降臨を待ち望んでいる、伝説の創造主の名か……!?」
(いや、ルミナか、リリル。どっちも普通の女の子だよ。暇だから早く来ないかなって思ってただけだ)
俺は心の中でツッコミを入れた。
だが、男のパニックはもう止まらない。
最後の『判定不能』の文字を見た途端、ついに悲鳴を上げた。
「……ヒイィッ! こんな表示は初めてだ! ……待て。俺の鑑定が間違っている可能性があるな!!」
男は震える手で水晶玉を握り直した。
「再鑑定だ! ──調べ尽くせ『超深層鑑定』!!」
(何度やっても無駄だよ。なんか、腹が立ってきた)
│ 『種族:郵便箱人間』
│ 『移動速度:0(固定値)』
│ 『防御力:鉄板並(例外の可能性アリ)』
│ 『耐久:雨ざらしでも平気』
│ 『攻撃手段:なし(投函口をパタパタできる)』
│ 『営業時間:24時間(本人は休みたい)』
│ 『嫌いなもの:突然の回収』
│ 『称号:街角の噂好き』
│ 『未処理タスク:手紙 23通 / 未消化のパン / 龍 1体』
│ 『現在地:街角・路地裏(※目撃情報に一貫性なし)』
│ 『保証期間:すでに過ぎています』
│ 『守りたいもの:勇者の手紙(非公開)』
│
│ 『再鑑定結果:対象は郵便箱ではありません』
│ 『警告:対象の内部から視線を感じます』
│ 『推奨行動:刺激せず速やかに離れること』
「だ、ダメだ、情報量が多すぎる。俺には理解できない……! 脳が、脳が焼き切れるッ!!」
男は水晶玉を地面に放り出すと、頭を抱えて泣き叫びながら、一目散に路地裏から逃げ去っていった。
(……一人で勝手にパニクっていなくなったな)
静まり返った路地裏で、俺は心の中で深くため息をついた。
男が落としていった水晶玉が目の前に転がっている。
「なんか面白かったし、預かっておこうかな」
《転送》──
俺は地面に落ちていた水晶玉を大切に預かった。




