第3話 美少女勇者が毎朝手紙を入れてくる。
翌朝。
俺は少女が来るのを待っていた。
自分でも不思議だった。
たった一通の手紙を預かっただけで、名前すら知らない。それなのに、朝になれば彼女が来るような気がしていた。
そして──馬の蹄の音が聞こえてくる。
俺の前に、昨日の少女が現れた。
「……おはよう」
誰に向けたわけでもなさそうな呟き。
俺はポストだから、挨拶を返すことすらできない。
少女は少し恥ずかしそうに下を向くと、一通の封筒を取り出した。
カタン。
今日も手紙が入る。
「……また来るね」
少女は小さくそう言い残し、去っていった。
(また来る、か)
その言葉が、妙に嬉しかった。
それから毎朝、彼女はやってきた。
雨の日も、風の日も。
必ず一通の手紙を入れていく。
そして、手紙の内容も少しずつ変わっていった。
俺は毎日、彼女の手紙を預かった。
──今日は敵を倒しました。
──仲間が褒めてくれました。嬉しかったです。
次の日。
──今日は失敗しました。みんなに迷惑をかけました。
その次の日。
──勇者なんて、やめたいです。
返事はできない。だからただ静かに聞く。
それしかできなかった。
そんなある朝、少女はいつもと違っていた。
手紙を投函する前に、俺の前で足を止める。
「……ねえ」
俺は答えられない。
「あなたって、不思議だよね」
ドキッとした。
ポストなのに心臓があるような気がした。
「毎日ここにいる」
……そりゃそうだ。ポストだからな。
「私が何を書いても、何も言わない」
……言えないんだよ。
「怒らないし」
……怒れない。
「笑わないし」
……ある意味、笑えない。
「でも」
少女が投函口に、そっと小さな手を触れた。
「ここに手紙を入れると、少しだけ気持ちが楽になるの」
俺は黙ってその言葉を聞いていた。
「だから……今日も預かってね」
カタン。
少女が封筒を投函した、その瞬間だった。
俺の頭の中に、メッセージが浮かび上がる。
『《預かる者》が対象を認識しました』
(……彼女のことか?)
『対象との信頼度が一定値を超えました。新たな能力条件が解放されます』
《預かる者・第二段階へ移行》
──対象が自ら望んだ場合、その身体を一定時間「預かる」ことができます。
俺は驚いた。
つまり、彼女が望みさえすれば、俺は彼女の身体を一時的に預かることができるということか?
だが、そんなことをする理由なんてない。
少女はいつものように俺に背を向け、ゆっくりと歩き出す。
「……また明日ね」
俺はその小さくなっていく背中を見送る。
明日も来る。
ただそれだけのことなのに、俺の中で楽しみな気持ちが少しずつ膨らんでいた。




