第2話 郵便受けなんて受け入れられないんですけど!?
ポストになってから三日が経った。
俺は、まだ現実を受け入れていない。
正確には、受け入れざるを得なくなってきた。
朝。昼。夜。
俺は同じ場所に立っている。
動けない、座れない。
寝られない、食事も必要ない。
生きているのか死んでいるのか、よくわからない。
そして毎日、人が俺の中に手紙を入れていく。
カタン。
カタン。
カタン。
最初は苦痛だった。
だが、人間というのは恐ろしい。
三日もすると慣れる。
慣れたくはないが。
俺はポストとしての生活を受け入れ始めていた。
受け入れたくもないけどな。
ただ、考えることを諦めただけだ。
そんなある日の夕方。
『能力が使用可能になりました』
「……?」
頭の中に声が響いた。
女神からもらった能力。
そういえば、まだ確認していなかった。
『固有能力──《預かる者》』
名前からして嫌な予感しかしない。
『対象をポスト内部へ一時的に収納することができます』
「バカバカしい能力だな」
『なお、本能力にはポスト本体を保護するための自己防衛機能も備わっています』
「……自己防衛?」
『危険を検知した場合、通常の使用条件が一部変更される場合があります』
「いや、ポストに自己防衛って何だよ……」
待て。郵便物を預かるだけじゃないのか?
『現在、使用可能な機能は以上です』
「……まあ、いいか」
俺は深く考えるのをやめた。
どうせポストなのだ。何も変わらない。
そんなことを考えていると、遠くから馬の蹄の音が聞こえた。
そして、一人の少女がこちらへ歩いてきた。
銀色の髪。白いマント。腰には剣。
そして、胸元には紋章が刻まれたバッジ。
明らかに普通の少女ではない。
少女は俺の前で立ち止まると、周囲を見渡した。
そして彼女は、懐から一枚の封筒を取り出した。
カタン。
俺の中へ手紙が入る。
「……これでいい」
少女は小さく呟いた。
「今日も、誰にも見つからなかった」
少女の声は少し震えていた。
そして──
「……誰にも言えないんだ」
俺は聞いている。
そして、彼女は知らない。
俺が手紙の中身を読むことができるということを。
少女はそのまま立ち去った。
俺は初めて思った。
……手紙。
読んでいいのか?
俺は郵便局員になりたかった。
手紙を届ける仕事がしたかった。
だから、勝手に読むなんて──
そう思った。
しかし、俺の中にはすでに手紙がある。
そして、ポストとしての俺には、その内容がわかってしまう。
頭の中に文字が浮かんだ。
──今日も、魔王討伐に行きました。
──仲間の前では笑いました。
──怖くなんてないふりをしました。
──でも、本当は怖い。
──私は勇者だから、弱音を吐けません。
そこで文章が途切れていた。
最後の一行だけ。
震えるような文字で書かれている。
──誰かに、「怖い」と言いたい。
「…………」
俺には何もできなかった。
声をかけることも、手紙を返すことも、走り去る彼女を追いかけることだってできやしない。
ただ手紙を預かる。
それが今の俺にできるすべてだった。
だが、俺はこのとき初めて思った。
もしかすると──
俺は郵便局員にはなれなかったけれど、誰かの『秘密』を預かる仕事なら、できるのかもしれない。




