第1話 転生先は郵便ポスト。
人生とは、何が起こるかわからない。
これは比喩でもなんでもない。
俺──神崎恒一は、平凡な人生を送っていた。
……まあ、死んだんだけど。
「痛っ!」
最後に覚えていたのは、それだった。
歩道を歩いていた俺の目の前に、なぜか工事現場から一本の木材か何かが飛んできた。
避けようとした。避けたつもりだった。
そして次の瞬間、俺の頭は街角に設置されていた郵便ポストへと激突した。
なぜそこにポストがあったのか。
なぜ木材が飛んできたのか。
なぜ、よりによってポストに頭をぶつけたのか。
わからない。
ただ、一つだけ確かなことがある。
俺は死んだ。
……たぶん。
⭐︎
「神崎恒一さん」
「はい」
目の前にいたのは、いかにも女神っぽい女性だった。
白い服。長い髪。輝く後光。
そして、俺を見つめる申し訳なさそうな目。
「あなたは亡くなりました」
「ですよね」
頭をぶつけたところまでは覚えている。
まさか自分の死因が、頭をポストにぶつけたことになるとは思わなかった。
「ですが、ご安心ください」
「できるか! 死んだんだぞ! しかもポストで!」
「落ち着きなさい。あなたには、異世界で第二の人生を送る機会が与えられます」
「異世界……」
来た。
漫画のような展開だ。
まさか自分が、こういうことになるとは思わなかった。
俺は少し考えてから、女神に尋ねる。
「次の人生って、どうなるんですか?」
「基本的には、人間として転生する方が多いですね」
「じゃあ……」
俺は考えた。
そして、ふと前世で憧れていた仕事を思い出した。
「郵便局員になりたいです」
「……郵便局員?」
「はい」
手紙を預かって、誰かから誰かへ届ける。
自分自身は目立たなくても、人と人を繋ぐ。
なんとなく、そういう仕事っていいなと思っていた。
「わかりました」
女神は微笑んだ。
「では、あなたの希望を叶えましょう」
「ありがとうございます!」
こうして俺は、異世界へ転生した。
⭐︎
そして──
目が覚めると、空が見えた。
青い空、鳥の声。人の声もする。
どうやら異世界に生まれ変わったらしい。
新しい人生が始まる。
そう思った。
……思ったのだが。
おかしい。
動けない。
体を起こそうとしても、起き上がれない。
手も動かない。足も動かない。声も出ない。
というより──
手も足もない。
「…………?」
視界が異様に低い。そして狭い。
目の前を通り過ぎる人々の足が見える。
俺は混乱した。
そのとき、一人の子供が俺の前で立ち止まった。
「ママ!」
「どうしたの?」
「あたらしい郵便箱!」
「まあ、本当ね」
「お手紙入れていい?」
「もちろんよ」
子供が俺に近づいてくる。
そして、俺の正面にある投函口へ、一枚の紙を入れた。
カタン。
紙が俺の中に落ちた。
「…………」
俺は理解した。
理解したくなかった。
だが、理解した。
俺は。
神崎恒一は。
郵便局員ではなく──
郵便ポストになっていた。
「…………」
声が出ない、叫べない。
ただ、風だけが吹き抜けていく。
そして頭の中に、あの女神の声が響いた。
『申し訳ありません』
……何が?
『転生処理の際に、職業指定を間違えました』
……何を?
『郵便局員と郵便受けを』
ふざけんな。嫌がらせだろ。
『お詫びとして、特殊能力を一つ付与いたします』
そこじゃない。
俺はポストになったんだぞ。
人間じゃない。
職業ですらない。
『それでは、よい異世界生活を』
待て。
待ってくれ。
俺はまだ──
ポスト人生を受け入れてない!!
……しかし。
俺には、もう何もできなかった。
なぜなら俺は──
ポストだったから。
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