↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/57

第28話 芋男の逆襲。

 

 守り神の噂が広まりすぎて、俺の前には毎日いろんな人間が悩みを投函しにやってくる。

 ある日の午後。

 俺の前に、やたらと気まずそうな顔をした一人の男がやってきた。

「なあ、お前、願いを叶えてくれるってホントかよ……」

(……誰だっけ、コイツ)

 見覚えがある気がする。静かに記憶を探る。

 しばらく考えて、俺は思い出した。

(……あ。ルミナのことを『イモ女』とか呼んで、いじめてた男だな。じゃあ、芋男でいいや)

「頼みたいことがあるんだ」

(俺はお前が大嫌いだからな。頼みなんて聞いてやらん。どうせ復讐か嫌がらせだろ)

 当然声には出ないが、俺は投函口の蓋をカチンと閉じた。

 だが、芋男は諦めずに、消え入りそうな声で言葉を絞り出した。

「……謝りたいんだ」

 男の顔は真剣だった。冷やかしではないらしい。

「後悔はしている。でも、今さら本人の前に行って謝れるかよ……」

 芋男は俺に向かって深々と頭を下げた。

「頼む、郵便箱。俺の代わりに……ルミナに謝ってくれ……」

(いや、なんで俺が嫌いな奴の身体に入って、ルミナに謝りに行かなきゃいけないんだよ)

 そんな考えが頭をよぎる。

 だが、泣きそうな男の顔を見ていると、無下に見捨てるのも違う気がしてきた。

(……本気の謝罪か。預かった以上は、届けるか)

『──対象の《預託意思(エントラスト)》を検知──』

『──『引受』可能です──』

 視界が反転した。

 ⭐︎

 俺は芋男の身体を預かり、学園の廊下を歩いていた。

(……最悪な気分だ。まさか芋男になるとはな)

 ルミナのいる教室の前まで行き、中を覗き込む。

 彼女の姿を見つけ、俺は声をかけた。

「話がある」

「……えっ?」

 かつてのいじめっ子の姿を見たルミナは、少しだけ驚いたように身を固める。

 俺は芋男の身体を動かし、頭を下げた。

「……なんか、ごめん。昔は嫌がらせばかりして。許してくれないとは思うけど、本当に、ごめん」

 たどたどしい、不格好な謝罪。

 ルミナはしばらくの間、黙って俺の顔──いや、芋男の顔をじっと見つめていた。

 そして、ふっと柔らかく目を細める。

「……恒一さんでしょ?」

「はっ!?」

 まさかの一発看破。

 額も隠したし、不自然な言動もしなかった。

 俺は芋男の肉体ごと、激しく動転した。

「そんなわけないだろ!? 俺は今、どう見てもあの男の──」

「分かるよ」

 ルミナはくすくすと嬉しそうに笑う。

「だから、なんでだよ!?」

「……恒一さんだからかな?」

 胸の奥が、妙に熱くなるような感覚。

 ルミナは少しだけ視線を落とし、芋男の謝罪について静かに答えを出した。

「すぐには無理だけど……謝ってくれたことは、ちゃんと覚えておくね」

「……あ、ああ。そうだな」

 俺はそれ以上何も言わず、その場を去った。

『残り時間──十秒』

 意識が引き剥がされ、世界が再び反転する。

 ⭐︎

 いつもの街角。黄昏時。

 主導権が戻った芋男は、その場にへたり込んでいた。

「なんだ、この感覚……。まさか、本当に……」

 芋男の額に浮かんでいた『〒』の印が、ゆっくりと消えていく。

 すぐには関係が修復されないかもしれない。けれど、以前の状況よりはずっといいだろう。

 芋男はグッタリした様子で去っていった。

「……はぁ、疲れたな」

 しばらくすると、聞き慣れた軽い足音が近づいてきた。ルミナが路地裏にやってくる。

 俺のボディに優しく触れる彼女は、とても楽しそうに微笑んでいた。

「ふふ」

「何笑ってるんだよ、ルミナ」

「だって、恒一さんが私のために、一生懸命謝ってくれたから」

「俺が謝ったんじゃない。──芋男が謝ったんだよ」

「芋男? ……面白いね。ありがとう、恒一さん」

「…………」

 言葉に詰まる。

 これ以上の言葉は、俺たちには不要な気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。