第21話 守護竜討伐の知らせ。
いつもの街角に、いつもの退屈な風が吹いていた。
カタン。
カタン。
投函口の蓋が揺れ、手紙が滑り込んでいく。
行き交う人々は誰も、俺が思考を持っているなんて気づきもしない。
俺はただ、陽だまりの中に佇んでいる。
それだけの、いつも通りの穏やかな午後のはずだった。
「なあ、聞いたか」
近くを通り過ぎる、若い男たちの会話が聞こえる。
「北の国境だよ。あの『守護竜』が落ちたらしい」
「はあ? 国の象徴だろ、あの竜」
「一体、誰が倒したんだよ」
「──銀髪の勇者だって話だ」
「どうにも、無惨な死に様だったらしいな」
「ああ。跡形も残っていなかったという話だ」
「魔王軍だけじゃ物足りなかったのかね」
「さすがは勇者様。恐ろしや恐ろしや」
俺は、その言葉を聞き逃さなかった。
銀髪に北の地。
(……生きている、のか)
沈んでいた胸の奥が一度だけ、ふっと軽くなる。
けれど安堵は一瞬だった。
すぐに、別の酷い違和感を覚える。
頭の中の勇者と、どうしても重ならない。
あの苦しげな手紙を俺のなかに残していった少女が、国の象徴と言われる竜を容赦なく斬り捨てるだろうか。
『怖い』と、掠れた文字で書いていた彼女が。
『誰にも弱音を吐けない』と、泣くように綴っていたあの人が。
カタン、とまた別の住民が俺のなかに手紙を落とす。
(何があったんだよ。誰か教えてくれ……)
⭐︎
西日が路地裏を朱色に染める頃、ルミナがやってきた。
「恒一さん、今日も平和そう」
「……そう見えるか」
「うん。でも、なんか難しいことを考えてる顔してる」
「何度も言うが、顔はない」
「雰囲気、だよ」
ルミナはくすくすと笑う。
俺は少しの沈黙の後、短く言った。
「北で、守護竜とかいうのが倒されたらしい」
「……うん。学校でも、みんなその噂をしてた」
「銀髪の勇者がそこにいた、ってさ」
ルミナの笑顔が、消える。
彼女は、俺のなかに眠るあの手紙の存在を知っている。
「……生きているなら、本当によかったね」
「……ああ」
すぐには、同意しきれなかった。
ルミナはそれ以上、深くは踏み込んでこない。
ただ静かに、いつものように俺の隣に座る。
「手紙、触ってみる?」
「ああ。頼む」
銀色の髪の少女が、震える手で書いた手紙。
街を行き交う噂とは、温度が違いすぎる。
「……やっぱり、何も聞こえないよ」
ルミナから返された手紙を大切に収納する。
「勇者さんに、何があったのかな?」
「分からない。今はまだ、何も」
俺は、動かない視線のまま、茜色の空を見上げた。
「……どう考えても、絶対におかしい」
ルミナは答えなかった。
ただ、寄り添うように隣にいてくれる。




