第16話 ポストをお届けします。
いつもの時間になっても、ルミナは来ない。
昨夜の男子生徒たちの会話が、脳裏をよぎる。
『先日の事件のことで呼び出しをくらったらしい』
まさか、俺に会わずに直接学校に向かったのだろうか。
嫌な汗が、背中を流れるような感覚がした。
ルミナを守らなければならない。
だが、今の俺はただの郵便ポストだ。
「ニャー」
その時、頭上でネコウイチが声を上げた。
「……頼む、お前の身体を俺に貸してくれ!」
俺は意識を集中し、《引受》を発動した。
世界が反転する。
視界が低く、身体は羽のように軽い。
四本の脚を必死に動かし、俺はネコウイチの身体で魔法学校へと全力疾走した。
校門をくぐり、石畳の通路を爆走する。
すれ違う生徒たちが「なんだあの猫!?」と驚いているが、構っていられない。
必死にルミナを探す。
だが、ここで冷酷な現実に気がついた。
俺は今ネコウイチを預かっている状態だ。
《引受》中の《引受》は不可能。
ルミナを《引受》する手段がない。
「このままじゃ、またポストに戻ってしまう」
同意なしの《引受》は体感時間が格段に短い。
走りながら、延々と思考を繰り返す。
廊下を抜け、裏庭へと続く回廊へ飛び出す。
そこには、昨夜の男子生徒たちに囲まれ、俯いているルミナの姿があった。
「──見つけた!」
だが、安堵の瞬間は訪れない。
男の一人が、ルミナの腕を強引に掴もうと手を伸ばしている。
時間がない。
助けてやりたい。
なのに、ルミナを《引受》する方法がまだ思いつかない。
このままでは、あと数秒で時間切れだ。
また強制的に路地裏へ戻されてしまう。
手の届く場所にルミナがいるのに、何もできない。
(猫のままでなんとかしてみるか? いや、無理だ)
無力な自分への怒りが爆発しそうだった。
『──《転送》が解放──』
『──《転送》条件を確認──』
『──《転送》可能です──』
脳内に響き渡る無機質な声。
相変わらず聞いただけでは理解できない能力だ。
だが、説明不足はいつものことだ。
今は検証している暇がない。
(なんでもいいから、とにかく能力を発動してくれ!)
心の中で叫んだ。
「──ルミナッ!!」
「……恒一、さん?」
視界が急激に跳ね上がった。
俺自身、何が起きたのか理解できない。
足元を見下ろすと、ネコウイチが「ニャ〜」と呑気に歩き出していた。
『──転送が完了しました──』




