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神酒鑑定師と鬼の王  作者: 蒼崎しんのすけ


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8/12

最終話 大江山、最後の神酒と観る者の降臨

岩手で六つ目の神酒を手に入れてから三日後


真澄たちは京都へ戻っていた。


目的地は一つ


かつて酒呑童子が支配した伝説の地


大江山


山道を登りながら、誰も口を開かなかった。


酒呑童子


茨木


真澄


三人とも理解していた


これが最後の旅になる


山頂近く


そこには古い神社があった


人の手が入っていない廃社


しかし空気だけは異様に澄んでいた


鳥居をくぐった瞬間


真澄の腕の呪印が激しく光る


六つの神酒も共鳴する


ゴォォォォ……


大地が震えた


神社の奥


巨大な岩が割れる


そこにあったのは一本の酒瓶だった


何の変哲もない酒


だが


その存在感だけが異常だった


酒呑童子が静かに言う


「これじゃ」


最後の神酒


千年前から封印され続けた神酒


真澄が近づく


その瞬間


世界が止まった


風が止む


鳥が止まる


時間が停止する


そして


一人の女性が現れた。


白い着物


長い銀髪


金色の瞳


酒呑童子の記憶にいた人物だった


「観測の巫女……」


女性は微笑む


「久しぶりですね」


千年ぶりの再会だった


真澄は尋ねる


「あなたは何者なんですか」


巫女は静かに答えた


「世界の管理者です」


「管理者?」


「人も神も鬼も」


「全てが生まれる前から存在していました」


理解が追いつかない


巫女は続ける


「観る者も元々は管理者でした」


空気が凍る


「ですが観る者は観測を続けるうちに壊れた」


「世界を愛せなくなった」


「だから全てを観測し尽くし」


「終わらせようとしている」


真澄は息を呑む


つまり


世界を滅ぼそうとしている存在


それが観る者だった


「だからあなたは酒呑童子を?」


巫女は頷いた


「彼は特別だったから」


「人を愛し」


「鬼を愛し」


「酒を愛した」


「だから託したのです」


酒呑童子は頭を掻く


「面倒なことを押し付けおって」


巫女は少し笑った


その時だった


空が砕けた


世界中に亀裂が走る


巨大な瞳


いや


もう瞳ではなかった


空そのもの


海そのもの


山そのもの


世界全体が観る者になっていた


ようやく


ようやく門が開く


観る者が降臨した


人類史上初


完全降臨


空間が崩壊する


山が消える


森が消える


現実そのものが砕け始める


茨木が震える


「兄様……」


酒呑童子は笑った


「安心せい」


そして真澄を見る


「最後の仕事じゃ」


七つ目の神酒を手渡す


その瞬間


七つの神酒が空へ浮かぶ


光


光


光


七色の神気が世界を包む


すると


真澄の呪印が完全に消えた


だが同時に


膨大な記憶が流れ込む


神酒の正体


七つの神酒とは


酒ではなかった


人々の想いだった


喜び


悲しみ


愛情


友情


祈り


希望


そして未来


酒に宿った無数の心


それが神酒だった


観る者は理解できなかった


なぜ人は苦しみながら生きるのか


なぜ滅びを恐れるのか


なぜ酒を酌み交わし笑うのか


だから観るだけだった


永遠に


真澄は前へ出る


「分からないなら」


観る者を見上げる


「飲んでみろ」


七つの神酒が一つになる


巨大な盃が現れる


神酒が観る者へ流れ込む


その瞬間


世界が静止した


観る者は見た


子供の笑顔


家族の団欒


酒蔵の朝


祭り


別れ


再会


無数の人生


無数の感情


千年


万年


億年


全てを


そして


初めて涙を流した


ああ


そうだったのか


巨大な瞳から光が零れる


私は


何も知らなかった


観る者の身体が崩れていく


消滅ではない


救済だった


長い孤独の終わりだった


やがて光は空へ還る


世界は静けさを取り戻した


戦いは終わった


しかし


酒呑童子の身体も薄れ始めていた


「兄様!」


茨木が叫ぶ


真澄も振り返る


「まさか……」


鬼の王は笑う


「役目が終わっただけじゃ」


「消えるんですか」


「元々死に損ないじゃからな」


いつもの調子だった


だが少しだけ寂しそうだった


酒呑童子は真澄に酒瓶を渡す


「最後の土産じゃ」


「これは?」


「ただの酒じゃ」


鬼は笑う。


「友と飲むためのな」


身体が光になる


茨木は泣いていた


真澄も何も言えなかった


酒呑童子は最後に空を見上げる


「悪くない千年だった」


そして


鬼の王は光となって消えた


春


一年後。


京都


小さな酒場があった


店の名は


『鬼灯』


店主は天海真澄


全国を旅した利き酒師だった。


店には各地の日本酒が並ぶ


飛騨


新潟


秋田


山形


福島


岩手


そして京都


そこへ一人の少女が入ってくる


赤い角


赤い髪


茨木だった


「兄様の席、空いてる?」


真澄は笑う


「もちろん」


酒を注ぐ


二人は盃を合わせる


その瞬間


どこからか聞き覚えのある声がした気がした。


「飲んでおるかー!」


真澄と茨木は顔を見合わせる


そして笑った


夜は更けていく


酒は人を繋ぐ


生者も


死者も


神も


鬼も


だから今日も


どこかで誰かが盃を交わしている。


神酒鑑定師と鬼の王の物語

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