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神酒鑑定師と鬼の王  作者: 蒼崎しんのすけ


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第五話 山形・座敷童と消える酒米

神酒鑑定師と鬼の王

第五話 山形・座敷童と消える酒米


秋田で三つ目の神酒を手に入れた真澄たち


次なる目的地は山形県


名峰・月山の麓にある酒どころだった


車窓から広がる田園風景を眺めながら、真澄はため息をつく


「気付けば東北縦断ですね」


「まだ三つじゃ」


酒呑童子は煎餅をかじる


「七つまであと四つある」


「言われなくても分かってます」


「それにしても最近の怪異は優しいのう」


「十分危険でしたよ!」


今回の依頼は奇妙だった


怪異による被害ではある


しかし誰も傷付いていない


問題は酒米だった


山形の老舗酒蔵『天鏡酒造』


仕込み用の高級酒米が毎晩消える


倉庫に鍵を掛けても消える


監視カメラにも映らない


被害額は数百万円


だが不思議なことに、代わりに小さなおもちゃや折り紙が置かれている


「子供の怪異ですね」


真澄が言う


「十中八九」


酒呑童子も頷く


「座敷童じゃろうな」


天鏡酒造


蔵元の天鏡彩乃が二人を迎えた


まだ二十五歳


先代の父を亡くし、若くして蔵を継いだ女性だった。


「本当に困ってるんです」


彩乃は頭を下げる


「酒米がなくなるせいで仕込みが遅れていて……」


「被害は酒米だけですか?」


「はい」


「あと変なものが置いてあります」


案内された倉庫


そこには確かに折り紙があった。


紙で作られた小さな鬼


紙の酒瓶


紙の狐


どれも妙に上手い


酒呑童子が拾い上げる


「器用じゃな」


その時だった。


真澄の呪印が反応する


微かに光る


そして


折り紙から記憶が流れ込んだ。


暗い蔵


小さな女の子


独りで遊んでいる


誰にも見えない


誰にも気付かれない


ずっと

何十年も



「寂しい……」


真澄は思わず呟いた。


その夜


二人は倉庫に隠れた


酒米袋を並べて待つ


時計の針が零時を指す


すると


倉庫の隅から小さな足音が聞こえた


ぺた

ぺた

ぺた


現れたのは七歳ほどの少女だった。


着物姿


短い黒髪


大きな瞳


手には折り紙


「あ」


少女は真澄たちを見て固まった


「見えてるの?」


座敷童だった。


「見えてるぞ」


酒呑童子が答える


少女は驚く


「初めて」


「いつも誰も見えないのに」


その隙に酒米袋が勝手に浮き上がる


少女の能力だった


酒米が宙を飛ぶ


「こら!」


真澄が追いかける


座敷童は逃げる


倉庫を飛び出し、


蔵の奥へ


追いかけた先は古い離れだった。


今は使われていない建物


埃だらけ


しかし


中だけは綺麗だった


折り紙


おもちゃ


古い人形


秘密基地のような空間


「ここがお前の家か?」


真澄が聞く


少女は黙って頷く


そして記憶が流れ込んだ


百年前


この酒蔵には一人娘がいた


名前は鈴


蔵人たちの人気者だった


だが流行病で幼くして亡くなる


蔵の皆は悲しんだ


特に父親だった杜氏は立ち直れなかった


毎日酒を供えた


毎日話しかけた


やがて


少女の想いが蔵に残った

それが座敷童となった


しかし時代は流れる


知る人は消える


誰も鈴を覚えていない


「だから酒米を盗んだのか」


真澄が尋ねる


少女は俯いた


「だって」


「みんな忙しいんだもん」


「私に気付いてくれない」


「少しだけ困らせたら見てくれると思った」


真澄は苦笑した


悪意などなかった


ただ寂しかっただけだ


その時


酒呑童子が辺りを見回した


「妙じゃな」


「え?」


「この蔵」


鬼の王の表情が険しくなる


「何かがおる」


突然


離れの壁が砕けた


ドォォォン!!


巨大な腕が突き破る


真っ黒な泥の塊


人型だが顔がない


全身に無数の目


その中心には――

見覚えのある巨大な瞳



「観る者の眷属!」


酒呑童子が叫ぶ


怪物は鈴を狙っていた


座敷童が悲鳴を上げる


「いやっ!」


真澄は飛び出した


咄嗟だった


怪物の腕を受ける


吹き飛ばされる


壁に叩き付けられる


腕の呪印が激しく光る


「真澄!」


その時だった


鈴が泣きながら叫ぶ


「やめて!」


離れ全体が光った


無数の折り紙が宙を舞う


紙の鬼


紙の狐


紙の龍


すべてが本物の怪異へ変わる


「これは……!」


酒呑童子も驚く



鈴は百年もの間、


蔵の幸福を守り続けていた


座敷童としての力が覚醒したのだ


紙の龍が怪物へ噛み付く


紙の鬼が腕を引き裂く


紙の狐が炎を吐く


その隙に酒呑童子が酒を飲む


神酒だった


三つの神酒の力が身体に流れ込む


鬼気が爆発する


「失せろ!」


拳が放たれる


轟音


怪物が粉砕される


黒い霧となって消滅した


静寂


鈴はその場に座り込んだ



そして


胸の奥から小さな光が現れる


酒器の形をした光


四つ目の神酒だった


「まさか……」


真澄が呟く


鈴が守っていたのだ


百年間


誰にも知られず


神酒は真澄の手に渡る


すると腕の呪印がさらに薄くなった


「ありがとう」


真澄が言う


鈴は笑った


今度は寂しそうではない

とても穏やかな笑顔だった


翌朝


彩乃は離れで見つかった古い日記を読んでいた


そこには鈴のことが記されていた


忘れられていた蔵の娘


「これからは忘れません」


彩乃は墓前に酒を供える


その瞬間


風の中に小さな笑い声が聞こえた気がした


出発の日


酒呑童子は珍しく真剣だった


「四つ目じゃな」


「半分を超えましたね」


真澄が答える


しかし鬼の王は空を見ていた


遠い雲の向こう

巨大な瞳が一瞬だけ現れる



門は近い



声が響く


真澄の呪印が疼く


そして神酒たちが共鳴した


酒呑童子は低く呟く


「急がねばならぬ」


「何が起こるんです?」


真澄の問いに、

鬼の王はしばらく沈黙した。


「七つ目の神酒が見つかった時」


「おそらく世界が変わる」


その言葉だけを残して


車は次の目的地へ向かう


第六話 福島・酒虫と封印された鬼姫へ続く。

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