↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神酒鑑定師と鬼の王  作者: 蒼崎しんのすけ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/12

第四話 秋田・なまはげと神隠しの酒蔵

神酒鑑定師と鬼の王

第四話 秋田・なまはげと神隠しの酒蔵


新潟で二つ目の神酒を手に入れてから数日後。


真澄と酒呑童子は秋田県男鹿半島へ向かっていた


冬の日本海は荒れていた


灰色の空


激しい波


海風に乗って雪が舞う


「寒いのう」


「あなたでも寒いんですか?」


「さすがに海風は冷たい」


珍しく酒呑童子が肩をすくめる


今回の依頼は少し変わっていた


怪異退治ではない


行方不明者の捜索だった


男鹿の山奥にある酒蔵


その酒蔵で働く人間が次々と消えている


警察も調べた


だが手掛かりはゼロ


失踪者はみな酒蔵の地下で姿を消していた


そして目撃証言が一つ


赤い顔の鬼がいた


「なまはげか」


酒呑童子が言う


「秋田だからですか?」


「おそらくな」


「また適当ですね」


目的地の酒蔵、


鬼灯酒造。


創業三百年の老舗だった


しかし蔵全体に活気がない


蔵元の鬼灯蓮が二人を迎える


「もう十人です」


「十人?」


真澄が驚く


「三か月で十人消えました」


「みんな地下蔵へ行ったまま帰ってこない」


蓮の顔は青白かった


「今夜も誰か消えるかもしれないんです」


地下蔵


そこは異様だった


古い石造りの空間


酒樽が並ぶ奥に巨大な木扉がある


縄が巻かれ


無数の札が貼られていた


酒呑童子の顔色が変わる


「おい」


「どうしました?」


「これは封印じゃ」


「封印?」


「しかもかなり古い」


その夜


二人は地下蔵で待機した


時計が零時を回る


その瞬間だった


ドン


扉の向こうから音がした


ドン


ドン


まるで誰かが叩いている


真澄の背筋に冷たいものが走る


「中に何かいる……」


酒呑童子も真剣だった


「いるな」


次の瞬間


地下蔵の空気が歪んだ


酒樽の影が伸びる


そして


その影の中から巨大な人影が現れた


赤い面


藁の装束


包丁のような刃物


なまはげだった


しかし伝承のなまはげとは違う


身長は三メートル以上


全身から黒い霧を噴き出している


「来たぞ!」


真澄が叫ぶ


怪異は咆哮した


蔵が震える


酒樽が吹き飛ぶ


酒呑童子が前へ出た


「久しぶりに大物じゃな」


酒を一気に飲み干す


鬼気が爆発した


赤い炎が身体を包む


なまはげが襲いかかる


巨大な腕


酒呑童子が受け止める


衝撃で石床が砕けた


「力比べか!」


鬼の王が笑う


だが


なまはげの瞳を見た瞬間


酒呑童子の顔が変わった


「……違う」


「え?」


「こいつ」


「泣いておる」


真澄は怪異へ近づく


危険だと分かっていても


そして


その身体に触れた


記憶が流れ込む


二百年前


飢饉の年。


村は壊滅寸前だった


食料はない


酒も造れない


人々は餓死を待つだけだった


その時


山から鬼が現れた


村人は恐れた


だが鬼は山の木の実や獣を運び続けた


村を救ったのだ


人々は感謝した


鬼は笑った


そして毎年、


なまはげとして村を守るようになった


だが時代は流れた


鬼の存在は忘れられた


神社は壊された


供物も途絶えた


誰も鬼を覚えていない


鬼は独りになった


何百年も


記憶が終わる


真澄は涙を流していた


「そうだったのか……」


なまはげは怪異ではなかった


守護者だった。


忘れられた土地神だったのだ


「哀れな奴じゃ」


酒呑童子が言う


なまはげが顔を上げる


「おぬしは人を守った」


「十分じゃ」


鬼の王は酒瓶を差し出した


「飲め」


なまはげが震える


「これは……」


「人の酒じゃ」


「人と共に生きた証じゃ」


なまはげは酒を飲んだ


その瞬間


黒い霧が消えていく


だが


地下蔵の封印扉が突然砕け散った


ドォォォォン!!


凄まじい衝撃


全員が吹き飛ぶ


「何だ!?」


真澄が振り返る


扉の奥


暗闇の中に巨大な影がいた


無数の目


無数の腕


人の形ですらない


その姿を見た瞬間


真澄の腕の呪印が激しく疼く


「まずい!」


酒呑童子が叫んだ


真澄は初めて聞いた


鬼の王の焦った声を


「下がれ!」


巨大な存在が囁く


見つけた


七つの神酒の継承者


空間そのものが震える


なまはげが前へ出た


守るように


酒呑童子も立つ


鬼気が膨れ上がる


その時


なまはげの身体が光った


胸から一つの光る酒器が現れる


三つ目の神酒だった


守護神としての力の結晶


神酒が酒呑童子の手へ飛ぶ


巨大な影が怒号を上げる


しかし


神酒の光が地下蔵を満たした


影は苦しみながら消えていく


最後に一言だけ残して


神酒が揃えば


門が開く


静寂


地下蔵には誰もいなくなっていた


翌朝


失踪した蔵人たちが発見された


全員無事だった


封印空間に閉じ込められていただけだったのだ


鬼灯酒造には再び活気が戻る


出発の日


なまはげは穏やかな姿になっていた


もう怪異ではない


土地を守る神として


男鹿の山へ帰る


「達者でな」


酒呑童子が手を振る


なまはげも笑った


そして雪の中へ消えていく


車の中


真澄は三つ目の神酒を見つめていた


「神酒が揃うと門が開く……」


「何の門なんです?」


酒呑童子は珍しく黙っていた。


しばらくして


小さく呟く


「千年前」


「わしが封じられた本当の理由かもしれぬ」


真澄は言葉を失った。


鬼の王ですら知らない真実


その先に待つものとは何なのか


第五話 山形・座敷童と消える酒米へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。