# 第4話 ## 「結愛、ママになる」
# 第4話
## 「結愛、ママになる」
ある朝。
いつものように朝ごはんを食べていると。
結愛が突然立ち上がった。
パンを持ったまま。
「きめた!」
まただ。
この始まり方は危険だ。
優月も察したらしい。
「今度はなに?」
結愛は胸を張った。
そして高らかに宣言する。
「きょうから、ゆあがママ!」
静寂。
僕は味噌汁を飲む手を止めた。
唯ちゃんは笑いをこらえている。
優月は真顔。
「ママ?」
「そう!」
結愛は大きく頷く。
「みんなのおせわする!」
なるほど。
優しい。
でも不安しかない。
十分後。
結愛のママ生活が始まった。
まず最初に向かったのはリビング。
ソファで宿題をしている優月を発見。
結愛は腕を組む。
「ゆづきー」
「なに?」
「おべんきょうがんばってえらいねぇ」
頭をなでなで。
優月が吹き出した。
「ありがとう」
満足した結愛。
次は僕のところへ。
新聞を読んでいた僕を見下ろす。
「ぱぱ」
「はい」
「おしごとたいへんねぇ」
「そうですねぇ」
「むりしないでねぇ」
どこのお母さんだ。
僕は笑いをこらえられなかった。
そして最後は唯ちゃん。
キッチンで洗い物をしている。
結愛は腰に手を当てた。
「まま」
「なあに?」
「おりょうりじょうずねぇ」
「ありがとう」
「いいおよめさんになるよぉ」
唯ちゃん、爆笑。
僕も優月も耐えられなかった。
昼前。
結愛は本格的に家事を始めた。
「おせんたくする!」
やる気満々。
しかし。
洗濯物をたたむというより。
山を作っている。
タオル。
Tシャツ。
靴下。
全部積み上がっている。
「これなに?」
優月が聞く。
結愛は誇らしげに答えた。
「おしろ!」
洗濯物の仕事は終了した。
昼食後。
結愛は眠そうな僕を発見した。
ソファで少し横になっていただけなのに。
「ぱぱ!」
「ん?」
「ねたらだめ!」
「え?」
「ちゃんとおふとんでねなさい!」
怒られた。
完全にお母さんだった。
仕方なく部屋へ行く。
すると。
数分後。
結愛がそっとやって来た。
小さな毛布を持っている。
「ぱぱ」
「ん?」
「さむいといけないから」
そう言って毛布をかけてくれた。
僕は思わず笑う。
「ありがとう」
結愛は照れたように笑った。
「えへへ」
夕方。
結愛のママ生活も終盤。
みんなでテレビを見ていると。
急に静かになった。
見ると。
結愛がうとうとしている。
限界らしい。
唯ちゃんが抱っこする。
結愛は半分眠りながら呟いた。
「みんな……いいこだった……」
優月が吹き出す。
僕も笑う。
唯ちゃんも笑う。
結愛はさらに続ける。
「また……おせわしてあげるね……」
そして。
数秒後。
すぅ……すぅ……
夢の中へ。
静かな寝息が聞こえる。
優月が小さく言った。
「結愛、がんばったね」
「うん」
僕も頷く。
たぶん結愛は。
誰かに優しくされるのが好きだから。
誰かにも優しくしたかったんだろう。
その気持ちが嬉しかった。
唯ちゃんは眠る結愛の髪を撫でながら微笑む。
「優しい子だね」
本当にそう思う。
少しドジで。
少し騒がしくて。
毎日大変だけど。
この家の笑顔の中心には、いつも結愛がいる。
窓の外では夕焼けが広がっていた。
僕はその景色を見ながら思う。
今日も特別なことはなかった。
でも。
きっと何年後かに思い出す。
あの日。
結愛がママになった日を。
家族みんなで笑った日を。
そんな気がした。
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### 次回予告
**第5話「優月の小さなウソ」**
優月が珍しく何かを隠している。
でも、そのウソの理由を知った時――
家族みんなが優しい気持ちになる。
少しだけ泣ける、優月のお話。




