表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/19

# 第18話 ## 「パパと優月、二人だけの帰り道」

# 第18話


## 「パパと優月、二人だけの帰り道」


土曜日の朝。


結愛は朝から大きなリュックを背負っていた。


「じゅんびおっけー!」


今日は、おばあちゃんの家にお泊まりの日。


お菓子。


着替え。


お気に入りのペンギン。


全部入っている。


「忘れ物ない?」


唯ちゃんが聞く。


結愛は元気いっぱいに答えた。


「ない!」


すると。


玄関で靴を履こうとして止まる。


「あっ」


「どうした?」


「ぺんぎんさん、わすれた」


やっぱりあった。


みんなで笑いながら部屋へ取りに戻った。


---


お昼前。


おばあちゃんが迎えに来た。


結愛は嬉しそうに手を振る。


「いってきまーす!」


「いってらっしゃい」


「ゆづき!」


「なあに?」


結愛は優月にぎゅっと抱きついた。


「さみしくなったら、おでんわしてね!」


優月は笑った。


「うん、するね」


「ぱぱ!」


「ん?」


「ないたらだめだよ!」


僕は吹き出した。


「泣かないよ」


結愛は満足そうにうなずくと、おばあちゃんと手をつないで歩いていった。


角を曲がるまで、何度も何度も振り返りながら。


---


家の中は急に静かになった。


「静かだね」


唯ちゃんが少し笑う。


「うん」


結愛が一人いないだけで、こんなにも違う。


夕方。


唯ちゃんがスーパーへ買い物に行くことになった。


「優月、一緒に行く?」


「ううん」


優月は僕を見た。


「パパ、お散歩しよう」


「いいよ」


久しぶりに二人だけだった。


---


夕焼けに染まる川沿いの道。


風が気持ちいい。


僕たちはゆっくり歩いた。


「結愛がいないと静かだね」


僕が言うと。


優月は笑った。


「うん。でも、もう会いたい」


「まだ半日だよ?」


「それでも」


姉らしいな、と僕は思った。


---


しばらく歩く。


セミの声が聞こえる。


橋の上で立ち止まる。


川が夕日を映して、きらきら光っていた。


その時。


優月が小さな声で言った。


「パパ」


「ん?」


「聞いてほしいことがあるの」


その声は、いつもより少しだけ真剣だった。


僕は歩くのをやめた。


「うん」


優月は手すりを見つめたまま話し始める。


「最近ね」


「うん」


「学校で友達が言ってたの」


「なんて?」


「『家族って、ずっと一緒にいられるわけじゃないんだよ』って」


僕は静かに聞いた。


優月は続ける。


「その言葉を聞いて、急に怖くなった」


風が少しだけ強く吹く。


「みんな、大人になるでしょ」


「うん」


「私も大人になる」


「うん」


「結愛も大きくなる」


僕は黙ってうなずく。


「そうしたら……」


優月は少しだけ声を震わせた。


「今みたいに、毎日一緒に笑えなくなるのかなって」


僕はその言葉に、胸が締めつけられた。


優月はまだ小学生なのに。


そんなことを考えるようになったんだ。


僕はゆっくり笑った。


「そうかもしれないね」


優月は少し寂しそうな顔をする。


「でもね」


「うん?」


「一緒に住んでいなくても、家族は家族だよ」


優月は僕を見る。


「離れていても?」


「離れていても」


「毎日会えなくても?」


「会えなくても」


僕は空を見上げた。


「『ただいま』って帰れる場所がある限り、家族はなくならない」


優月は静かにその言葉を聞いていた。


「それに」


僕は笑う。


「優月が大人になっても」


「うん」


「結愛がおばあちゃんになっても」


「えっ!」


優月が笑う。


「結愛がおばあちゃん?」


「きっとプリン食べてるよ」


「絶対食べてる!」


二人で吹き出した。


笑いながら歩き出す。


さっきまでの少し寂しい空気は、もうなかった。


---


家に帰ると。


リビングが静かだった。


優月がぽつりと言う。


「やっぱり結愛がいないと変だね」


「そうだね」


その時だった。


電話が鳴る。


画面には、おばあちゃん。


出ると。


「ぱぱー!」


結愛の元気な声が響いた。


「ぷりんたべた!」


開口一番、それだった。


「よかったね」


「でもね!」


「うん?」


「もうかえりたい!」


まだ一日も経っていない。


僕たちは顔を見合わせて笑った。


「明日迎えに行くから」


「はーい!」


電話の向こうから、おばあちゃんの笑い声も聞こえてきた。


---


その夜。


優月が寝る前に言った。


「パパ」


「ん?」


「今日は二人で話せてよかった」


僕は優しく頭をなでた。


「また行こう」


「うん」


部屋の電気を消す。


静かな夜。


でも。


明日になれば。


また元気な声が家中に響く。


そう思うだけで、少し嬉しくなった。


---


### 次回予告


**第19話「おかえり、結愛」**


おばあちゃんの家から帰ってきた結愛。


たった一泊だったのに、家族みんなが感じた「会いたかった」の気持ち。


「ただいま!」


「おかえり!」


その一言が、いつもより少しだけ温かく響く物語です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ