# 第15話 ## 「優月の初めての手紙」
# 第15話
## 「優月の初めての手紙」
六月の終わり。
夕暮れの風が少し気持ちいい日だった。
その日、優月は学校から帰ってくると、どこかそわそわしていた。
ランドセルを置いて。
おやつを食べて。
宿題をして。
でも、何かを隠しているようだった。
僕は気になった。
「どうした?」
「別に」
久しぶりに出た。
優月の「別に」。
怪しい。
すごく怪しい。
---
夜。
夕飯も終わった頃。
優月が急に立ち上がった。
「あのね」
「うん?」
少し緊張している。
手には一枚の封筒。
白い封筒。
表には丁寧な字で書かれていた。
---
パパへ
---
僕は驚いた。
「僕に?」
優月は照れながら頷く。
「学校の授業で書いたの」
「へえ」
「でも、一番書きたかった人に書いていいって言われたから」
そう言って封筒を差し出した。
僕はゆっくり受け取る。
なぜか緊張する。
---
手紙を開く。
中には便箋が一枚。
優月の字だった。
少し丸くて。
優しい字。
そこには――
---
パパへ
いつもお仕事おつかれさま。
パパはいつも
「なんとかなるさ」
って言います。
私はその言葉が好きです。
学校で嫌なことがあった日も、
うまくいかなかった日も、
パパがそう言うと少し安心します。
私はパパみたいに優しい人になりたいです。
いつもありがとう。
これからもよろしくね。
優月
---
読み終わった。
しばらく何も言えなかった。
胸がいっぱいだった。
---
「パパ?」
優月が心配そうに覗き込む。
僕は慌てて笑った。
「いや」
「うん?」
「ちょっと嬉しくて」
声が少し変だった。
優月は照れたように笑う。
「そっか」
---
唯ちゃんも手紙を読んだ。
そして微笑む。
「いい手紙だね」
優月はさらに照れる。
耳まで赤い。
---
すると。
隣で聞いていた結愛が立ち上がった。
「ゆあもかく!」
対抗心だった。
---
五分後。
完成。
ものすごい速度だった。
結愛は紙を渡してくる。
「ぱぱ!」
見る。
そこには。
大きな文字。
---
ぱぱ
だいすき
ぷりん
ぺんぎん
---
以上。
終わりだった。
僕は吹き出した。
「なんでプリン?」
結愛は真顔。
「たいせつだから」
なるほど。
---
優月も笑っている。
唯ちゃんも笑う。
家の中が温かい空気に包まれた。
---
その夜。
みんなが寝た後。
僕は一人で手紙をもう一度読んだ。
優月の手紙。
結愛の手紙。
どちらも大事だった。
本当に。
宝物だった。
机の引き出しにしまおうとして。
やめた。
代わりに。
大切な箱を開く。
昔の写真。
思い出の品。
その中にそっと入れた。
---
いつか。
優月が大人になった時。
結愛が大きくなった時。
この手紙を読み返す日が来るかもしれない。
その時もきっと。
今日のことを思い出すだろう。
夕暮れの光。
照れた優月の顔。
自信満々の結愛。
笑っていた唯ちゃん。
そして。
幸せだった、この時間を。
---
僕は静かに呟く。
「ありがとう」
誰に聞かせるわけでもなく。
ただ自然に出た言葉だった。
---
寝室へ向かう途中。
結愛の寝言が聞こえた。
「ぷりん……」
やっぱり。
夢の中でもプリンだった。
僕は思わず笑う。
そして。
今日もまた。
忘れたくない一日が増えたのだった。
---
### 次回予告
**第16話「結愛と流れ星」**
夏の夜。
家族みんなで見上げた星空。
その時、流れ星が空を横切る。
願い事をする優月。
微笑む唯ちゃん。
そして結愛の願いは――
「ぷりんがいっぱい!」
笑って、少し胸が温かくなる夏の物語。




