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普通で当たり前の異常な日々  作者: 黒兎
日常の終わりと始まり
9/17

動き出す物語

「ほら、大丈夫か?鼻血とか出てないか?」

「出てない…」


甲斐甲斐しく橘さんを介抱する八島君。八島君の体格も相まって娘の世話をする父親を連想させる。


「それで?行くって何処に行くつもりだったんだ?まさか今から廃墟に行くつもりだったのか?」

「……」


「もしかして何も考えてなかったのか?お前なぁ…」

八島君の問いかけに視線を逸らす橘さん。どうやら勢いで飛び出しその後の事は考えていなかったようだ。そんな橘さんの様子に八島君はため息を吐く。


「どうにかするたって考えなしじゃ無理だろ。もうちょい考えて行動をだな…」

「かなで‼︎」


八島君が橘さんに説教をし始める声をかき消すような大声で私の名前が呼ばれた。その声にビクッとして声の方向を見ると廊下の先に舞と圭子がいた。


「かなでぇぇぇ‼︎」

2人は私の方に走ってくると圭子のほうが勢いよく私に抱きついてきた。私はなんとかその場で踏ん張り圭子を受け止める。


「よかった…よがっだぁよぉ〜がなでごべんで〜‼︎」

圭子は私に抱きついたまま号泣し始めてしまった。状況が飲み込めず、どうしていいかわからない私に舞が言う。


「かなで、あんな電話の後に連絡が取れなくなるから心配したんだよ?で、圭子にも連絡して急いで学校に来たわけ」


「わだ、わだしのせいで、か、かなでが死んじゃったらどうじようっで、ごべんね〜‼︎」


そういえばあの女に襲われる直前まで舞と通話をしていた事を思い出し、あれからこの短い時間の間にあまりに色んな事がありすぎてすっかり記憶から抜け落ちていた。


「ご、ごめんね。色んな事がありすぎて…あ!そうだ私のスマホ…」

あの時、下駄箱でスマホを落としたままだ。慌ててスマホを取りに向かおうした私を舞が手で制した。


「はい、これ。下駄箱のとこに落ちてた。それ見つけた時は本当にヤバいんじゃないかって焦ったんだけど、かなでが部室棟に走ってくの見たって人がいてさ。ここまで来たってわけ」


舞はそう言って私にスマホを差し出してきた。割れた画面が痛々しい間違いなく私のスマホだ。


「ありがとう舞」

「いいって。それより大丈夫だった…うわ!?」


私が舞からスマホを受け取ろうとした時、急に橘さんが現れてスマホに顔を近づけて覗きこむ。


「臭いわ」

「え?ちょっ!何この子。いきなり失礼じゃない?」

舞は驚いた様子で体を仰け反らせる。そんな舞には目もくれず橘さんはずっとスマホを見つめている。


「あーごめんな?詩織、何かあるのか?」

「臭いわ」


「あー例の動画か?」

八島君が舞に謝りながら、橘さんの隣に立ち問いかけると再度橘さんが答える。例の動画…あの時撮った心霊動画のことだろうか。


「ぐすっ!かなで、こいつら誰?」

私に抱きついたまま泣き続けていた圭子が視線を橘さん達に向ける。


「えっと橘さんと八島君。実はさっき橘さんに助けて貰って…」


「え!?本当に!?ありがどう〜‼︎」

「どぅふ‼︎」


私の言葉を聞いた瞬間、圭子は勢いよく橘さんに抱きついた。その勢いで橘さんは奇妙な声を上げながら床に倒れ込んでしまう。


「ちょっと圭子!?あーえっと橘さんだっけ?大丈夫?」

舞が慌てた様子でしゃがみ込み、橘さんの様子を伺う。倒れた時に頭を打ったのか橘さんは頭を抑えて涙目を浮かべている。


「どぅふ…どぅふって言ったぞ…」

八島君は先程の橘さんの声が面白かったのか、口元を抑えて肩を震わせている。


橘さんはそんな八島君を睨みつけると圭子を引き剥がして立ち上がり、八島君の後に隠れてしまった。


「おい、詩織…痛い痛い!爪たてるな!悪かった!悪かったよ!」

どうやら八島君の腕を思い切りつねっているらしく、八島君は抗議の悲鳴をあげている。


「圭子も危ないでしょ。ごめんね橘さんだっけ?この子感情表現が激しくてさ」


そう言って舞が橘さんに謝るが橘さんは八島君を攻撃するのに夢中で聞いていないようだ。


「それで結局何があったか教えてくれる?」

「うん、あのね…」


そんな橘さんの様子に舞は肩をすくめ私に聞いてきた。私は舞と圭子にさっき起こったこと、そして橘さんに助けられた事を説明した。


「そんな事になっていたなんて…」

私の話を聞いた舞はそう言って黙ってしまった。


「ねぇ、かなでは大丈夫なんだよね?助かるよね?」

圭子は涙を浮かべながら八島君と橘さんに問いかける。


「知らないわそんなこと」

八島君が何かを答える前に橘さんがそう冷たく言い捨てる。


「知らないって…そんなのないじゃん!」

圭子が橘さんに食ってかかるが、そんな圭子を橘さんは毅然とした表情で睨みつける。


「そこの女にも言ったけど全部貴方達がやった事の結果でしょう?面白半分で心霊スポットに行って、それで困ったら助けて下さい?反吐が出るわね」


「そうだけど…でも…」

橘さんの言葉に圭子は悔しそうに口を噤む。


「もちろん私達が悪いのはわかってる。でも友達を助けて欲しい。助けたいって思うことはそんなにおかしいこと?」

そんな圭子を庇うように舞が前に出て橘さんを睨む。橘さんも視線を逸らさない。険悪な空気が場を包んでいく。


「はいはい、落ち着いて。詩織も挑発するな。少なくともさっき仁村さんの問題は解決するって話はついたでしょうが」


そんな2人の間に八島君が割って入り2人を宥める。

「ごめん…私も冷静じゃなかった。」


そう言って舞は素直に引き下がり頭をガシガシとかいた。橘さんはフンッと鼻を鳴らすとそっぽをむいてしまう。


その様子を見た八島君は大きくため息を吐くと橘さんの頭に勢いよくゲンコツを落とした。


ゴン!

「いっ!つうううぅ…」

「今のはお前が悪い。言いたい事はわかるがそれにしたって言い方ってもんがあるだろ」


鈍い音をたててゲンコツは橘さんに命中し、橘さんは頭を抑えてうずくまる。八島君の言葉に反論はせず涙目でそっぽを向いた。


「悪かったな。こいつちょっとコミュニケーションに難があって。えーっと…」

「いやこっちも確かに自分達の事しか考えてなかったから。そういえば自己紹介してなかっわね。私は斉藤舞。んでそっちで凹んでるのが柳圭子」


「斉藤さんと柳さんね。まぁ安心していいとは言い切れないけど、たぶんなんとかなるよ。まぁ霊感0の俺が言っても説得力はないだろうけどね」


「え?八島君霊感ないの?」

八島君の言葉に私は驚いた。かなり心霊現象に詳しかったので八島君も橘さんと同じで特殊な能力がある物だと思っていた。


「ないない、全くの0。本当に何も感じないタイプ。さっきの話も全部受け売りだし」


そう言って八島君はチラリと蹲ったままの橘さんに視線をやる。

「ねぇちょっとそれ大丈夫なの?それでなんとかなるって」

舞が眉をひそめ八島君に問いかける。


「まぁ霊感はないけど経験はあるから。どうにかする手段は知ってる。今回は詩織がどうにかするらしいし大丈夫でしょ」


舞の言葉に八島君は肩をすくめながら答える。みんなの視線が橘さんに集まる。橘さんまだ蹲っていた、よほど痛かったらしい。


「で?結局具体的にどうするんだ?」

八島君の言葉に橘さんは頭をさすりながら立ち上がり、八島君を見る。

「直接行って確かめてくるわ」

「今からか?もうすぐ夜だし、あの山の上までどうやって行くつもりだ?バスとかがあるわけじゃないんだぞ?」


「その方が手っ取り早いでしょ」

「あのなぁ…そもそもだ。一応言っておくがあそこは私有地だから勝手に入るのは不法侵入になるぞ」

八島君のその言葉に私と舞、そして圭子はばつが悪そうな表情を浮かべる。


確かに気にしていなかったが、言われてみれば私たちはすでに不法侵入をしていることになる。


「悠真だって行こうとしてたじゃない」

「俺だって何も今日行こうとはしてねぇよ。管理してる不動産にも心当たりがあるし、許可とって準備してから行くつもりだったよ」


「なら許可をとって」

「まぁいいけど…どちらにしても今日は無理だぞ?」


「あ、あの!?」

八島君と橘さんの話を遮って圭子が声をあげる。圭子は不安そうな表情で八島さんに問いかける。


「あの今日は無理ってその、かなでは大丈夫なの?さっき襲われてたって言ってたし、また襲われたりとか…」


「あーそこら辺はどうなんだ詩織?俺の場合は御厨の家に保護を頼もうと思ってたんだけど」

「……」


圭子の言葉を聞いて八島君が橘さんに問いかけると橘さんは黙ってしまった。


「もしかして考えてなかったのか?はぁ…それならやっぱり御厨に連絡して…」


「それはダメ!あの堅物にこの話をしたら絶対にそのまま儀式の流れになる…あーもう!あなた!」


「あ、はい!」

八島君の言葉を遮り、強い拒絶を見せる橘さん。そして私を指差し睨みつけてきた。その迫力に思わず背筋を伸ばして返事をする。


「仕方ないから今日は私の家に来なさい!これでいいでしょ!?」

そう言って橘さんは八島君を睨みつける。


「嘘だろ…マジかよ…」

八島君はかなり驚いたのか驚愕の表情を浮かべて半歩ほど後ずさる。

「あと管理している不動産ってのも御厨でしょ。許可とっておいて」


「え、えっと…?」

私が事態が上手く飲み込めず戸惑っていると橘さんは視線をこちらに移し続ける。


「死にたいなら好きにすればいい。私としてもそちらの方が助かるから」

「い、行く!行きます!」


私が慌てて返事をすると、話は終わりとばかりに橘さんは歩き出す。


「あの!橘さんそれ私達も行っていい!?」

「は?」


圭子の言葉に橘さんは立ち止まりこちらを振り返る。その表情は厳しく明らかな拒絶の色が浮かんでいた。


「う、か、かなでのこと心配だし、私達もほら当事者だから!」

「そうね。かなでが無理になったから私達って可能性もあるわけだし、出来ればお願いしたいんだけど…」


圭子は一瞬怯んだものの必死に言葉を続ける。それに続いて舞も橘さんに申し訳なさそうに言う。それを聞いた橘さんは明らかに嫌そうな表情を浮かべた。


「嫌よ。それに本当の意味での当事者はそいつだけ。あなた達には何も起きないわ」

「え?それってどういう…」


「まぁまぁ!細かい事は置いといて詩織が何も起きないってんなら大丈夫だ!それに詩織の家も広い訳じゃないし今回は仁村さんだけって事で!」


私が橘さんの言葉の意味を聞こうとすると八島君が遮るように声をあげる。なんだかテンションが高くて嬉しそうだ。


その間に橘さんは再び歩き出してしまう。このままでは置いて行かれてしまうと私は急いで後を追いかけようとした。


「仁村さん!」

「え?何?」

「色々迷惑かけると思うけどよろしくね!」


八島君の声にどういう事なのか疑問は浮かんだが、先に進み続ける橘さんに置いて行かれないように疑問をそのままにして私は橘さんを追いかけたのだった。

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