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普通で当たり前の異常な日々  作者: 黒兎
日常の終わりと始まり
7/17

侵食する怪異

目が覚めるとそこは見慣れた天井だった。

私はゆっくりと身体を起こし、寝起きの頭で今の状況を整理していく。そして昨日の出来事を思い出し跳ね起きた。


慌てて辺りを見渡す。目に見える範囲には昨日の足は…ない。ベッドの脇にはスマホが落としたままの状態で転がっている。


もう一度辺りを見渡して周りに何もない事を確認すると、私は力なくその場に座り込んだ。


「なんだったの…あれ…」

今思い出しても身震いする。勝手に再生される消したはずの動画、録音されてなかったはずの足音、そして足…


たぶん、女性の足だ。ふとももから上の部分は黒いもやのようになっていてなにもわからなかったがパンプスは見えた。


私は自分の身体を抱きしめるようにして丸くなる。

怖い、とても怖い。私はいったいどうすればいいんだろう…原因はあの廃病院なのは間違いない。でも解決方法がわからない。


そこでベッドの脇に落ちているスマホをもう一度見る。自分のスマホのはずなのに、今は得体の知れない物のような気がしてとても恐ろしい。


私は恐る恐るスマホを拾い上げ、そして意を決してスマホの画面を開こうとした時、急にスマホから着信を知らせるメロディが鳴り響く。


驚いた私はまたスマホを落としてしまった。

恐る恐る画面を覗き込むと、画面には舞の名前が表示されている。私は慌ててスマホを拾い上げ通話ボタンを押した。


「「あ、出た。もしもしかなで?あんた大丈夫?」」

「…え?何?大丈夫って?」


もしかして舞の所にもあの足が出たのだろうか。まだ頭が混乱していて状況をうまく整理出来ない。


「「なにって学校。もしかして寝ぼけてる?1限終わっても来ないからさ、体調でも悪いのかと思って」


舞のその言葉に私は壁にかけてある時計を確認すると9時51分を指し示していた。


「え?嘘!?あっえ?どうしよ!え!?」

「「その反応だと寝坊か。まぁそのままサボってもいいし、来るなら慌てずゆっくりね」」


「うん!ごめん!ありがとう‼︎」

笑いながら言う舞にお礼を言ってから通話を切り、私は慌てて学校にいく準備を始めた。


結局、色々と準備をして学校に着いたのは11時過ぎ頃、私は職員室で先生に体調不良だったと報告してから教室に向かい、3限の途中から授業に参加した。


授業の途中から参加する事で教室で注目を集めてしまい、気恥ずかしさを覚えながらも自分の席へと向かう。


その途中で舞と圭子と目が合う。舞は揶揄うような笑みを浮かべ、圭子は心配そうな顔をしている。


私はそれぞれに曖昧な笑みを浮かべて返すと、自分の席に座り、いそいそと教科書とノートを広げるのだった。


「ちゃんと来たんだ、真面目だねぇ。私なら体調不良ってことにして1日休んじゃうけどね」

授業終わりの休憩時間、舞が揶揄うように言ってくる。


「かなで大丈夫?もしかして本当に体調悪いんじゃないの?無理しなくてもいいんだよ?」

対照的に私を気遣ってくれる圭子。


「うん、大丈夫。ごめんねメッセージ返せなくて」

「それはいいんだけど…珍しいね、かなでが寝坊なんて」


圭子の言葉に昨日の事を思い出す。今思い出しても背筋が凍るような思いがして身震いする。


「なんか本当に体調が悪そうじゃん。無理そうだったら素直に休みなよ?」

「うん、本当に大丈夫だから」


私の顔を覗き込みながら舞が言う。学校から帰ると1人になってしまう。今は学校の喧騒が有り難かった。


「もしかして土曜の件のせい?ごめん、私のせいだよね…」

圭子が肩を落としながらそう言う。確かに原因は間違いなくあの廃墟のせいだか、圭子を責める気にはなれなかった。


「圭子のせいじゃないよ。私も自分でついていった訳だし。」

きっかけは確かに圭子の発案だったが、それを断りきれなかったのは私だ。


「ふーん。あの件が原因なのは否定しないのね。かなで、何かあった?」

そう言って舞が私に問いかける。


「えっと、うん実は…」

「おーいお前ら席につけー授業始めるぞー」

私が舞の問いかけに昨日あったことを話そうとした時、始業を知らせるチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。


「タイミングわる。かなで詳しくは昼休みに聞くから」

そう言って舞は自分の席に戻って行った。圭子は何か言いたげにしていたが、結局何も言わずに席へ戻る。


私はその後ろ姿を見送り、カバンから教科書を取り出して授業を受ける準備を始めた。


「であるからして、この式を解く時にはこの公式を〜」

教室に先生の声とチョークで黒板に文字を書く音、そしてそれをノートに写すシャーペンの音が響く。


自分のノートに数式を写しながら、昨日の出来事について考える。あまりに現実味がなく、でも夢だったと切り捨てるには生々しい記憶。


再生される消したはずの動画、音、そして影。最後に見たあの足はあの影なのだろう。


そう考えるとやはりあの影は慎二さんが語った看護師の幽霊なのだろうか。やはり怖い。このままいくとどうなってしまうのだろうか。


コツーン、コツーン

「え?」


そんな事を考えていると何処からかあの足音が聞こえてきた。私は思わず辺りを見渡す。


コツーン、コツーン

「ん?仁村どうしたー?」


私の様子に気付いた先生が声をかけてくるが、それに答える余裕がない。音は廊下のほうから聞こえてくる。


コツーン、コツーン

廊下からこの教室に向かってゆっくりと、しかし確実に音が近づいてくる。なんで?どうして?疑問と恐怖が混ざり合って頭が混乱する。


「おい、仁村お前顔色悪いぞ?保健室行くか?」

先生の呼びかけが何処か遠くに聞こえる。心臓が激しく鳴り響き、バクバクとうるさく鳴っている。


コツーン、コツーン

鳴り響く心臓の音、それでも足音だけは耳に届いてくる。そしてついに音が教室の前まできた。見たくないのに、顔が自然と教室のドアへと向かう。


そこには顔があった。まるで出目金のように飛び出した眼球。だらりと開いた口元からは舌が垂れ下がりよだれが滴っている。


明らかにこの世の物ではない。髪が肩まであることからそれが女性であることがかろうじてわかる。


看護師。その単語が頭に浮かび、そしてその顔から目が離せない。教室を覗くその顔は飛び出した目玉をギョロギョロと動かして視線をさまよわせる。


そして私と目が合うとピタリとその動きを止めた。

そして笑うように開きっぱなし口角があがる。


ユ…ル…

「え…あ…」

それが何かを発した瞬間、恐怖が限界に達した私はまた気を失うのだった。


「ここは…?」

目を覚ますとそこは知らない天井だった。私はゆっくりと辺りを見渡す。カーテンに仕切られたベッド、どうやらここは保健室のようだ。


「あ、起きた?大丈夫?気分悪くない?」

カーテンが開き、養護教諭の先生が顔を覗かせる。


「何があったか覚えてる?」

「あ、はい…大丈夫です…」


私はゆっくりと身体を起こしてそう答える。

「一応親御さんにも連絡したんだけどご両親海外なんですってね?ちょっと迎えに来るのは難しいみたい。心配してたからちゃんと連絡してあげなさいね」


「はい、ありがとうございます…」

まだぼんやりとする頭で先生の言葉に答えていく。


「貧血だとは思うけどちゃんとご飯食べてる?カバンは友達が持って来てくれたからそこに置いてあるわ。さっきまでいたんだけどもう下校時刻だから先に帰ってもらったわよ」


「え?下校時刻?」

ベッドから降り、窓から差し込む夕日と部活に励む生徒達の姿を見て、先生の言葉が本当だと言うことがわかった。ずいぶんと長い時間気を失ってたらしい。


「友達も心配してたからちゃんと連絡してあげなさいね?1人で帰れる?無理そうなら送っていくけど」

「大丈夫です。ありがとうございました。」


私はベッドの脇に置いてあったカバンを手にとり、保健室を後にした。トビラを閉めて、大きく息を吐く。


まだ自分の身に起きたことが理解出来てない。さっきの出来事を思い出そうとして、あの顔がフラッシュバックする。


思い出すだけでまた動悸が激しくなるのを感じる。私は頭を振り払い、下駄箱へと向かう。疑問は尽きない、それでも今はまともに考えられる気がしなかった。


私はカバンからスマホを取り出し画面を確認した。そこには複数のメッセージが通知されており、舞や圭子そして母からの自分を心配するメッセージが届いていた。


私はそれぞれに心配をかけてしまったことに対するお詫びと感謝をメッセージで送る。メッセージを送ってすぐに携帯が震えた。


着信を知らせるバイブレーションに少し驚き、スマホを落としそうになるが、慌ててキャッチし画面を見ると舞からの着信だった。


「もしもし?かなで無事?」

「うん、大丈夫ありがとう」


私がそう答えるとスマホ越しに舞が大きくため息をついた音が聞こえる。


「あんたねぇ、大丈夫なわけないでしょ?今日話した時も様子がおかしかったし、あんな倒れ方して」


「う、ごめん…」

「別に謝って欲しいわけじゃなくて、何かあったんでしょ?ちゃんと友達を頼りな?何が出来るかはわからないけど少なくとも話は聞けるから。」


舞の言葉に胸が熱くなる。今まで親しい友人がいなかった私にとって舞の言葉はとても嬉しいものだった。


「舞…ありがとう。信じてもらえるかわからないんだけど…聞いてくれる?」

私は下駄箱に向かいながら昨日あったことを舞に話した。


「なるほどね…正直なんて言ったらいいかわかんないけど…色々とヤバいねそれ」

私の話を聞き終えた舞が呟くように言う。


「信じてくれる?」

「私もかなでほどじゃないけどあの廃病院で変な体験はした訳だからね、信じるよ。それよりかなでの現状がヤバすぎるのが問題だね」


舞は真剣に私の話について考えてくれる様子に私は内心ほっとした。自分でも荒唐無稽な話をしている自覚がある分、信じて貰えない可能性も考えていた。


「私どうすればいいかな…」

「やっぱり1番最初に思いつくのはお祓いとかかな。明日にでも神社に行ってお祓いしてもらうのが1番かも。私近くにお祓いしてくれる神社があるか調べて見るわ」


舞と話しながら私は下駄箱に着き靴を履き変え、玄関に向かう。そこでふと違和感を覚えた。


「あれ…?」

「かなで?どうした?」


周りが静かすぎる。さっき保健室から出た時は窓の外に部活をしている運動部の姿があったし、掛け声も聞こえて来ていた。それなのに今は何の音もしない。


違和感はどんどん強くなる。ここに来るまで私は誰も見ていない。いくら下校時刻とはいえ、さっき保健室の窓から外を見た時まだ部活をしている生徒もいた。誰の姿も見ないことがあるだろうか?


そして私は玄関の先、校門に立つそれを見つけた。

黒いパンプス、薄汚れたレディーススーツを身につけた女だ。


肌は白くまるで血が通っていないようで、何より首が長く折れ曲がっている。目は飛び出し、口元はだらしなく開き、舌が垂れ下がってダラダラとヨダレが落ちている。


まるで首吊り死体が直立しているようなその姿は、夕日に照らされ逆光になっているはずなのに細部までよく見える。


「かなで?かなで!?どうし…」

スマホから聞こえる舞の声が途切れ、そしてスマホからあの音が聞こえてくる。


コツーン、コツーン

思わず私はスマホから手を離す。地面に落ちたスマホの画面はあの動画を再生している。


コツーン、コツーン

動画から聞こえる足音、その足音が響くと同時に女も私に向かってゆっくりと近づいてくる。


「いやああああ‼︎」

私は校舎の中に駆け出した。あれは捕まったらダメだ。本能がそう訴えてくる。


走る、走る。とにかくがむしゃらにあの女から距離を取りたくて走り続ける。階段を駆け上がり、3階の渡り廊下まできた所で私は後ろを振り返る。


いる。先程と変わらぬ距離感でゆっくりと、しかし確実に私の元へ近づいてくる。


私は再び走り出した。心臓がバクバクと音をたてる。なんで、なんでなんで!頭の中にはそんなどうしようもない疑問でいっぱいだ。


走る。とにかく走る。あいつから逃げる。

どうしてこうなったのか、どこで間違えてしまったのか。


後悔と恐怖から涙があふれて前がうまくみえない。

あいつはまだ後ろから自分を追ってきている。


全力で走っている自分をゆっくりとした動きで、それなのに全く距離が離れない。誰もいない校舎をただひたすら走る。


そして私は部室棟の最上階のつきあたり、逃げ場のない場所に追い詰められてしまった。呼吸が落ち着かない、足に力がはいらない。


思わずその場に座り込んでしまう。後ろをみればそれは先ほどと変わらない速度で、ゆっくりと確実に近づいてくる。


「いや……助けて……」

歯が震えてカチカチと音が鳴る、涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃ、呼吸が苦しい。


「死にたくない……」

さっきまで一定だったはずの距離は一歩、また一歩と縮まって行く。もうすぐ手を伸ばせば届く距離。


目の前には女の飛び出した目とだらしなく開いた口から溢れ出した舌がはっきりと見える。


ユ…ル…シ…

女は何かを呟きながら私の前に立ち、ゆっくりとこちらに手を伸ばす。


「嫌……嫌!誰か助けて!」

ゆっくりと私の顔に迫ってくる手。


死にたくない。死にたくない。死にたくない‼︎

頭の中がそれだけで埋め尽くされたその時 、


「邪魔」

私を追ってきた女。その背後から聞こえたその声は、手に持っていたカバンを思いっきりそいつの頭にフルスイングした。


その瞬間、そいつは霧のように消えていなくなった。 さっきまで聞こえなかった運動部の声が聞こえてくる。


異常だった空間がいつも通りの日常に戻ったのを感じる。

私はぐしゃぐしゃの顔のまま、視線をあげてカバンをフルスイングした主を見る。


そこには、さっきまでとはまた違った現実離れした光景があった。 腰まで伸びた黒髪ストレートはまるでカラスの濡れ羽のように窓から差し込む夕陽を反射し、不機嫌そうに歪んだその顔は、まるで人形のように整いすぎて人間味がなく、まるで汚いもの払うように、カバンを払うその指先は、まるで白魚のように白く、美しい。


自分と同じ、西宮高等学校していの黒いセーラー服に包まれた身体は、黄金比と呼ぶに相応しいプロポーション。


肌は新雪のように白くすべてが現実的ではない。まるで幻想のような美少女がそこにいた。


その少女は私に一瞥もくれることもなく、私の横にあった部室棟の一室、その扉を開けて部室の中へ消えて行った。


目の前で起こったことに頭が追いつかない。

とりあえず、彼女が入った部室のプレートに目を向ける。


「ボードゲーム部……?」

そこには歪んだ文字で書かれた紙が貼り付けてあった。

思考がまとまらない。ただ一つだけわかったのは 、


「助かっ……た?」

正確には助けてもらったのだろうか、もしかしたら彼女なら今私が抱えている問題を解決できるかも知れない。


そう思うと、私はいてもたってもいられなくて急いで立ち上がり、勢いよくボードゲーム部の扉を開けて叫んでいた。


「あの!助けて下さい!」

「嫌よ」

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