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普通で当たり前の異常な日々  作者: 黒兎
日常の終わりと始まり
3/17

出発

6月最初の週末、日中は少し暑くなってきたが、夜はまだ涼しい。私は約束通り、圭子の家の前に来ていた。


圭子の家は2階建の一軒家で、駐車場にはライトグリーンの軽が駐まっている。既に舞も来ており、今は圭子と圭子の兄が出てくるのを待っている。


「もう!だからあんたは連れてかないって!車も4人乗りなんだからスペースもないでしょ!」


「そんなん詰めたら乗れるじゃん!姉ちゃんばっかりズルい!俺も行きたい!」


家の中から怒鳴り声が聞こえてくる。片方は圭子の声、もう片方は幼い男の子の声だ。言い合いは段々と激しさを増していて、家の外にまでかなりの大音量が響いてる。近所迷惑になっていないか心配だ。


しばらくすると玄関の扉が勢いよく開き、圭子がぷりぷりと肩を怒らせながら出てきた、その後ろから長身の天パなお兄さんが肩をすくめながら出てくる。


「ごめん!弟に今日のことがバレちゃってさぁ、引き剥がすのに時間かかっちゃった」

圭子が両手を合わせながら謝ってくる。


「別にいいよ。てか弟くんも連れていけばいいのに、小学生でしょ?詰めたら乗れるくない?」


「あー逆に小学生だからかな。まだ三年だし、流石に廃墟とか連れて行くのは危ないからさ」


舞の言葉に圭子のお兄さんが答える。少し気怠げな雰囲気だが顔立ちも整っているし割とイケメンだ。


「舞ちゃん久しぶり。そっちの子は初めましてかな?圭子の兄で慎二っていいます。西宮大学の2年生。今日はよろしくね」


「慎二さんおひさー。今日はよろしくです」

「仁村かなでといいます。よろしくお願いします」


初対面の私に挨拶してくれたお兄さんに挨拶を返す。

西宮大学はこの街にある唯一の大学だったはず、偏差値もそこそこ高く、歴史や地学関係に強い大学だった気がする。舞は顔見知りらしく気軽な感じだ。


「兄ちゃん早く、あんまりもたもたしてると晶が出てきちゃうから!」

そういいながら車の後部座席側に乗り込んでいく。晶と言うのはさっき話にでた弟さんのことだろう。


「全く、お前も高校生になったんだから少しは落ち着いて行動しろよ。ごめんね?妹もうるさいし、いこうか?」


呆れたようにいいながら慎二さんがこちらに謝る。

そしてそのまま運転席へと向かう。私は苦笑いを返し、舞と一緒に車に向かう。舞が助手席へと向かったので私は後部座席へと向い、圭子の隣へと腰を下ろした。


「それじゃ出発しますか。」

慎二さんのそんな一言と共に車は出発した。


「そういえば、この車見たことないけど慎二さんの車?買ったの?」

車が発進してすぐ、舞が慎二さんに話しかける。


「ん?ああ中古のおんぼろだけどな。やっぱここら辺は車がないと移動に不便だからな。バイト代から頭金だけ払って後はローン」


どうやらこの車は慎二さんの物らしい。車庫に1台しか車が駐まってなかったので家族の物だと思っていた。


「兄ちゃんが車買ってくれて助かったよー。やっぱり母ちゃんとかにこういうの頼めないしさー。あと買い物とかに便利だし」


「別にお前の足になるために買ったんじゃないっての。ガソリンだってタダじゃねぇんだからな」

笑いながら言う圭子に慎二さんが苦々しく答える。


「そういえば、車1台しかなかったけどご両親は?」

「今2人で小旅行中。泊まりで温泉に行ってんの。流石に親がいたら心霊スポット行ってきまーす!で外出れないでしょ」

私の疑問に圭子が笑いながら答える。


「え?じゃあ今弟さん家に1人?小3でしょ?大丈夫なの?」

流石に心配になって尋ねる。小3といえばまだ9歳、小さい子供だ。


「大丈夫だって。今頃ゲームでもしてるんじゃない?割と1人で留守番もしてるし、大丈夫だって」


あっけらかんと答える圭子。兄弟のいない私にはわからないが、そういうものなのだろうか?


「そうそう、あいつは留守番慣れてるし心配いらないよ。それより今からの俺らの方が心配かもな、なにせ心霊スポットに向かってるわけだし」

運転席から慎二さんの言葉に私は今の状況を思い出した。

そうだ、私は今他人の心配をしてる場合ではない。自ら危ない場所に向かっているのだった。


「せっかくだし、雰囲気盛り上げるためにも今から行く病院のいわくについてでも話ておくか、その方が怖さも倍増でしょ」


何を言い出すんだこの男は。ただでさえ怖いのに何故怖さを引き上げる必要があるのか。私は一瞬で慎二さんのことが嫌いになった。


今から行く廃墟が精神病院の跡地だったって話は聞いてる?

じゃあなんでその病院がつぶれたかって話なんだけどさ。


そもそもなんでこの病院がなんでこんな田舎の山奥にあるのかって話なんだけど、理由は単純でかなり危ない患者を専門的に扱ってたからって話。


もうまともに日常生活がおくれないような、まともに会話も成立しない、ベットに縛りつけなきゃ暴れてしまう。


病院を脱走しようとする患者なんかもいる。それはもう地獄みたいな病院だったらしいのよ。


でさ、もちろん病院だからそこで働く医者とか看護師とかのスタッフもいるわけなんだけど、やっぱりそういう患者を相手にするのって精神的な負担もでかいらしいのよ。


それでそこで働いてる人間も段々精神を病んでくる人も出てきてさ。ある日の夜、1人の看護師が夜の巡回に向かった。


夜の間に脱走を企てたり、自傷していまう患者も少なくないから夜の見回りは必須で、担当の看護師が夜勤のたびに病室を1つ1つ回っていく。それなりの広さがあるから、各階ごとに担当をわけてさ。


それで見回りが終わった看護師たちが1人、また1人とナースステーションに戻ってくる。この日は珍しく困った異常はなくて、1人を除いてすべての看護師が見回りを無事に終えることができた。


でも1人の看護師がいつまでたっても戻ってこない。各階で何か問題があれば無線機で知らせることになってる。


看護師なのに無線機っておかしいだろ?まぁでも当たり前なんだけど、暴れてる患者なんかがいたら1人じゃ対応できないからこの病院のナースは全員無線機を持ち歩いてたって話。


ちょっと話がそれちゃったな。で1人の看護師が帰ってこないって話なんだけど、その看護師の担当は最上階の4階。


主に老人というか年齢が高い患者の病室がある階で担当の看護師はまだ若い20代の女性看護師。


この病院にきてまだ1年くらいの新人だったらしい。彼女の担当階が4階だったのは新人の彼女でも体力がない老人たちの相手ならできるからって理由だったらしい。


で、いつもなら1時間もあれば戻ってくるはずなのに時計をみたらすでに2時間が過ぎている。さすがにおかしいと思って無線機で呼びかけても反応なし。


これはなにかあったかもしれないってことで、みんなで4階の様子を見に行った。最初はなんの違和感も感じなかった。


静まり返ったくらい廊下。非常灯がぼんやりと光るいつもどおりの光景。担当の看護師は見当たらない。


とりあえず1つずつ病室をまわっていくことになり、エレベーターから1番近い病室を開けた。窓の外の月明りに照らされた病室。


ベットに眠る患者。その胸元にからは大量の血が流れていた。1人の看護師がそれに気付いて悲鳴をあげる。


ベットに横たわる患者の顔には枕が押し当てられており、胸から流れ出した血液量からどう見ても死んでいた。


明らかに誰かに殺されていた。看護師たちはパニックになりながら急いで事務所にもどって警察に連絡した。


それからすぐ警察が到着してもっと恐ろしいことが判明したんだ。4階にいた患者は全員が殺されてたんだ。


寝てる間に悲鳴が漏れないように枕を顔に押し当てられて、刃物で心臓を一突き。それが4階にあるすべての病室で行われてた。


そして犯人もすぐに見つかった。犯人は戻ってこなかった新人の看護師だった。その看護師は4階にあるリネン室で首をつって自殺してるのが見つかった。


足元に遺書があった。どうやら精神的に病んでしまい、そして憎しみが患者に向かったらしい。


毎日繰り返される激務。常識の通じない相手。段々と患者が人に思えなくなっていく。会話の成り立たない獣、いやこちらに害があるならそれは害獣だ。


だから駆除しないといけない。そんな感じのことが書いてあったらしい。それでこの事件がきっかけで病院は閉鎖。今では廃墟になってしまったって話。


それでさ実はまだこの廃墟に例の看護師の幽霊がでるらしくってさ、4階を周回しながらまだ殺してない患者を探してずっと…


慎二さんが怪談を語ってる間、車内はシーンと静まり返っていた。慎二さんの語り口調は軽く、内容も簡素だったけど、今から行く場所でそんな恐ろしいことがあったとは知りたくなかった。


「それって何年くらい前の話なん?」

重苦しい空気の中、舞が慎二さんに問いかける。


「んーたしか20年くらい前じゃなかったかな?当時のニュースとかにもなってる、すごい有名な話らしいよ」


舞の問いかけに慎二さんが答える。舞は20年前と確認するように呟いて考え込むように黙る。

「いや、こっわ!てか兄ちゃんめっちゃ詳しいじゃん!うわ鳥肌やっば」


圭子がそう言いながら体を抱きしめるようにして両腕をさすっている。

「いや、お前がなんか心霊スポットとか行きたい言うからわざわざ大学で聞いてやったんやろうが」


呆れたように慎二さんが言うが、よくそこまで調べられたものだ。元から乗り気ではなかったが、話を聞いてより行きたくなくなった。というか今すぐ帰りたい。

私はすでに肝試しに来たかことを後悔し始めていた。

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