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5. 風魔法

 ミオーネが領都ライデンから買ってきてくれた本をめくる。なんとまぁ本は全て日本語で書かれていた。オレが周囲の話している言葉を理解できたし、なんなら棚の上の方に置いてある瓶のラベルなんかも日本語っぽかったし。予想はしていた。

 日本からの転生者が過去に日本語を広めたのかもしれないし、逆にこっちから日本への転生者が……いや流石にそれはないか。

 まぁとにかくこっちの世界の言語が日本語だということは、ラッキー程度に思って深く考えないことにした。考えたってわかりようがないしな。

 

 で、オレが今読んでいるのは魔法の初級教本なわけだが。

(理科の教科書かよ)

 こっちには原子とか分子とかの概念はないらしく、現代日本と比べれば相当レベルの低いものだったが、火はなぜ燃えるかとか、水は高いところから低いところに流れて何度で氷や水蒸気になるかとか、風が吹くと何が起きるかとか、土の組成がどうとか。そういったことがイラスト付きでわかりやすく書かれていた。

 こういったものを理解してイメージしやすくすることで、魔法の発動が上手くなるらしい。回復魔法の教本には人体解剖図が載っていた。

 生前、理科が得意だったら魔法チートができたかもしれないが……残念ながらオレはそうではない。一番得意だった日本史の試験の点数すら高校じゃあ四十人中二十位くらいだった。あとは推して知るべし。

 中学生までは喧嘩がめちゃくちゃ強かった。絡んできた不良の番長を殴り飛ばして気絶させたら、連中が俺を祭り上げて勝手に新たな番長にした。番長だったやつも俺に下手に出てナンバー2に収まっていた。とはいってもその中学校の中での話だ。

 そいつらの中じゃ頭は良い方で、喧嘩が強いことも相まって神童扱いだったんだがな。

 それで調子に乗ってちょっといい高校に進学したら、落ちこぼれだった。ネットポルノに逃げて百合にはまり、三流大学を卒業して入った会社はすぐに辞めた。第二新卒歓迎を謡う常駐型派遣会社でやったこともないプログラマーとして働き始めて、流石に後がないと頑張って勉強して7年目。客先会社の新卒に顎で使われたり、向こうの会社では一年目のやつがやるような仕事を投げられたり。

 で、トラックに轢かれた。

 オレは首を振った。いかんいかん。暗くなってしまう。オレはこの世界で百合ハーレムを作ってめいいっぱい楽しむんだ。あっちの世界での残りカスみたいだった俺なんてどうでもいい。

 

 初級教本を読み、書いてあることと生前の知識を結び付けてイメージする。ちなみに特に詠唱とかは必要なかった。が、詠唱、つまり引き起こしたい事象を口にするとイメージがより具体的かつ鮮明になる。

「水素よ、酸素と結合し水となり、我が掌にて球と成れ」

 なんて言えば手のひらから水が湧き出るが、イメージさえできればいいので「浮遊する湖を我が手に」なんてファンタジー詠唱でも同じ現象が起きる。結局大事なのはイメージだ。

 オレは水を庭にうっちゃると風魔法に取り組み始めた。

「風よ。我が掌にて吹き荒れよ」

 吹き荒れよ、と言ったわりにはそよ風程度だが、風がぐるぐると手のひらの上で渦を巻いた。口調は周りに誰もいないので年相応っぽくはしていない。

「えー、全てを包み込む風よ、嵐を閉じ込め球となせ」

 んんん、ムズイ。内側の風とそれを包む風。全然違う風の流れを二つ生み出すようなもんだしな。そのうえ二つをぶつけて勢いを殺してはいけない。片方の気流でもう片方を誘導して球体に押し込めて……。

 なにをしているのかって? 

 うずまきナ●トの必殺技、螺旋●だよ。

「だめか……」

 流石は会得難易度A級の忍術。まぁあれは乱気流を球形にしたようなもんで、オレが今やってるのはそれより全然難易度が低いけど。閉じ込める気流は一つしかないし。

 ちなみにこんな魔法は初級教本には載っていない。教本に載っているのは「そよ風」やら「突風」といった程度のものだ。

 ちょっとかじっただけですぐに応用しようとするのは生前からオレの悪いところでもあった。もうちょっと基礎を固めた方がいいか?

 でも楽しいんだよな。まあ同時並行でやればいいか。前世の創作物をモチーフにした魔法を開発するのは遊びみたいなもんだし。

 

「……よし」

 オレは魔法の初級教本を閉じた。だんだん文字を追っても意味が頭に入ってこなくなっていた。

「体も鍛えるか」

 歩けるようにもなったし、そろそろいいだろう。腕立て腹筋を始めとした全身の筋肉は勿論、自分の部屋をぐるぐる歩き回って持久力もつける。

 息切れしてぶっ倒れるまで続けた。

「はぁ、はぁ……休憩したら尻尾も動かしてみるか」

 尻尾のトレーニング。

 このころになると頭も尻尾ももう毛が生え揃っていた。オレの体毛の色は真っ黒だ。オレが厨二病だったら漆黒とでも表現するんだろう。生え始めの頃は、リーザの金色の髪とミオーネの銀色の体毛とはかけ離れた色だったのでもしかしたらミオーネの子供じゃないのか……? と不安になったが、あにはからんやリーザの父親が真っ黒だったらしい。隔世遺伝はよくあることなんだそうだ。

 そんな感じの体毛に覆われているオレの尻尾だが、先っちょまで骨も神経も筋肉も入っているらしく思った通りに動く。

 曲げられる限界はVは難しくてUならいけるといった程度だ。思ったより可動域が広くて驚いた。

「…………」

 日本における尻尾のある種族が出てきた時のエロ漫画のお約束とは何か?

 ……そう。尻尾をこすられて快感を得ることである。

 オレは股の間を通して尻尾を身体の前に持ってきて、両手で上下に優しくこすってみた。

 うーん、脚とか腕を撫でるのとあんまり変わらないな。特に敏感っていうわけでもないらしい。

「そういえば猫と言えば」

 尻尾の付け根、お尻の上あたりを叩くと性的快感を得て悦ぶんだっけか。

 猫は腕も顔も届かなくて自分では叩けないそうだけど、オレは猫獣人。普通に手が届く。

 立ったまま叩いてみた。

「ひくっ」

 思わず変な声が出た。

 あまりに気持ちがいいのでぽん、ぽん、と叩き続ける。

 あ、やっばいこれぇ……。

 

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