4. 魔法習得
ハイハイができるようになってオレは屋敷の中を探検しまくった。一か所を除いて全て回ったと思う。入れなかったのは一階のミオーネの部屋で、なんでもミオーネの予備の武器やらが雑多に置かれているので危ないとのこと。まぁこの身体の上にミオーネが背負って出ていったような大剣が倒れ掛かってきたら一巻の終わりだ。興味はあって非常に残念だったが諦めた。
暇だったオレはリーザに魔法を見せてくれるようにせがんだ。今のところ避妊魔法しか知らないが、オギハが蝋燭に指の先から出した火を点しているのは何度か見たことがある。あれも魔法だろう。
「まほう! まほう!」
「あら、魔法が見たいの? いいわよ。私が一番得意な魔法は回復魔法を、今見せるわね」
リーザは座っているソファの目の前にある低い机の下の引き出しから、長さ三十センチくらいの短剣を取り出した。おおう、そんなところにそんな凶器が。護身用だろうか。異世界って感じだ。
リーザは取り出した短剣の刃を指の腹でなぞる。ぷっと血が噴き出した。いい切れ味だ。研いでいるのはミオーネだろうか。
「はい。見てて」
リーザは短剣を置いた手を切った指の上で開く。手が仄かに白く光るとその光が指へと流れていって包んだ。指の傷がみるみるうちに治っていく。
おぉ……。すげぇ。回復魔法だ。ヒールだ。ホ●ミだ。ケ●ルだ。
「どう? 本当はもっと大きな怪我でも治せるんだけどね。流石に骨を折ったりすると痛いから……」
そう言った後、リーザは指の先に炎を灯したり、水の玉を出したりした。
「魔法はね。イメージが大事なの。相手の死をはっきりイメージすることで相手を即死させる魔法もあるらしいから。難しいし、魔力消費もとんでもなさそうだけどね」
「おし、えて」
「えっ? なに? 即死魔法をっ?」
「ちゃ。まほう」
「あぁ、びっくりした……そうね。ちょっと早い気もするけど、リオは天才だもんね! まずは魔力を感じるところから……」
母がちょろくてオレは幸せです。
秋が終わり、冬の足音が聞こえ出したころ、屋敷の扉がノックされた。ここ数週間ずっとそわそわしていたリーザが居間のソファからぱっと駆け出す。
リーザは心底から嬉しそうな表情をしていた。お前たまに昼間っからオギハに手を出してたよな? なんなら寝室の扉のすぐ後ろで。オギハが「誰か通ったら聞こえちゃう……」なんて言ってた時オレは扉に耳を押し付けてたんだぞ?
オレもリーザの後に続いて玄関へ向かった。しかし速度の差は歴然だ。ようやく玄関に着いた時にはミオーネが荷物をリーザに預け、靴を脱いでいるところだった。かがみこんだミオーネと目が合う。ミオーネは唇の端で微笑んだ。
「立ったか」
オレは立って、そして歩いてミオーネを出迎えた。
その夜、ミオーネを労うべく作られた豪勢な食事が食卓を埋め尽くした。オレはリーザに促され、覚えたばかりの回復魔法を披露させられた。
リーザが自分で指を切り、オレの前に差し出す。オレは瞳を閉じ、両手を近づけてイメージをする。なんかよく分からんけど血管がつながって、神経がつながって、肉がつながって、皮膚がつながって……。
眼を開けるとリーザの指の傷はきれいさっぱり消えていた。美しい指だ。何人の女の中に入ったんだろうか。
「ほらほらすごいでしょ?」
リーザは喜び勇んで後ろのミオーネに治った指を見せる。目が大きく開き、頬が紅潮している。
「ふむ。まだ一歳にもなってないのに、これはすごいな」
「でしょう? しかもリオは他の属性の魔法も使えるのよ! ほら見せて見せて!」
オレはリーザに促されるまま習得した魔法を披露させられた。チャッカマンをイメージして指の先から炎を出し、蛇口をひねるイメージで水を、エアダスターをイメージして風を、教わった中だと土魔法だけはイメージがつかなくて上手くできなかった。
「ほら! もう三属性も使えるのよ! 天才よ!」
「あぁ、お前の血を引いたんだろうな」
「私なんか大したことないわよ。それより次に竜狩りから帰ってくるときは領都で本をいっぱい買ってきて。特に魔法の本を初級から上級まで全部と、物語の本ね。私はあんまり本って好きじゃないんだけど、子供は本を読んだ方が賢くなるんでしょ?」
「……そういうことなら明日出よう。領都グレイスまでなら雪が降っても高床の馬車なら問題なく往復できる。十日もあれば帰ってくる」
リーザは心配そうにミオーネを見上げる。
「体は大丈夫なの?」
「戦いに行くわけじゃない。馬車の中でぐっすり眠るさ。今夜お前が寝かせてくれれば、なおいいんだがな」
「……もうっ」
リーザが赤くなった頬を膨らませた。
「冗談だよ。それなら出発は午後にしようか。私も流石に一日くらいベッドでぐっすり眠りたいからな」
ミオーネが帰ってきた日の深夜。オレは赤ちゃん用ベッドで目を爛々と輝かせながら待っていた。幼児特有の眠気にもガンとして鉄の意志で抗っている。
隣の両親の寝室からガチャ、という音が聞こえた。オレはガバッと即座に身体を起こして寝室側の壁に耳をぴったりと当てる。両手も壁に当てて壁に這いつくばるような格好だ。一言一句聞き漏らすつもりはなかった。
「私がいない間、リーザの相手をしてくれて感謝するぞ、オギハ」
「いえ……メイドの仕事の一つですし、いつものことですので」
ぎょえ? オギハもいる? ミオーネ公認の不倫だったのか?
「フフ……一婦多妻制に抵抗がないところはリーザも貴族なんだなと思わされるな」
「私をあのクソ兄様たちと一緒にしないで」
リーザの不貞腐れた声がする。やっぱりリーザは貴族なのか。着てる服は外を歩いている女性たちとはずいぶん違うし、家の規模も見るからに違ったもんな。
「さて、じゃあわがまま貴族のリーザを、この下賤な竜狩りが屈服させて差し上げましょうか」
「……ハイ♡」
あ、わかる。これは目がハートになってる。
「……では、私はこれで」
「あら? あなたはいいの? 久しぶりにミオーネの締まったごつごつの身体に潰されたくないの?」
「い、いえ、ですがお疲れでしょうし……一度に二人というのは……」
「オギハがしたいのなら構わんぞ。尻尾も使うしな」
「……で、ではお願いします……♡」
こ、この世界じゃあこんなことが許されるのか。うおおおおおおおおおおおおっ、オレは百合ハーレムを作るぞジョジ●ぉぉぉおおおおおお!!!
改めて決意を新たにした夜だった。
加えて、オレは隣から聞こえてくる声から推察できるベッドの上での尻尾の使い方を知り、尻尾を鍛えることを固く心に誓った。




