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3. 竜狩り

 ハイハイで屋敷の中を動き回る。オレが生まれてから多分半年ほどになっていた。

 オレが生まれたあとは屋敷にいて剣の鍛錬をしたり不器用にオレをあやしていたミオンだったが、オレがハイハイができるようになったのを見ると、数日前に旅装をして出ていった。

「それじゃ」

「ほら、ミオンママは竜を狩ってお金を稼いでくるからね。いってらっしゃいして」

「いってらっしゃ~」

「きゃぁ~! 可愛い!」

「……じゃ、いってくる」

 ミオンが出ていこうとするとリーザが口をすぼめて目を閉じた。オレはびっくらぽんしてリーザの足元からその様子を見上げる。このあとの展開に期待して胸を高鳴らせながら。

 ミオンはためらった後、褐色肌の頬を赤らめて身体を曲げる。リーザに口づけをすると数秒唇を触れ合わせるだけの軽いキスをした。

 リーザの両腕が伸ばされ、ミオンの頭を抱きかかえる。オレは下からだったんでよく見えたが、リーザの口から赤い舌が伸ばされた。遅れてミオンも応じ、お互い深いキスをする。

 どことなく息の荒くなってきたリーザの手が、ミオンの身体を撫でながらするすると下へ落ちる。ミオンはその手を掴み、唇を離した。

「やめておけ。リオの前だぞ」

「……はぁ~い」

 リーザはやや不満気な様子だが、それでも頭では納得したように頷いた。

「冬が始まる前には戻る」

 ミオーネはそう言い残すと熱気と強い日差しの待つ屋敷の外へと出ていった。リーザは軒先の日陰になっている部分まで出てミオーネを見送る。

 オレはというと下から覗いていた二人の激しいキスに大興奮するとともに驚愕に襲われていた。

(えっ? リーザがエロいのか?)

 なんとなくイメージでミオーネが攻めでリーザは受けなんだろうと思っていたが。いやでも誘い受けの可能性もあるか。

 ミオーネを見送って戻ってきたリーザは少し強めに扉を閉めた。バンと音が響く。

(えぇ~? あれだけでそんなに不機嫌になる?)

 リーザはため息をつくと床にはいつくばってリーザを見上げているオレに視線を向ける。不機嫌さは拭い去られて笑顔になった。

「はい、リオも居間に戻りましょうねぇ」

 明らかに機嫌のいい態度でオレを抱きかかえて居間へ戻る。その廊下でオレは話に出てきた「竜」なるものについて聞いた。

「りゅう~」

「えっ、なあに? 竜が気になるの? 竜はねー。とっても怖いのよ。いろんな種類がいて、村や人、動物なんかを襲うの。それで竜が来た場所は、ちゃんとお祓いをしないと、魔力の弱い動物からだんだん竜になっちゃうの! 人もね。だから竜の数が増えて村とかに出てこないように、ミオンたち竜狩りが竜の住んでいるところまで出向いて、数を減らしてるのよ。……ってリオにはまだ難しかったかな?」

「だー」

「んー、よしよしリオは賢いでちゅね~」

 オレを抱き上げて頬ずりするリーザ。ちょっと子煩悩が過ぎませんかね。「だー」のどこに賢い要素があったんだろうか。

 まぁ実際理解はしてるし、本当ならもっと喋れる。赤ちゃんが何歳から喋れるのかなんてオレの知識の中にはないので、適当に季節を見て半年ぐらい経ったらしい最近話し始めたのだが、翌日にハイハイができるようになってタイミングが丸被りした。

 オギハが「半年で喋り始める子供……? 本当なら一年でも早いはず……」とつぶやいていたのでやらかした感があったが、リーザは「うちの子は天才なのよ!」と言って取り合わなかった。

 正直何歳で何ができるようになって……なんて知識はないのでこれからもやらかす気はするが、この母親なら大丈夫だろう。

 それで今リーザから聞いた竜の話を、オレも生前よく読んでたなろう系の異世界テンプレに当てはめると、竜=魔物、竜狩り=冒険者ってところだろう。ミオーネは竜狩りで生計を立てているのかもしれない。


 ハイハイができるようになると、誰かの腕の中と赤ちゃん用ベッドの上だけだったオレの狭い行動範囲が一気に屋敷全体まで広がった。

 この世界……はわからないが、この屋敷の大まかな文明レベルは産業革命前の西欧、ってところだろうか。蒸気機関もなければ電気も水道もない。日暮れ時になると、使用人のオギハが誰かがいる部屋の蝋燭に指の先から出した火をつけて回る。節約のためか誰もいない部屋は真っ暗だ。

 屋敷は二階建てで、部屋数もかなり多い。5LDKくらいじゃなかろうか。窓から見た村の家はそれほど大きくなかったので、かなり裕福な方なんだろう。というか他の家はみんな農地を持っているっぽいのに、うちだけ何もなくて小高い丘の頂上から村を見下ろす位置にあるので、ここの領主かなんかなのかもしれない。

 猫耳を揺らし、尻尾を振りながら屋敷中を這いまわるオレは本物の猫のように見えたかもしれない。


 で、だ。リーザ、彼女は不倫をしていた。相手は使用人のオギハだ。夜中にたまたま目が覚めたら隣の寝室からあんあん聞こえていた。「リーザ様っ、これでっ、よろしいですかっ」「避妊魔法は使ってるから、もっと、私を屈服させて、妊娠させるつもりでっ」なんて声も聞こえる。

 マジかよ……リーザの不倫もそうだけど、初めて聞いた魔法が避妊魔法ってマジ? どんな異世界転生?

(……ってか)

 オレは思わず拳を突き上げた。避妊魔法が必要ってことはつまり。

(女同士でも妊娠するってことじゃねーか!)

 まだオレがリーザと別の猫獣人の男との子供っていう線も疑っていたが、これで確定だろう。えっ? 最高じゃね? 百合ックスで子供出来るならもう男いらねーじゃん。そしてオレは女だ。

 決めたぜ。オレは将来女を妊娠させる。百合ックスをたっぷり楽しんだ後にな!

 ……あれ? でも精子は? そもそもどっちが妊娠するんだ? そもそもオレも妊娠するのか? ……それはまだなんか抵抗あるな……。心は男なんだ。心が男のまま、女の身体で、百合ックスを楽しみたいんだ。

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