2. おっぱい
男はいた。屋敷の中はオレ(の身体)を含めて女性だけだったが、リーザに抱かれて窓の外を覗いた時に、明らかに男の子っぽいやつらが遠くの草原を駆けまわっていた。
まぁ女の子でも子供の頃は男の子っぽく見える子はいるし、それはそれで素晴らしい属性だが、あれはどう見ても生物学的な男だ。
ちなみに獣人は一人もいない。
目を転じて庭先に視線を向けると、もう一人の母親であるミオーネが背丈ほどもある馬鹿でかい鉄の大剣を振るっている。
Youtubeで海外の女性のボディビルダーやウエイトリフティングの選手を見たことがあるが、ミオーネの身体はそれにしなやかさと軽快さを加えたような印象だ。
てか普通そのデカさの鉄の塊をそう軽々と振れんだろ。まさに鉄塊だよ。ドラゴン●しだよ。
リーザは身体を揺らしてオレをあやしながら、硝子窓を通して屋敷の中からにこにことどこか嬉しそうにミオーネの鍛錬を眺めていた。
どう考えても人体では無理な速度で巨大な剣を振り回していたミオーネはだったが、その剣捌きは荒々しさは感じるもののどこか合理性を感じるものだった。まぁオレには剣のことなんか分らんが、適当に振るっているわけでは全くなさそうだ。
「せㇵッ!」
しばらくしてミオーネは一際気合のこもった威勢とともに下から上へと大剣で斬り上げた。
(おおっ?)
ミオーネの振るった大剣の軌道の先に空気の歪みのようなものが生まれた。それは徐々に広がりながらも凄まじい速度で斬撃の軌道上を伝播していき、二十メートルほど先の木でできた柵をぶった切った。地面にも切断痕が残っている。
オレは思わずガッツポーズして歓声を上げた。
「あい~だ。ふぁふぁ!」
赤ん坊の声なので自分でも何を言っているかよくわからなかったが。
今のは地球の物理現象ではありえない。やっぱりここは魔法のようなものがある異世界なのだ。
全身が熱くなる感覚がして、次は何をと期待して見たが、ミオーネは途端におろおろしだした。
あ、そうか。家の柵をぶっ壊したわけだからな。大剣を片手で持ったまま柵へと走って近づいていき、木片を集めているようだが、それで直せるわけないだろ。オレの片方のママはちょっと阿保らしい。
頭上から冷気を感じて見上げる。壊れた柵に顔を向けているリーザは、まるで氷の彫刻かと言わんばかりの冷たく美しい微笑を浮かべていた。氷の彫刻、タイトルは『憤怒』。
「リーザ様、お身体に障りますよ」
廊下の先から声がした。オレたちは廊下の窓から外を見ていたわけだが、溶け残りの雪を見る限り今は冬を終えて春になる前、日本で言うところの三月くらいだろう。オレもリーザも大層な量の服にくるまっているが、暖炉のあった居間とは違いここは冷える。
声の主はメイドだった。生まれたばかりのオレを取り上げてくれたのもこのメイドだった。名前をオギハという。なんとこの世界にはメイドがいるのだ。現代ではコンカフェかそういうプレイ以外では絶滅してしまったガチのメイドである。
ちなみに生前メイドカフェには行ったことあるけど、ガチで心を持っていかれかけました。うん。ラノベの話で盛り上がりましたよ。隣には次の授業の準備をしている大学教授が座ってました。
そんなリアルメイドのオギハだが、左手には幼い少女の手を握っている。年は多分三歳くらい。
その三歳の幼女に、オレは睨まれている。
なんかしたか?
するわけないだろこちとら生後三か月ぞ?
「そうね。そろそろ戻るわ。……あ、そうそう。次のおっぱいはオギハにお願いしていい? もう出なくって」
我が生みの母、リーザは胸がかなり控えめだ。そんなわけでオレはオギハからもおっぱいを貰っている。
オレはこの時間が楽しみで楽しみで仕方ない。
「え……ハイ。勿論ですリーザ様」
一瞬嫌そうな本音が漏れ出かけたオギハ。未熟ですまんね。だがいつか君の顔を蕩けさせてみせるぜ。
寒い廊下を離れ、暖炉に火のついた暖かい居間に移る。オレはオギハに抱きかかえられ、差し出された乳首に吸い付いた。
母乳を呑んでいるふりをしながら、色んなテクを試してみる。
オギハは眉根を寄せて不快気にオレの顔を睨みつける。げへへ。血の繋がっているリーザとミオーネには興奮しなかったがオギハは別だ。不快気な視線さえご褒美になる。
「……もう十分でしょう」
オギハは半立ちの乳首をオレの口から離した。おのれこれからだっていうのに。
あー、だー、と両手を伸ばしておっぱいをねだるオレに対して、オギハの娘が母親よりも強烈な嫌悪の表情を見せる。
む? 外からは見えないように口の中だけでやってたのに気が付かれたか? リーザにはばれてないと思うんだけどな。
リーザの方を振り向くと、リーザはあどけなくおっぱいをねだるオレを見て含意なく優しく微笑んでいた。逆に申し訳なくなってくるぞ、母よ。




