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天国のあとに残った灰  作者: 霧崎 蒼司


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第107話: 鍵は誰だ

「貴殿は一体何者だ? 猟師ハンター側にこれほどの者がいたのか」

ゾアの警戒に満ちた問いに対し、ABCは不気味なほど平然とした態度を崩さなかった。彼は微かに首をかしげ、ノイズの混じったラジオボイスを響かせた。

「……新メンバーの情報は、まだ貴殿らの耳には届いていないようですな。アック君が急ぐあまり、説明を怠ったということでしょうか」

ABCが情報の欠落を突き、内部に不和を植え付けようとしていることを察したゾアは、即座に応酬した。これ以上の隙を見せるわけにはいかない。

「話には聞いていたが、貴殿のような見慣れぬ顔を目の当たりにすれば……少々驚くのも無理はない。新しい面々に馴染む時間が、まだ足りていなくてね」

わずか数言のやり取りで、ゾアはABCが極めて狡知に長けた人物であることを確信した。この手の男を相手にするなら、沈黙と実力行使こそが最善の策だ。余計な言葉はすべて、奴に利用される手がかりとなる。ゾアは、目の前の男こそが敵陣営の戦略的頭脳であると推論した。自信に満ちたその登場ぶりからして、実力を隠すつもりなど毛頭ないようだ。

実のところ、ゾアは知る由もなかったが、ABCは手の内を隠す必要はないと考えていた。セシリアに負わせた傷だけで自らの格を示すには十分であり、その情報は当然アックから共有されているものと思い込んでいたのだ。しかし、ゾアの反応を見て、ABCは即座に確信した。アックは計画の実行を急ぐあまり、詳細なデータの提供を失念したのだと。彼は依然として、全員の目には映らぬ「暗黒の未知数」のままであった。

「……時間の短さは我々が解決策を見出すのに不利なだけでなく、貴殿ら側にも多少の不都合をもたらしているようですな」ABCが皮肉を飛ばす。

ゾアは冷淡に言い放った。

「不都合など、今のところ何一つ感じていない。貴殿が常に仮面を被っているからといって、我々が築き上げたすべてを崩壊させられるわけではないのだ」

ABCは沈黙し、数秒間その言葉を反芻するように考え込むと、微かに頷いた。

「……貴殿は、想像していたよりも聡明なようだ」

言葉が終わるや否や、彼の背後にあるおぞましき腕が突如として出現し、虚空を強く引き裂いた。刹那、二人の間にあった距離が完全に抹消された。気づかぬうちにABCの至近距離に立たされていたゾアは、驚愕に身を震わせた。本能的に後退しようとしたが、ABCの手は素早くゾアの襟元を掴み、もう一方の拳で万力のような一撃を叩き込んだ。

ゾアは瞬時に頭を逸らして拳をかわすと、同時にABCの腹部へ雷鳴のごとき蹴りを見舞い、数歩後退させた。間髪入れず、ゾアは能力を展開して白銀の剣を生成し、絶対的な守りの構えをとる。

――ABCの能力は一体何だ? 空間に関わるものか、あるいはもっと残酷な何かか。距離そのものを消し去る力は、相手の撤退や休息の努力をすべて無意味に帰す。戦闘のテンポを遅らせる必要がある者にとって、これはまさに悪夢であった。

殺戮者の演劇

モニターの向こう側では、観客たちがざわつき始めていた。彼らは熟練のコンサルタントに尋ねるかのように、アコウに問いかけた。

「この戦いはどうだ? まさか、また『足止め』で終わるわけじゃないだろうな?」

アコウは溜息をつき、険しい眼差しを向けた。

「……その可能性は低いでしょう。ABCは、いかなる犠牲を払ってでもゾアを仕留める必要がありますから」

アコウはABCの野心を完全に見抜いていた。彼は来たるべき最重要イベントにおいて、ヒトミから最も価値ある「鍵」を奪い取ろうとしているのだ。ABCは何らかの手段で、ゾアが彼らの戦略の核心であることを知っている。ゾアを葬ることは、ヒトミとアコウの全計算を崩壊させ、自らの覇道を確実なものにすることを意味する。

しかし、アコウは自分自身にだけ聞こえる声で囁いた。

「……ゾアが食い止めねばならぬのは貴様ではないぞ、ABC。その程度の子供騙しは、早々に切り上げるがいい」

同時に、アコウは密かに通信機を起動させた。

「……そろそろ、君たちの出番が来そうだ。アユミ」

致命的な心理的打撃

戦場では、ゾアが相手の「距離消失」という能力に神経を削りながら応戦していた。もはや結果を左右するのは単純な武術ではなく、テンポの制御能力であった。しかし、交戦の中でゾアはある違和感に気づいた。ABCの放つ打撃は基本的な身体操作のみに基づいたもので、比較的軽く、高密度エネルギーの纏い(コーティング)が一切なされていない。

ゾアは敵の深淵を透かし見始めた。このABCという男は、ゾアが本当に正確な標的であるのか、未だ確信を持てずにいる。彼は探っているのだ。何故ゾアが「鍵」なのかを自問自答している。彼は自信を保つために、重要な情報を握っている者の役を演じているに過ぎない。実のところ、彼は自らの迷いを隠すために、あえて危険な存在を装っているだけなのだ。そして不運なことに、ゾアはその瞬間の揺らぎを看破した。

ゾアは含みのある言葉で罠を仕掛けることにした。

「……結局、彼女すら仕留めきれなかったようだな。元より『未来の惨劇』と呼ばれた存在を相手にするには、役不足だったか」

実際、ゾアは誰がセシリアを傷つけたのかを知らなかった。これは単なるカマをかけた一言だ。ABCの反応から、二つの事実が導き出される。一つは彼が実際に直前まで戦っていたこと。もう一つは、その犠牲者が確かにセシリアであったことだ。

ABCは沈黙し、平然を装おうとした。だが、その沈黙こそがゾアの推測を裏付けた。彼は二つの標的、セシリアとゾアの間で混乱し始めている。アックが命懸けでセシリアを救った光景を思い返し、セシリアこそが計画の最重要因子であると思い込み始めたのだ。

ABCは、ゾアが放った何気ない一言による心理的陥穑に見事に嵌まった。彼の全計画が根底から揺らぎ始める。ゾアは、こうした機転を利かせる経験が自らの血の中に流れているのを感じていた。深い淵にある「真なる自我」から湧き上がる感覚。

ゾアの髪の下から、白銀の色がじわじわと広がり始め、そのどこかで出所不明の微かな青い炎が揺らめいている。剣の柄を握る手に力がこもり、火花のような青い閃光が走るのを、モニター越しのアコウは驚愕に目を見開いて注視した。見間違いではない。アコウはそれを確信した。自らの計画にとって、至高の輝きを放つシグナルが訪れようとしている。

「――覚醒は、ここから始まる」アコウは微笑んだ。「いよいよ、任務を遂行する時だぞ、アック」

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