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天国のあとに残った灰  作者: 霧崎 蒼司


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第101話: 白亜の深淵と竜誓の残響

「これほど明白な事実がありながら……なぜアスタイルは、ゾアに気づかなかったんだ?」


アコウの問いが、部屋の息詰まるような静寂を切り裂いた。その瞳には不信の念が鋭く宿っている。もしアスタイルがかつてゾアの兄と対峙していたのであれば、即座に気づくはずではないか。今のゾアは単に面影があるだけでなく、亡き兄の吐息、そしてその力そのものをその身に纏っているのだから。


数多の仮説がアコウの脳裏で嵐のように渦巻く。だがやがて、彼は小さく溜息をつき、自らの好奇心を抑え込んだ。早急に掘り起こすべきではない真実もある。彼は、時間という最も公平な審判に、その答えを委ねることに決めた。


---


### 白亜の城の深淵


情報の断片を一つずつ剥ぎ取り、繋ぎ合わせていくことで、アスタイルの精神構造というパズルの絵が、残酷なまでに鮮明に浮かび上がってきた。アスタイルは単に白亜のホワイトキャッスルを嫌悪しているのではない。彼はそこに対し、血を洗うような深い憎悪を抱いているのだ。


そこは、自らの両親を呑み込み、虚飾や極端な理想のために実の子を捨てさせた場所。かつて血を分けた兄弟のように慈しんだ友を堕落させ、情愛を裏切りへと変貌させた場所。そして何より無慈悲なことに、彼の暗い人生における唯一の光であった、あの幼馴染の少女を追い詰め、殺戮の軍勢を差し向けた場所なのだ。


アコウは、当時の衝撃的な事件に関する色褪せた資料をさらに捲った。一通の情報が、彼の息を止めさせた。

「――あの時、二人の子供を守っていた怨念の正体は、『竜誓りゅうせい』だったのか」


だが、それは並の存在ではなかった。それは完全なる「地」の元素を宿した竜であり、幾世代にもわたって希釈されることのない、純然たるオリジナルの個体であった。もし現在の白きバハムートが権能の破片を継承した者に過ぎないのだとすれば、この実体こそが力の源流そのものといえる。

『血脈を通じて伝わる力は歳月と共に摩耗するが、怨念として現存する始祖の竜誓は、凄まじい潜在能力の宝庫である。白亜の城全体を震撼させ、渇望させるに足るほどに』


しかし、運命は皮肉だった。その竜誓は、アスタイルを器として選ばなかったのだ。世の人々は、アスタイルが神聖なる竜の力を掌握した者だと誤認し続けてきたが、実際にはそのエネルギー源は亡き少女の遺体の中にあった。老いた竜の怨念は今もなおその場所に留まり、死にゆく残力を用いて、刻一刻と朽ち果てていく彼女の亡骸を時の浸食から守り続けていたのだ。


通常、宿主が絶命すれば、竜誓は新たな契約を待つ放浪の魂となる。接触した者は「恩寵」(弱体化した同質の力)を授かるか、あるいは十分な資質があれば、その威能を完全に受け継ぐ「宿主」として選ばれる。それゆえ、あの死の森は、一夜にして運命を変えようと目論む強欲な者たちの墓場となったのである。


---


### 狂戦士ベルセルクの亡霊


アスタイルの話に戻ろう。彼は本来の宿主ではないものの、今行使している力の源泉が竜誓にあることは疑いようがない。その残虐な能力は、未だ全貌が解明されていないとはいえ、対峙する者の背筋を凍らせるに十分だった。それは単なる肉体的な剛力ではない。過酷な条件が満たされた瞬間、いかなる者の命をも即座に奪い去る死の呪いなのだ。


記録によれば、ゾアの兄は白亜の城との契約を拒絶したという。彼はアスタイルを殺害し、竜誓の力を奪取せよという命に背いた。

教団の指導者たちは、竜誓がアスタイルを代わりの宿主へと変えようとしていることを恐れた。もしそれが現実となれば、「狂戦士ベルセルク」が降臨することになる。それは陣営も持たず、人間性も持たず、ただ破壊のためにのみ存在する狂乱の実体だ。狂戦士の存在は、NGと人類双方の文明にとって直接的な脅威となる。


想像してみてほしい。もし市川のような憎悪に満ちた者が狂戦士となったならば、彼は一つの都市を更地にし、犯罪者たちが社会秩序を粉砕する隙を与えるだろう。交易は停滞し、主要な街道は地図から消し去られる。白亜の城がアスタイルを芽のうちに摘み取ろうとしたのは、政治的観点から見れば理解できなくもない。憎しみこそが、怪物を育む最も肥沃な土壌なのだから。


だが、ゾアの兄は別の道を選んだ。彼は粛清ではなく、教育を信じたのだ。アスタイルが抱く城への憎悪があまりに深いため、城へ連れ帰る案が却下されると、彼はアスタイルを人類側へ預けることを提案した。しかしそれもまた、人類が強大な力を持ちすぎることを恐れた者たちによって退けられた。


そうして、壮絶かつ悲劇的な歴史の一ページが刻まれたのである。ゾアの兄は、二人の子供を守るために、たった一人で世界を敵に回した。彼は白亜の城における最強の者たち――その一人一人が白き竜に肉薄する実力者たち――と対峙し、さらには白きホワイト・キング本人とさえも剣を交えたのだ。


アコウはソファに深く身を沈め、遠くを見つめた。

「……大型のモニターをもう一台用意してくれ。観客席にあるのと同じやつを」

彼の要求は即座に満たされた。おそらく、ブラックウィングスのリーダーの影が、今も静かにこの場所を覆っているのだろう。


---


### 辰巻タツマキの血戦


その頃、他の戦線では、すでに濃厚な血の臭いがあたりに立ち込めていた。


辰巻の里において、敬愛される里長が、NGから来た正体不明の少女によって窮地に追い込まれていた。セオドアは肩で息をし、胸板は苦痛に波打っている。体中の傷口からは血が滴り、驚異的だったはずの回復速度は、危機的なまでに鈍化していた。


「タイマンで、本当に私に勝てると思っているの?」

そのNGの少女は、尊大な口調で言い放った。日は完全に落ちているというのに、彼女はサングラスでその視線を隠したままだ。精巧に作られた彼女の手甲は、今やセオドアの鮮血で赤く染まっている。


老人は、夜風に軽やかに舞う少女の短い髪を見上げ、力なく失笑した。

「……どうやら、想像していたよりもずっとお強いようだ。老骨に鞭打って抗ってみたが、やはり局面を覆すには至らんか」


「抗った?」少女は嘲笑を浴びせた。「前回もそう言っていたわね。そして結果は、また敗北よ」


「――今回は、随分と『本気』を出さざるを得なかったのではないかな?」

セオドアは平然と応じ、その眼光を鋭く光らせた。

「それは、私が初めて出会った時よりも進歩したという証だ。それこそが、抗い続けた成果というものだよ」


少女は一瞬虚を突かれたように動きを止め、それから狂ったように笑い声を上げた。

「傑作ね! 敗者が『前回は本気じゃなかった、今回は本気を出したけど……やっぱり負けた』なんて、見苦しい言い訳をするのを初めて見たわ!」


「……誰が、私が負けたと言ったかな?」


言い放つと同時に、短刀の一閃が奔った。大気が引き裂かれ、耳を刺すような風切り音が鳴り響く。少女は鋼鉄の手甲を掲げて防ごうとしたが、衝突の瞬間、天地を揺るがすような爆発が引き起こされ、彼女の体を遥か後方へと吹き飛ばした。


相手に立て直す隙を与えず、セオドアは亡霊のごとき速さで肉薄した。電光石火の斬撃が少女の肉を削り、鮮血が飛散する。激昂した少女は防御を捨て、老人の腹部へ向けて凄絶な一撃を叩き込んだ。


ゴフッ!


セオドアの目が大きく見開かれ、口角から熱い血の塊が溢れ出した。彼の体は大樹の幹へと叩きつけられ、その衝撃で森の葉がバラバラと舞い落ちる。少女はその好機を逃さず、とどめの一撃となる二度目の爆発的な拳を構え、矢のごとく突進した。


だが、セオドアは百戦錬磨の老将であった。彼は身を翻し、短刀の腹を支点にして、彼女の拳の軌道を強引に側方へと逸らした。直後、彼は跳ね起きるように少女の襟首を掴み、渾身の力で円を描くように投げ飛ばした。少女は宙へと放り出される。


虚空を舞う少女に向け、セオドアの短刀が再び稲妻のように襲いかかる。彼女は顔を覆って防がざるを得ない。一瞬、標的を見失った彼女が地面に着地した時、その目の前には巨大な影が立ちはだかっていた。


ドォォォン!


正面からの爆発が、少女の胸元で炸裂した。彼女は血を吐きながら後方の岩壁へと叩きつけられ、土煙が朦々と巻き上がる。


煙がゆっくりと晴れていく中、少女は千鳥足で立ち上がり、口元の血を拭った。そして、不可解な笑みを浮かべて言った。

「……どうやら。あなたの『抗い』とやら、少し面白くなってきたじゃない、おじいさん」

しばらく新しい章を更新できていませんでしたが、次回はいよいよ、このアークの中でも特に注目すべきキャラクターたちによる待望の激突が描かれる予定です。


ぜひ引き続き、次の更新を楽しみにお待ちください。


現在、1話を約8000字で書くか、それとも4000字ずつに分けて投稿するか、少し悩んでいるところです。

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