出発して前線基地へ
エリザベスが和平会議を行うと宣言してから数週間後、和平会議の準備という名の政争は終結した。
幸太郎は貴族に追いかけ回されて全力で逃げ回り、その間にエリザベスがうまく取りまとめた。
その勝者達と幸太郎を送り出す式典が王宮で密やかに行われた。
「これが密やかだって?」
式典には数多くの貴族が詰めかけている。
本来貴族は特権階級でありそんなに多いわけではないが、それでもイリス王国全土から家族も含めて集まるとかなりの数になる。
彼らが式典に出席した理由は勿論和平会議の成功を願ってのことであるが、その次には妖精姫エルに見初められたという次世代の指導者候補である幸太郎を一目見たいという方が理由としては大きかった。
実はダグラスの乱以降で公式な式典に幸太郎が出席するのはこれが初めてであり、それ故にエリザベスは幸太郎を尻込みさせないために敢えて密やかな式典と伝えていた。
しかし実際には盛大に送り出すためにエリザベスは触れを出して全国から貴族を集めていた。
「イリス王家とその臣民は皆幸太郎様の無事と成功を祈っておりますわ」
式典で幸太郎はエリザベスから、王家の名の下に和平会議に関する全権を委任されたことの証書を手渡される。
「幸太郎様には国の代表たる大使を務める功として伯爵位を授けます」
「え…爵位はいらないのに?」
「ええ、幸太郎様は公爵位の授与は毎回辞退されておりますね。ですが今回与えるのは伯爵位です。丁度、今回の乱で枠が空いておりますし」
「いや公爵だけじゃなく他の爵位も」
「それに代表たる幸太郎様が男爵というのは流石に問題なのです。せめて伯爵でないと侮られてると勘違いされてまとまるものも纏まらないでしょう」
エリザベスはしれっとそんなことを言って幸太郎に伯爵の証である叙爵章を取り付ける。
そう言われると幸太郎も反論できない。
どんな形であれ一度引き受けた以上は成功させないと戦争が長引いて多くの死者が出るのだから、衆人の監視もある中で個人のわがままを通す場面ではなかった。
その他さまざまな装飾品を手渡され、更に代表者達が集まって盛大な拍手に包まれる。
式典はつつがなく終えて、乗車の準備が始まるとリズが幸太郎のそばにやってきた。
「幸太郎、私がいなくてもちゃんとするのよ」
リズは今回お留守番である。
最初はついて行くつもりだったようだが、行方不明だった一族の生き残りに関する有力な手掛かりというか本人の居所を見つけたのだ。
「あいつと合流したらすぐ追いつくから」
「いや、流石にまだ戦争中だし敵の支配地域に無断で入る無茶はやめてね?問題になるから…」
「そうです。リズは心配無用です。わたしがしっかり世話をしますから」
「逆にエルだから不安なんだけど…」
リズとエルはしばらくにらみ合った後、そっぽを向いて別れた。
(なんで自分の周りの女ってみんな仲悪いんだろうな……いや理由はわかってるけど……それでも仲良くしてほしい……無理かなぁ)
少なくとも幸太郎は女性たちを上手く扱う経験もスキルも持ち合わせてはいなかった。
リズはそのまま出立の準備をするために屋敷に戻り、エルと幸太郎は馬車に乗り込んで出発した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
使節団は軍の部隊に護衛されて移動する。
使節団のメインはイリス王国が主体、だが人類圏の安全確保の名目で助力してた他国の重鎮も何名かオブザーバーとして参加する。
その貴族たちの世話をする人員や道中の物資を輸送するとなると、馬車の数だけでも数十台に登り、人の数でいうと数百人を優に超える大名行列の体をなしていた。
因みに幸太郎のビーイングは今回はエル以外は連れて行かなかった。王都にも守りは必要だからだ。
「では道中は私に何なりとお聞きください」
「…魔族に精通した案内人がつくとは聞いたが、まさかロビン様だとは」
「やめてください幸太郎様。まだ非公式とはいえ僕はすでに廃嫡された身です。それに貴方様の方が年上なのですから呼び捨てになさっても問題ありません」
道中の馬車の中、ふかふかのクッションに身を沈めた幸太郎の目の前には幼児が座っていた。
勿論ただの幼児ではい。
その魂は魔族のものであり、前世の記憶を持つ魔族側の元スパイで今は捕虜かつ魔族との臨時窓口を務めている元第二王子ロビンであった。
そのことを知っている人物は幸太郎、エル、エリザベスなどごくわずかに限られている。
本来ならスパイなど国家の中枢に置いておけるわけもなく、エリザベスはロビンを即処刑しようとしたが、それはエルによって阻止されている。
「これは私が預かります」
話し合いの末、ロビンは廃嫡となり、エルの預かりとなった。
「私の命があるのは妖精姫様のお陰ですので」
ロビンもまたそれに感謝して魔族との和平実現に向けて色々と準備を進めていた。
幸太郎もやはり幼い子供が死なずに済んだのは良いことだと思っている。
真の王云々か絡まなければ、エルは幸太郎の意を汲んで行動してくれるので、そこはエルに感謝してもしたりない。
「そうか。ならロビンと呼ばせてもらうよ。エルもよくやってくれた。ありがとう」
「……いえ、そんな。幸太郎様の従者として当然のことをしたまでです」
隣に座っていたエルはそう言って、少し顔を俯かせる。
エルは今回もドレスのような装束を身に纏っている。これは礼服であると同時に戦闘服でもある。実際カードのイラストはこれなのだからおそらくは真実なのだろう。とはいえ、スナイパーエルフとしての格好をすることもある。それはカードの能力がこの世界に定義された際の解釈の結果だ。
妖精姫フェリア
ビーイング
アタック700
ディフェンス700
マナコスト8
妖精姫フェリアが場に出された時、スナイパーエルフ600/200を場に出す。スナイパーエルフが場にある間、妖精姫フェリアは攻撃できない。
エルはフェリアでもありスナイパーエルフでもある存在として定義された。つまりは二重存在であり、エルの意思で妖精姫フェリアになることもあれば、スナイパーエルフになることもある。ということらしい。
相変わらず理由は不明だが。
(スナイパーエルフが場に出てる間は攻撃できないって制約を解釈すれば同時に存在できないってなるのはまあわからなくもないけど、相変わらずファンタジーだ……)
しかもどちらかが倒れたとしてももう片方の存在で戦えるので継戦能力は跳ね上がる。
心強いことこの上ないが、それは同じような能力を持つ敵も同様にということであり、幸太郎は憂鬱だった。
「ですので案内役として精一杯努めさせていただきます」
ロビンは笑顔で馬車のソファに座りながら承った。
「ただ流石に君みたいな幼い子が同行するのは不自然すぎやしないか?」
見た目はまさに幼児であり、しかも王子である。正直これから和平交渉に向かう使節団の中にいては場違いな存在だ。
「はい。ですからこうしようかと」
そういってロビンが指を鳴らすと、ロビンの体がぐにゃりと歪み、次の瞬間にはロビンがそのまま成長したらこうなるだろう美青年が座っていた。
「幻術ですが、これならよほどの達人でない限り見抜けないと思います。私は妖精姫様の従者ということに」
「ああ、うん、なるほど魔法って便利だよね…」
と自分の能力は棚に上げて幸太郎は遠い目をした。
「それでこれから向かうのは魔王城だったっけ?」
「はい。そうですね。そこに向かいます」
「こういうのはなんだけど、エリザベス様はよく魔王城に向かうのを認めたね。普通はこういうのって中立の都市がどこかで行われないのだろうか?」
「姉様は私を遠ざけるようになりましたので本心はわかりませんが、推測はできます。多分幸太郎様だからですね」
「というと?」
「まず今回の件は、イリス王国の落ち度なんです。兄様…ダグラスの暴走の結果、こちらから仕掛けて開戦しましたから。しかし王国としては完全に認めるわけにはいきません。そうなると和平ではなく降伏同然になりますから。ならばせめて本拠地に出向いて調印することで完全に認めることはできなくても詫びという意味を込める狙いがあるかと」
「なるほど謝罪に行くならこちらから出向くのが普通だしな」
「魔族の溜飲も多少は下がるでしょう。ただ幸太郎様がいなければそうしたとは思いませんが」
「なぜ?」
「幸太郎様の戦闘力を高く買っているのでしょう。何があっても必ず生還すると信頼してるのです」
「ああ…」
最悪の事態は行った先で使節団が敵側に捕らえられ人質として使われることだろう。
和平を望んでいるはずの相手がそんなことするはずないという油断を利用されたら目も当てられない。
だから普通は互いの安全には気を配る。
そしてエリザベスは幸太郎なら万が一のことがあってもどうとでもなるから送り出したという事だった。
「でも一応魔族のスパイだった君がそういうなら、魔族にその意図はないと考えていいのかな?」
「はい。まあ、オクタスなんて伝説の魔物を従える幸太郎様と敵対しようなんて考えている魔族はいないですよ」
「そうなることを願うよ…」
幸太郎は真剣にそう思う。
この世界に来てから何事もなく平穏に済むといことは殆どない。
特に今回は話し合いの行方次第ではまた多くの命が失われる。
ただ同時に幸太郎はこれまでの経験からまた普通に何事もなく済まないのではないかという嫌な予感も感じていた。
(やばい。胃が痛くなって来た…)
「幸太郎様、顔色が優れないようですが…」
エルが心配そうに声をかける。
おそらくは先日急に倒れたことを気にかけているのだろう。
「…少し不安になっただけだよ。こんな大役務まるのかなって」
「大丈夫です。幸太郎様はその場にいらっしゃるだけで。あとは我々が幸太郎様の敵は全て殲滅してご覧に入れましょう」
エルはそう言って胸を張った。
「もっと不安になって来たんだが?!」
「あはは…」
ロビンは苦笑しているが目は全然笑ってないし、むしろ怯えていた。
「しかし、魔族か……」
この世界には様々な種族が存在する。
世界に一番広く分布しているのは人間だが、エルフ、ドワーフなどの人間の近親種も存在しておりそれらは人間種と呼ばれている。
そして人間種に敵対的な生命体はモンスターと呼ばれ恐れられている。
魔族はその意味ではモンスターの一種に分類される。
「そういえばなぜ魔族はモンスターに分類されているんだ?一応魔族も人間種扱いなんだろう?」
「魔族は人間と度々敵対して来たからですね。人間と同等の知性を持ち、人間より強靭な肉体を持つ魔族は人間にとって脅威以外の何者でもないという認識だそうで」
ロビンがスラスラと答える。人間のその認識については思うところはないわけではなさそうだが、あくまで中立的に答えてくれた。
「なるほどね」
もし彼らがエルフと同じく長寿で繁殖力が弱く数が少なくなければ、世界を支配していたのは彼らだっただろう。
「しかしそれを言ったら魔法に長けたエルフも同じ扱いされそうなんだが」
しかしエルフはモンスター扱いではない。
「エルフは温和で友好的な種族ですからね」
「エルフが温和だって?全然そうは思わないんだけど」
幸太郎は疑わしい目でエルを見つめる。
(あ、目をそらしやがった)
ついでロビンを見つめるとロビンは乾いた笑いを浮かべていた。
「み、皆が皆そういうわけではありませんので…それにイリス王国は妖精姫様がいる国ですよ?エルフをモンスター扱いしたら首が飛びます。あと魔族も温和な方はいらっしゃいますし。事実今代の魔王陛下は穏健派です」
「ということはロビンもそうなのか?」
「ええ、まあそうですね……」
ロビンは苦笑する。
幻術で大人になったロビンはまさに美青年という感じなので苦笑した姿もサマになる。
「なんか引っかかる言い方するね」
「まあ私はどちらかというと魔王派。魔王様のお心のままにというスタンスですので。魔王様が穏健派だから穏健派といったところです」
「なるほど」
そんな感じで幸太郎は主にロビンと魔族や魔王のことについて会話を続けていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数日後、一行は国境の町に到着した。
「ようこそお越しくださいました」
そこで地元の名士による歓迎をうけながら、各種物資や人員を調達する。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
いよいよ魔族の領域である魔界と人間界の境へと足を踏み入れることになった。
とはいえ特に何かあるわけではなく、普通に魔物の襲撃があり、それを護衛として随伴してる兵士たちが片付けたり、エルが片付けたりして特に問題なく進んでいく。
「お待ちしておりました」
そして荒野が目立ち始めた道を進み、魔族の使者がいるという王国軍の前線基地に到着した。
前線基地は周囲を近隣の森から伐採した丸太や木で作った塀で囲まれている。
そして塀の外は深い溝が掘られていた。溝の中には無数のスパイクが設置され、落ちたら大怪我は間違いないだろう。もっとも魔族は空飛ぶ者もいるので、それには無意味な代物だ。飛行系の魔物を警戒して、櫓には弓兵が多く配置されている。イリス王国は伝説的な弓姫である妖精姫を象徴に掲げるだけあって弓兵部隊が充実していた。
基地の前に着くと馬車が停止する。
「中を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
「はいどうぞ」
幸太郎が快く答える。
「失礼いたしま……」
確認のためドアを開けた兵士は目を見開き一点を凝視する。
「よ、妖精姫様!?」
流石に馬車の妖精姫の紋章を見て、それがエルの乗る馬車だと気づかない兵士はいない。しかし入ったドアのすぐそばに妖精姫が控えていたのは驚いて当然だろう。
本来なら、最も地位の高い者は、守りやすい一番奥にいるはずだからだ。代わりに奥には幸太郎が申し訳なさそうに座っている。
「ははぁ!」
兵士達が胸を当ててその場に膝をつき頭を垂れる。
イリス王国において最敬礼。
それを向けられたエルは涼しげな顔を崩さない。
「面をあげなさい。点検ご苦労。己が本分を果たしなさい」
「はっ!ありがき幸せ!」
エルは優雅に兵士達を労い、感動に打ち震える。確認作業は迅速に行われ、
「問題ありません。どうぞお通り下さい」
「あ、はい」
本当に確認したのか怪しいほどの迅速さで幸太郎の馬車は門を通される。多分ろくな確認をしてなかった。
そうして中に入ると、各所に天幕が張られている景色が見えた。所々に軍や貴族を示す紋章旗が飾られている。遠くには炊事をしているらしき煙も見えていた。金属のぶつかり合う音や野太い男の怒鳴り声が聞こえる。
やがて一際大きな天幕のすぐそばの広場に馬車はたどり着く。馬車に随伴してた兵士たちは、そこで馬車から荷物を降ろしたり、基地にいた兵士と情報のやり取りを始める。
「幸太郎様、妖精姫様、目的地に到着いたしました」
「わかりました。では幸太郎様」
馬車のドアが開かれて、従者であるロビンが先に降りる。
手を差し伸べると、エルが手を取って馬車を降りる。同時に一斉に鳴り響く金属音。おそらくは兵士たちが妖精姫に平伏した音だ。
(こういう人前に出るのって、い、胃が痛いなぁ)
幸太郎はそれを聞いて嘆息しながら馬車を降りようとするとエルが手を差し伸べていた。幸太郎はそれを手にとって馬車を降りる。兵士たちのかすかな動揺が伝わってくる。
「面をあげなさい」
兵士達の視線が幸太郎とエルに注がれる。視線に含まれるのは多くの尊敬、数多の感動、そして若干の疑問。
「この方こそ真の王よ…」
場はざわめきで満たされた。
(いきなり言われても戸惑うよね普通…)
エルは事あるごとにそう説明することは既に日常茶飯事であった。
そうする理由はエルが幸太郎の事をこうやって堂々と紹介するのが嬉しくてしょうがないからだ。
「……」
兵士たちの動揺は収まる気配を見せない。いきなり現れた幸太郎が伝説にうたわれる真の王だと言われてもピンとこないのだろう。エルはかすかに苛立ち、足で地面を蹴った。
「頭が高い!」
「は、ははぁ!」
兵士達は慌てて再度平伏した。
(なんでわざわざもう一度平伏させてるんだよ…)
「エル……」
幸太郎はエルを睨みつける。
「し、失礼しました!」
慌ててエルも跪く。ついでにロビンも跪き、慌てて他の貴族もそれに習った。
「妖精姫様が跪かれてるぞ……他の貴族まで」
「なんという……なんという……」
「まさか本当に?」
それを跪きながら盗み見てた兵士達に動揺が広がる。
「「ははぁ!」」
更に頭が深く下がった。
(違うそうじゃない!)
「お、面を上げなさい……」
幸太郎はなんとかそれを言うだけで精一杯だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなちょっとした出来事の後、
「遠路はるばるようこそお越しくださいました団長殿。私がこの基地の責任者であります前線指揮官のドズールスです。どうぞ宜しくお願い致します」
「ありがとうございます。使節団団長の幸太郎です。こちらこそよろしくお願い致します」
「はっ!立ち話もなんですのでどうぞこちらへお越しください。指揮所までご案内します」
出迎えにきてたドズールスに案内されて、幸太郎達は基地内を移動する。
「団長のお通りよ。控えなさい!」
「はっ!」
その途上でもエルは率先して、幸太郎が妖精姫の上位者、真の王であることを兵士たちに触れ回る。
お陰で幸太郎のことをエルの従者と勘違いする輩は皆無だ。仮に勘違いしたら矢が飛んでくるのだから命が惜しければ、勘違いしようがない。
(本当は全力で辞退したい立ち位置なんだけど、以前エルがそんな勘違いをしてた貴族を射殺しようとしたからもう何も言えない……)
流石に「目立ちたくないから」なんて羞恥心で人死にが出たら目覚めが悪いどころの話ではない。
そしてエルは幸太郎の目から見ても明らかに上機嫌だ。歩く足取りが軽やかだし、兵士たちの目がなければ飛び跳ねててもおかしくない。ここ最近は、こうやって幸太郎を主人だと堂々と喧伝できるのが嬉しくて嬉しくて仕方ないようだった。
(まあ、エルは楽しそうだから良いってことにしようか…うん)
「こちらが指揮所です」
ドズールスに案内されて到着したそこはこの前線基地の指揮所として使われている天幕だった。
中は薄暗いが、完全な暗闇ではない。
天井には魔法の灯りが灯されたランタンのようなものが下がっており、それが光源となって天幕の中を照らしている。
奥には巨大な木の板が立てかけられており、張られた周辺の地図には無数のメモや落書きが貼り付けられている。
中央に設置された木のテーブルにも同様に地図や書類の山が置かれており、様々な情報が集約されているのが見て取れた。
メガネをかけた幸太郎は、メモの一部に目をやる。
(戦況は膠着状態を維持…いい傾向だ)
真実写しは真実を写す。
そこには理解力を補助する効果も含まれており、流し読みで幸太郎は前線の状況が王都で聞いた報告と乖離してないことを知って安堵する。情報は正確に伝わらないことが多いからだ。その意味では王国軍は優秀とも言えた。
「どうぞおかけ下さい」
ドズールスに促されて、当たり前のように幸太郎は上座に座らせられる。
「改めまして、本日はこのような場所まで遠路はるばるようこそお越しくださいました」
ドズールスとの会談はまず挨拶から始まり、幹部達や重要人物達の紹介、この基地の現状、戦況な最近の懸念事項など多岐にわたる報告が行われた。
(ぜ、全部覚えきれん……)
それを幸太郎は真剣に聞き流し、代わりに王都の現状やクーデターの顛末、そしてエリザベスの伝言など必死に暗記してきたことを伝えて行く。
「ありがとうございます。王女殿下も皆の働きには深く感謝しております」
幸太郎はそう言ってチラリとエルを見つめる。
「大義である」
エルはそれだけ告げると、ドズールスは涙を流し始めたので幸太郎はギョッとする。
「妖精姫様にそのようなことをおっしゃっていただける日が来るとは……このドズールス、感に堪えない気持ちで御座います!」
そう言ってガチの男泣きを始めると、幹部達も貰い泣きしてわんわんと泣き始める。
兵士は勿論、前線指揮官のドズールスにとっても伝説の人物である妖精姫に労われるというのは、夢のような話であり、それだけで感謝に泣き咽ぶ事態だからだ。
(えぇ……これどうしたらいいの……)
そしてそんなことを知らない幸太郎はドン引きであり、男を泣き止ませるとかごめんだったので、何もせず泣き止むのを待つことにした。
「お恥ずかしいところをお見せしました……」
「いえ……」
ようやくドズールス達は泣き止んでくれたので、幸太郎達は本題に入る。
「ところで魔族の使者はもうこちらに?」
「はい。魔族の使者の方々は昨日こちらにお越しになりました。今は我々が用意した離れの天幕に滞在して頂いてます」
「そうですか。今日会うことはできますか」
「ええ、勿論です。ご案内いたします。おい」
ドズールスは近くに待機していた兵を呼びつけると、なにかを伝える。それを受けた兵は敬礼し、すぐさま天幕を出て行く。
「では参りましょう」
ドズールスに連れられて幸太郎達も天幕を出る。
「え?」
そして幸太郎は目を見開いた。
そこには完全武装の兵士が百人ほどその場に待機していたからだ。
「これは一体……?」
「護衛の兵達です」
ドズールスはそう答える。
「なぜこの数を?」
「魔族に会うからです」
ドズールスは真面目な顔でそう答えた。
それが答えだと言わんばかりに。
「…なるほど」
(つまりそれだけ魔族は恐れられているのね)
ここにいる魔族の使者は数人のはずだが、それくらい魔族は強いということでもあるのだろう。少なくとも100人は護衛がいるくらいには。
そしてドズールスは幸太郎がどれほど強いのか知らない。いやもしかしたら知ってるかもしれないが、しかしどう見ても普通の幸太郎を見ても実感わかないだろうと考える。幸太郎も好んで強さというか能力を見せびらかすつもりはない。
(まあエルは別だろうな。伝説にうたわれる妖精姫だし)
だが強いからといって貴人を危険にさらす臣下はいない。それは背信行為を疑われるからだ。故にこの対応は至極当然なのだろう。
「万が一の場合は我々が対処しますのでおさがり下さい」
「わかりました。よろしくお願い致します」
天幕は離れたところに設置されていた。
周りには物々しい警戒に包まれており、本来は外を見張る弓兵達も一部が天幕を監視している。
どう見ても使者に対する態度ではない。
いつ豹変しても対応できるようにといった雰囲気だ。
(ちょっと良くないなこれ。どうしたものか。……でも警戒するのは大事だよな。油断して死んだら元も子もないし、カード出しておくか)
幸太郎は息を吐き、カードを一枚取り出した。




