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魔族の使節と顔合わせ

 幸太郎は手札を確認する。


(相手は魔族だから魔族に対抗しやすいデッキにしたかったけど、今回は和平が目的だから魔族系ビーイング中心のデッキにしているんだよな。ならやはりコイツがいいかな?前に見たことあるし)


 幸太郎が一枚のカードに目を止める。

 それはマルゴッドの街で見たことある、ある悪魔のカードだった。


(確か魔王軍の魔物とか言ってたし。死んでる魔物なら間違って役割(ロール)外す心配ないし。というか別人?が呼ばれるはずだし。魔王軍にもいる悪魔なら、きっと友好関係の構築に役立つだろうし。あと悪魔が此方にいるなら魔王軍に対する王国軍の態度も軟化するかも)


 そんな狙いで幸太郎はカードを呼び出した。


 アンドレアス

 ビーイング

 アタック500

 ディフェンス900

 マナコスト9

 一撃、墓地-4で速攻を付与


 カードが弾け、幸太郎の目の前に闇が現れる。

 それを見た周囲の兵士たちは皆一様に動揺し、ざわめき出す。


「静まりなさい!これは幸太郎様の召喚魔法である!」


 その動揺を一瞬で沈めたのは、エルの雷鳴のような一喝だった。


「ははっ!」


 それを見た兵士たちは一瞬で直立し、エルの言葉通り動揺を収める。

 幸太郎の起こした召喚魔法を皆が眺める中で、その闇は結集し、一つの姿を形どる。


 そしてアンドレアスは具現化した。


「おお、これは……一度は御身に刃を向けた故に御身の使徒に滅せられたにも関わらず、御身に求められ、再びこうして生を与えられ、お仕えさせていただく機会を頂けるとは。このアンドレアス、元より全身全霊を賭けて御身に仕える所存でしたが、更なる忠誠をお誓い致しますぞ!!うおおおおおん」


 呼び出されたアンドレアスは滝のように涙を流しながら泣いていた。

 それを見た一同は皆ギョッとする。

 何しろ見た目は人間に近いが、頭から一対の角を生やし、コウモリのような翼を背負った大柄の悪魔が、幸太郎の足元に跪いて、感涙に咽び泣いているのだ。

 皆そその光景をどう解釈していいのか全くわからない。

 しかしその中で一番衝撃を受けていたのは実は幸太郎だった。


「刃を向けた……使徒に滅せられた……再び生を受けた……」


 その三つが幸太郎の頭の中で激しく増幅されていく。

 思い出すのはマルゴッドの街に落ちる落雷、攻めてくる魔王軍、そしてやってきた悪魔。


「まさか、君は、マルゴッド感謝祭の時のあの悪魔と同一人物なのか?」

「そうでございます!ああ!私は御身がそうであるとは知らなかったとはいえ、刃を向けあまつさえ弑逆し奉ろうとするとは、なんという事を……あああ……」


 そしてアンドレアスは再び地面に伏せ、雄叫びをあげながら地面を濡らして水たまりを形成していく。

 それを見た幸太郎はそこでようやくある新しい事実に気づいた。


(まさか死んだビーイングも召喚の対象になるなんて……)


 幸太郎は油断していた。

 ダグラスの乱であれだけ軍隊ビーイングを呼んだ時に、故人は一人もいなかったから、死んだ存在は呼ばれないと勝手に決めつけていた。

 でも実際はそうではなかった。

 それはこの瞬間に初めて明らかになった。


「あ、あ、アンドレアス様ぁ!?な、な、何故ここに!?いや、何故生きて!??」


 そしてアンドレアスを見たロビンもまた素っ頓狂な声を上げてしまうのだった。


「え?ロビンも知ってるの?」

「何を仰いますか幸太郎様!?アンドレアス様は、イリス王国と和平を進めるための特使を務めてた魔王軍の大幹部ですよ!ですが戦闘中行方不明に……実質死亡したと判断されてましたのに、何故ここに?」

「おお、そこにいるのは……いやそなたは妖精姫の従者殿か。それは我が愚かにも、御身に刃を向けたが故なのだ。それは我の自業自得なのだ。我はその代償として死を賜り、そして恩情により生を受けたのだ」

「これは一体どういう事ですか幸太郎様!?」

「それはこっちが聞きたいよ!」


 という事で、アンドレアスとロビンとエルと幸太郎は離れた所で互いの情報を整理することになった。


「なるほど太古の大量破壊兵器を巡った戦いの場で二人が対峙されたと……なんて事だ」


 全てを聞いて理解したロビンは頭を抱える。

 ロビンが知る限り幸太郎の戦闘力は強大だ。

 アンドレアスが瞬殺されたというのは信じ難かったが、幸太郎と対峙したなら、負けて死んだというのは、当たり前というかひどく納得できる話だった。

 そしてその後、シンパやエンシェントデストロイヤーによってマルゴッドの街に対する徹底的な間諜の排除が行われたので、魔族側にはアンドレアスの末路や幸太郎に関する情報は全く入ってきてなかった。

 そしてなし崩しに、ロビンは幸太郎が、召喚魔法だけでなく幻の復活魔法(リヴァイブスペル)まで獲得しており、あまつさえ蘇生した人物を使役することすら可能と知った。

 カードの事を知られたくない幸太郎が咄嗟に作った言い訳がそれだった。


(でもなんで幸太郎様は最初そのことを知らないようなそぶりを……いや、これだけ強大な力を実は把握しきれてない?幸太郎様はリズ様の事を師匠と呼んでいたし、実はこれでまだ修行中だとか……もしそうだとしたら、なんなんだこの人は……)


 只でさえ高かったロビンの幸太郎に対する警戒ゲージは天元突破して止まるところを知らない。

 同時に未だその実力を知らないリズに対してもロビンの警戒心が跳ね上がるのは完全にリズにとってとばっちりだろう。


(この人達は絶対に敵に回すべきでない僕の判断は間違いではなかった!妖精姫様もアンドレアス様も従えるとか前代未聞だ。なんでこんな人が今まで無名だったんだ……)


「アンドレアスが実は裏で和平工作をしていた魔王軍の重要人物だったって……なんて事だ」


 一方、幸太郎もロビンと同じように頭を抱えていた。

 当初はそんなこと知る由もない幸太郎は何も考えずにアンドレアスを瞬殺してしまった。

 あとから聞けば、アンドレアスの目的もまたエンシェントデストロイヤーの無力化だったのだ。ならば、しっかりと話し合って目的を確認しておけば、戦闘を回避する道もあったかもしれない。

 なのに幸太郎は命惜しさにその道を速攻で潰したことになる。

 その結果は間接的に、ダグラスの乱や、魔王軍の侵攻未遂に繋がっていたのだ。


(あれ?これも全部自分が悪いのじゃ……)


 やらかしが酷すぎて、ちょっと色々擁護できないレベルに来ていることにようやく気付いた。


「な、なんて事を……俺のせいで、人がたくさん死……」

「御身は悪くありません!」

「そうです幸太郎様!元を正せば、悪いのは全てバカ兄のダグラスです。幸太郎様もアンドレアス様もわからない中で最善を尽くしたにすぎません!」

「その通りです!幸太郎様が悪いことなんてこの世に一つもありません!悪いのは幸太郎様が真の王である事を知らなかった愚かな悪魔にあります」

「その通りです!全ての責はこのアンドレアスに!どうか。どうかぁ!」

「うえぇ??」


 幸太郎が自責にかられそうになるとビーイング達からの怒涛のラッシュで全否定された。


「この上は!自らの命で、御身の心の曇りを晴らしましょうぞ!」

「やめてぇ!折角、生き返ったのに命を無駄にしないでえぇ!!」


 終いには、アンドレアスが責任を取って自殺するとか言い始めたので、幸太郎は全力でそれを止めなければいけなかった。


「と言うわけで、この方は元魔王軍で特使を勤められていましたアンドレアス様です。実はある事情で大怪我をされており、長年床に伏せておりましたが、今回の和平交渉にあたり、幸太郎様の助力の元こうして召喚に応じ遠方から馳せ参じた次第です」

「はあ……」


 再び魔王軍の特使の居る天幕の前に戻った一同は、同行した使節団の一員である貴族やドズールスにそう説明した。

 あの時ロビンが混乱したのは、呼ばれたのがアンドレアスと知らなかったから。

 幸太郎が混乱したのはアンドレアスを呼び出すまで、特使である事を知らなかったから。

 幸太郎に呼び出しを求めたのは、アンドレアスのことをよく知るエルだった。

 そんな感じの話をでっち上げて、ロビンは見事それを誤魔化し切って見せた。


(正直、ここにリズがいなくてよかった……いたら召喚魔法と転移魔法の違いを指摘されて面倒なことになりかねない)


 どちらも性質としては似た側面があるから、魔法によほど詳しくないと明確な違いはわからないそうだが、リズは当然その違いを熟知している。

 だからもしここに居たら、そのことを騒がれておかしくなかった。


「では幸太郎様、フェリア様、少々お待ちを。私が今の特使と話をつけてきますゆえ」


 そんなことを言って、アンドレアスは天幕のうちに入っていくと、天幕の内から悲鳴やざわめきが聞こえてきた。

 それはしばらくの間続いていたが、段々と止んで行き、静かになってからしばらくした頃になると、アンドレアスが一人で外に出てきた。


「幸太郎様、フェリア様、お待たせいたしました。準備が整いましたので、どうぞお入りください」


 アンドレアスの案内に従って、幸太郎、エル、ロビン、ドズールスなどの士官、そして使節団の貴族達が天幕のうちに入っていく。

 そこに居たのは大小様々な魔族の姿だった。

 主として人間形態の魔族が多いが、中には背丈が3メートルを越しそうな巨漢が狭そうに座っていた。そしてテーブルの中央には、妖精のように小柄な女性が、コップをひっくり返してその上に腰掛けていた。


「こちらが先ほどご説明しました今回イリス王国側より派遣されました全権特使の幸太郎様で御座います」


 アンドレアスがそう説明すると魔族達の視線が幸太郎に集中する。

 そこに含まれるのは、おそらくは懐疑だろうと幸太郎は推測する。


(こんな若造が、とか、これが全権特使?とか思ってるんだろうなきっと……自分が一番そう思ってるけど)


 とはいえ、責任ある立場を任されたならそれなりの態度で臨まないといけないのは幸太郎にだってわかるので、幸太郎は努めて笑顔を心掛ける。


「初めまして、幸太郎と申します。こうして皆様にお会いできることを楽しみにしておりました。どうぞよろしくお願いします」


 幸太郎がそうして一礼すると、魔族達の視線がふと柔らかくなる。


「これはこれは。挨拶が遅れまして失礼をば。私は魔王様より今回の和平会議の開催場所である魔王城までの案内を申しつけられました者の代表である妖精族のアリーと申します。どうぞよろしくお願いします」


 コップから羽を広げて飛び上がった小柄な妖精が幸太郎の目の前まで飛び上がり、小さな手を差し出してくる。


(え?代表ってこの妖精少女なの?マジか……いや、偏見はいけないよな。ここは友好的に行かないと)


 その事実に幸太郎は驚きながらも、幸太郎もまた手を差し出す。

 しかし妖精のアリーと幸太郎では当然大きさが違いすぎる。


(ああ、そうなるよねー)


 アリーと幸太郎がそれぞれの手を見て、そのことに気付き、互いに苦笑した後、幸太郎は人差し指を一本だけ出すと、アリーはそれを両手で掴む事で握手を交わす。

 指先に仄かな温かみを感じると相手も血の通った生き物なんだという安心感が生まれる。


(握手をするってだけだけどバカにできないな。これが出来るだけで安心感が違う)


 それを見ていた他の魔族や軍人達も明らかに緊張を解いていた。

 幸太郎はこの和平交渉は上手くいくかもしれないという予感を抱いていた。


「なるほど、アンドレアス殿は、大怪我をされて幸太郎様の庇護下にいたと」

「ええ、ろくに動くことも口を聞くこともできない厄介な状態(・・)におかれましてな。ようやっと復帰することができた次第です。魔王様には連絡すら出来ずで、叱責は覚悟の上です……」


 アンドレアスは戦闘後、幸太郎に保護されていたことになった。

 それが一番いろんな意味で矛盾がない。


「いえいえ!魔王様ならばアンドレアス殿の無事を喜びこそすれ、叱責などとんでもない」

「ええ、これで魔王様に喜ばしい報告が一つ増えたというものです」

「戦争では敵として相対したなら殺されても文句は言えないと言いますのに、敵対したアンドレアス殿の助命をしてくださった上に、怪我が完治するまで保護して下さった幸太郎様には感謝の言葉もございません」

「いえ、そんな……確かに戦闘中であればそうでしょうが、決着がつけばその命を助けるのは当然のことです」

「なんという……魔族と見れば即座に殺そうとする野蛮、失礼……人間の中にこのような慈悲深い人物がいたとは……認識を改めなければいけませんな」

「我々も魔族は力至上主義で、決闘で物事を決める習慣があるから話し合いなど到底無理と思ってましたが、こんなに理知的な方々だったとは。認識を改めないといけませんな」


 アンドレアスが加わった事で顔合わせは驚くほど順調に進んだ。

 魔族達の幸太郎に対する印象は同胞を助けた恩人のそれであり、また恩人に対する感謝の気持ちを忘れないという姿勢は、人間側の方にも衝撃を与え、誤解を解くキッカケになった。


(これは絶対に言えない。実はアンドレアスを一度ぶっ殺しておいて、同じカードを召喚したら偶々ご本人でしたなんて……)


 しかもアンドレアスは魔王に敬意こそ払っているが忠誠心はもうないだろう。それらは全て幸太郎に向けられている。


「ええ、まあ」


 だから幸太郎は乾いた笑顔を浮かべるしかなかった。



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