↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
62/67

王都の休日5

 リズの起こしたぼや騒ぎによって騎士達が駆け寄ってくるのを目撃した幸太郎は即座に離脱することを選択した。


「キュポ」


 意を汲んだオクタスが触手で幸太郎とエルを掴むと頭の上に乗せる。


「ちょっと!私も頭の上に乗せなさいよー」


 しかしリズだけは相変わらず触手に捕まったままだった。

 騒ぐリズをよそにオクタスは上昇を開始する。

 するとそれに合わせるかのようにオクタスの表皮に変化が生じる。

 オクタスは表皮の色を空と同じ色に変化させて、景色に溶け込むように同化させて行く。

 そしてオクタスの巨体は空と一体化する。


 騎士が駆けつける頃には、騎士達は慌てたように辺りを見渡すが、空に浮かんでいるオクタスに気づくことはなかった。


「取り敢えずは屋敷に向かおうか。色々話が聞きたいし」

「な…ん…と」


 それはつまりデートの中止を意味する。

 知り合いがぼや騒ぎを起こしたのだからその判断は至極当然だが、それを知ったエルは驚愕に呻くとその張本人たるリズに絶対零度の殺気を浴びせた。


「ひ…」


 リズはそれを受けて、体をすくませる。

 エルが弓を持っていたら間違いなく撃たれていたと確信させるほどの殺気であった。

 いや、屋敷に帰ったらエルは間違いなくリズに襲撃をかけるだろうとリズは確信した。


「だからエル。中途半端になったし今度は別の日に朝からどこか行こうか。いいレストラン見つけたからそこに行って買い物でもして…どうしたの?」

「いえ何でもありません」

「そ、そう?」


 それを収めたのは幸太郎であった。

 幸太郎のその一言でエルの殺気は瞬時に止んだ。

 それどころか耳をピクピクさせながら歓喜を隠し切れてない。

 幸太郎は若干挙動不審気味にエルから顔を逸らす。


(た、助かった)


 リズは命拾いしたことを知った。


(エルに狙われたら逃げ切ることなんて無理…あ)


 リズは機嫌が直ってもなお冷たい視線を向けるエルと目があった。


(あわわ、これ帰ったら殺されないにしても半殺しにされそう…)


 リズは屋敷に帰った後に待つだろう出来事に不安を隠し切れなかった。



 一方幸太郎もエルの殺気が消えたことに安堵していた。


(し、死ぬかと思った)


 幸太郎の全身から汗が噴き出す。

 エルが放った殺気は、その余波ですら幸太郎を怯えさせていた。


(なにあの殺気…デート中止というだけであんなに怒るの??また後日仕切り直そうと言わなかったら撃たれていたかもしれない)


 実際はその殺気は邪魔をしたリズに向けられたものだが、それを感じた幸太郎は自分に向けられたものだと勘違いした。

 結果として慌てて仕切り直しを告げた。

 そしてそれはエルの機嫌を回復させるには充分だったようだった。


(そして仕切り直しでこれだけ機嫌が良くなるなんて、前々から何となく思ってたことだけどエルって表情乏しいのに感情は激しいんだよな。ポーカーフェイスと言えばそれまでなんだけど…)


 デートはエルが言い出したことであり、幸太郎はそれに付き合っている感じだ。

 それを今度は幸太郎が中途半端に終わったことを名目に、とはいえ次のデートを誘ったことに気づかぬまま幸太郎は一路屋敷の方に目を向けていた。



 またエルにとっては幸太郎が自分に気を使って、次のデートを提案してくれたことが、天からの祝福そのものだった。


(幸太郎様がまたデートを。しかも次はもっといいところに?まあ)


 そう顔は冷静そのもので耳をピクピクさせたまま歓喜に打ち震える。

 ただし、やはりデートを邪魔したリズに対して冷たい視線を向けることは忘れていない。


(この邪魔者には人の逢瀬を邪魔すればどうなるか体に教えないといけませんね。次の逢瀬はどうしましょうか)


 エルは次のデートに想いを馳せながら、リズを調教する本法を考えていた。



 屋敷に戻ると、エルはリズを連れて何処かに行った。


「ちょっとリズとお話をしてきます」

「幸太郎…」

「うん、行ってらっしゃい」

「幸太郎ー!」


 リスが救いを求めるように幸太郎を見るが、エルの恐ろしさとリズのしでかした不始末を鑑みてエルに任せるのが一番だろう。

 リズへの判決はそう幸太郎の脳内で満場一致で可決した。

 エルなら上手くやるだろうし、エルの残る不満も解消される。

 リズも火遊びするようなアホな真似しなくなるだろうし、ついでに自分が手を汚すこともない。

 そう判断した以上、幸太郎に迷う理由はなかった。


「頑張れ」

「幸太郎ーーーー」


 文字通りエルに引きずられていくリズを手を振って見送ると、幸太郎は屋敷の自室に赴く。

 この屋敷は爵位を得た記念としてエリザベスから直々に与えられた。

 王都でも有数の大きさを誇る立派な屋敷であった。

 どのくらい立派かというと、屋敷の格は家の格と言われている王国貴族において、公爵が住むに値する程度には立派である。

 当然、男爵程度が女王直々にそんな立派な屋敷を下賜されるなど前代未聞である。

 とはいえ、幸太郎がある意味特別な存在であることは貴族達には公然の秘密となりつつある。

 貴族達にとって貴族位というのは相続させることのできる特権だが決して安泰のものではない。

 功績を残せば昇格もあるが、失態を犯せば当然降格もあり得るものだ。

 もっとも貴族が降格する程の失態を犯したら降格するより先にお家潰しになることが圧倒的に多いので、降格処分を下されることはあんまりない。

 それは妖精姫が実力主義に則って庶子だろうと何だろうと王の血族であればあとは実力で王を定めてきたことによって醸成された文化であり、結果として貴族の腐敗を防ぐ要因の一つとなっている。

 だから今でも貴族は戦場に出るのを当然としているし、安定しない位より実際の実力や財力をその家の格の基準としていたりする。


「要するに男爵なんて名ばかりだぞ、と」


 幸太郎が思い出したのは、会社に一緒に新卒として入ってきた社長の息子だ。

 肩書きはまぎれもない平社員だったが、課長も部長も御曹司たる彼を平社員として扱うことは決してなかった。

 最近はそういうことをすると社員の士気が下がるからか、御曹司は武者修行も兼ねて外の会社に就職させることが多いらしいので、そういう意味でも後継者候補が新卒とし入ってくるのは珍しかったりする。


(まあそいつは実際かなり有能だったから、あんまり不満も出なかったけど)


 もしあの特別待遇で結果は大したことないとなった日には確かに新卒の不満は相当なものだっただろう。

 そうならずに中途社員並みの即戦力として活動する彼は、なるほど外に武者修行させずに入れさせただけのことはあった。

 世話になったことのある身としては、彼自身に不満はない。


「問題は自分が彼と同じような立場におかれたことなんだよなあ…」


 つまりは期待されてる優遇されてる。

 当然幸太郎はそれに応えないといけないのだ。

 いきなり公爵なんてことになったら、それはつまり役員待遇で迎えられることに等しく、それを嫌って幸太郎は男爵という貴族の最下級、つまりは新卒入社的な待遇を望んだが、そうは問屋が卸さなかった。

 これまでの貴族達の幸太郎に対する扱いは明らかに役員が約束された御曹司に対する優遇のソレ。

 つまりはゴマすりばかりだったのだ。

 幸太郎よりはるか年上のそれも名だたる地位を持つはずの貴族達が、だ。


「勘弁してほしいよ…そんな資格なんてないのに…宝くじに当たっただけの人間に社長を任せようとする会社がどこにあるというんだ…フィリピンパブじゃねーぞ」


 金があれば皆シャチョーさんというわけにはいかないのだ。


「はあ…」


 侮ってもらえるくらいで丁度良かったのに、上手くいかなかった結果として幸太郎はため息をつく羽目になっている。


 部屋に戻った幸太郎はそこに魔法協会(スペルギルド)で購入した巻物(スクロール)の束を見つける。

 それはビーイング達によって運び込まれたものであり、それの一つを幸太郎は手に持った。


「まあ、とりあえず目的のものは手に入れたし、せっかくだから試してみるか…我は契約を重んじる者なり…」


 幸太郎が唱え始めたのはリズから教わった召喚獣(ビーイング)と契約を行うための呪文(スペル)である。

 その詳細はリズ達召喚士の秘伝とされ、他のものに伝えることはリズからも禁止されている。

 その呪文を唱えながら魔力(マナ)を練りこむことで呪文に力を持たせて行く。


「…魔の理に従い我に従属せよ」


 そうして魔力(マナ)を練りこまれた呪文は力を持ち魔法(スペル)となる。

 長々と唱えた結果としてそれは一つの魔法を発現させる。

 それは手に持った巻物(スクロール)が幸太郎の体内に吸い込まれるという形で現れた。


「契約は完了した」


 そしてその一言をきっかけに一つのカードが具現化する。


 砂糖生成

 スペル

 マナコスト1

 砂糖を500グラム生成する。


「よし!成功した」


 それは魔法と契約することで、その魔法を習得してないものも魔法を回数限定で使えるようになる世界初の魔法概念を幸太郎が生み出した瞬間であった。




「魔法と契約するですって?そんなの聞いたことも見たこともないわ…」


 やややつれた感じで戻ってきたリズに対してそのことを説明した時は、信じられないような顔をしていた。


「でも、それは盲点だった…」


 だが、リズは魔法を扱うものだけあって聡明であり、幸太郎の説明を軽く聞いた時点で、それができる可能性に思い至っていた。


「確かに魔法を封じた巻物(スクロール)ならば、実体もあるから契約は出来なくもない。本来なら誰かが気づいてもおかしくなかったけど…いや、里には巻物(スクロール)生成ノウハウはなかったし、逆に街には契約の秘法は伝わってないから、今まで誰も思いつかなかったのね。さすがは幸太郎ね」

「いや…」


 そうリズに褒められる幸太郎も、カードにされている魔法(スペル)という概念を知ってなければやってみようとは思いもしなかった。

 リズは契約の秘法を魔物を召喚獣にするためだと教えられてきたらしいし、それに全く疑問を持ってなかったので、それを使うことで魔物をカード化したことのある幸太郎は「魔物をカード化できるなら魔法もカード化できるのでは?」と思い至ったのだ。

 それで当初はビーイング達に魔法を使ってもらったが、魔法を維持できなかったりして上手くいかなかったので、今度は魔法が封じられたアイテムであればと思い至り、巻物(スクロール)に目をつけた。


「これを使えば今まで大量のスクロールを持ち運んでたのを省略できる。これは限られた装備しか持ち運べない冒険者にはかなり大きなメリットね。問題は契約の秘法は門外不出な件だけど…」

「まあ意図的に広めるつもりはないからねこれ」


 幸太郎は魔法(スペル)を消費するばかりで補充する手段がないことを憂いてこの手法を思いついた。

 これを広めるつもりは今の所なかった。


「でもこれを広めたら冒険者の中には助かる人も出るかもしれない。契約の秘法は無理でも簡略化した魔法専用の契約の呪文ならあるいは…」

「うん、まあその辺はリズに任せるよ」


 門外不出の秘法をばらすことなくこの新技術を広めるための何かのアイデアを思いついたらしいリズに幸太郎は一任することにする。

 元の世界なら新しく思いついたアイデアは特許申請して利益にすべきかもしれないが、特許なんてものはこの国に無いだろうし、それにいろんな結果として金銭的には余裕ができている幸太郎はリズが冒険者の命が助かると言っている以上、助かる人がいるならその人に教えてあげるべきだという考えを持っていた。


(人助けをする上で余裕って大事だよな)


 ここ最近は特に働きづめだった幸太郎はそう思う。

 王都に来たら叙勲して終わりだと思ったら、よくわからないうちに暗殺があって王女を助ける羽目になり、面倒だからばっくれようと思ったらエルのせいで逃げ道がなくなり、挙句に国の指導者候補に格上げされ、爵位が与えられることに全力で抵抗したのに結局最下位とはいえ与えられることになり、その爵位には領地が必要とかで聞いたことも見たこともない領地をエリザベスから下賜されたり、どさくさで広大な土地を爵位格上げ工作の為に与えれると知り、領地の面積とかとか管理方法とかで大揉めしたり、そういう面倒というか荷が重すぎてやりたくないことを全力で丸投げするように働きかけることが出来たと思ったら、挨拶に来た貴族達と交流することで本当に暇がなくようやく自分のしたい用事ができる暇ができた。

 つまりようやくの休日であり、魔法のカード化を試みるための巻物(スクロール)の調達や神経削るようなエルとのデートやリズの不始末の為の逃走を経て、カード化の実験に成功してようやく一息をつけることができた。


「あれ、なんか思ってた休日と違う!?」


 こうして幸太郎はあんまり疲れの取れない休日を過ごしたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。