王都の休日4
リズは魔法使いである。
「ふむふむ、確かにこの街にはいたと」
しかも、一般的には幻といわれる召喚魔法の使い手であった。
「しかし数ヶ月前から記録はない」
召喚魔法の使い手達は特徴があった。
「名前は偽名みたいだけどツノが生えているなら間違いなさそう」
それは額にツノが生えているという特徴である。
そしてそのツノには膨大な魔力が込められている。
その身体的特徴と召喚魔法故に迫害されたり利用されたりあるいは狩られたりして、隠れ里で暮らしてきたという歴史を持つ。
「彼が里の誰かわからないけど、接触できれば、そこから他の同胞にも連絡取ることもできるかもしれない。けど」
しかし里は壊滅的な打撃を受ける。
里に撒かれた毒ガスによって里にいた召喚士達は全滅、そのツノを全て奪われるという事件が発生したのだ。
「それ以外の手がかりは今の所ないのよね…」
旅の最中で難を逃れたリズは幸太郎と出会い、結果として仇を討って仲間のツノを取り戻すことに成功した。
リズはお礼として幸太郎を鍛え上げ、そして今はリズと同じく旅に出ていた為に難を逃れたであろう他の同胞を探して幸太郎の旅に同行していた。
そして最初にたどり着いた王都で手がかりを探したところ早速同胞らしき存在の足跡を冒険者組合で見つけた。
「予定が狂ったわ。ここならすぐに同胞に再会できると思ったけど、数ヶ月前の情報しかなくて、しかも本人はもう王都にいないなんて」
タイミング的に幸太郎達が修行している間に、同胞の誰かは王都に滞在しており、その後どこかに向かったようだった。
「やっぱり里の壊滅を冒険者組合に広く流しておけばよかったのかな?でもそれを行っても同胞は罠を警戒するかもしれないし、里の壊滅の情報は回り回って残った同胞に災いとして降りかかる可能性もあるし…」
召喚士にとって里の存在は旅における精神的な支えだ。
また召喚魔法は周辺諸侯にとって軍事的脅威であり、召喚士に手を出せば里の召喚士達が黙っていない。
実際、旅に出ていた召喚士が殺害された場合は里を上げて報復したこともある。
召喚士に手を出したら必ず報復される。
そういう強固な結束があるからこそ召喚士達は比較的安全に、万が一のことがあってもあとは仲間がなんとかしてくれると思えば旅ができる。
もし、召喚士の里が壊滅したなんてしれたら、良からぬものがツノと召喚魔法の秘密を狙って、旅に出ている同胞を狙うことは十分に考えられた。
「もちろんそんなのにやられるような柔な連中じゃないのはわかっているんだけど…数で攻められたらどうしようもないことはあるものね。それに犯人の残党の懸念もあるし」
それに里を壊滅に追い込んだ存在が単独犯ではなく組織的な存在である可能性という問題もある。
その場合、里の壊滅という情報が流れることでその組織がどう動くのか全く予想できない。
今の所、公には里を襲撃した犯人はマルゴッドの街でエンシェントデストロイヤーに潰されたという情報のみが広く公開されており、里の情報などは意図的に伏せられている。
その結果として、向こうは里が健在と誤解しているのか今の所は新たな事件は発生してない。
「もちろん単独犯で杞憂の可能性もあるけど、最悪のケースを考えおくべきよね」
その場合は、リズはその組織を徹底的に叩き潰すと心に決めている。
そしてそう決めているからこそ、里の壊滅という事実を知っているリズは、生き残りの同胞を早く見つけ出して、そのことを伝えなければならないとも考えている。
それは決して復讐心からではない。
それが自分たちの身を守るためには必要なことであり、仲間の死を弔うという観点からもそれを必要と考えているからであった。
「幸太郎には本当に感謝しても仕切れない。同胞のツノを取り戻すだけでなく下手人に天誅を下してくれた。でもこれ以上甘えるの訳にはいかないもの」
リズは幸太郎に感謝している。
それは生き残ってる同胞達も絶対に同意するだろうと確信している。
幸太郎がいなければリズは今このような穏やかな気分で同胞探しなんて、きっとできてなかっただろう。
「早く見つけて同胞に幸太郎を紹介したいし」
それだけでなく幸太郎は稀代の召喚魔法の才能を持っている。
鍛え上げれば歴史に名を残す術士になれるとリズは考えていた。
だからこそ全てを伝授したし、こうして同胞に会わせる意味もあって為に行動を共にしていた。
会わせてどうするのかは決まっている。
「幸太郎には里の一員になってもらわないとね」
召喚士の秘儀を伝授したのも全ては、幸太郎を一人前の召喚術士にすることで、里の仲間として他のものに認めてもらい里に迎え入れる為だ。
「里の外にいるであろう同胞達。全員が健在なら里の再興はきっとなる。もしそこに幸太郎がいれば、もっと素晴らしい未来が開けるはずだわ!」
その時には幸太郎は里の誰かと結婚することになるだろう。
ただ幸太郎は爵位持ちになった。
しかも話によれば将来のイリス王国の指導者候補でもあるらしい。
しかしその割には爵位は男爵だから最下位なのだが、それは幸太郎がそう望んだから、らしい。
幸太郎は時折側から見ていても意味不明なほどに褒美や栄誉を固辞する傾向にある。
最近わかったのは本人は生まれつき持っている召喚魔法を自分の力ではないと信じているらしきことだ。
リズはそれも意味不明に思っていた。
「そんなこと言ったら才能も自分の力で無くなるというのに…そんなことより問題は身分よね」
つまりは幸太郎は相当身分の高くなることが約束された貴族な訳で、そうなると里としてもそれなりの立場のものを用意しないといけない。
結婚するなら里の中でも位の高いものが優先されるだろう。その場合は…
「やだ、私ったら何を」
そう言ってリズは顔を赤らめる。
その素晴らしい未来を想像、あるいは妄想してから、イヤイヤするように顔をふる。
往来でそうやって身をよじる少女を見た人々はある人は怪訝な顔をして、ある夫婦は察したかのように微笑ましい顔をして通り過ぎて行く。
「はっ。いけないいけない」
あわててリズはブンブンと顔をふる。
想像力が魔力と混じって具現化する気配を感じたからだ。
魔法を行使するの必要なのは感情や想像力などの心の力、そして魔力であり、魔法使いが無駄に想像力を膨らませるとそれは時として思いも寄らぬ現象を発生させる。
それが単に自分の体から炎や風や水しぶきが出たりするならまだいい方で、悪ければ被害は自分だけでは済まなくなる。
リズは先天的に想像力が魔力と直結しやすい体質で、その結果として自然現象に干渉するほどの豊かな感情表現や身体能力の向上が見られることがあったりする。
その結果というわけでは無いだろうが、今日は快晴であった。
つまりはいい散歩日和でもある。
ずれた三角帽子を直して、リズは再び歩き始める。
「そろそろお昼ね。せっかくだし、今日は公園で食べようかしら」
だからその思いつきもほんの気まぐれであった。
元々閉鎖的な環境で育ってきたリズにとっては食堂で人混みに紛れて食べることは抵抗があったのもそれを加速する。
とはいえそれはとてもいいアイデアのように思えた。
そうしてリズは適当な屋台で昼食を調達すると、公園に到着した。
「さて、どこで食べようかな…あら?」
そしてリズはそこに見知った人影を見つけたのだった。
「…え?ええ!」
リズは大きな声をあげそうになってとっさに手で口を閉じる。
そしてすぐそばの木陰に移動する。
「今日は魔法協会に行ってるんじゃなかったの?!夕飯まで帰れないって…なんでこんなところでのんびり昼飯なんて…ま、まさかデートなの!?逢引なの!!」
木陰に隠れたリズはそこで2人を監視し始める。
それを他の人は奇異の目で見つめて通り過ぎる。
リズから見た2人は穏やかそうに過ごしていた。
時折楽しそうに言葉を交わしている。
「ぐぬぬ。私が同胞探しで駆け回っている時にあの2人は!」
それは幸太郎からすれば理不尽な物言いだろう。
幸太郎は手伝いを申し出て、しかしリズは断っていたのだから。
だが、リズはそんなことは関係なしに2人が仲良くしてることが妙に気に食わなかった。
「特に幸太郎!私があれだけ世話をしたのにあんなデレデレしちゃって!相手がエルじゃなかったらすぐに制裁するのに!!」
リズはエルが苦手だ。
出会った当初のように怯えることはなくなったが、それでもエルはもしリズが無意味に幸太郎を害そうとすれば躊躇なく撃ち殺されるだろうという確信がある。
それをされてないのはリズが真摯に幸太郎に接しているからだとも。
エルは幸太郎を自身よりも上に置いている。
その理由はかつてはよくわからなかったが、先日リズも理解することになった。
「エルも幸太郎がエルの主人なら主従の分別くらいきちっとつけなさいよ!」
ついでにエルも相当身分が高いらしい事を理解したが、それは取り敢えず無視することにした。
エルはそれに執着してないし、逆にそれを気にしてほしくない節がある。
幸太郎も同様である。
エルの場合は、それに幸太郎が侮られない限りという条件が付く。
だからこそリズにとっては幸太郎は弟子であり、エルは幸太郎の部下であると考えて扱うことにしている。
幸太郎はリズに弱い。
エルは幸太郎に弱い。
リズはエルに弱い。
そんな感じて三者はバランスよく関係を保っている。
少なくともリズはそう思っており、実際修行中はそれぞれの暴走を立場の強い方が抑えることも多かった。
そういう背景があるから、リズの場合は2人が問題を起こしたら矛先は幸太郎に向きやすい。
リズは幸太郎に好意を抱いている。
だが本人はそれを自覚してない。
そして自覚してない感情は本人も制御できない。
必然として、リズはの感情は本人も知らぬ間に自然とエスカレートしていく。
感情は魔法の源である。
魔力はその性質上、心の動きに敏感に反応する。
この二つが組み合わさると何が起こるか?
ボシュッ!
リズの中にほとばしる感情はリズの制御限界を超えてしまい魔力と結びつく。
そしてそれは魔法として発現してしまった。
嫉妬の炎
スペル
マナコスト1
敵味方を含むランダムな対象一体に100ダメージ
「あ、え?…きゃああああ!!」
リズの頭上から炎が噴き出す。
それはリズが木陰にいた為に必然的に頭上の木に直撃する。
そして嫉妬の炎は盛大に木を燃やし始めた。
「火事だああ!」
「逃げろ!!」
公園にいた人は一瞬でパニックになる。
公園にはたくさんの木々(かねんぶつ)があり、それが広がれば、やがて隣接する建物にも火が移るのは想像に難くない。
火の恐ろしさを知ってる人々は、命を、そして家の財産を守る為にも早急にその場を離れなければいけなかった。
「え?え?えええ!!??」
ただリズはその場で混乱し呆けて尻餅をついてしまう。
リスからすれば突然魔力が暴走して炎が出現したのだからある意味当たり前ではあった。
「なんで?いきなり魔力が暴走するなんて」
魔術士にとって魔力の暴走は未熟の証。
一人前を自負するリズにとっては意図せず魔力の暴走を起こしたことは自身が未熟だと証明したようなもので、その意味でも衝撃的な出来事だった。
「ど、どうしよう?火を消さないと…」
だが今はそんなことを考えている暇はない。
リズは慌てて火を消す為に行動を開始しようとする。
「あ、でも私水系の魔法覚えてない。どうしたら…」
まさにオロオロといった擬音が似合うほどにひどく狼狽した彼女を救ったのは、リズが監視していた男女の片割れであった。
「ぱきゅっ」
そんな間抜けな音ともに燃え上がっていた炎は唐突に消え失せる。
少なくともリズにはそう見えた。
何しろ文字通り燃える木が消失したのだから。
「へ?きゃあ!」
リズが事態を理解する前に、何者かに体を拘束される。
「なに!なんなの!?」
上下は反転し、リズの体は宙に浮いたまま固定される。
「一体なにをしているのさ…」
そしてそんなリズを幸太郎は呆れたように見つめていた。
「幸太郎!これは違うのよ!なんか訳わからないのに拘束されてて…」
「それは知ってる。自分が聞いたのはあんなに燃え盛る木のそばで一体何してたのか?ってことなんだけど…」
「あ!そう!それよそれ!早く消火しないと…あれ?」
そこで宙ぶらりんのまま、くるりと反転させられたリズはその燃え盛る木が跡形もなく消えていることにようやく気がついた。
「あれぇ?」
まるで狐につままれたような顔をしているリズの前で、それを行なった張本人が姿をあらわす。
「もきゅもきゅ」
景色が歪み、視界が緑色の巨大な何かに覆われる。
それに合わせてリズを拘束していた不可視の何かも姿をあらわす。
それは緑色の巨大な触手だった。
そして浮かび上がったのは、オクタスと呼ばれる、何もかもを喰らい尽くす巨大な空飛ぶ緑のタコであった。
「お、オクタスだったの!ほっ…あなたねぇ…離しなさいよ!」
「もきゅ?」
オクタスは燃える木を丸ごと体内に取り込んで咀嚼している最中だった。
彼が丸ごと飲み込んだので、火はすでに消化済み、もとい消火済みである。(もっともオクタスはその程度あれば、消火出来てなくても火傷すらしない)
リズがそんなオクタスに対して拘束を解くように要求するが。
「もきゅ!」
「え?ちょ、ま、うひゃひゃ、やら、やめてぇ」
突然触手が蠢き出してリズの脇腹をくすぐり始めた。
たまらず身を悶えるリズ。
「もっきゅもっきゅもっきゅ」
「あは、あははは、やめ、ほんとにやめて」
リズの懇願を御構い無しにオクタスはリズをくすぐり続けるのだった。




