王都の休日3
二人の世界を脱出した後(正確にはロビンが二歳児らしからぬワザとらしい咳によって解呪した)、ロビンと幸太郎との話し合いが再開し、その結果として今後の方針が決定された。
「魔王様は話し合いを望まれるはずです。戦争の原因となったダグラス兄様が処刑された以上、戦争を継続する理由は消失しましたので」
「それはこちらとしてもありがたい。しかしエリザベス女王陛下に内緒というわけには…」
「いえ、しばらくはそうした方が得策かと。エリザベスは唯でさえ実の兄に謀殺されかけたのです。この上この事実が漏れた場合…人間不信を招きかねません」
「ああ…それもそうか」
その為、ロビンのことについては秘密となり、この件は妖精姫としてエルが預かることになった。
「もちろん時期を見て伝えますが、まずは人間と魔族の関係修復が先でしょう」
その為、魔族側は撤退した魔王軍から魔王に情報が伝えられて、近々和平に向けた話し合いのための使者が赴く予定らしい。
エリザベスはおそらくそれを承諾するだろう。
魔王軍が内陸深くまで進行を許したという事実は、王都の防備が薄くなっていることを露呈したに等しく、結果として占領した領土に駐留させていた王国軍は撤退を命じられている。
王国軍も最初は反発もあったが、ダグラスが起こした騒ぎとその結果を聞いた後は大人しくなった。
ロビンは非公式の魔族側の密使として行動するらしい。
「和平がなるまではしばしお目こぼしをいただければそれに勝る慈悲はありません」
「いいでしょう。それが戦争の回避につながるのであれば、そうでない場合は…」
「私の首はいつでも綺麗にしておきますので」
「その覚悟があるのであればいう事はありません」
独特な言い回しをされると翻訳機能もうまく翻訳することが出来ないことが多い。
これまでの経験で、幸太郎はロビンの言い回しは約束を違えたら死をもって償うという意味だと理解した。
(なんか2歳児が難しいこと喋ってると違和感すごいな)
幸太郎は詳しい話は突っ込めないのでエルに任せることにする。
二人の話し合いの結果を聞いて承認するのが幸太郎の仕事であった。
「というわけで如何でしょうか?」
「問題ないよ」
(これ自分いらないよな…)
しかし下手に関わるより、わかる人がやったほうが早いのも事実だった。
わからない人が下手に首を突っ込むことほど恐ろしいことはない。
「ありがとうございます。ではまた進展があれば連絡します」
そう言ってロビンは丁寧に頭を下げる。
そしてドアの方に向かうが、ドアの取っ手に手が届かなかった。
「幸太郎様、ロビンを送っていきますね」
「うん、よろしく頼むよ」
第三王子で生まれ変わりとはいえ、2歳児が勝手に一人で歩き回るのは問題だ。
エルに連れられてロビンは下の部屋に戻っていった。
……
という出来事があったのが数日前のことであり、今幸太郎達は王都をゆっくりと歩いている。
道路には人が溢れており、剣や鎧で武装した傭兵のような集団や、果物を満載した馬車を引く商人、布を抱えて歩く町娘、手ぶらで歩く青年など様々な人で溢れかえっている。
時折すれ違う人の何人かは幸太郎達を振り返って確認しようとする。
特に男性にその傾向が強く、女性も少数は振り返る。
幸太郎がそのことに気づけるのは、修行を経て他者の視線に多少は敏感になったからだ。
(これでも振り返るとは、着替えさせなかったらどうなっていたことやら…)
幸太郎の隣には、一般的な町娘に扮装させたエルが寄り添って歩いている。
耳を隠すようにフードを被っているが、そのこと自体は、日に当たりすぎることで肌を害することを嫌う若い娘や、信心深い者にはよくあることであり、珍しいことではない。
だが、そのフードの下にある素顔だけでも人を振り向かせるには十分な魅力があった。
それこそ誰もが振り向いてしまう程度には。
そんな美女を伴って街を歩く一見狩人のように見える男性には当然のように嫉妬の目線が降り注ぐように幸太郎は思えた。
実際はそんなことなくて、人々はただエルの美しさに心奪われているだけであり、幸太郎なんて眼中にすらないのだが、幸太郎は自分が見つめられているような居心地の悪さを感じるのだった。
(いやいや、自分の場合はそんな視線で見つめる事はないのだから、逆も然りだろう。然りだと思ってもそういう考えが抜けない…)
幸太郎的にはこの状況は針の筵に近いものがあり可能なら早めに切り上げたいが、これはエルに対する褒美であるということがそれを出来なくさせている。
幸太郎は少なくとも今日1日は、エルとデートをしないといけない。
「え、エル?」
「はい?何でしょうか幸太郎様」
「あ、その、どこか行きたいところはない?」
そう幸太郎がエルに聞いても、エルは微笑み。
「いえ、特には。幸太郎様とこうして二人きりで街を歩くだけでも十分で御座います」
「そ、そう?」
と言った感じで二人は当てもなく街をさまよっているのだった。
(えーなにこれ?デートってこうカフェでお茶したり、ウィンドウショッピングを楽しむものじゃないの?こうやって街を歩くだけってどうなの??いや、王都って中世ヨーロッパに来てるみたいだから自分としては十分っちゃ十分なんだけど…)
幸太郎はデートの経験が浅いからどうしたらいいか全くわからない。
強いていうなら、友達と街に繰り出す事はあってもあれはデートと呼べるものではないし、知ってることといえば漫画やドラマでの知識のみだ。
(前に似たようなことがあった時は、感謝祭でエルと屋台を潰して回ってたけど、今回はそうするわけには…)
またそんなことをすれば、怖いお兄さんがどんなひどい目に合うかわからない。
故にそういう遊興施設があるエリアには意図的に立ち入らないようにしていた。
因みにエルは二人きりと言ったが、それをビーイング達が許すはずもなく、実際は二人を囲むように遠巻きに護衛が配置されている。
ただし、それは人に溶け込むように巧妙に配置されており、普通の人はそれに気づかない。
それはエルも幸太郎も承知していた。
だから、ふとした思いつきで路地裏に入った時、実はそこは街の人は近づくことのないスラムであったりしたため、
「おう、にいちゃん!綺麗な姉ちゃん連れてんじゃねーか」
「おうおう!俺たちも混ぜてくれよ!」
と言った感じでガタイのいいにいちゃんに囲まれても、
「あああ!すいませんすいません!」
「やめてええええ!腕が!折れ…たいたいたい!」
こんな感じでどこからともなく現れた護衛達に締め上げられて、幸太郎達に絡む不届き者は皆無になった。
「うわ、やっぱり治安は良くないんだな。気をつけないと。エルは大丈夫?」
「あ、はい。申し訳ありません。弓があれば近づく前に排除出来たのですが」
「いやそれ普通に傷害だから、用もわからないうちから排除は止めようよ…」
物騒な会話をしながら歩いてくる謎の男女二人とその取り巻きを見てスラムの連中は隠れてやり過ごすことを決めたのだ。
そして近道的にスラムを横断して、幸太郎達は街の中心部に出る。
そこには憩いの場となっている公園が広がり、人々はそこで各々がまったりと過ごしているのが見て取れた。
「ここ屋台もあるからここで昼食を取ろうか」
「はい。幸太郎様」
幸太郎の提案に賛同して二人は屋台に向かう。
屋台では鉄板で肉が焼かれており、美味そうな匂いを辺りに撒き散らしていた。
「おっちゃん、サンドイッチを二つくれ」
「あいよ。銅貨6枚だ」
「高いな。あそこの屋台は銅貨3枚だったぞ」
「だったらそこで買ったらどうだ?銅貨5枚だ」
「食材の鮮度が良かったらそうしてたよ。銅貨4枚だ」
「ふん当たり前だ。うちは農家と直接契約して仕入れてんだからな。…っとこりゃえらいべっぴんさんだな。隣のべっぴんさんに免じて4枚で勘弁してやる」
幸太郎と屋台の主人が商談していたところにエルが幸太郎の方に寄り添って屋台の主人を見つめると、屋台の主人は相好を崩してそう宣言した。
「じゃあこれで」
幸太郎は屋台の主人に銅貨4枚を手渡す。
「はいよ。ほら熱いうちに食べな!またどーぞ」
そう言って屋台の主人は作り置きではなく出来立てのやつを大きな葉っぱのようなものに包んでエルに差し出す。
エルがそれを受ける際に主人はしっかりとエルの手を握ってからそれを手渡した。
(エロじじいめ。しかし美人は得だな)
エルは特に気にしてないようなので幸太郎は何も言わない。
こうして質のいいサンドイッチを手に入れた二人は公園の芝生に座って、サンドイッチを食べ始める。
「いい天気だ」
「ええ、本当に」
ゆっくりとご飯を食べながら、子供達の声が響くだけの公園でゆったりと二人は時を過ごした。
……
「なんなの、あの二人は!?公園で一緒にお昼ご飯とか!ご飯とか!まるで、で、で、デートじゃない!!」
そんな2人をリズが木の陰から睨みつけていた。




