王都騒乱の後始末
魔王軍が王都目前までやってきて直後に撤退するという謎の騒動こそあったものの、
ダグラスの起こした政変騒ぎは幸太郎によって収束して、王都には平穏が戻ってきた。
ダグラスはエリザベスの命によって捕縛され、エリザベスの名の下に司法によって徹底的な調査が行われた。
「これを期に膿は全て出さねばなりません」
その結果として、王を毒殺したのはやはりダグラスであるという証拠と証言が得られることになり、それに加担した者は一族郎党処分されることになった。
本来罪のないはずの血縁者まで処分するのは、現代人である幸太郎からすれば理不尽で過剰すぎると感じるが、幸太郎はあくまで冒険者であり、それを止める権限はないし、また国の文化や法律を変えようとすればとんでもない労力が必要なのは明白だと思っていた。
ただ、直接加担した証拠がないのであれば、せめて殺すのはなしにしてほしいとこの騒動を収束させた功労者の立場でエリザベスにそれを伝えた。
「未来の旦那様のお願いであれば」
と恩赦を約束した。
「ありがとうございます。でも未来の旦那様は考えさせてください…」
これ以上借りを作ると本当に旦那様にされかねないと判断した幸太郎はそれ以上の干渉をやめた。
そしてダグラスは当然死刑になる。
「殺す…幸太郎もフェリアも殺す…」
ダグラスは処刑人に首を落とされる瞬間まで呪詛を止めることはなかった。
「ダグラスに非があるとはいえ、今回の件に至った原因として魔王軍に脅威を感じている風潮があるのは事実です」
「であるならば、幸太郎様の配下を王都に置いておけば多少は国民を安心させられるのではないでしょうか?」
「それが再発防止につながるのであれば」
マルゴッド伯爵の発案で、王都には幸太郎のビーイング達が義勇軍として駐留することになった。
これについては所属不明の勢力を王都に招き入れるのは如何なものか?国を乗っ取られるのでは?と反対の声もあったが、
「もし幸太郎様にそういう意図があるならば、城を制圧した時にとっくにそうされているはずです」
というエリザベスの一言で一蹴された。
「魔王軍の脅威を軽減する意味でも、ダグラスのように政変を起こそうとする勢力の抑止力としても幸太郎様の私兵はお役に立つのですよ」
とは後で幸太郎にこっそり語ったエリザベスの言だ。
「そこまで信用されても困るのですが…いきなり占領に走ったら如何するおつもりですか?いやそんなことはないんですけど万が一です」
「妖精姫様が真の王とお認めになった方に対して信用も何もないと思いませんか?そもそもそんなことしなくてもお望みなら国を自由にできる権利がありますのに」
「う…」
エリザベスの言う通りこのイリス王国において妖精姫の権威は絶対的だ。
それを知るが故にエリザベスはエルを従えている幸太郎に対しては最大限の便宜を図り、売れる恩は徹底的に売る腹づもりだった。
そこには幸太郎が王となって欲望のままに支配することを望んでないことも計算のうちに入っている。
「ですが、権力も財力も望まない幸太郎様の俗人とは異なるその懐が広すぎて空っぽ同然な余裕は、フェリア様に真の王と認められている所以なのでしょうね」
「エルにも似たようなこと言われてるけど、それ褒めてるようでバカにしてるよね?」
「まさか、俗物なら王の権力と財力に溺れてもおかしくありませんから褒めてるのですよ」
だがエリザベスの微笑は崩れなかった。
「私、今回は何もしてないような気がする」
「いや、今回はある意味自分の不手際みたいなものだから、させなかったというか…」
今回の騒動ではリズは終始蚊帳の外だった。
リズに関係あることならともかく今回のことはリズは無関係だったので、幸太郎が全てのケリをつけるつもりだった。
「それに自分がいないところでエリザベスとかマルゴッド伯爵とか守ってもらわないといけなかったし」
「それはそうなんだけど…結局ダグラスが暗殺部隊を送り込んでくることもなかったし、何もできなかったことには変わりないもの!」
リズは幸太郎に好意を持っている。
リズはヘカテーのように幸太郎がマスターであると気づいているわけではない。
だが本能的に察している可能性はあり、それが好意の原因である可能性はある。
(そうでなければ好意を持っている理由が不明だしな。仇を討った程度で惚れるわけないし。そもそも仇を討ったのはエンシェントデストロイヤーだし。それだって事故みたいなものだし)
好意の原因はともかくとして、好意を持っているが故に役立ちたいと思うのは自然なことであり、だからこそ役立てなかったことに落ち込むのもまた然りであった。
「落ち込むのか、ニヤけるのかどちらかにしたら?」
「やだ」
リズはペガサスの背に乗って、ニヤケながら落ち込んでいた。
「念願のペガサスを手に入れたわ!」
幸太郎は今回の事件に協力してもらったお礼としてペガサスの召喚権をリズに譲渡した。
(感覚的には、カードのトレードをしたに等しいけどうまくいってよかったよ。カードのこともバレてないようだし)
幸太郎はリズから教わった召喚士が行う召喚獣譲渡の儀式的手法と、統合端末に実装されてたトレード機能を
活用して、リズにペガサスを譲渡した。
それによって念願のペガサスを手に入れたリズは、幸太郎の役に立てないことを落ち込みながら、座り込んだペガサスに抱きついてニヤニヤすると言う器用な真似を行なっていた。
「まあ、よろこんでるなら何よりだよ。でも大事にしてね?」
「勿論よ!この子は私の家族なんだもの」
そういってペガサスの毛をもふもふしているリズをペガサス自身は「しょうがないなあ」と言いたげな目で見つめていた。
マルゴッド伯爵が後見人になり、幸太郎にも爵位が与えられることになった。
「まあこれほどの活躍をすれば当たり前ですな」
「はあ…」
与えられた位は男爵であった。
幸太郎は王の座こそあらゆる手を使って(といっても基本は妖精姫を盾にしたゴリ押しで)拒否したが、所詮は政治に疎い素人の抵抗であり、爵位の授与までは拒否することができなかった形だ。
それでも最低のものを、と幸太郎は望んで取り敢えず男爵からとなった。
普通は市井の者がいきなり貴族なんぞになれば他の貴族の反発は免れない。
免れないはずであった。
幸太郎もそう思ったから爵位を辞退しようとしたのだ。
実際はそんなものは皆無であった。
それは幸太郎のビーイングたちの活躍とドラゴンの存在は貴族たちに敵対感情を失わせたからだ。
特に固定式の巨大バリスタでなければ傷一つつけられず、縦横無尽に飛び回り、田畑を人諸共焼き尽くすドラゴンは恐怖の代名詞であり、正面から楯突いたらドラゴンをけしかけられるのだから至極当然であった。
更に妖精姫が付き従っていると言う事実も効果は絶対であった。
妖精姫の権威は絶大で貴族にも多くの支持者がいる。
妖精姫の隷属は未来の王が約束されたに等しく、そんなものに正面から歯向かうのは支持派を敵に回し最悪お家つぶしもありえる。
結果として、軍事的にも政治的にも貴族は幸太郎に逆らえない。
むしろ貴族達は幸太郎の叙勲を歓迎した。
それは叙勲式で幸太郎にちょっかいをかけたバカ息子の首を塩漬けにして差し出してきた貴族がいた事から、幸太郎も思い知ることになる。
そうして戦後処理は着々と進められて、幸太郎への爵位授与と、エリザベス女王の即位が行われることで、後に「ダグラスの乱」と呼ばれる政変騒ぎは終わりを迎えた。




