一難さってまた一難?
周りを防御にたけた守護持ちの屈強なビーイングに囲まれた幸太郎は城の中を進む。
城は激しい戦闘があったことを示すかのように所々の装飾品が壊れて荒れていた。
それらは幸太郎が呼び出した何百人もの軍隊系ビーイングによる襲撃の結果である。
「…この世界に来てからずっと思っていることなんだけど、場に出せるカード枚数に制限がないのはおかしいと思う」
リザレでは、場に出せるカードの最大枚数は5枚までと決められている。
スペルは基本的に使うと消費されるので、この場合この制限が問題なるのはビーイングとアーティファクトであり、特にアーティファクトを置く戦法の場合、問題になりやすい。
「おかげで笛デッキが、見事な壊れになってしまう…」
幸太郎は手元に置かれた三枚の旗を見やる。
勝利の笛
アーティファクト
マナコスト4
軍隊系ビーイングを全て+100/+100する。
このカードの最大の特徴は、永続効果だ。
このカードは破壊されない限り、場に出る全てのビーイングを強化し続ける。
つまりこれを三枚場に出しておけば、最弱のソルジャー100/100(でもこれで銀クラス)も+300/+300されてこの世界でいう推定ミスリル級(400/400〜)の実力を手にすることになる。
この一見壊れに見えるカードは、最大5枚という限りのある場を圧迫してしまうが故に、バランスが取れていた。
限りあるビーイングしか出せないと、行動が制限されるためだ。
だがこの世界はどうやら世界自体が場と認識されているようで、おけない場所がなくならない限り、出せるカードに制限はない。
故にこのカードは、場に出した数百の軍隊系ビーイングを最低ミスリル級にするという代物に成り果てた。
「どう見ても壊れです本当に」
永続効果のあるアーティファクトによって大量のビーイングたちを永遠に無制限に強化し続けるという戦法。
これこそが幸太郎が出した本気であった。
「でもやっぱこれが限度だわ…」
幸太郎はその景色を呆然と眺めている。
目の前にあるのは死屍累々。
空からも見えていたそれらは王城を守っていた兵士の成れの果てだ。
対してこちらの損失は一つもない。
「一方的になるかもしれないと思ってたけど…これほどだったなんて…これならコマンダーは出さないでおけばよかった…」
幸太郎はさらに手に持ったもう一枚のカードを見やる。
コマンダー
ビーイング
アタック300
ディフェンス300
マナコスト4
場に出た時、軍隊系ビーイングを+100/0する。
こちらは永続効果はないが、発動時にその場にいた軍隊系ビーイング全員に強化効果が発揮される。
つまり最後の最後に出したコマンダー2体によって、それまで出ていた軍隊系ビーイングは軒並み+200/0の強化をうけている。
「ペガサスで奇襲するとはいえ、相手は城に陣取ってるし、数は倍以上だったし、ナイトがいるから金以上の戦力が複数だし、ミスリルも複数いるかとも思ったから念のために強化したのに…」
問題は幸太郎の予想以上に相手は脆弱だったことだった。
「いや、油断して痛い目あうよりはマシだと思わないと…エンシェントタートルの時のようなことはごめんだ」
古代遺跡に潜った時は、出し惜しみをしてしまったせいで、危うく死にかけた。
少なくとも幸太郎はそう思っており、それ故にそれ以降は最悪のケース、この場合はミスリル級が複数いること、を想定して行動しているのだが、良くも悪くも思いどおりにいかないのは凡人である幸太郎の限界であった。
「思い通りにいくわけではないよなあ。なんでも思い通りにいくのは中学生の妄想小説だけだ。現実は配られたカードで勝負するしかないんだ」
問題はそのカードが多すぎることであった。
無駄に選択肢がありすぎると過剰な対応になってしまい逆に良くない。
山を荒らしてネズミ一匹みたいな結果に往々としてなるからだ。
事実そう言う結果になったと言える。
(選択肢は程々に少ないほうがいい、多すぎると選べなくなる)
「主人様こちらです」
コマンダーに案内されて幸太郎は城内を更に進む。
「う、うん…」
コマンダーの声には明らかな敬意が宿っている。
パラメータと言う概念があるなら忠誠心のパラメータがカンストしてるだろうことに疑いはない。
そんな彼らに対して、エルに懇願されたように主人らしく振る舞おうとするが、元は平社員であり、つい最近まで普通の学生だった幸太郎にはそんな立ち振る舞いを心得ているはずがない。
(あああ、こんなことなら委員長とか部長とか積極的に引き受けて上の立場に立つことのなんとやらを知っておけばよかった…漫画とかじゃこういう立場にいきなりたった主人公がすぐに順応するけど絶対ありえないわ…現実になったら困惑するだけだわ)
そうして幸太郎はある部屋にたどり着く。
そこは城門が見渡せるバルコニーのある一室であった。
「貴様!」
ダグラスを始め第一王子派の幹部が拘束された部屋であった。
「…こんにちは殿下」
「冒険者風情が!王族たる私をこのように拘束するとは恥を知れ!さもなくば今すぐ縄を解け!」
「いや…そうしたいのは山々なんですがそうするとあなたが逃げるかも知れないので拘束しておけとエリザベス様に言われてますので…」
「くっ、あの毒婦め!」
「……」
幸太郎は無言でそれを見つめてた。
(実際は殺してもいいといわれてたんだけど…)
話は少し前に遡り…
伝令が幸太郎とエリザベス達のいる屋敷に戻ってきた。
「伝令!本隊は城の制圧に成功しました。首謀者のダグラス含め賊軍の幹部は全員拘束しました!」
「そ、そうか。でも一応司令官はエリザベス様だからエリザベス様に向けて報告しようね?」
「失礼いたしました」
戻ってきたナイトは慌てて幸太郎からエリザベスの方に向き直る。
だがエリザベスは報告を聞いた瞬間からその無作法を咎める余裕はなかった。
「はい?兄…いえ、ダグラスを拘束できたのですか?」
その報告を聞いた当初、エリザベスが半信半疑になったのも無理はない。
エリザベス的には幸太郎の私兵達は城の兵士達と比較すれば寡兵であり、良くてダグラスは城から逃走、悪くてダグラス派に多少のダメージを与える程度と思っていた。
故に伝令が報告する内容は、ダグラス達を城に拘束する、陽動に成功したとの内容であり、幸太郎達はその間に逃げるものかと思っていた。
だが、それは全く予想外な戦勝報告だった。
「はっ、その通りでございます!」
「倍の兵が立て籠もっている城ですよ?攻略すら困難なのに無傷で拘束ですって?それもこんな短時間に?」
戦争で敵の首魁をとらえるのは、暗殺するより遥かに難しい。
エリザベスも兄を捕らえて法のもとで裁くべきだとは思いながらも、それを知るが故に、エリザベスは指揮官としてダグラスの討伐、つまりは殺害命令を出していたのだ。
「可能であれば捕らえて法の元に裁くべきでしょう。ですがこうなっては致し方ありません。かの逆賊は討たねばなりません」
「ははっ!」
そして、ビーイング達はそれに応えた。
応えすぎたのだ。
「誅するのですら困難なのに拘束だなんて…」
「はっ。初手のペガサスによる奇襲攻撃によって効果的に侵入できたのが功を奏しました」
「ぺ、ペガサス!?」
「ヒヒーン」
思わぬところで出てきた伝説の魔獣の名前にエリザベスが目を白黒させていると、後ろにいた白馬が「気づかなかっただろ?」と言わんばかりに隠していた翼を広げた。
ペガサス
ビーイング
アタック500
ディフェンス300
マナコスト5
「ほ、本物のペガサスなんて初めて見た…」
「そういえば幸太郎はペガサス持ってたわね…」
「あ、うん」
幸太郎がペガサス持ちであることを知るリズに驚きはない。
だが、ペガサスを切実に欲しがっているリズにジト目で見られると幸太郎はその視線から逃れたくなる。
「ですが例えペガサスと言えども単騎では」
エリザベスは、ペガサスといえども流石に城の防衛設備相手では分が悪いと思っていた。
いくらペガサスが伝説の魔獣であろうとも数の力には勝てないだろうとも。
それは事実だ。
ペガサスと言えども遠距離攻撃ができるわけではない。
弓兵が数十人いる城ならば、接近を許すことはなく、打ち取ることは充分可能だろう。
遠距離から一方的に攻撃できるというのはそれほどの利点なのだから。
「ええ、なので今回は数十匹で奇襲をかけたんです」
「「数十!?」」
今度はエリザベスだけでなくリズも驚愕した。
「ちょっと!そんなにペガサス持ってるなら一匹よこしなさいよ!」
「ペガサスを数十ってなんですかそれ!そんなの聞いたこともない!」
「ちょ、ま、おち、落ち着いて!く、くるじぃ…」
二人に詰め寄られて幸太郎は窒息死しかけるという顛末になったのは完全な余談である。
「…ごほ…まあ…はあ…その…奇襲によってうまく攻略できました。ということでいいんだよね」
「は!その通りでございます」
解放された幸太郎は、ナイトにそう確認する。
ナイトは主人が戯れとはいえ害されたことに微妙な怒気を発しながらも職務に忠実であらんと微動だにしなかった。
もっとも本当に危なくなれば止めるつもりであっただろうが。
「して損害はいかほどで?」
しかしいくら奇襲を仕掛けたとはいえ、倍の敵兵の立てこもる拠点を攻略して被害が皆無というわけにはいかない。
おまけに敵の最高指揮官を無傷で捕らえたということは、火や矢を放ったりしたわけではなく、司令室制圧のために突入したということだ。
多数の死傷者が出ていてもおかしくないが故に、エリザベスは理性的にも感情的にも被害が気になっていた。
感情的にというのは、人の不幸を悼んで、理性的にというのはエリザベス配下の兵とはいえそれはあくまで幸太郎からの借り物であるが故に後々保証などが必要になるからだ。
だからこそ、被害軽減のための殺害命令だったりしたのだが。
「全員健在でございます」
「は?」
エリザベスは王女らしからぬ声を出した。
「今なんと?」
「全員健在で御座います」
嘘であって欲しい。
そう願いのこもったエリザベスの発言はナイトに真っ向から否定される。
「嘘よ…そんな…」
否定しようとしてそれは意味がない。
なんとなれば、エリザベスはあの場で幸太郎達の軍勢を見ている。
再び集結させれば、数が減っていないことなど一目瞭然だ。
「防衛側を攻略するには3倍の兵力が必要なはず。なのに…敵より半分の兵で城に立て籠もる敵を攻略…それも全員損害なしで?そんな…」
それは幸太郎の私兵は自国の兵より控えめに言っても6倍強いということだ。
それだけではない。
完全勝利を収めたということは練度はさらに差がある。
訓練されたら王国の兵達でも6倍の暴徒化した農民を相手にしたら損害は免れないというのに、その王国の兵達を相手に無傷ということは、王国兵と幸太郎の私兵の練度の差は、農民と王国兵以上にあると言っても過言ではない。
自国兵より強靭な兵士を持つ不明勢力の存在。
それを知ったエリザベスは気が遠くなった。
「王女様!?」
そのままその場に卒倒した。
場は騒然となった。
倒れたエリザベスを部屋に運ぶ。
しばらくするとエリザベスはよろよろと起き上がって来た。
「幸太郎様…ダグラスは縄で拘束して逃げられないようにしてください」
「お、王族を縄で拘束してもいいんですか?」
「構いません。彼はどのみちこのままでは処刑される身です。でないと逃げられるやも…」
「わかりました。伝令!」
「は!」
エリザベスを介抱して、ダグラスを縄で縛るよう命じられた幸太郎はナイトにそれを伝達させる。
ナイトは幸太郎の命令を受けて水を得た魚のように生き生きとペガサスにまたがり飛んで行った。
ビーイング達、特に軍隊系ビーイングにとって幸太郎の命令は至上であり、絶対であり、存在意義を満たす天啓に等しいものであった。
リズが幸太郎に駆け寄ってくる。
「…自分もそろそろ向かおうかな」
「幸太郎一人で大丈夫…」
ズドゥン
「なの?…って聞こうと思ったけど愚問だったからしら?」
リズがついていくそぶりを見せようとしたが、その前にどこからともなくヘルフレイムドラゴンが着地する。
「いや、ついてきてもらいたいのは山々だけどね…調子の悪そうなエリザベス様を置いていくわけにもいかないでしょ?」
「ああ、そうよね…誰かはここに残っておかないとね。わかった、なら幸太郎はちゃんと後始末してきなさい」
「任せろ」
「いつもみたいに面倒臭がらず」
「う…」
リズに言われるまでもなく今回は主体的に動くつもりでいる。
だからそう言われるのは心外なのだが、これまでがこれまでなので反論できなかった。
(だって仕方ないだろ、今までのは命がけなことばかりなんだから尻込みもするさ!今回のだって自分が主犯みたいな感じになってなかったらさっさと逃げていたところだ)
という内心は心の底に慎重にしまいながら、幸太郎はヘルフレイムドラゴンに乗って城の方へ飛び立った。
ヘルフレイムドラゴンは誰の妨害もなく城に到着する。
城には脱出時にはなかった大型のボウガンが備え付けられていたが、そこは既に幸太郎のビーイング達により制圧されていた。
そこに倒れる生々しい兵士たちの死体を幸太郎は見て見ぬ振りをした。
そして城内の広場に降り立った幸太郎は、その場にいたビーイング達に一斉に跪かれる。
「お待ちしておりました陛下!」
「陛下はやめい!」
ビーイング達にそう言われた幸太郎は、陛下呼ばわりを禁止する命令を叫んだ。
(そして今に至るというわけだ)
幸太郎は城を見て回ってた。
制圧は全く問題なく進んだようだ。
報告によると、途中で決闘みたいな出来事があり、その直後に城の兵士達は降伏を選択したとのこと。
(可能なら降伏して欲しかったから本当に良かったよ)
幸太郎は可能であれば降伏を呼びかけるという方針であった。
エリザベスの命令の裏で、軍隊系ビーイング達は幸太郎の方針に忠実に従った。
決闘直後に降伏を呼びかけたら、相対したものが全て例外なく一方的に殺されて、最大戦力すら失った兵士たちは戦う気力を失ったらしい。
ナイトが降伏をよびかけ、エリザベス王女の名の下に降伏したものはその立場や身分を保証すると言ったのも効果的に働いた。
城の兵士からすれば、超ミスリル級が瞬殺された時点で、自分たちが束になっても叶わないことは明白になった形だ。
降伏する以外に助かる道はなかったと言ってもいい。
そして軍隊系ビーイング達は無抵抗となった城内を進み幸太郎の指示通りにダグラスとその幹部を拘束した。
ダグラスを殺さなかったのはそれによって王族暗殺の汚名を他の貴族に着せられないようにとの念のための用心だ。
エリザベスはダグラスを殺してもいいと言っていたが、幸太郎は絶対に殺すなと命じていた。
理由はいろいろある。
一つは余計な濡れ衣の回避のため。
あり得ないとわかっていても、あれだけ堂々と陛下が毒殺されて、エリザベスに濡れ衣を着せられた場面を目撃した後では、エリザベス自身がそれを行わなくても他の敵対的な貴族にいちゃもんをつけられる可能性すら排除したかったからだ。
エリザベスが政権を獲得すれば逆に幸太郎は英雄になるはずなのだが、幸太郎は名誉を得る可能性より、問題を招く可能性があれば、後者をより重視する。
そしてもう一つは申し訳なさからだ。
(ごめんなさい、本当にごめんなさい)
ダグラスが拘束された部屋で、怨嗟の声を聞きながら幸太郎は内心謝り続けていた。
元はと言えば、幸太郎が知らなかったとは言えエルを不用意に呼び出したことが今回の遠因の一つだ。
それについては不可抗力とは言え申し訳なさを幸太郎は感じていた。
とはいえ、例え理由があっても許されないことをかれはしている。
少なくとも彼は実の父を毒殺している疑惑がある。
おそらくダグラスは死刑になるだろう。
この所業は彼の苦痛を伸ばすことになるだけかもしれない。
だけど幸太郎はあくまで一般人を自負している。
ただ、たまたま分不相応な力を与えられただけの一般人だと。
そんな自分が高度に政治的な問題が絡む今回の騒動でこれ以上の迂闊な行動はとりたくなかった。
それが迂闊な行動の結果だとすればなおさら。
(力には責任が伴うってこういうことなんだろうな)
だからせめて彼にはまともな裁判を行なって貰いたいと幸太郎は考えている。
「くそくそくそ」
ダグラスはそんな幸太郎の内心など知らず呪詛を吐き続けている。
(うーんどうしよう…)
幸太郎はダグラスの呪詛を真っ向から受け止める度量はない。
ここは誰かに任せようとしたその時にある人物が部屋に入ってくる。
「だから言ったのよ。幸太郎様にあなたごときがかなうわけないでしょう」
「妖精姫様!」
やってきたのはエルだった。
それを見た幹部達は、ダグラスを除いて、縛られた状態のまま慌てて頭を下げる。
「フェリアぁ!」
ダグラスだけは縛られた状態のままエルに飛びかかろうとして、すぐにそばにいたビーイング達に押さえつけられた。
「貴様が!貴様がいなくなりさえしなければ!何故一年前に突然消えたのだ!」
突然狂乱するダグラス。
その叫び声に反応したのはダグラスに呼応した将軍を除く幹部達と幸太郎だ。
「なんと!妖精姫様は一年前からお隠れだったのですか!?」
「妖精姫様がいなかった?」
「今のは一体どう言うことですか殿下?」
「今回の件はフェリア様の黙認があったのでは??」
(ごめんなさい…本当にごめんなさい)
幹部達が口々にいろんなことを口走り始める。
幸太郎が内心謝りながら「あああ、どう収めるのこれ…」と器用に悩む中、エルは涼しげな表情を崩さない。
「こうして無様に捕まっておいて何をいうかと思えば…思いつきのように稚拙なあなたの計画なんかよりはるかに重要なことがあったからに決まってるでしょう?」
そしてエルは幸太郎にとってはとんでもない発言を口にした。
「ここにおられる幸太郎様は真の王なのよ」
真の王。
それはイリス王国の人々にとっては特別な意味を持つ言葉だ。
「エル!?」
「フェリアァァ!」
「なんと!今のはまことですか!」
「この方が妖精姫様が認めた真の王ですと!?」
それぞれがそれぞれに驚愕の叫び声を上げるなか、エルは冷静に叫ぶ。
「頭が高い!控えなさい!!」
「は!ははー」
ダグラスを除く幹部達はすぐに深々と頭を下げた。
ついでにダグラスもビーイング達によって無理やり頭を下げさせられる。
そしてビーイング達も当然のように頭を下げる。
「ふう!ふう!」
ちなみにダグラスはあまりにうるさいせいで猿轡を咬まされていた。
「ちょ…エルさん…ナニイッテルンデスカ?ソレハヒミツトイウカマダミトメテナイ…」
対していきなりとんでもないことを叫ばれた幸太郎は生きた心地がしなかった。
(え?何この流れ?なんか敵だったはずの幹部達がすごい素直に頭下げてるんだけど…もっとこう反発してもらってもいいのよ?ダグラスみたいに?そしたら普通にやっぱり王の器じゃないよねーっていって出ていけるのに…なんでビーイングのみんなは満足げな顔してるの?当たり前みたいな顔しないで!)
考えてみれば、エルが妖精姫であるということは事実であり、エリザベスもそれを確信している。
ダグラスがエルのことをフェリアと呼んでいたことからもそれは明らかであり、ならば貴族達がエルのことを妖精姫と疑うことはありえない。
そしてエルがこうして幹部と兵士達の前で大声で叫んでしまった以上、撤回は不可能だろう。
「なんと、なんという…とうとう真の王が現れましたぞ…王家の言うところの真の王をつなぐ資格を持つ王などと言うものでなく、妖精姫様御自らがお連れになった真の王だ」
「そうか。真の王ならばドラゴンを操るのも当たり前だ。過去の真の王もドラゴンを使役したと聞く」
「そうだったのか!そうとは知らず我々はなんということを…」
「ああ、幸太郎様、いえ陛下。何卒お許しを!」
(やめて…やめて…特にそこの兵士さん…歴史的瞬間に立ち会っているみたいな顔して涙ぐまないで…)
拘束されている敵だった幹部や兵士達が口々に幸太郎は王だとつぶやき、許しを請うものもあられる中、幸太郎は只々こう思っていた。
(どうしてこうなった!ごめんなさい。スナイパーエルフを呼んだだけなのに!?本当にごめんなさい!)
「幸太郎様!幸太郎様!」
どうにかこの場を抜け出すことは出来ないかと幸太郎が逃避的なことを考え始めた時、それに答えるかのように一人の兵士が飛び込んでたきた。
それは数少ないエリザベス派の兵士として、エリザベスが派遣した腹心の部下であり、それが伝えた内容は幸太郎が望む通りにこの場を抜け出す口実になった。
「ま、魔王軍が攻めてきました!」
「ええええええええ!!!なんでええええええぇ!?」
ただしそれは新しい戦争の始まりの合図だった。




