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始まりは小さな混乱とともに

「マルゴッド伯爵様!これは一体どういうことですか!?」

「リズ殿!一体この軍勢はどこから来たのですか!?」

「王女様!これは一体どこの援軍ですか!?」


 エリザベスがマルゴッド伯爵を問い詰め、マルゴッド伯爵がリズに確認し、リズは王女がどこからこれだけの援軍を得たのかと問いかける。


 庭に集合した兵士たちを見て、一番混乱しているのは自分だったと後に誰もが主張した。


 だがそれは無理もない話である。

 何故なら、幸太郎が援軍が来たと言ったから、出てみればこの軍勢が目の前にいたのだ。


 エリザベスは王女派の人間が何人か逃げ延びて駆け込んで来たのかと思ったし、マルゴッド伯爵は友好的な貴族が助太刀に来たのかと思い、リズは冒険者仲間が助けに来たと思ったら、その予想は全て裏切られた。

 中庭にいたのは、士気旺盛で屈強な百戦錬磨の兵士たちだったのだ。


「これはどういうことですか幸太郎様!?」

「これはどういうことですかな幸太郎殿!?」

「これはどういうことなの幸太郎!?」


 そして同じ結論に達した3人が幸太郎に詰め寄るまでがお約束であった。


「だから援軍を呼んだの」


 それに対して既に腹を括っていた幸太郎は淡々と答える。


「「「一体どこから!?」」」

「…それは答えられません」


 だが、カードのことは答えられない。

 なのでそれには黙秘を主張した。


「でも強いていうならコネを使いました」


 幸太郎はそういうことにするつもりだった。

 幸太郎の知っている召喚魔法はあくまで魔物を呼ぶものであり、人を呼ぶものはリズから聞かない以上、召喚したとは言わない方が賢明であった。


「コネ?コネですって…」


 それを聞いて、顔を青ざめたのはエリザベスだ。


「こんな戦力を王都に?誰にも気付かれずに配置していたの?」


 王女からすれば、身分不詳の男がこれほどの兵力を保持していることは純粋に脅威なのだろう。


「エリザベス様曰く幸太郎殿は王家の係累ではないとのことでしたが、これほどの軍勢をお持ちとは…もしや他国の貴人であられるので?」

「幸太郎はなんとなく只者じゃないとは思ってたけど…」


 そして幸太郎を他国の要人ではないかと考えるのは自然なことと思えた。


「…それについては、黙秘でお願いしたいです。その代わりそれを了承していただけるのであれば、全力で王女を支援すると約束しましょう」

  「それは…確かにありがたいですが…」


 エリザベスにとってはこの援軍は心強い味方のはずである。

 だが、何故か躊躇するような様子を見せる。


「エリザベス様少しいいですか?」


 するとマルゴッド伯爵がエリザベスを連れて少し離れたところに向かう。

 そこで2人は小声でやり取りをした後、再び幸太郎のところに戻って来た。


「その提案、ありがたく受けさせていただきますわ」


 そう言って優雅に微笑んでお辞儀をした。


「どうかよろしくお願いいたします」

「はい」


(よかった。なんか躊躇してたみたいだけど、納得してくれたみたいだ。しかしどうやってマルゴッド伯爵は説得したんだろう?)


「リズもいいよね?」

「いいも悪いも…これも何かの縁だし私は幸太郎についていくだけよ。か、勘違いしないでよね!ただこの混乱を収めないと仲間探しができないだけなんだから!」


 そう勝手に喚いてリズはソッポを向いた。


「あ、うん」


(なんてベタな…そして知ってしまえば違って見えるものだから妙な気分だ…)


 幸太郎は基本的に人の発言は言葉通りの意味しかないと考えがちなので、ツンデレという概念は知っていてもこんな身近にあるとは思いもしなかった。


(いやそもそも女子の発言を勘違いして突っ走った結果大事故を起こした中学時代のいやな経験があるから…あああ、考えてて嫌になってきた)


 過去のトラウマを思い出して、その場にうずくまりそうになる。

 コミュニケーションは幸太郎にとって永遠の課題であった。


 ともかくエリザベスとマルゴッド伯爵に提案は承諾された。


「では、彼らはエリザベス様の指揮下で活動する義勇軍ということにしましょう」

「はい。それで構いません」


 むしろ幸太郎にとっては願ったり叶ったりだ。

 これが幸太郎の配下だと勘違いされたら、また貴族たちから引っ張りだこにされかねない。


(よしよし、これで面倒ごとが一つ減る)


「そして幸太郎様は実は私の婚約者ということに」

「「ファッ!?」」


 エリザベスの爆弾発言に幸太郎とリズが同時に叫んだ。


「命を助けられただけでなく、これほどの助勢を頂けたのですもの、幸太郎が婚約者になるのは当たり前だと思いませんか?」

「いやその理屈はおかしい」


(一体何言ってるのこのお姫様は!?)


「そうよ!だって幸太郎が王女様の婚約者だなんて…身分とか出自とか…」


 リズもまたいきなりの発言に戸惑いを隠せない。

 そして反対を表明する。


「身分については私が後見人になれば問題ないでしょう」

「「伯爵様!?」」

「幸太郎殿はこの国に多大な貢献をなさった英雄。私が後見人となれば、家格も十分なので問題はないでしょう。必要なら養子でも構いませんぞ。もっとも幸太郎殿には不要かもしれませんがな」


 マルゴッド伯爵は幸太郎をこの国の王族と疑ってきた。

 その疑いはエリザベスによって晴れたが、今度は幸太郎を他国の要人と勘違いし始めていた。


「幸太郎様なら私としても問題ありません。この問題が解決した暁には、きっと事情をお話ししてくれると信じております。その際には是非わが国と友好を」

「う…」


(それが狙いか!?)


 エリザベスはマルゴッド伯爵と同じく幸太郎を他国の要人と誤解した上で、その背景を探るためにこんなことを言い出したのだろう。


「ですが、その…王女にも心を決めた方はいらっしゃらないのですか」

「まあ!?この場でそんなことを言わせるおつもりで?」


 幸太郎が問いかけるとエリザベスは頬を染める。

 幸太郎でもその意味は十分理解できた。

 エリザベスは幸太郎に惚れてると主張したいのだと。


(ほぼ間違いなく演技だろうけど!)


 だが美人にそう言われて悪い気はしないのが悲しい男の性である

 それがたとえ王女の価値を対価にした政治的交渉だとしても。


(いや、王女とか自分には勿体なさすぎるし、そもそもそんな背景ないから!)


 王女の婚約者になるならば、出自不明のままではいられない。

 そして徹底的な調査が行われるのは想像に難くなかった。

 そしてその結果が期待通りならそのまま既成事実にし、そうでなければ口約束だからなかったことにするつもりだろう。


(まあ、そういう意味じゃ調べて貰えば誰も背後にいないことはわかるか。でもその場合はどこからこれだけの面々を連れてきたのか説明できないんだよな…最悪エルを使うか…妖精姫が連れてきたことにして…あ、なるほどエリザベスの狙いは妖精姫か)


 エリザベスはエルが妖精姫フェリアであると確信している。

 そしてエルが幸太郎に仕える様子を見て何かを察したようだった。

 ならば妖精姫を取り戻すのは王族にとって最重要事項だろう。


(うん、そうだ。やはり王女が平民に惚れたとかないよな)


 それはどこの妄想だと、幸太郎は内心納得した。


(やはり断ろう)


「それとも幸太郎様には心に決めた方がいらっしゃるので?」

「あ、いえ、そういうわけではないのですが…」


 だが、エリザベスはとても悲しそうな顔で幸太郎を見つめるので、つい相手がいないことを肯定してしまった。


(あれぇ?断ろうと思ったのになんで逆のことを??)


「まあ!なら大丈夫です。きっと私達なら幸せな家庭を築くことができますとも!」

「幸太郎〜!!」

「ちょ、リズ、やめ!」


 そしてリズが般若の形相で幸太郎に殴りかかってきたので幸太郎は全力で逃げ出す羽目になった。


(こ、これが嫉妬かぁ!)


 そして幸太郎は謎の感動を得ていた。


 そうしてなんやかんやが落ち着いた後……


「陛下、軍団(レギオン)の編成が完了しました!」


 ロイヤルガードジェネラルが準備完了を告げた。

 その背後にいるのは数多くの軍隊系ビーイングである精鋭の兵士たち。


 そして計ったのようなタイミングでエルからの合図である光の矢が上がった。


(色は白。わかってはいたけど…致し方なし)


「よし。ならさっさと始めよう。そしてさっさと終わらせよう。平和の為に」


(そして心の平穏のために!)


「おおおおおおおお!!!!」


 軍団(レギオン)は雄叫びをあげた。

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