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妖精姫とエルの関係は…

  「妖精姫様がなぜここに!?」


 エリザベスの叫びにも似た声がマルゴッド伯爵の屋敷の庭に響く。


「まさか姫様はご存じなかったのですか!?」


 そして驚いたのはマルゴッド伯爵だ。

 彼はエルのことを妖精姫だとずっと勘違いしており、エルがいるのは王族公認だと思っていたのだ。


(完全に勘違いだけどね……エルは妖精姫とそっくりらしいし、王城で療養しているはずの妖精姫がいたら驚くに決まっているけど…)


 どうもその姿は王族から見てもそっくりらしい。


(王族が誤認するレベルならみんなが勘違いするのも頷けるな。スナイパーエルフも同じ顔だし)


 つまりスナイパーエルフのカードデザインそのものがたまたま妖精姫と酷似していたと解釈している。


「マルゴッド伯爵これは一体どういうことですか?」


 だが、いるはずのない妖精姫がいたとなれば、エリザベスがそう聞いてくるのも無理はない。


「妖精姫様は幸太郎様の付き人として旅をされていたのでは?幸太郎様は王族の関係者なのではないのですか!?」


 だからマルゴッド伯爵もエリザベスの剣幕に戸惑いながらも自身の認識を伝えている。


「そんなわけありません!幸太郎様これは一体どういうことですか!?」


 その矛先が幸太郎に向いた。


(やばい。なんかすごい剣幕だ。誤解を解かないと!)


 妖精姫は今も城で療養しているはずだから、誘拐犯扱いされてはたまらない。


「エリザベス様、エルは妖精姫様本人ではありませんよ。似ているとのことですが、れっきとした別人で」

「痴れ言を!生まれた時から妖精姫様と一緒にいたのです!見間違える訳がありません!まさかあなたが妖精姫様を外に連れ出していたなんて!」

「え?」


 だがエリザベスは幸太郎の言葉を信じようとしない。

 

(それよりもその言い方だと妖精姫は初めから城におらず、まるで誘拐されたかのような口ぶりなんですが……)


「姫様、それは一体どういうことですかな?その言い方ですと妖精姫様は誘拐されてたかのように聞こえるのですが」

「それは…」


 マルゴッド伯爵がエリザベスに問いかける。


 つまり王家が発表していた体調不良による療養は嘘だったことになる。

 それが所在を把握した上で、別件で不在なことをごまかしただけなら、まあ許容できるかもしれない。

 だがこれまでのエリザベスの反応は長い間行方不明だったものを見つけた時のそれだ。


(事実と違うことがバレたら普通に問題になるよな。それで政治家がいつも吊るし上げ食らってるし。会社でもそうだし)


 それを貴族に伝えてないことは問題になるだろうことは幸太郎も予想できた。


「……実は妖精姫様は一年ほど前に突如お隠れになりまして、我々は妖精姫様をずっと探していたのです」

「なんと!なぜそれを隠されて……いやそれが自然でしょうな。公開すれば王国が揺らぎかねない」

「それは一体どういうことですか?」


 幸太郎が詳細を聞こうとしたが、帰ってきたのはエリザベスの冷たい視線だ。


「聞きたいのは私の方ですよ。ただ、あなた様には恩もありますし、事情聴取は後回しにしましょう。今はそれどころではありません。しかし妖精姫様に出会えたのは僥倖でした」


 そういってエリザベスは幸太郎から顔を背けて、エルに対して膝をつく。


「妖精姫様。ダグラスが妖精姫様不在の折に王位を狙って謀反を起こしました。どうか、王殺しのダグラスを国賊だと勅命を出していただきたい」


 そしてエルに向かって妖精姫様として勅命を出してほしいと願い出た。


「っ…私は妖精姫ではありません…勅命は出せません」


 だがエルから出た言葉はエリザベスの言葉を全て否定するものだった。

 エリザベスが信じられないものを見たように目を見開いた。


「そんな!なぜ否定なさるのですか!?」

「私は妖精姫ではないからです」

「ではその弓は!?それは国宝の宝具ではないですか!それを持っていながら妖精姫様ではないと!?」


 エリザベスは食ってかかるようにエルに詰め寄った。


「エリザベス様、落ち着いて…」


 マルゴッド伯爵がそれをなだめようとするが、エリザベスは聞く耳持たない。


「妖精姫様!まさか自ら望んで?なぜ……なぜお隠れに!いえ、なぜお認めにならないのですか!!」


 エルは妖精姫であることを否定する。

 そしてエリザベスはそれを全く信じない。


 その結果、エリザベスは誰の目から見ても明らかなくらい興奮していた。

 この時のエリザベスは普通でははなかった。

 突然父が死に、兄に裏切られ、濡れ衣を着せられる。

 這々の体で逃げ出したところに、失踪した妖精姫と疑わしき人物が目の前に現れた。

 それらの疲労と混乱から普通ではなかったのだが、その時の幸太郎はそんなエリザベスの複雑な心境を知る由もない。


 そうして興奮したまま、エルに詰め寄ったエリザベスは突然崩れ落ちた。


「姫様!?」

「少し寝かせました」


 エルは崩れ落ちたエリザベスをそっとうけとめる。

 片方の手はエリザベスの首元に当てられており、それはほのかに発光していた。

 恐らくは強い魔力(マナ)を当てて気絶させたのだろう。強い魔力(マナ)を当てるとそういうことができるとリズも言っていた。


「何か、あったのでしょうか?」

「色々とね……」


 エルからすれば、屋敷で待ってて幸太郎を出迎えたら、よく見知らぬ女から妖精姫呼ばわりされて否定したらいきなり詰め寄られたのだ。

 困惑するのは当然であった。


(いやそれにしては顔が青いし、汗もかいてる?)


しかしそれ以上にエルは挙動不審だ。いきなり王女を気絶させたこともそうだし、明確に否定したり罵倒したりしないのは何となくエルらしくない。


「…とりあえずはみんなで話をしよう。情報をみんなで共有しないと何も出来ない」

「…そうですな。私も知りたいことが多いですし」


 各自で持っている情報に差がありすぎて、情報共有こそが何よりも求められていることに対して反論する者は皆無だった。


 リズは、まだ部屋で休んでいたようだった。

 外にいたら合流できるか怪しかったので休んでいたのは幸いだった。


 エルを除いたビーイング達には完全武装で外を固めてもらう。

 ヘルフレイムドラゴンはその中の最大戦力だ。

 周囲の住人、と言っても大半は貴族、が驚愕してこちらを指差したり逃げたりしてたが、程なく会場から戻った人の話を聞き、今度は慌てて逃げる支度を始めていた。

 城内の鎮火や掌握に思ったより時間がかかっているようで、ダグラスの一味がこちらに来る様子は今の所ない。


 幸太郎達は部屋の一室に集まる。

 部屋にいるのは幸太郎、エル、リズ、マルゴッド伯爵、そして目を覚ましたエリザベスがいた。


「エリザベス様、まずは情報の整理をしませんか?今後のことを決めるためにも」

「…そうですね。そうすべきかもしれません」


 起きたエリザベスに対して、エルが妖精姫かどうかは別としてとりあえずは今後のために情報を整理したいと伝えたら、冷静になったエリザベスはそれに同意してくれた。


 各自が持ち寄る情報を共有する。

 まず幸太郎がカードのことをぼかしてエルとの出会いとこれまでのことを語る。

 そしてマルゴッド伯爵がそれを捕捉する。

 そしてエリザベスは妖精姫が突然失踪して、王家はそれを秘密裏に捜索していたことを告げた。


「妖精姫様は一年前から行方不明?」

「はい。そして王家は妖精姫様を秘密裏に捜索してました」


 あらためてエリザベスの口から語られたのは妖精姫はかなり前から行方不明という事実だった。

 この国では妖精姫は国の象徴と言われる貴人中の貴人。

 行方不明になった場合、普通なら大規模な捜索が行われてもおかしくない。


 それはつまり最高権力者がずっと不在であり、それを政府が隠していたと言うことに等しい。


「なぜ秘密裏に?大々的に捜した方が…」


 そんな幸太郎の至極当然な疑問は、マルゴッド伯爵によって説明される。


「妖精姫様が消えたことが公になれば、大混乱となります。もしそうなった場合、その隙を魔王軍に突かれていたでしょうな……」


 そう説明するマルゴッド伯爵も理解はしても納得しないといった感じである。

 王家がその重要事実を隠していたことには思うところがあるのだろう。


「当初は魔王軍の仕業かと危惧されていました」


 だがもしそうなら魔王軍は大々的にこのことを宣伝しないはずがないためその可能性は低い。


「本当は今日、陛下……父上自ら発表する予定でした」


 そして一年前の魔王軍に押されていた劣勢な時期ならともかく、勝利を収めて魔王軍を撤退ささせることに成功した今の時期なら公表できると王は踏んだらしい。


「叙勲式の祝賀会は行方不明の妖精姫様を公開して大規模に捜索するチャンスだったのですが…あんなことになるなんて……」


 当然、貴族たちに動揺は広がるだろう。

 下手したら反発や離反もありえたかもしれない。

 だが魔王軍という脅威とそれを退けた実績、そして王家が積み上げてきた歴史の重みでなんとかことを収める算段だったようだ。

 その上で貴族たちに捜索協力を願い出る方針だった。

 もし見つからなかった場合は妖精姫がいない場合の体制構築を提案する予定だったが、ダグラスはそれに強く反発していたそうだ。

 ダグラスは影武者を立てて、徐々にその権威を王家に移行していき、自然と妖精姫の影響が消えるシナリオを演出したかったらしい。


「父上の説得で納得していたと思っていたのですが、まさかあんな手段で口封じを図るなんて…信じられません」


 エリザベスが憂鬱そうに呟く。

 父を兄に毒殺されたショックは大きいらしい。


「このことを知っているのは?」

「あとは宰相、将軍と近衛騎士団長とその部下数名が知っています。しかし将軍はダグラス派。おそらくは敵に回っていると見ていいかと。騎士団長は妖精姫様を捜索中で現在は地方にいるはずです。宰相は私よりでしたが、あの様子では拘束、最悪殺されていてもおかしくないかと…」

「えっとつまり、今回の出来事の遠因は妖精姫様が失踪したことによる内乱ってこと?」


 話を聞いてたリズがおずおずと尋ねる。

 王女を前にしてリズにしては珍しく緊張しているようだった。


「まあ、そういう結果になるかもしれませんなあ…妖精姫様がいれば、こんな浅慮を許すはずもなし」


 マルゴッド伯爵が見解を語る。


 話を聞く感じ、妖精姫は積極的に政治に関わらないが、代わりに王選定は厳格だったとか。

 王の実子に資格がなければ、妾の子供から王を立てることもあるくらい選定には容赦がなかった。


 当然反発もあるが、妖精姫は弓の名手であり、相当な実力を持つ。

 生半可な相手では返り討ちであり、国を仇なすものには容赦しない。

 侵略者の軍を相手に弓一本で退けたとすら言われている妖精姫に逆らう者はこの国にいないとか。


 そんな妖精姫から見れば今のダグラスは資格なしとみなしてもおかしくない。

 王を毒殺して国に混乱をもたらよすものに次の王の資格がないのは明らかだ。

 話を聞く限りでは自ら誅を下しにいってもおかしくない。


「なるほど。それでエリザベス様はエルが妖精姫そっくりだったので思わず詰め寄ったとおっしゃると」

「そっくりではありません。妖精姫本人です」


 エリザベスはエルは妖精姫本人だと確信していた。

 子供の時から一緒にいたというエリザベスの話を信じるなら、少なくともエルは妖精姫に瓜二つらしい。

 妖精姫はエルフであり長命種だ。

 子供の時からその容姿が全く変わってなかったらしい。


 エリザベスはそのことを強硬に主張するが、


「私は妖精姫では…」


 エルはそれを頑なに否定する。


「では仮にそうだとしても、あなた様が妖精姫として勅命を発してもらえれば、この問題は解決します!どうか協力を」


 今度は偽物としても構わないからと、かなり無茶苦茶なことを要求してくる。


「ですがそれは、ダグラスのいう影武者を、偽物をたてるのと同じことでは?」

「それは…」


 幸太郎がそういうとその自覚があったのかエリザベスは沈黙する。


(エルは妖精姫なのか?)


 幸太郎としては、願望を言えるなら、エルは妖精姫であって欲しくはなかった。


(エルを呼んだのはほぼ一年前のことだから、妖精姫が消えた時期と重なる)


 だが無視できない疑念が存在している。

 エルを呼び出した時期と妖精姫が消えた時期は重なっていた。


(妖精姫の話を聞く感じ、弓の名手ということもスナイパーエルフの能力に酷似している)


 エルフは総じて弓の扱いに長ける。


 だが、弓一本で軍を退けるとなると手段は限られてくる。

 それこそ現代の狙撃兵みたいに、指揮官を狙撃するか、伏撃でけが人を続出させる方法で軍を足止めするくらいしか方法がない。


 普通の弓でそれは無理だろうが、スナイパーエルフであるエルの矢は魔法の影響か大砲のような威力を持つし、かなりの長距離狙撃もこなしたことがある。


 エルが妖精姫かどうかは別にしても、妖精姫はスナイパーエルフがそれに類似する能力をもったエルフであると思えた。


 しかしエルが妖精姫であることを幸太郎は認めたくない。


(もし本当にエルが妖精姫だった場合、自分は妖精姫を誘拐して、しかも隷属させている人物ということに…)


 国家元首を誘拐して奴隷労働を強要。

 字面だけ取れば、この上ない悪質なテロ行為である。

 死刑になるには充分だ。


(そしてその結果起こったこの騒ぎ…)


 王を毒殺して、妹に濡れ衣を着せようとしたのはダグラスだが、そのダグラスも妖精姫がいればこんなことはしなかっただろうと言う。


(あれこれ普通に元凶は自分ということになるんじゃ?)


 つまり今回の問題は幸太郎によって引き起こされた最大級のトラブルということになる。

 何しろ今この時点でも、王の死亡と、貴族の死傷者を少なからず出しているのだ。


 そしてこれから内乱となれば、さらに多くの死傷者を出すことになるだろう。


 もしそうなれば、幸太郎は自身の命を持って償うか、その前に全身全霊をかけてこの騒ぎを納めなくてはいけなくなる。


 だからエルは妖精姫であって欲しくないと幸太郎は願っている。


 だが、その一方で会う人みんながエルのことを妖精姫だと言い張る。

 そのことにもしかして?という嫌な予感を感じているのも事実だった。


「あの、そもそも妖精姫様が消えた理由は何が考えられますか?」

「え?」


 だから幸太郎はエルがそうではないという根拠を欲しがった。


「いえ、エルは妖精姫様かどうかはともかくとして、消えた理由がわかれば、何かヒントになるかもと思ったので」


 エリザベスが幸太郎の言葉に思案げな顔をする。


「そうですね…ここで言うことか悩みますが…」


 エリザベスはエルをちらりと見る。

 確かに本人と思わしき人の前では言いづらいこともあるのだろう。


「ですがこれで記憶を取り戻してもらえるなら…」


 エリザベスはエルを記憶をなくした妖精姫だと考え始めたようだ。


「もし妖精姫様が自発的に消えたのであれば、一番大きな可能性としては新たに仕えるべき主人を見つけたからではないでしょうか?」

「どういうことですか?陛下がその主人ではないのですか?」

「妖精姫様は長年我が王家に仕えてきてくれましたが、実際は初代王の遺言に従い次の真なる王が現れるまでの間、庇護するという約束の元に城に存在してくださったのです」

「え、それって今の王は妖精姫が仕えるべき主人ではない?」


 それは幸太郎が聞いていた話と矛盾する。

 今の王家は妖精姫が仕えているからこそ王とし認められていると言う話だったはず。


「はい。妖精姫様は真の王が現れるまで王家を庇護すると常々おっしゃってました。王家はそれを意図的に解釈して、王家から真の王が生まれるまで妖精姫様が庇護していることにしてました」

「え、それって…」

「はい。御察しの通りです」


 王家から真の王が生まれる根拠はどこにもない。

 つまり妖精姫の言葉を曲解して王家に権威づけする根拠にしていたということだった。


「でも教えても良かったのですかそんなこと?」


 それはつまり今の王家はあくまでも代行で、今の王家は妖精姫に王として承認されてないことを暴露するに等しい。


「はい。妖精姫様がそれで問題ないと仰っていたので問題なかったのです」


 その理由として、妖精姫の望む仕えるべき真の王が生まれる可能性が高いのは真の王を輩出した王家だと言うのは確かに理にかなっている。


 だから妖精姫は代々この国の王を選んでいるらしいが、それは「初代王の血族の中で最も王に近いのものは誰か?」と聞いた結果らしい。


 なので王だとは明言されてない。


 そしてそんな言葉遊びでこの国は真の王とやらが不在で回ってきたらしい。


「今までの話で、妖精姫様は何か思い出されましたか?」

「いえ、ですから…」

「ほら、王宮にいた頃はよく私に弓の手ほどきをしてくださったではないですか。残念ながら私は才能なくてあの岩をも砕く強力な魔法の矢を放つことはできませんでしたが」

「……」


 エルは普段の戦闘で魔法の矢を多用していた。


「あと、交渉についての講義もされました。お忍びで外に私を連れ出て、乞食に宝石を上げようとしたら、過度な施しは為にならないと教えてくださいました。今でもその教えは大切にしてます」

「……」


 幸太郎にはエルと初めて会った時にそんなことを言われた記憶があった。


「それにお祭りにこっそり出た時も妖精姫様のあんなにはしゃがれた姿を見たのは衝撃的でした。妖精姫様が実はお祭り好きだったのを知ったのはあの時が初めてでしたよね?」

「……」


 マルゴッド感謝祭でもエルははしゃいでいたなと幸太郎は過去に思いをはせる。


「ですが、あのあと平民にお忍びなのに無礼打ちしようとしたのは焦りました。いきなり刃物を突きつけるような真似はやめたほうがいいかもと思います」

「……」


 エルも時々幸太郎に無礼を働いたものに刃物をチラつかせていた。

 そのくせは今も治っていない。


(あれ、なんか心当たりがありそうなエルの行動ばっかり聞こえてきたぞ…まさか…)


 幸太郎は考える。

 もし、エルが妖精姫本人であり、カード召喚によって王城から呼び出されたとしたら…。


「……あの、幸太郎様…何故先程からこちらをそんな目で見られているのでしょうか?」


 やはりこの動乱は幸太郎の安易なカード利用が遠因となって招いたことになってしまう。

 幸太郎の中でその疑念は膨れ上がってしまっていた。


「エル、ちょっといいか」


 だから幸太郎はエルを引っ張って廊下に連れて行く。

 外のビーイング達に中の人を出さないようにすることも忘れずに伝える。

 これから聞くことは他の誰にも聞かせたくないからだ。


 廊下の端でまで連れてきて、エルを壁に立たせた上で、逃さないように壁に手をついた。


「あ……」


 いわゆる壁ドンであった。


「なあ、エル。これはお前の主人として確認するが、お前本当に妖精姫じゃないんだよな?」


 幸太郎にしては珍しく凄みすら効かせた言葉はエルを相当萎縮させたらしく、エルは盛大に目を泳がせた。


「あの、その、私はもう妖精姫じゃないですので…」

「もう?」


 しどろもどろなエルの否定の言葉。

 だがそこに聞き逃せない部分があった。


「今もうって言ったよね?それどういう意味?」


 答えいかんでは今後の方針が180度変わる。

 幸太郎は真剣だった。


「あの、その、私は幸太郎様に呼ばれる前は、その…役割(ロール)は外れたので…」

「で?」


 ごまかしは許さないと視線で訴える。


 絞り出すようなエルの声。

 声は激しく震えている。

 普段は冷静沈着なエルとは全く異なる態度に幸太郎の警戒心は最大になる。


(まさかまさかまさか!)


「呼ばれる前は妖精姫だったのか?」

「そう…です」


 だがとうとうエルはそれを認めた。

 エルは涙目でこちらを見つめてくる。

 だが幸太郎はそんなエルをすでに見ていなかった。


「あ、あああ…」


 この動乱は自分のせいで起こった。


 その事実が幸太郎の心をフルボッコにしていたからだ。


 幸太郎はその場に崩れ落ちる。


(もうやだ…なんでカードを使っただけなのにこういう事態になるの…これじゃカードが文字通り災いの種じゃないか…)


「う、うわああああ…」


 そしてマジ泣きした。

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