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毒殺と濡れ衣の代償は?

 血を吐いた王はその場に倒れ伏して白目を剥く。

 そして微動だにしなくなった。

 誰の目からも死んだのは明らかだった。


「全員その場を動くな!」


 突然パーティ会場に騎士の一団が流れ込んでくる。

 それを率いているのは第一王子ダグラスであった。


「兄上これは一体!」


 第二王女エリザベスがダグラスに詰め寄ろうとする。


「姫様!お待ちを」


 だが、それは不穏な空気を察したマルゴッド伯爵によって止められる。

 そして、マルゴッド伯爵に誘導される形で幸太郎のそばに近寄った。


(え?なんでこっちに?)


 騎士達は、出入り口を固めたあと、三手に分かれて行動を開始する。


 一つは倒れた王の方に向かい介抱してるもの達を手伝い始めた。


 もう一つは、会場にいるもの達の一部に武器を手渡し始めた。

 武器を渡されたもの達は特に疑問を持つことなく着剣してゆく。

 あらかじめ段取りがしてあったかのような自然さだ。

 武器を渡されてないもの達は困惑している。

 元々武器を渡されたもの達は意図して外縁部にいたようで、あっという間に武器を持ったもの達に参加者は囲まれる形になる。


 そして最後の集団は幸太郎達を囲んだ。

 いや正確には囲んだはエリザベスだろう。

 それなりの人数が配置されていた。


「妹よ。いや、第二王女エリザベス。貴様を王毒殺の容疑で連行する」

「な!」

「えぇ!」


 エリザベスが驚愕の叫びをあげる。

 幸太郎も同じく叫び声をあげた。

 ダグラスはエリザベスによって王が毒殺されたと告げたからだ。


「これは一体どういうことですか?」

「ふん、知れたこと。貴様のメイドから情報提供があってな、貴様の部屋から謎の薬品が発見された。そして検証の結果、それは禁制品の毒薬だと判明した。それを聞いた私は慌てて駆けつけたが…どうやら遅かったようだな」

「馬鹿なことを仰らないでください!まさか私が毒を盛ったというつもりですか?!」

「ふん。白々しい!毒薬を隠しもっておいてよく言う。まさか陛下の命を狙う愚か者だったとは!」

「一体何を言っているのですか!私がそんなことして一体なんの得が?!」

「これ以上は問答無用!貴様を拘束させてもらう」


 そう言って騎士達がエリザベスを拘束しようと近づく。

 だがそばには幸太郎がいる状況で、護衛のビーイングたちが動かないはずはない。

 騎士たちは幸太郎の護衛のビーイング達に遮られる。


「……」


 ビーイング達の尋常ならざる気配に騎士達は動きを止める。

 シールドソルジャーとナイトは礼服に身を包んだ生身であり、武器も携帯してないが、その威圧は武装した騎士達を威圧するには十分だった様だ。

 そしてビーイング達と騎士達が睨み合うことになった。


(騎士ということはナイトだよな?多分)


 ナイト

 ビーイング

 アタック200

 ディフェンス200

 マナコスト2


 そうなるとナイトの集団に囲まれているこの状況は大変危険だ。

 つまりは武装した幸太郎と同程度の技量を持つ騎士が何十人といるのだ。

 コマンダーと勝利の笛で強化された2人だが、今の能力はこの通りだ。


 シールドソルジャー

 ビーイング

 アタック300

 ディフェンス400

 マナコスト2

 守護


 ナイト

 ビーイング

 アタック400

 ディフェンス300

 マナコスト2


 しかし、武器を持ってないということは、実際はこれより大幅ダウンと幸太郎は考えた。


(それを確かめる手段はないけど…正直荷が重いかも知れない)


「なるほど、幸太郎殿の冒険者仲間か。これほどの殺気を放てるとは、相当な戦場を渡り歩いたのだろう。どうだろう幸太郎殿。こちらにつく気はないかい?聞いての通り、エリザベスは大罪を犯した疑いがある。こちらにつくなら、先ほど話した通りの待遇で迎えよう」

「幸太郎様!騙されてはいけません。これは兄上の罠です。兄上はわたくしを嵌めようとしてます。王を殺したのは兄上の方でしょう!」

「だまれエリザベスよ。これ以上の証拠はない。何を言っても見苦しいぞ!」


 この状況はどちらかが明らかに嘘をついている状況だった。

 だから幸太郎は問いかける。


「なぜそこまで私のことを買うのですか?」


 真意を確かめるために。


「何、幸太郎殿は英雄の器だ。こんなつまらないことで埋もれるべきではない。そう思ったまでよ」


 どうやらそれは本心らしい。

 眼鏡をかけた幸太郎にはそれが"視えて"いた。


「ありがとうございます殿下。まさかそこまで買っていただいていたとは。そのために残念です。あなたがこんな大嘘をついてまで妹を貶めようとしているなんて」

「何?」

「幸太郎様!」


 ダグラスの眉がびくりと上がり、エリザベスが安堵の笑みを浮かべる。

 幸太郎にはダグラスが毒殺云々に関しては嘘をついているとはっきり見えていた。

 真実写しをつけることで、嘘をついた時の邪気がはっきりと見えたのだ。

 一方エリザベスにはそれが全く感じられなかった。


(咄嗟に真実写しをつけておいてよかった。まさか嘘まで見抜けるなんて…いや、相手の手札を見るってやっぱりそういうことなのかな)


 相手の隠していることをさらけ出してしまう効果を発揮する真実写しはこういう陰謀ではとてつもなく強力な武器になる。

 ただ欠点があるとすれば、あまりつけすぎると目と頭が痛くなることだ。

 それは過度な情報量が入ることが原因と思われた。


(でもなんでこのタイミングでこんなことするかな?というかこれクーデターだよね?そうじゃなくてもテロだし。せめていないときにやって欲しかった…)


「ふん、貴様もエリザベスに誑かされたクチか」

「いや、ちょっと待ってください。それは聞き捨てならないですね。私はあなたが嘘をついてなければあなたについてましたよ」


 幸太郎はエリザベスと自分の名誉のためにもここは訂正させておくべきと思った。


「私にはあなたの嘘と本当がわかるのです。嘘だと思うなら試しに何か言ってみてください。当ててみましょう」

「ふん。世迷いごとを。そんなの信じれるわけないだろう」

「本当」


 やはり信じてないようだった。

 まあ、当たり前だろう。


「エリザベスが毒殺の犯人なのは間違いない」

「嘘」


 ダグラスは無実の罪をエリザベスに着せようとしていた。


「証拠も上がっているのだ」

「嘘」


 証拠もでっち上げらしい。


「陛下が飲んだのも同じ毒物だろう」

「本当」


 推定だから嘘ではないかもしれない。

 あるいは同じ毒であることを知っている。


「王殺しは重罪で死刑だぞ」

「本当」


 やはり死刑らしい。


「庇えば貴様も同罪だぞ」

「本当」


 幸太郎も死刑にする気らしい。


「今こちら側につくなら、安堵を約束する」

「本当」


 こちらを助けるのは確からしい。


「貴様の様な武人を殺すのは本当に惜しいんだ」

「本当。ありがとうございます。本当にそこまで評価していただいているんですね」


 予想外な高評価だ。


「…ああ、だがたった今何をおいても殺さないといけない相手になった様だ」

「嘘ですね」


 ダグラスは真顔になった。


「貴様の判定は無茶苦茶だな」

「嘘」


 無茶苦茶じゃないらしい。


「貴様が心を読めるなど信じられるわけが無いだろう!」

「嘘。信じていただいたようでなによりです」


 信じてもらえたようだ。


「…やはり貴様は殺さないといけない相手だ」

「本当ですね。あれ意見が変わった?」


 どうやらダグラスの殺すリストに幸太郎は無事登録されたようだった。


(あ、そうか。王子にとって嘘を見抜ける人間って都合悪いもんな…あ)


 幸太郎がエリザベス側に付く以外選択肢がなくなった瞬間である。


「……」

「……」


 幸太郎とダグラスは無言で見つめ合う。


「いや、殿下落ち着いてください。私は能力を示したまでで、決して殿下の大義を邪魔するわけでは」

「奴を殺せ!」


 慌てて敵意がないことを示そうとするが、もはや手遅れだった。

 騎士達が抜剣してこちらに斬りかかろうとしてきた。


(これは正当防衛、これは正当防衛!)


 ファイアーボール

 スペル

 マナコスト2

 相手のビーイングに200ダメージ


 そして騎士達は幸太郎のスペルによって魔法の炎で焼かれることになった。


「ぎゃあああ!」

「うぎゃあ!」

「あつい!あづいぃ!!」


 直撃を受けた騎士はもちろん周囲の数人も巻き込んで盛大に燃え上がる。


「きゃあああ!」

「火事だぁ!」

「に、逃げろぉ!」


 突然現れた火で、会場は大混乱に陥った。

 剣を持った者達も動揺し、剣を持たないものの動揺はそれ以上だった。

 我先に会場から逃げ出そうとする。


「まずい!消火急げ!宮廷魔法師を呼び出せ!」


 会場を掌握していたダグラス王子も火を鎮火するべく命令を発する。


 そこに幸太郎の護衛であるナイトとシールドソルジャーが動き出す。

 混乱した騎士達の懐に入り込み、1人ずつ投げ倒して、素早く剣と盾を奪い取る。

 そして、2人は近くにいた騎士を一瞬で切り殺した。


「くっ!」

「王子はおさがりを!」


 王子を守るために、騎士達が円陣を組んで一旦下がる。


「この隙に逃げましょう!」


 それを好機と見たエリザベスは逃げることを提案した。

 エリザベスからすればこのままここにいても殺されるのは確実だった。


「確かにそうするしかありませんな」


 マルゴッド伯爵もそれに同意する。


「そ、そうですね。とにかく逃げないと…ああ…これで逆賊確定か…」


 幸太郎も捕まればただでは済まない。

 少なくとも放火した罪だけでも死刑は確定だ。


(火じゃなくてもっと別のスペルを使っておけばよかった?いや、そもそも王族の1人を敵に回した時点で色々終わった…どうしてこうなったし)


 だが、ダグラス派もいつまでも手をこまねいている訳ではない。

 ナイトとシールドソルジャーに牽制されている状況を打破するべく、一部の騎士が炎を迂回して突出してきた。


「姫様お覚悟!」


 状況は幸太郎に考える時間と手札を引かせる時間を与えなかった。


「幸太郎様!?」


 ナイトとシールドソルジャーが慌てて下がろうとするが、今度は逆にダグラスを守っている騎士達に牽制された。


 そしてそれこそがさらなる破壊と混乱を招くことを誰も知らなかった。


(やばい、今使える一番強いやつを!)


 だから幸太郎はよく考えもせずに咄嗟に一番強いカードを手にしてしまった。

 ここが屋内であることを全く考慮に入れぬまま。


 ヘルフレイムドラゴン

 ビーイング

 アタック800

 ディフェンス800

 マナコスト8


 幸太郎は現状の手札の最大戦力を躊躇なく呼び出したのだ。

 それはリズから勝てるわけないと断言された伝説のドラゴンである。

 そしてこの巨体は10メートルをゆうに超えていた。


 ドゴオオオオン


 故にヘルフレイムドラゴンが天井と壁を突き破ってこの場に現れてしまうのは必然であった。


「グオオオオオオ」


 更に主人の危機に呼び出されたヘルフレイムドラゴンは、怒りの咆哮をあげた。

 その衝撃波で、崩れかかった壁や天井の崩落が加速する。


「きやああああ!」

「うわああああ!」


 壁や天井の崩落に騎士や客が飲み込まれる。

 それに巻き込まれなかったのはすでに逃げ出していた客や、たまたま崩れなかった天井や壁にいた一部と、ヘルフレイムドラゴンが守っていた幸太郎達とその付近にいたものである。


 そのヘルフレイムドラゴンの近くにいたもの達にはダグラスとその護衛の騎士達も含まれている。


 そのうちヘルフレイムドラゴンはダグラスの方に怒りの目線を向ける。

 ビーイング達にとって、幸太郎を殺すものは全て許されざる敵であった。


「主人に仇なす不逞の輩よ、死ね」

「た、退避!退避ィ!!」


 ヘルフレイムドラゴンはを振り上げて騎士達をなぎ払おうとした。

 ダグラスが騎士達に退避を叫んだ。


 本来ならブレスを吐くところをそうしなかったのは近くに幸太郎が居たからだ。

 そしてそれ故に発熱を抑えていたのも被害の拡大を防ぐ理由の一つになっていた。

 そうでなければこの場にいたすべての者達は炭になっていてもおかしくないからだ。


 だがそれを抜きにしてもその巨体から繰り出される一撃は恐ろしい。

 土ぼこりで視界不良なのも幸いしたのだろう。

 ダグラスは難を逃れたが、近くにいた騎士の何人かがヘルフレイムドラゴンの腕に吹き飛ばされて肉塊に変わった。


「ひきゃああああ!」


 その肉塊は、崩落を免れた一角にいた人々に降りかかり、それを被った貴婦人が悲鳴をあげて倒れる。


「うわあああ!ドラゴンだあああ!」

「退け!退けえ!」

「うう…体が」

「おかあさーん!」

「誰かだ、だすけてクレェ!」


 ドラゴンはこの世界の住人にとって恐怖そのものだ。

 体長10メートル弱の爬虫類が現れたのだから当然といえば当然である。

 恐竜映画のワンシーンのように、崩落に巻き込まれず無事だったものは狂乱のうちに逃げ惑い、崩落に巻き込まれたものは助けを求めたり呻き声を上げていた。


 こうして会場はあっという間に惨劇の場となった。


(あわわわわ…)


 その悲劇を生み出した張本人たる幸太郎は、それを見て白目を剥きそうになる。

 倒れるのをなんとか回避できたのは、これまでの鍛錬の成果とエリザベスの声かけがあったからだ。


「幸太郎様、この後は如何するおつもりですか?」


 エリザベスが幸太郎とヘルフレイムを交互に見ながら幸太郎に問いかける。

 動揺しながらおずおずとした問いの中に期待が乗せられているような気がした。

 つまりは完全な敵となったダグラスをコレならば容易に討てるのではという期待だ。

 ああもあからさまに濡れ衣を着せられて謀殺されかけた側としては至極真っ当な反応と言えるかもしれない。


「ええと、それは…」


 だから幸太郎は考える。


 このまま、ダグラスを討伐することは確かに可能かもしれない。

 だがこんな伝説のドラゴンが暴れたら多くの無関係の人間が巻き込まれるのは確実。


 しかも、すでにダグラスの一味はこれ以上の被害拡大を恐れてか、会場から脱出し、城の奥へと撤退していた。

 こうなるとヘルフレイムドラゴンは迂闊に奥に進めない。

 これ以上進めば城全体が崩落して巻き込まれる危険がある。


「て、撤退しましょう」


 幸太郎は取り敢えず色々危険なここから一刻も早く逃げたかった。


「ですが、このドラゴンがいれば兄上、いえダグラスの陰謀を砕くことが…」


 やはりそれを期待していたエリザベスは幸太郎に追撃を提案する。


「いやしかし、そんなことしたら多くの人を巻き込んでしまいます…」


(今ですら色々やばいのにこれ以上罪を重ねたくないです)


 ファイアーボールもヘルフレイムドラゴンも今ならば正当防衛による不幸な事故ということはできるかもしれない。


 斬りかかられたから咄嗟に魔法を放った。

 ドラゴンは呼び出しただけだがまさかあんなことになるとは…。


 そんな言い訳である。

 だがここでヘルフレイムドラゴンをけしかけたらその言い訳がまず出来なくなる。


 下手したら幸太郎は王城を破壊した張本人として歴史書に刻まれてしまう。

 少なくとも貴族の怨みを買うことは必至だ。

 仮にこの時点で怨みを買っているとしても少ないほうがいいに決まっている。


 幸太郎にとって大事なのはあくまでどうすれば平和に生き残れるかだからだ。


 だからダグラスを倒さず濡れ衣を王女の共犯として被せられたままなことと多くの貴族を巻き込んで恨まれることを天秤にかけて幸太郎は前者を選んだ。

 もしかしたら、ダグラスがヘルフレイムドラゴンを呼ぶ幸太郎のデタラメさをみて考えを変える可能性も充分あった。


「エリザベス様、今は引きましょう」


 マルゴッド伯爵も幸太郎に同意する。


「伯爵まで!今ここで兄上を討たなければ!」


 そしてエリザベスは、貴族に恨まれることになってもダグラスを討つことにこだわろうとする。彼女からすればそれ以外に道がないと思っているのだろう。


「これ以上、無関係なものを巻き込んだら後に禍根が残りましょう。ここは一旦引いて貴族たちに立場を問うべきです。妖精姫様もこのような互いの暴挙は許しますまい」

「それは…そうですね」


 エリザベスは、何か言いたそうな顔をしてたがそれを飲み込むと力なく頷いた。

 幸太郎たちはヘルフレイムドラゴンによじ登る。

 その後で、周囲を警戒していたナイトとシールドソルジャーがよじ登る。

 それを確認すると、ヘルフレイムドラゴンは崩れた壁から外に這い出て、翼を羽ばたかせると、王都の上空へと飛び立った。


 上空に飛び上がると、崩れた会場に騎士達が戻ってくる。

 何人かはこちらを見て指をさして何事か叫んでいたが、すでにその頃には矢の届かない遥か上空を飛んでいた。

 ヘルフレイムドラゴン登場の余波で壁や天井が崩れた結果、火は大半が消えたようだ。

 だが、念のために、騎士達が水や砂をかけているのが見えた。


「これからどうしましょうか?」


 エリザベスは今後の予定が気になって、マルゴッド伯爵に尋ねる。


「まずは私の屋敷に戻りましょう。幸太郎殿の召喚獣(ビーイング)がいれば急襲される恐れはまずないでしょう。ダグラスもその恐ろしさは身に染みたようですし。あとは領地に手紙を送り、挙兵します。細かいことは屋敷で話を」

「わかりました。では幸太郎様。どうぞよろしくお願いします」

「あ、はい…ヘルフレイムドラゴン、よろしく」

「承知」


 ヘルフレイムドラゴンはマルゴッド伯爵の屋敷の方へと進路を向ける。

 どうやら幸太郎が協力することは確定事項になっていた。

 少なくともダグラスは幸太郎をエリザベス共々殺す気満々だった。

 幸太郎がこの危機を乗り切るためには、ダグラスが心変わりしない限り、比較的平和的な方法でダグラスを打倒して、妖精姫の承認を経てエリザベスを女王にするしか方法がないからだ。


(そうせざるを得ないけど、これつまりは今後は内乱になるわけ?どうしてこうなったし…)



 政争どころか本物の戦争になし崩しでどっぷりと浸かりそうになっている予感に幸太郎は頭を抱えたくなる。


(王が毒殺?なんでこんなことになる…妖精姫が象徴とはいえ事実上のトップであるこの国で、その代行者である王を殺したらどう考えたって次の王になれるわけがない。数百年国を治めてきた人物がそれを見抜けないわけないのにそんな短慮なことを王子がしたというのか?)


 そんな疑問を浮かべながら幸太郎は屋敷に戻ってきた。


「ど、ドラゴン?!」


 屋敷に降り立ったヘルフレイムドラゴンに屋敷の使用人達や衛兵は驚き、しかしその背中にマルゴッド伯爵と幸太郎を認めて安堵する。


「あ、なんだ幸太郎様の召喚獣(ビーイング)なら仕方ないですね」


 そして混乱は速やかに収束していく。


(混乱したままよりはいいけど、なんか納得いかない)


 そうして仕方ない扱いされた幸太郎はモヤモヤした気持ちで、庭に降り立った。


「ひ、姫様!?」


 だが、最後に降り立った人物の中にエリザベスを見つけて使用人や衛兵達は慌ててその場に膝をつく。

 エリザベスはマルゴッド伯爵の使用人達にも知られていたようだ。

 マルゴッド伯爵がエリザベスの支援者であることも関係しているのだろう。


「おもてをあげてください。皆様にはそれぞれやるべきことがございますでしょう?」


 エリザベスの許しを得て、使用人や衛兵たちは礼をして立ち上がり、慌てて受け入れ準備などをし始める。


「お館様これは一体…」


 侍従長がマルゴッド伯爵に問いかける。


「第一王子が王を毒殺して謀反を起こした」

「なんと!?では脱出を?」

「うむ、街へ早馬を出せ。挙兵準備だ。三重に行え。非番のものを全て喚び戻せ。兵は全て武装せよ。使用人は身支度を行え」

「はは!」


 そうして侍従長が使用人や衛兵達に指示を出すと皆が慌てて蜘蛛の子を散らしたように散っていく。

 あっというまに屋敷は秩序だった慌ただしい様相となった。

 そしてその様子を受けてというわけではないが、初めから屋根の上で警戒をしていた存在が屋根から飛び降りた。

 それは初めからヘルフレイムドラゴンに矢を向けることなく、ただ幸太郎を守るために追撃がないかと周辺を鋭く警戒していたために、ようやく安全を確信して幸太郎の元に馳せ参じた存在である。


「幸太郎様!」


 マルゴッド伯爵の声が聞こえていたのだろう。

 弓を片手に駆け寄ってきたエルはその美貌を露わに心配そうに駆け寄ってきた。


「ご無事ですか?どこかお怪我はございませんか?」


 幸太郎の身を案じて怪我がない確認する。


「ああ、怪我はないよ」

「ご無事で何よりです。ですが、こうなると分かっていればついて行ってたものを…」


 そして最初はいらぬ誤解を招かないために屋敷にいたことを激しく後悔しているようだった。

 だがそんな会話は長く続かなかった。


「妖精姫様ではございませんか!?こんなところにいらっしゃったなんて!」


 エリザベスはエルを一目見てそう叫んだからだ。

 事態はさらにややこしい方向に進んでいく。

 幸太郎が望まないにもかかわらず。

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