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決闘は貴人を呼び寄せる

「決闘だ!」


 互いの誇りをかけて決闘することになった。

 決闘のために中庭に移動する。


 当事者である幸太郎も呆然としたまま、中庭に移動する。


「幸太郎様お気を確かに」


 それを見た護衛の1人であるナイトがそれとなく注意する。


「ああ、すまない…」


 中庭は晩餐会の会場からも眺めるようで多くの貴族が成り行きを見守っている。

 決闘は貴族連中の興味を充分引いたようだ。


「さてさて伝説の召喚士と名高い幸太郎殿の実力はどれほどのものか」

「マルゴッド伯爵の懐刀でしょう?相当な実力では」

「だが、召喚士は魔法(スペル)使いの一種だろう?武器戦闘は戦士に劣るのでは?」

「いや、そうとも言えないぞ。噂では太古の魔物や魔王軍の魔神を討伐したとか。魔法(スペル)だけでそれが成し得るとは思えん」


 決闘を見学する貴族は多いし、彼らの漏れ出る話し声を聞けば、皆幸太郎がどの程度の腕前なのか興味津々らしい。


(なんか実情と違う噂が出ているような…)


 だから決闘が容認されたのだろう。

 余興という側面もあるのかもしれない。


「はあ…」


 こういう事態になっていることに幸太郎は嘆息する。


(不幸中の幸いは相手が叩きのめしても良心が咎めない相手なんだけど)


 相手は清々しいほどに腐った貴族と呼ぶにぴったりの相手。

 こんな相手はお話の中だけど思っていただけに、実際に出会うと衝撃だった。


(いや、現実にもいなかった訳じゃないけどここまで露骨だったかな?やっぱり身分のせいでより露骨に扱われてるんだろうか)


 相手は腐敗した貴族代表のような男だが、その剣先はぶれることなく幸太郎を見据えている。

 少なくとも決闘慣れしているのは明らかだった。


(実力と性格は別物か。そもそもレイピアは使い慣れてないんだよな。短剣ならやっと自信がついてきたんだけど)


「ふん、あの程度の挑発で簡単に決闘を申し込むとはやはり野蛮人だな」


 ワイリーにとっては願ったり叶ったりの状況のようだ。


「所詮はマルゴッド伯爵の犬。その戦功もどうせ虚偽のものだろう。その虚飾を剥ぎ取ってやろう」


 ワイリーはマルゴッド伯爵と敵対的な関係にあり、幸太郎を貶めることでマルゴッド伯爵を貶めることを意図しているようだった。


 幸太郎はそう結論づける。

 ならば自分のやることは、その不当な言いがかりを決闘で勝つことで払いのけることだろう。


「この決闘は互いの名誉を実力によって確かめるものである。今回はワイリー殿が負けた場合は幸太郎殿に謝罪し以後幸太郎殿に対する不当な発言を禁止される。幸太郎殿が負けた場合はワイリー殿の主張を認めよ」


 いつも間にか見届け人すら存在していた。


 つまり負けたら幸太郎はワイリーの主張を全部認めることになる。

 逆に勝ったらワイリーはこれ以上幸太郎に難癖つけることができなくなる。

 幸太郎は意図して行ったわけではないが、決闘の発端は誰もが見ていたのでそのような形になった。

 決闘自体が名誉をかけるものであるらしいのでこれは自然な流れであった。


(その為にはますは情報と分析だ)


 幸太郎は眼鏡をつける。

 それはいつもお世話になってる真実写しであり、これをつけることで様々な情報を得ることができる。

 それは単純な文章の翻訳だけでなく、魔力の測定や、隠された細工や罠の発見まで多岐にわたる。

 本来は隠された相手の手札を見るというアーティファクトだったが、変質によってとんでもない効果を発揮するようになったものの一つでもある。


「ふん、しかしそのような透明度の高いレンズを持つ高価な眼鏡を持っているとはな。金だけはあるようだな。もっともそんな貴重なものが決闘で割れなければいいがな」


 ワイリーがそう言って嫌らしく笑う。

 真実写しを見れば誰もがそんな反応をする。

 やはり眼鏡はかなり貴重品のようだった。

 それも透明度の高いガラスの生成はかなり高度な技術らしい。

 それをレンズ化するとなるとこの世界では職人芸なのだろう。

 隙あれば、叩き割るつもりなのかもしれない。


 幸太郎は自分の手のひらのレイピアを見る。

 レイピアには真ん中に妙な線が入っていた。


 再び、ワイリーのレイピアを見る。

 レイピアからは何故か魔力(マナ)が溢れていた。


(魔法(スペル)で強化されてる?)


 魔力(マナ)が漏れるのは強化魔法(スペル)をかけられた道具の特徴でもある。

 恐らくは魔法(スペル)で強化された一品なのだろう。


(強化魔法(スペル)なら、コーティングかな、ビーイングを+100/0できるはず)


 コーティング

 スペル

 マナコスト1

 自分のビーイング一体を+100/0する


 試しにその状態のワイリーを見ながらリセットボタンを押してみる。


 デッキ34/40

 手札6

 マナ2/2


 ワイリーはマナコスト2判定になっていた。


(武器のあるなしで強さ変わるのか…いや、当たり前か。向こうはレイピアを強化する細工。こちらは折れる細工)


 幸太郎は真実写しでそれらを見抜いていた。


「ワイリー殿。そちらの武器とこちらの武器を交換しません?」

「ば、馬鹿を言うな!」


 案の定、ワイリーはそれを断ろうとする。


「何故?」

「すでに互いが公平に武器をとった以上、交換した武器に細工をしないとは限らんだろうが。それとも何か、貴様は細工をしているから交換したいとでも?」


(すでに細工を施しておいてよく言うよ)


 ワイリーは勝ち誇ったようにこちらを見る。

 もしここで交換したらこれ見よがしに細工を指摘するのだろう。

 こちらはどっぷりと罠にはまった形だ。

 向こうの目的はこちらを徹底的に貶めることだから当たり前だろう。


「幸太郎殿…」


 マルゴッド伯爵もこちらを不安そうに見てくる。


(しまったなあ。マルゴッド伯爵になんて謝ろう…)


 幸太郎はマルゴッド伯爵にかかる迷惑を考慮せずに決闘を申し込んだ形になる。

 それ故に幸太郎は申し訳なく思った。


「申し訳ありませんマルゴッド伯爵。こんなことになってしまい…」

「いえ、幸太郎殿が決闘をされたのならそれ相応の理由があるのでしょう。話を聞く限り向こうに非があるようですし、遠慮はいりません。身の程を教えて差し上げてください」

「ちょ…」


 その一言はワイリーにもはっきり聞こえたようで、顔が真っ赤になっている。


「伯爵閣下、この私が負けると?」


 ワイリーはコメカミをピクピクさせながらマルゴッド伯爵に問いかける。


「…ワイリーよこの方が魔法(スペル)使いだからと甘く見るのは感心しないな。幸太郎殿は数々の難敵を苦もなく葬った方だぞ。そうでなくても冒険者とは命がけだ。それを生業としている幸太郎殿にお主が勝てるわけがなかろうに」

「…いいでしょうそこまで言うなら、私がその者に勝った暁には、膝をついて先ほどの発言を謝罪してもらいましょうか?」

「よかろう。それが出来るならな」


(やめて、ハードル上げないでください…)


 マルゴッド伯爵は自信たっぷりにそう告げるので、幸太郎はますます負けられなくなった。


「ただ幸太郎殿一つお願いが、どうか勢い余って殺す事だけはないようにお願いします。決闘はどちらが死んでも免責されますが、あの者はスタット子爵の唯一の後継なのです」

「…ギリ」


 それどころかさらに追い討ちをかけるように、敵の命乞いまでし始めた。

 ワイリーの顔は憤怒で真っ赤に染まり、歯ぎしりがこちらに聞こえくるほとだ。


(煽りすぎぃ!)


「いやいや、そんなことないでしょう?とりあえず全力で戦いますよ。相手に失礼ですし!」

「そんな…どうかお情けを!幸太郎殿が本気になったら跡形もなくなります!」

「え?あれ、もしかして本当にそう思ってます?」


 割と本気でマルゴッド伯爵が懇願してくるので、幸太郎はこれがワイリーへの挑発ではなく、本気のお願いである可能性に至る。

 だが頭に血の登ったワイリーはそれに気づかない。

 合図を待たずにこちらに斬りかかってきそうな気配すらあった。


「わかりました!とにかく伯爵はおさがりください!」


 未だ不安そうなマルゴッド伯爵を下がらせる。


(これ以上相手を挑発するの得策じゃない!)


 そして改めてワイリーと相対する。


「殺す。絶対殺す」


 もう手遅れなくらい、やる気満々だった。

 ()る気満々だった。


(うわーこれ本気でやらないと死ぬ…)


 手元にあるのは細工で折れやすくなったレイピア。

 一方向こうは能力を強化する魔法(スペル)のかけられたレイピア。

 まともに打ち合えばこちらが負けるのは必至だろう。

 一通り情報を収集し終えた幸太郎は、そう結論づけた。


 幸太郎はリセットボタンを連打する。


(お、出てきた)


 そしてお目当てのカードが出てきたことを確認する。


「両者準備はいいか?」


 見届け人である貴族の1人が確認を取る。

 幸太郎とワイリーは互いに頷く。

 合図を行う。


「よろしい。では…始め!」


 決闘が始まった。

 ワイリーは、レイピアを突きつけながらこちらに突っ込んでくる。


「はっ!」


 その剣先は幸太郎のつけてある眼鏡を狙っていた。

 突き刺して失明しても構わないとばかりの勢いで剣先が迫る。


 加速

 スペル

 マナコスト2

 マナコスト3以下のビーイング一体に「速攻」を付与する。


 世界が制止した。

 いや正確には、スロモーションになったというべきか。


 それは本来はビーイングにスキル速攻を付与するスペルであり、これを使うことで場に出た瞬間に本来は行動できないビーイングも行動できる。


(自分にもビーイング対象のスペルがかけられるなんてね。いや回復スペルが効く時点で今更か)


 それに気づいたのはビーイング対象の回復魔法(スペル)をリズが幸太郎に掛けてきたからだ。


 そのスペルの効果が現実に沿った形で変質した結果、時間が停滞したも同然の世界に幸太郎は存在していた。


 それくらいゆっくりと全てのものが動いている。

 それはワイリーのレイピアも例外ではない。

 その切っ先をはっきりと視認できている。

 そして自身はその中で普通に自由に動けるのだ。


(フィジカルバースト、いやウィッチタイムか)


 だからスローモーションでワイリーが勝ち誇った顔を浮かべる中、ワイリーの切っ先を幸太郎は難なく避けることができた。


 次に右手を動かしてワイリーのレイピアの柄に自分のレイピアを滑り込ませる。

 そして折れないように慎重にレイピアを真上に弾きあげた。

 幸太郎の高速の切り上げによって、ワイリーのレイピアは手を離れ、上空に浮かび上がる。


 そのことにワイリーが気付いた時には既に手遅れだ。

 幸太郎のレイピアの切っ先がワイリーの喉元に突きつけられる。


 打ち上げられたワイリーのレイピアはそのままゆっくりと下に落下してくる。

 幸太郎はそれを難なく受け取った。


 時間が再び正常に動き出す。


「続けますか?」

「ま、参った…」

「勝者!幸太郎殿!」


「「「「おおおお!」」」」


 その瞬間、中庭が拍手で包まれる。


「なんという技の冴えだ」

「全く見えなかったぞ」

「あれが魔人を屠り、数多の魔王軍を退けた者の実力か」


 口々に貴族が幸太郎を讃える。


「決闘の掟に従い、幸太郎殿に謝罪せよ」


 決闘の見届け人がそう宣言する。


「すまなかった!幸太郎殿は一流の戦士であった!」


 一方、決闘に負けたワイリーは謝罪した後こそこそ逃げ出していく。

 しかし、その顔はどう見ても屈辱で歪んでいる。

 向こうからすれば、幸太郎を貶めるのに失敗し、逆にプライドや名誉をズタズタにされた形だろう。

 決闘は名誉をかけるものとはいえ、後腐れなくというわけにはいかなかった。


(ああ、後からまた何かちょっかい出されそうな気がする)


 ふと見ると、マルゴッド伯爵に加えて、他の貴族が幸太郎に近づこうとしていた。

 護衛が制止しようするが彼らは止まらない。


(やばい囲まれたら逃げられない)


「あ、さっきの決闘で腕が!ちょっと医務室探してきます!」

「こ、幸太郎殿!?」


 ほとぼりを冷ますために幸太郎は、加速の恩恵を使って速攻で逃げ出した。


 貴族たちを振り切って、幸太郎がやってきたのは解放された城の一角にある庭のベンチである。


「はあ、なんとか乗り切った…」


 それに後から付いてきた護衛のビーイング達は周囲に散開させて警戒中だ。

 ビーイングと幸太郎は互いの大まかな位置がわかるので追跡は容易だ。

 一応トラブルになるのは嫌なので悪意や害意がなければ黙って通すように伝えている。


「あら、こんなところにいらしたのね」


 だからそうやって悪意も害意もない人物は普通に幸太郎を見つけて近寄ってきた。

 だがそれは幸太郎にとって意外な人物だった。


「お、王女様!?」


 やってきたのはなんとこの国の第二王女だったからだ。


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