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強者は貴人の誤解を補強する

 途中でアンデッドの集団に襲撃されるトラブルはあったものの、マルゴッドと幸太郎の一行は無事王都に到着する。


「大きいわね…」


 王都に始めてくるリズはそう呟く。

 幸太郎も同じ感想だった。


(マルゴッドの街と比べたらだけど)


 当然、日本の大都市群とは比べ物にならない。

 あれを見たらこの世界の人はひっくり返るだろう。

 王都はマルゴッドの街に勝るとも劣らない城壁に囲まれており、中心には城壁越しにもはっきりその全容が見える巨大な王城が存在している。


「大きい城ですね」

「ええ、この世界でも有数と言われておりますな。もっとも幸太郎様には見慣れたものでは?」


 マルゴッド伯爵の一言に幸太郎は眉をひそめる。


「なぜ?」

「いえ、リズさんと違ってあまり驚かれてないので」


 確かに幸太郎はあまり驚いていない。

 その城の大きさには目を見張ったが、日本で見た姫路城とどっこいどっこいだろうと思っている。

 その意味では白亜の城は美術的歴史的価値はあるかもしれない。

 あと500年くらい後世まで残ることができたら。

 それより問題は、マルゴッド伯爵はあれだけ否定しても、未だに幸太郎のことを王族の関係者と疑っていることだった。


(王の隠し子とか落胤みたいな疑い持たれてるんだよなあ。関係を保とうとしてるのもそれが理由の一つみたいだし)


 とはいえ最近は、そちらよりもシンパやエンシェントデストロイヤーの実績や貢献を重視しているように感じる。

 もし王の落胤でも何でもないと理解してもいきなり手のひら返しすることはまずないだろう。


(勝手に期待されて勝手に落胆されたら非常に不愉快だけど!)


 ちなみにそうなった理由の一つであるエルは、王都についてから馬車の中にこもっている。


「私がエルフであることが明らかになれば、いらぬ誤解や混乱を招くでしょう」


 それはおそらく正しい。

 今までの人々の反応を見たら。

 そしてエルがおとなしくしていることは幸太郎も望むことだった。

 だから自発的に自粛してくれるのは大変ありがたい。


(だけど今までならそんなの関係ねえとばかりに活動してたのに)


 逗留先であるマルゴッド伯爵の屋敷を確認すると、リズは早速王都の冒険者組合に向かった。


「ちょっと情報集めてくる!夕飯までには戻ってくるわ」


 そう言って居なくなったので、マルゴッド伯爵に与えられた居室にはエルと2人きりであった。

 なので幸太郎はこの機会に聞きたかったことを聞こうと考えた。


「なあ、エル。この国の妖精姫様のことは知っているか?」

「はい。知っております。私と同じエルフだそうですね。しかも大変にているとか」

「そうだ。エルは何故か似ているらしい。何故だと思う」

「わかりません。強いていうなら、エルフは人間よりもはるかに眉目秀麗な一族です。そうなると自然と顔の造形は似通ってくるかと」


(なるほど、確かに美人ってのは造形が美しいから美人だし、どれも似てくるという。逆はバラエティ豊富なんだけど)


「あとは他種族だからというのもあるのだろうか?犬とか見分けつかなったりするけど」

「はい。私は幸太郎様の犬ですから」

「いや、そんなつもりで言ったんじゃないけどな?」


(とはいえ、エルフは確かに美人だが、人間とは近親種だ。そんなに見分けがつかないものだろうか?)


 これを確認する方法が幸太郎にはある。

 つまりはもう1人エルフを召喚することだ。


「なら他のエルフを呼んでみるか」

「幸太郎様、それは」

「何か不都合が?」

「…いえ、御心のままに」


 エルが認めたので問題はないだろう。

 というわけで、幸太郎はスナイパーエルフを呼び出した。


 スナイパーエルフ

 ビーイング

 アタック600

 ディフェンス200

 マナコスト4


「お呼びでしょうかご主人様?」


 そこに現れたのはエルそっくりのエルフだった。


「……」


(エルと全く見分けがつかないんだけど…)


 その事実に幸太郎は絶句する。

 あまりに似過ぎであった。


「いや、呼んでみただけだ。ありがとう」


 幸太郎は今呼んだスナイパーエルフを返してカード化する。

 スナイパーエルフは消えてカードに戻った。


「如何でしたでしょうか?」

「うん。百聞は一見に如かずを思い知った」


(ここまで見分けつかなかったら、エルフ見たら誰もが勘違いするわ。絶対に貴族とかにはエルを見せないでおこう)


 妖精姫を見たことある貴族の1人が、幸太郎がエルを従えている光景を見られて王家に報告された日にはどんなトラブルに巻き込まれるかわかったものではない。


(良くてエルを影武者として寄越せとかだろうけど、そんなの認められないし、エルは外に出さないでおこう。悪ければ暗殺かなあ…)


 幸太郎はエルを屋敷に待機させておくことを決めた。


「エルは屋敷を警護するように」

「はっ」


 ついでにエルを他者に接触させないための人員も必要だった。

 幸太郎はデッキを編集して素早く構築を開始する。

 通常の魔物型ビーイングは王都では活動しづらい。

 また王都に着く前に大半はカード化したので、今は手元にエルしか護衛がいないのも心許ない。

 なので今回構成するのは軍隊系ビーイングで構成された軍隊デッキだ。

 これは低コストビーイングで構成されたデッキだが、援軍を呼んだり仲間を強化する効果を持つビーイングで構成された低コストビーイングによる速攻を基本とするデッキでもある。


 構築を終えた幸太郎は早速ビーイングを召喚し始める。


 シールドソルジャー

 ビーイング

 アタック100

 ディフェンス300

 マナコスト2

 守護


 セントリーナイト

 ビーイング

 アタック200

 ディフェンス200

 マナコスト3

 場に出た時、ナイトを場に出す。


 ナイト

 ビーイング

 アタック200

 ディフェンス200

 マナコスト2


 盾を持った兵士、鎧を纏った騎士が2人現れる。

 さらにそれを指揮する存在として、指揮官を召喚する。


 コマンダー

 ビーイング

 アタック300

 ディフェンス300

 マナコスト4

 場に出た時、軍隊系ビーイングを+100/0する。


 これによって、先ほど呼んだビーイングは軒並み強化される。


「これだとまだ白金クラスが4人か。ミスリルクラスが来たら危ういか?よし」


 幸太郎はさらにアーティファクトの使用を決意する。


 勝利の笛

 アーティファクト

 マナコスト4

 軍隊系ビーイングを全て+100/+100する。


 華やかな笛が目の前に現れる。

 これによってさらにビーイング達は強化される。

 これでミスリルクラスの護衛が揃ったことになる。


「こんな感じでいいかな?じゃあ挨拶するからついて来て」

「「「「了解!」」」」


 全員が一斉に敬礼する。

 全員軍人なので、上下関係はしっかりしているようだ。


「伯爵様、どうか屋敷に護衛を新しく置かせてもらいたい」


 そう言ってマルゴッド伯爵にビーイング達を紹介する。


「こ、この者達は?」

「私が雇いました護衛でございます」

「雇った?この短期間で?」

「はい。そうでございます」


 その間、ビーイング達は微動だにしない。

 その装備と気配は一流のそれだった。

 流れの傭兵とは一線を隔す気配を漂わせていた。


「なんという…このような(つわもの)を部下にお持ちだったのか」

「はい?」

「いえ、わかりました。ぜひ屋敷に逗留なさってください。幸太郎様はたまたま一流の傭兵を王都で見つけたので護衛として雇った。そういうことで御座いましょう?」


 そう言ってマルゴッド伯爵はウィンクする。


「あ」


(マルゴッド伯爵は自分を王族では?と勘違いしている。そんな人物がいきなりこんな精鋭を雇った護衛だと言って連れて来たら勘違いするに決まっている!)


 つまり幸太郎は、城から護衛の精兵を連れて来たと勘違いしているのだ。


「ああ、ええとですね。彼らは」

「傭兵ですよねわかってますとも」


(だめだこれ絶対わかってない)


 だがそれを強く否定して、本当の傭兵なぞ置いておけないと言われたら、引き下がるしか無くなる。


(連中はビーイングでカードから召喚したんですなんて言えない)


「ええ、まあ、そういうことです」


 幸太郎は曖昧に頷くしかない。


(いや、まだこれなら勘違いでは?で済ませられるはず。うん。別に王族だと肯定したわけじゃないし…自分で思っててあれだけど、危ういよなこれ…)


「承知しました。幸い使用人部屋に空きはございますのでそちらをお使いください」

「ご配慮ありがとうございます。使用料は如何程に」

「まさか!我が街に多大な貢献をしてくださる幸太郎様からお金を取るほど我が家は落ちぶれてはおりませんぞ!」

「いやですが」

「いえそんな」

「ですがですが」

「いいえいいえ」


 と言った感じてやりとりが続いて結局幸太郎が折れることになった。


「…ありがとうございます。ああ、それとエルはここに置いていきます」

「なんですと…エル様を連れて行かない?」


 そのことにマルゴッドは予想外だと言わんばかりの顔をする。


「そんな、今回の式典なら連れて行かないわけが…まさか本当に妖精姫でない?」

「いえ、エルは妖精姫ではありませんから」


(やっぱり勘違いしたままだったらしい。だがこれで勘違いも解けるだろう)


「ふむ。なるほど」


 だがマルゴッド伯爵はそれになんらかの推測をしてそれについて勝手に納得に至ったようだ。


「エル様は妖精姫ではない。なるほどそういうことにしておかねばいかぬ事情があるということですな?わかりました」


 マルゴッド伯爵はキリッと顔を引き締める。


(あれこれやっぱり勘違いしたままのパターンじゃないの?)


「あの、マルゴッド伯爵殿?」

「いえ、幸太郎殿皆まで言わずともわかりますぞ。私はむしろ感服したのです。それほどまでに妖精姫様と幸太郎様がこの国の為に動いていてくださったとは」

「え?」

「確かに国の要たる方が出歩くとなれば障害は多いもの。しかし、今は戦乱の世の中。それを勘案してもなさねばならぬことがあるならば、身分を隠して旅をする。そうせざるを得ないわけですな」

「はい?」


 どう聞いても、エルは妖精姫だと100パーセント確信した上で、こっちが建前を話しているようにマルゴッド伯爵は誤解している。

 マルゴッド伯爵の脳内では、きっと水戸黄門が流れているに違いない。


(どうしよう。勘違いを解きたいとこだけど。今まで散々それに挑戦してこの結果だし。もうここは勘違いを利用してゴリした方が早いんじゃないだろうか?)


 幸太郎にとって一番重要なのは、政治に巻き込まれないようにエルを貴族連中から隠し通すことだ。

 最悪それさえ達成すればいいと開き直ることにする。


(ああ、もうどうしてこうなったし)


 マルゴッド伯爵は幸太郎が何を言っても都合悪く理解して納得されて誤解されてしまう。

 幸太郎には全くもって理解不能で、説得不能な事態だった。

 人は自分が理解したいようにしか理解しないというが、これは行き過ぎだと幸太郎は頭を抱えて叫びたくなる。


(ええい!もうなるようになれだ)


「わかりました。これ以上は誤魔化しきれませんね…」


 その衝動をどうにか抑えて、幸太郎は腹をくくる。


「おお!ではやはり…」

「しかし!」


 マルゴッド伯爵が、確認を取ろうとするのをさえぎることで明言を避ける。

 後でそうじゃないとわかった時も言い訳の余地を残してなければ、いけないからだ。

 それが激しく無駄なことだとわかっていても。


「このことはどうか内密にしていただけないでしょうか?王族にもです」


 だから誤解を利用して、そうせざるを得ない事情があることにする。


「王族にもですか?」

「はい」


 マルゴッド伯爵は訝しげな顔をする。

 マルゴッド伯爵の誤解の上に立つなら、王族にすら秘密というのは理解不能だからだろう。


「それがエルの望みでもあるからです」

「!?」


 だからエルがそう望んでいることにする。

 妖精姫が王権を支えているとのことだから、その権威はかなり上だと推測したが案の定だった。

 マルゴッド伯爵がエルの望みだと聞いて考え込むような顔をした。


「何か深い事情があるのでしょうか?」

「ええ、詳細はお伝えできませんが、そう思っていただいて構いません」


(ああ、なんか泥沼に肩までどっぷり浸かっている感…)


 身分詐称、それも王族となれば確実に死罪だ。

 綱渡りをするつもりで崖に向かってダイブしているきぶんになったが、今更引くことはできない。


 ここまでのセリフでさすがにマルゴッド伯爵も、秘密にしてくれるとは思うが、念には念を入れる必要があると幸太郎は考える。


(今出せる最大の切り札はこれだ)


「もしそうなった場合は、私は遠くに旅に出なければいけないからです」

「まさか…」


 それを告げると、マルゴッド伯爵の顔が蒼白になる。

 幸太郎はその最悪の想像を保証すれば良かった。


「そうなると最悪シンパとエンシェントデストロイアーを引き上げることに…」

「わかりました!誓って秘密にいたします!」


 それらがいることで多くの利益を受け取っているマルゴッド伯爵は頷くしかなかった。

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