領主一行は王都を目指し、不死者は蛇に轢き殺される
屋敷で朝食を済ませた幸太郎たちは、王都に向けて出発する。
街を歩くと野次馬が幸太郎の乗った馬車をとり囲もうとする。
それを防ぐため衛兵やビーイングにがっちり守られながら、幸太郎は街の外でマルゴッド伯爵と合流する。
「おはようございます伯爵様」
「おはようございます伯爵閣下」
「おはようございます幸太郎様、リズさんも。よく寝られましたかな?」
「ええ…まあ…」
「はい。幸太郎の屋敷はとても過ごしやすかったわ!」
「ほほほ。そうでしたか。僅かながら私も屋敷の設計をお手伝いした甲斐があるというものです」
幸太郎の屋敷はどこかマルゴッド伯爵屋敷と似たところがあったが、マルゴッドが一枚噛んでいたようだった。
「では、そろそろ王都へ行きましょう」
「はい」
シンパやエンシェントデストロイヤー達防衛組は残して、幸太郎、リズ、エル、マルゴッド伯爵とその護衛が出発する。
「エル、道中の護衛は任せる」
「はっお任せください!」
常の如く馬車の護衛を行うエルを幸太郎は上位者として労う。
それはリズからの提案があったからだ。
「エルは幸太郎に命令されたがりなのよ」
そんな馬鹿なと思ったが、試しに命令したりこうやって上から目線で声を掛けると、エルは生き生きとし始める。
幸太郎の命を守るべく張り切ってエルは屋根に登っていつものようにけいかいをはじめる。
「ほらね?」
「うーん。確かに」
確かにエルは昨日から妙に上機嫌になっていた。
それは幸太郎が意識してエルに上位者として振る舞い始めてからだ。
「エルは幸太郎にちゃんとして欲しかっただけなのよ」
「ちゃんとして欲しかった…ね」
それはつまりマスターとして振る舞えということだろう。
確かにここ最近は、ビーイングに対して一線を引いていなかった。
上位者というより同じ仲間のように振舞っていた。
そこをエルは不満があったのだろう。
「そうよ。幸太郎は身分も高いのだから、それらしい態度や振る舞いはあるもの。つまりはそう言うことでしょう?エルが怒ったのも、そんな振る舞いを否定しようとした時だし」
「自身としては色々あって認めにくいんだけどねそれ」
「前から思ってたけど、幸太郎って自分の実力や身分とか功績をあまり認めたがらないよね?何か事情でもあるの」
「出る杭は打たれる。が信条なので」
幸太郎はこの世界では異質な存在だ。
それは他者の態度から明らかだ。
下手に目立てば危険視されて排除されるかもしれない。
だからなるべく目立つようなことはしたくなかった。
あとは過去のトラウマも若干ある。
「なんで?」
「過去に色々あったんだよ。まあもう手遅れ感あるけどね…どうしてこうなったやら」
なにせこの結果は現場になんとか対処しようとしてカードを使い続けた結果なのだ。
決して目立とうとか成上ろうとかそんな意図は全くなかった。
リズは表情を曇らせる。
「ああ、なんとなくわかったわ。幸太郎も苦労したのね…私も修行時代は実力が下だった兄弟子に嫌がらせされたし」
(半分正解)
「リズも苦労したのか」
リズとは師匠と弟子として一年間指導されるうちに気の置けない関係になってたが、こうして同じ苦しみを共有するものとしてより親近感が深まった気がした。
「でもだからと言って謙虚すぎるのもどうかと思うわ」
「そうかな?謙虚なのはいいことと思うけど」
「よくないわよ。実際にエルを怒らせたばかりでしょうが。人には立場に応じた態度というものがあるのよ。あなたの場合、謙遜を超えて卑屈になってるから余計にね」
「と言われてもな」
(実際は虎の威をかるを地で行ってるし。フレイムタイガーいるし。あ、上手いこと言ったかも)
そのことはリズにも他の人にも言えないから説明するのが難しいところ。
(こんな能力が使えるなんて、宝くじの一等が当たったのと同じだ。大金があるとバレたら、悪党が寄ってたかってくるから身内にもバラすなと当選者マニュアルには書かれているそうだから、隠すのは当然だな)
実際すでにその片鱗で、貴族からよってたかられているのだ。
(うん、なるべく隠す方針で続けよう。幸い召喚士の称号があるしある程度はごまかせるはずだし)
リズにだけは通じない手法なので、そこは注意する必要がある。
(とはいえ、自分の個人的な秘匿したい事情と周りの評価に応じた態度の取り方は別問題か。こういう相手による言葉や態度の使い分けも社会人には大事だというし頑張って練習しよう)
「まあ、なるべく態度を改めるようにするよ」
「ええ、そうするべきよ。幸太郎は潜在能力で言えば歴代最高の召喚士なのだから」
幸太郎とマルゴッド伯爵一行は王都に向けて北上する。
ずらずらと。
まずは先導として歩兵がマルゴッド伯爵の紋章旗を掲げて先行する。
その後ろを騎兵が続き、いつものようにスケリトルドラゴンに曳航された幸太郎の馬車とビーイング達、そしてマルゴッド伯爵の馬車、その後に食料などの積み荷などを載せた馬車が複数台続き、後ろに騎兵、そして最後尾に歩兵が続く。
さながら大名行列のようであった。
「まるで大名行列だな」
「大名って何?」
「自分の国にいた偉い人だよ。各地を治めていた領主のような…というか領主そのものだわ」
「ふーん。幸太郎の国では違う呼び方するのね」
歴史の授業は受けていたが、なんとなく西欧の領主と、日本の大名は違うみたいなイメージだったが、役割としては全く同じことに幸太郎は気づく。
そしてそう考えると領主として王都に向かうなんて、大名行列みたいというか参勤交代そのものだった。
「よく考えたら、そんな身分の人と知り合いどころか敬われて同行させてもらってるって凄いこと?」
「今更?!」
リズは「気づいてなかったのか?」といったばかりに呆れた様子になる。
「しかも領主に敬われるなんて前代未聞よ?だから幸太郎は貴人かと私も思ったし。私も幸太郎の教育係ということで名誉貴族待遇なんだけど?」
名誉貴族というのは、聖職者や豪商、高名な学者など、貴族の身分はないけど貴族として扱われる人々のことである。
貴族というのは戦功によって、与えられたりするものだが、それ以外で功績あげてかつ影響力のあるものの不満を抑える目的で設立された。
「自分も名誉貴族待遇だよ。だって爵位もらってないし」
「時間の問題じゃないのそれ?」
「…否定はしない」
勲章をもらえるということは武功を挙げたのと同じ扱いになると聞いたことがある。
本来はそうじゃないと勲章はもらえないのだ。
もらえる勲章次第では爵位も十分あり得る。
「というかリズはだいぶ詳しいな。てっきりそういうのはあまり詳しくないと思っていたが」
「あまり侮らないでほしいわね。私だって里では英才教育を受けてたし、里の外に出たものが定期的に情報を持ち帰っているし、里の本は全て読んでいるわ。それに旅で色々学んだし、最近はたまにおりた街で情報を収集したり、スリーロックとも手紙で情勢のやり取りをしているのよ?」
「それはすまんかった」
少なくともこの世界に来て間もない幸太郎よりもリズの方がこの世界の風習や身分制度にはだいぶ詳しそうだった。
そんな大名行列、もとい領主行列は、王都に向けて進んでいく。
しばらくは特に何事もなく進んでいた。
途中には領主御用達の大規模な宿があり、そこに止まりながら、順調に進んで言ったが、この世界はそんな一向にも容赦なく牙を剥く。
「ウオオォ…」
「オオオオン…」
「う、あああ…」
ゾンビ
ビーイング
アタック100
ディフェンス100
マナコスト1
スケルトンソルジャー
ビーイング
アタック100
ディフェンス200
マナコスト1
このカードが破壊された時、墓地を1増やす。
スケルトンメイジ
ビーイング
アタック200
ディフェンス200
マナコスト2
墓地が4以上ある時、カウントを4つ減らす。
このカードのアタック/ディフェンスを+200/+200する。
これらが数体から数十台含まれるアンデッド集団が攻めて来た。
「アンデッドの襲撃だああ!」
「む、迎え撃て!」
「わあああ!」
騎士や兵士達が幸太郎やマルゴッド伯爵に近づけないよう、アンデッド達の進行方向に展開する。
「弓兵隊!構え!撃て!」
歩兵が弓を構えて、一斉に放つ。
だが、アンデッドに弓矢の効果は薄い。
エルを除いて。
ヒュババッ!
エルが立て続けに放つ矢を受けるたびにアンデッドが爆散する。
「な、何だあれは?」
弓兵の1人が呆然と呟く。
普通は矢を食らって爆散などしないから当たり前の反応だろう。
「お前新入りか?あれが、エル様だよ」
「あれが!?魔王軍の幹部を討ち取った幸太郎様の懐刀」
「俺も見たことあるぞ。エル様の放つ矢放つや魔物をことごとく粉砕するんだ。俺はそれで一年前の戦争で命を救われたんだ」
「うおお!エル様ぁ!」
エルの射撃によって瞬く間にアンデッドの数は減っていく。
「なんという。あれが妖精姫と見紛うと言われるほどの実力というやつか」
「このままあの方1人でも倒せるんじゃないかな?」
「いや、そういうわけにもいくまい」
不意にその射撃が止む。
「弾切れです」
エルは冷静にそう告げる。
元々エルはそんなに矢を携行してない。
アンデッドはまだまだ残っている。
それにかなり接近されておりこれ以上は誤射の危険があった。
「いや、これだけ減らしてもらえれば十分だ!全員槍を装備せよ!突撃!」
「うおおおおおお!!!」
エルの矢を受けて弱体化した集団へ兵士達が突撃していく。
数の暴力によってアンデッド達は次々に討ち取られていく。
「この調子なら加勢は必要ないかな」
それを見ていた幸太郎はぽつりと呟く。
「大丈夫そうだよ。決着つきそう」
幸太郎は馬車の中にいるリズに向けてそう告げる。
「ほ、本当に?」
恐る恐るリズが馬車から出て来る。
意外なことにリズはアンデッドが苦手であった。
「スケリトルドラゴンとか戦っても平気なようだったけど…」
「あれは幸太郎のアンデッドだから大丈夫なのよ!野生のそれも制御されてないアンデッドとか迂闊に近づいて呪われたらどうするのよ!」
「それはわからなくもないけど」
どうやらリズの中では日本における幽霊のような立ち位置でアンデッドを扱っているらしい。
幸太郎のアンデッドは制御されている存在、つまりは守護霊のようなもので、そうじゃないアンデッドは悪霊のようなもの。
「それにアンデッドって腐ってたりするから気持ち悪いし」
それはわからなくもない。
骨とか腐臭を漂わせる死体が動くのはあまりいい光景ではない。
(レッドゾンビの群れとか本当に醜悪だったなあ。素晴らしい)
「なんで笑顔なのよ?」
「え?」
幸太郎としては全くそのつもりはなかったのだが、どうやらそのようにリズには見えたらしい。
慌てて顔を触るが、別に顔が引きつっていたりしているわけでもない。
「いや、笑顔になってなってないぞ?」
「嘘よものすごくいい笑顔してたわよ」
「はあ…まあ、リスがそういうならそうかもしんないけど。仮にそうだとしてもアンデッドを見て笑顔になったわけじゃないぞ。どっちかというと顔を引きつらせていたというか」
「まあ、そういうことにしておくわ」
そう言ってやれやれと言った感じでリズは馬車から出て来る。
「それに私が初対面でゴーレム差し向けたのもスケリトルドラゴンがいたの原因だからね?あれいなかったら私もいきなりゴーレム差し向けずに誰何くらいしたわよ」
「マジか」
「マジよ」
どうやらアンデッドは人によっては大変警戒させるらしい。
疲労や消耗とは無縁のアンデッドは動力としては最高の半永久機関なのだが、状況によっては別のビーイングに代行させたほうがいいかもしれない。
(マルゴッド伯爵から貸与の打診が来てたから、都市部にはそこまで偏見はないと思うんだけど)
そう幸太郎とリズが雑談していた時に戦況に変化が訪れていた。
「ぎゃああああああ」
兵士の断末魔とともに、深い闇から一つの影が姿を現した。
その兵士は、全身から血を吹き出してその場に倒れた。
「ほう、我が配下をこうもたやすく撃退するとは」
闇から姿を現したのは、闇をまとったアンデッドの魔法使いだった。
骨だけになった体を、ローブに身を包み、手には禍々しい杖を持つ。
それだけ見れば、魔法を使うスケルトンメイジと大差ない。
だが、溢れ出る魔力がスケルトンメイジのそれとは大違いであった。
何よりそのアンデッドは、ネックレスや指輪など種々の装飾品で身を固めている。
それどれもが価値のある宝石、あるいは魔法のアイテムの類なのだろう。
「リ、リッチ」
兵士の一人がそう呟く。
リッチ
ビーイング
アタック400
ディフェンス400
マナコスト4
「しかしこの場の全員を殺せば、また配下は補充できよう」
その一言で、兵士たちが槍を構えてリッチを囲む。
「ハンスのかたき!」
その中の一人がリッチに対して突撃する。
「待てグレイやめろ!!」
隊長が制止する間も無く、その槍はリッチに吸い込まれる。
「ファイアーボール」
リッチの唱えた呪文により、兵士グレイは炎に包まれる。
「ああああ!」
兵士は槍ごと炎に包まれて、その場で骨まで焼き尽くされて灰とかした。
(マルゴッド伯爵の兵士は精兵だが、それでもソルジャー並み)
100/100のソルジャーが200ダメージのファイアーボールをまともに喰らえばオーバーキルもいいところだった。
指揮官はサージェント並みのようだがそれでも致命傷は免れないレベルだ。
同じような幸太郎も直撃は避けなければいけないだろう。
(何よりこの世界のファイアーボールは何故か範囲魔法だ。たまたまグレイとやらが突出したから二次被害が出ずに済んだけど、それでも半径数メートルが火の海で消火も困難とかなにこの現代の火炎放射器並みの威力は…)
しかも魔法は総じて射程が弓並みに長い。
この世界では、ファイアーボール使いはうまく活用すれば、戦局を左右するに十分な戦術兵器となりうる。
誰だって焼けて死ぬのは嫌だし、魔法の日はその場で燃え続けるから、相手はそこを通れなくなる。
遠距離から城に放たれたら、延焼を防ぐのも困難だ。
ウォズはインターバルが必要とはいえ、このファイアーボールを一日に十五発もはなてるのだ。
ただの人間が、戦術兵器並みの威力の魔法を連発できるなら、天才と言われるのも頷ける。
(ここはリズのゴーレムかロックタートルに頑張ってもらおうかな)
リズのビーイングならば余程協力な炎でなければ耐えることができるのは模擬戦などで実証済みだ。
「いやあああ!骨の化け物おお!」
だがリズはリッチを見ると早々馬車の中に引っ込んでしまった。
どうやらアンデッド嫌いは相当筋金入りらしい。
(なんかトラウマでもあるんだろうか)
しかしこうなると、幸太郎が出るしかない。
兵士は訓練されているから命令されれば突撃するだろうし、この数ならば勝てるかもしれないが、甚大な被害がもたらされるだろう。
「こ、幸太郎様…」
ちらりと横を見ると、鎧で武装したマルゴッド伯爵がこちらを見ている。
「わ、私も戦いましょう。アンデッドの軍勢となれば、数が必要なはず」
マルゴッド伯爵はそう言って、武装して立ち向かうとしたので、周囲の衛兵にやめるよう説得されていた。
「閣下!それは最後の最後でお願いします!今あなたに死なれたら家臣団が崩壊しますぞ」
確かにマルゴッド伯爵は、青年の子を持つ親とは思えないほど、しっかりした体つきをしているから、普段から鍛錬に余念はないのだろう。
おそらくは200/200程度の強さではあるのだろうが、それでもリッチに対しては荷が重い。
何より指導者のマルゴッド伯爵がやられたら、衛兵は散り散りになってしまう。
そしてマルゴッド伯爵の周囲を守っているのは、精鋭であると同時に、マルゴッド伯爵の家臣団の子息などの貴族だ。
今回の叙勲において、後学やコネ作りも兼ねて送り出されている。
つまりは将来の幹部候補だ。
これが全滅したらマルゴッドの街周辺の政治的ダメージは計り知れない。
下手したらその場にいた幸太郎も逆恨みを受けるだろう。
つまり幸太郎は彼らをおいて逃げるという選択肢はない。
「伯爵、ここは私が代わりに…」
そう言って幸太郎は前に出る。
同時にマルゴッド伯爵の顔が安堵で緩む。
「か、かたじけない」
幸太郎は直々に対処するなら安泰だ。
彼らの顔ははっきりとその内心を示していた。
(それでも怖いものは怖いんだけどな)
この世界に来て一年弱、修行として多くの魔物と渡り合って来たから、最初の時のようにホーンラビットのような最下級の魔物程度にはビビらなくなったし、サンベアやサージェントのようなマナコスト2程度には対等に戦える程度の技量は身につけたと思う。
それでも、マナコスト3は多分4回戦ったら3回は死ぬことを覚悟しないといけない強敵だし、マナコスト4となると勝率は絶望的だろう。
まともな手段で戦えと言われたら幸太郎は迷いなく逃げることを選択する。
(マナコストが一個でも上の敵に勝てるわけねーだろ!)
それが幸太郎の正直な感想であった。
「エルは補給の矢を受けとったら、援護を頼む」
「了解しました」
エルが兵士から矢を受け取っていたところにそう声をかける。
リッチは先ほど牽制して以来、攻撃を行っておらず、奉仕した兵士とこう着状態におちいっている。
そしてこちらをじっと見ていた。
「ただなんか話ができそうだし、交渉が決裂しない限り、いきなりの不意打ちはやめること」
「了解しました」
(わかっているのかな?)
幸太郎は不安になりながらも、リッチのところに向かう。
「ふむそちらから来ていただけるとはな。おかげで手間が省けた」
どうやらリッチは幸太郎が来るのを待っていたらしい。
そのおかげで囲んでいる兵士達は、ハンスやグレイを除いて人的被害はなかった。
「おお、幸太郎様だ」
「幸太郎様が来てくださったぞ」
「勝てる。これで勝てる」
兵士たちは幸太郎が加勢に来てくれたことに歓喜する。
ただ幸太郎はそんなことよりリッチの一言に嫌な予感を覚えた。
「なぜ?」
「貴様がこの中でいちばんの強者だろう?次が今馬車の中で震えている娘だが、我を恐れているようでは話にならん」
「それはまああっているかも知れないけど…」
確かにカード抜きで見ても、幸太郎はこの集団の中ではそこそこの位置にいるようだった。
カードありならリズを上回るのは、覚醒後の幸太郎ならば当たり前だ。
(問題はそれをどうやって知ったのかだけど)
「どうしてそれがわかったのでしょうか?」
「我々アンデッドは、生命力に対する感覚が鋭い。その感覚によれば、貴様と馬車の娘は最も生命力が溢れていた。生命力の強いものはそれだけ強いことが多いし、何より死んだ後も強力なアンデッドになりやすい。つまりは」
そう言ってリッチはばっと手を広げる。
「我が配下となるにこれ以上の素晴らしい存在はいないということだ」
「つまりは殺してアンデッドにして配下にしたいと」
「うむ。そうすれば貴様も永遠を生きることができるようになるだろう」
論外だった。
「お断りします」
「ならば死ぬがよい」
リッチがこちらに手を向ける。
幸太郎は用意していたカードをその場に出した。
ファイアードレイク
ビーイング
アタック400
ディフェンス400
マナコスト5
このカードを場に出した時、相手のビーイング一体に300ダメージ
瞬間、その場に炎を纏った蛇が出現する。
ファイアードレイクは炎属性であり、ファイアーボールが通用しないどころか逆効果になるのは実験済みだ。
何より効果によって先制攻撃が撃てるのが大きい。
「ブシャアアアアアアアア!!!」
呼ばれた直後にファイアードレイクが、灼熱の炎を吐き出す。
それはマナコスト3相当のファイアーボールに匹敵する。
「ぐわああああああ!!!」
アンデッドはその構成から炎に弱い一面を持っているようで、効果は抜群だった。
かろうじて生き残ったのは高いディフェンスを持っているからだろう。
だがリッチは瀕死だった。
「やれ」
すかさずファイアードレイクが追撃を兼ねる。
「やめ、やめろおおおお」
残念だが、殺そうとした相手に情けをかけられるほどこの世界は甘くない。
それがアンデッドなら、たとえ見逃したところで恩を感じるどころか、対策を整えて反撃しているだろうことは想像に硬くなかった。
アンデッドになるということ自体が、生への異常な執着や怨念によって成り立っているためだ。
つまりアンデッドになった存在は、思考が歪んでしまい生者のそれとは全く相容れないものになってしまう。
「ありがとう。これは礼だ死ね」
助けたアンデッドにそうやって殺された聖者の話があるくらいだった。
あるいはアンデットにとっては死を与えることこそが礼になるかもしれない。
だから幸太郎も、事情があったりする生きた犯罪者はともかくとして、知性を持っていようとアンデッドに容赦することはできないと悟っていた。
そんなことを考えているうちに、ファイアードレイクはその炎を纏った体で、リッチを轢き殺してバラバラに分解する。
(まるでダンプカーに当たった木箱みたいだ)
ダンプカーはファイアードレイクで、木箱はリッチだ。
そしてバラバラになった骨は木箱の木片を連想させた。
そして炎によって灰になりつつあった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ありがとうございました幸太郎様。あなた様がいなければどうなっていたことやら」
一行は近くの村に緊急避難し、後片付けや埋葬を終え、マルゴッド伯爵や家臣団の若手代表、指揮官に一般兵士と多くのものからお礼を言われる。
「しかし、あんなところでアンデッドの集団、しかもリッチに襲われるとは全く予想外でした」
「やはりあれは普通のことではなかったのですね?」
「ええ。これが予想されて容れば、これの倍以上の規模の編成を行なっているところです」
今の編成だけでも100人は超えているが、リッチ相手だと500人くらいは欲しい。
そう、指揮官は言っていた。
そうでないと甚大な被害を出して倒さないといけない羽目になると。
500人いても被害は出るが、数で押しつぶすのでだいぶマシになるとか。
(100人で全滅覚悟でギリギリ倒せて、500人いても被害は免れないって幾ら何でも魔物つよすぎじゃ。いやそれくらい人間が弱いということなのか?)
どうも魔法を使えるビーイングという概念が、実際の戦闘力以上に戦力差を乖離させている原因の一つになっているらしい。
(思ったよりバランス崩壊しているよなこの世界。リザレに比べたらだけど)
そのおかげで弱いビーイングも立ち振る舞い次第では強いビーイングに対抗できたりして助かっている面もあるから、一概には悪いとは言えないが、状況次第では、強いビーイングを出したとしても苦戦することもあるだろうと幸太郎は改めて肝に銘じる。
「しかしなんでこんなところにリッチが?ここは最前線からも遠いし、しかも王都と街をつなぐ交易路ですよね」
「それは後日調査の必要があるかと思います。我々が遭遇して、殲滅できたので、今後の被害はないだろうことは、不幸中の幸いですね」
もしかしたら、すでに何組か商人や旅人が襲われている可能性は否定できない。
街を収めるということは、そういう魔物や山賊による被害を調査することも仕事のうちに入るらしい。
「大変ですね」
「いえいえそんな!これが仕事でありますので!では小官はこれで」
そう言って、敬礼してから指揮官は業務に戻っていく。
兵士の怪我の治療を行い、大けがをしたものは村の修道院で治療を依頼したりして、後始末を終えてあとは再び王都に向けて出発する。
ここから先は王家の直轄領も近い。
王都まではもうすぐといったところだった。




