町の変化は予想外な大歓迎とともに
ペガサスに乗ってマルゴッドの街に到着した。
マルゴッドの街にある最も大きな南門の前にはエンシェントデストロイヤーが鎮座している。
街に入る人はこのエンシェントデストロイヤーの股の下をくぐる様に法律で決められており、そこで通行証をもらう形式になっている。
その為にエンシェントデストロイヤーに向けて多くの人が列を作り、各地から集まってきた人も続々とエンシェントデストロイヤーを目指して集まってきていた。
「何これ?」
「移民が殺到しているんだよ。この街はエンシェントデストロイヤーに守られているから安全だってことでね」
「こんなにたくさん?」
リズがそうつぶやくのも無理はない。
それくらい人が殺到していたのだ。
「現在は優勢とはいえ、局地的には魔王軍が優勢な地域もあります。そこで被害を受けてきた人たちが安全な場所を求めて逃げこんでるようです」
「難民ってやつか…」
エルが補足をしてくれた。
全てが移民というわけではないらしい。
そもそも移民してきて、街の住人になるにはそれなりのお金を支払わないといけない。
移民はそれができる人であり、それができない人は難民として外でテントを張って暮らすしかない。
「難民キャンプか。この目で実物を見ることになるとは思ってなかったけど」
「それだけ戦火は拡大してるのね。里は結界に守られていたけど、他はそうもいかないだろうし、みんな安全な場所を求めてくる」
「ええ、幸太郎様のエンシェントデストロイヤーがいるだけで、この街は他と比べてはるかに安全なのです」
「…早く戦争終わるといいのにね」
難民達に対して、幸太郎達にできることはあまりないく、マルゴッド伯爵の手腕に期待するしかない。
幸太郎達はペガサスを街を囲む城壁の近くに降下させる。
城壁の上には弓を構えた弓兵がいたが、彼らは弓をこちらに向けていない。
「おかえりなさいませ幸太郎様。ご無事で何よりです。それにリズさんお久しぶりです。エルも幸太郎様の守護の任、良くしてくれました」
城壁の上にいたシンパが幸太郎達を出迎えていたからだ。
「ただいまシンパ。お陰様でね」
「お久しぶりですシンパ様」
「ただいま戻りました。シンパも街の守護とエンシェントデストロイヤーの監視の大役お疲れ様です」
シンパがこうして出迎える相手など1人しかいない。
それが確認された時点で、所属不明飛行体は、幸太郎直属の召喚獣と認定されて、警戒令は解除された。
「マルゴッド伯爵がお待ちです。どうぞこちらへ」
「え?いや、このまま飛んだら目立つ様な…ここで降りていった方がいいんじゃないかな」
幸太郎はあんまり悪目立ちしたくないので、下に降りていくことを提案した。
「そうですか。なるほど。さすがは幸太郎様、街の方も喜ばれるでしょう。下をご覧ください」
「下?」
幸太郎は下の街を見つめた
「「「幸太郎様ー!!」」」
下には多くの街の人が詰めかけていた。
「ナニコレ?」
「幸太郎様を神の使いと崇める信者の方々とファンの方々ですね。ちなみに外もご覧ください」
そう言われて外を見ると、外には見慣れない建物が建っていた。
そこから人がわらわら出てきて、幸太郎を指差すとその場に跪き始める。
「ナニアレ?」
「あれは、幸太郎様を讃えるために建設された神殿です。街の外にいるのもまた信者の方々ですね。難民や移民にも門戸を開いているので、そちらの方が多めです。街の信者の方からの寄進を元手に慈善活動を行なっています。おかげで幸太郎様を崇める信者の方は着実に増えております。今年度の予算計上で、幸太郎様の功績を讃える像の作成が決まっており、芸術に意外な才能を発揮したカシラがその作成の指揮を行なっています。ご覧になられますか?」
「イエ、ケッコーデス」
幸太郎が血反吐を吐きながら修行している間に、街はとんでもない事になっていた。
いやそれだけの時間がやはり経っていた。
「す、凄い人気なのね」
リズもあまりの人の多さにドン引きしてる。
「幸太郎様であればこれくらいは当然です」
一方エルは平常運転だ。
(ちょっと街離れてたらなんでこんな事に…)
「ああ、そうでした。幸太郎様の屋敷も改築が済んで…おやどうされました?」
「あーあー聞こえなーい」
幸太郎は耳を塞いでいた。
(これ以上聞きたくない。というか屋敷って何?宿はどうなったの?!)
「今は聞きたくないです…」
「そうですか、確かに今聞いてしまっては楽しみも半減しますね。では後ほどご案内いたします。ところで、下の方を行かれるのであればマルゴッド伯爵の屋敷まで馬車の手配を」
「いや、やっぱりこれで行こうか!待たせたら申し訳ないし!!」
(あんな人混みの中に降りるなんて冗談じゃない!)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(いや予想しておくべきだった。少なくとも置いていった召喚獣達の行動が予測できなくなることくらいは)
マルゴッド伯爵の屋敷に通された一行は、屋敷でも最上級の一室に案内されていた。
今室内にいるのはエル、リズ、幸太郎の3人であり、シンパは室外で警戒を行なっている。
幸太郎は思索に耽る。
思えばこの世界に来てから思い通り進んだことはほとんどない。
(いや、思い通りに、予想通り進んだことなんてこの人生で何一つない。リザレと勉強を除いて)
幸太郎の人生は予想外の連続だ。
良かれとやったことが全て裏目に出て失敗ばかり、唯一予想できたのは勉強のことくらいだ。
もっとも勉強はやったぶんだけきっちり自分に返ってくるという悪い意味での予想通りだったが。
失敗や挫折を繰り返し、なんとか大学を卒業して仕事にありつけたものの、それ以外は特に目標もない人生を送って行くのかと思っていた。
そんな中で出会ったのがリザレであった。
高度な戦略と読みあい、幅広いカード知識、そして適度な運が必要。
それだけは幸太郎の予想通りに物事が進んだ。
というより予想外であっても全く悔しくなかった。
むしろ「やられた!」と思い一層精進することになる。
そして気づいたらそれが生きがいになってた。
(可能なら一生リザレをやってたいと確かに思った。願った。でもこんな形で願うのは予想外だ!)
そう、確かにある意味願いは叶ったのかもしれない。
幸太郎はリザレが現実になった世界に飛ばされたのだから。
だが、そこは文字通りリザレのビーイングが具現化した世界であり、ルールも効果も変質している。
(カードが消費される?効果が予測できない?何よりマスターが他にいない!いや、リズはある意味擬似マスターと言えるけど…ゲームのジャンル変わってるよ。VRMMOみたくなってるし…)
幸太郎はそのことに失望する。
一方でカードが現実のものとして存在したらこういう形になると納得してもいる。
(いやそうでなければ、マスターとしてこの世界に降り立つとしても、ビーイングを、操る神のような存在になってた可能性が…)
ライフは2000あり、まず一撃では死なないし、死んでも負けただけですぐ復活する。
魔法は使い放題、ビーイングも呼び放題。
それは神と呼んでいい存在になるだろう。
(うん、そんな存在になるくらいならビーイング達と同じ立ち位置でもいいかな…新世界の神になりたいわけじゃあないし)
幸太郎はそんな大層なものになりたいとは思わない。
分不相応な願いの果ては破滅に決まっているからだ。
(そういう意味じゃ今の状態でも十分と思わないとな…はあ、でも予想がつかないのは疲れるよ)
「どうしたの?」
思索にふけってため息をついてた幸太郎にリズが心配そうに声をかけてくる。
「いや、ちょっと街の様子見て困惑してしまって。心配かけてごめんね?」
「べ、別に心配かけてないけど?あんなにたくさんの人に慕われているんだなあって思っただけだし!」
「幸太郎様ほど偉大な方であればあれくらいは当然です」
「うーん。確かにあそこまで人望あると、エルの言うことも聞き流していられなくなるわね。やっぱり幸太郎は凄い出自だったりするの?」
「ないない。そんなことないって」
「そう?うーん…でも確かにウソ言ってる感じしないのよね」
リズと幸太郎の付き合いは一年近い。
流石にそれだけ一緒にいれば、互いのこともある程度わかってくる。
(リズって結構はっきりと言ってくれるからそう言うとこは有難いよな。何考えてるかわかんないよりは。時々直球すぎて辛いけど。エルは未だに何考えてるかわかんないとこあるけど…時々とんでもないことすることあって思春期の妹相手にしてる気分になるし)
「出自がどうであろうと幸太郎様が偉大であることには変わりありません」
こうやって持ち上げたりすることもあれば、最近は貶すことも増えて来たり、妙に近づいたスキンシップを図ろうとしたら離れた態度をとったりする。
(距離感を測りかねているんだろうか?)
と幸太郎は考えている。
もしかしたら、エルは主従として接しようとしているのに、幸太郎はそう接しようとはしないから困惑しているのかもしれない。
(真の王の自覚…ね)
エルの苦言にはそれも含まれているのかもしれない。
「はいはい…本当にエルは相変わらずね」
そんなエルの態度にはリズは慣れたもので、受け流すこと増えた。
エルはそれは特に気にしてないようで、2人な適度な距離感を保っていると言える。
(自分もエルとの距離感をちゃんと確立しないとな)
今の幸太郎にとってエルはリズと同じく頼れる相棒である。
エルにはそれとなく伝えてはいるが、これからははっきりと伝えて理解してもらったほうがいいかもしれない。
「でも私も幸太郎にはそれなりの態度で接したほうがいいのかしら?」
リズが冗談交じりにそう言ってくる。
「出自とかは関係なく、気兼ねに接して欲しいと思っているよ。リズも、勿論エルも。2人とも大事なパートナーだし」
だからそれに幸太郎は苦笑して答える。
「そ、そう?なら」
「ダメです!」
だから、エルがそれを強く否定したのは、リズも、そして幸太郎も予想外だった。
「幸太郎様はこの世界の真の王なのです!であるならば、そのように振る舞われてください!」
エルが立ち上がり、幸太郎を睨みつける。
拳は握り込まれて震えており、唇はきつく結ばれている。
「え、エル?」
「何故、幸太郎様はそう振る舞われてくれないのですか?」
エルの声には真剣な響きが混じっている。
そんなこと言われても幸太郎には、どうしようもない。
そもそも幸太郎は真の王ではないのだから。
エルは幸太郎の事をこの世界の真の王だと呼び、そう主張しているが、幸太郎にはそんな自覚はないし、そうなりたいとも思わない。
と言うより認めたくないと言うべきかもしれない。
「エルは一体俺の何を知っているんだ?」
だからそれは幸太郎の率直な疑問だった。
「幸太郎様は真の王である事を知っています」
「その根拠は?」
「私があなたに仕えている事です」
幸太郎はため息をつく。
それは全く根拠になってないからだ。
「…エルが俺のことを認めてくれて、仕えてくれるのは本当に嬉しいし、もったいないことだと思っている。でも君が俺に従ってくれているのは…」
君が元々俺の持っていたカードだからでは?
とは言えなかった。
リズがいるからだけではなく、それはエルの人格を否定するような行為に感じられたから。
お前はそう思わされているだけなんだ。と言ったとき、例えそれが真実であっても、エルはきっと傷つくだろうと思えた。
だから言えない。
「エルが仕えていてくれることは真の王の根拠にならないよ」
幸太郎は確かにリザレのマスターであるかもしれない。
ビーイング達からしたら、絶対の主人と思われているかもしれない。
でもそれだけだ。
仮にこの世界の真の王がいたとして、それはこの世界の全てとはいかなくても多くの住民に真の王だと認められて初めてなるものだと思う。
そんな器であるとは幸太郎自身が認められない。
「王っていうのはみんなに認められてなるものだ。それに自分はそんな器じゃない」
「幸太郎様がその器であることは私が保証します!」
エルは幸太郎に詰め寄る。
「だからそれは根拠には」
「ちょっと待った!2人とも落ち着いて!」
言い合いが白熱しそうになるのを見て、慌ててリズが止めに入る。
リズが間に入られたことで、エルは幸太郎に詰め寄っていたことを自覚する。
「っ!失礼致しました。少し頭を冷やしてきます」
そう言ってエルは足早に部屋を出て行く。
入れ替わりでシンパが室内に入ってきて一礼する。
「…エルどうしちゃったのかしら」
「さあ?」
幸太郎も何が何だかさっぱりだ。
いきなり激昂したかと思えば、幸太郎に真の王だと自覚しろと叱責してきた。
いや、幸太郎がそれを認めてないから難癖と言ってもいい。
「ねえ?やっぱりその幸太郎はどこかの王族とかじゃないの?」
「いや、普通の平民だよ。エルは絶対に認めてくれないけど」
「なら、エルは妄想癖で幸太郎に付き従っているの?とてもそうは見えないけど…」
「…自分も何が何だかさっぱりだよ。誰か教えてくれるなら教えて欲しいくらいさ」
「そ、そう…」
そう言って幸太郎は力なく笑う。
リズはそれを見て何も言わなくなった。
シンパは微笑んで何も語らなかった。




