秘密はいつかバレるもの
「というわけで、問題は綺麗さっぱり無くなったよ。予想外に」
「その割にはなんか浮かない顔をしてるわね」
「いや、ちょっと疲れたんだよ」
ヘカテーと諸々の話を終えて、エルとヘルフレイムドラゴンに足止めされていたリズのところに戻る。
「女神様、今回は度重なる願いを叶えていだだきありがとうございます」
「いいのよリズちゃん。神は人々の支えて配ることこそが本分なのだから。それがリズちゃんのような熱心な信者さんならなおさら。毎日祈ってくれてありがとうね」
幸太郎はヘカテーの試練を追加で受けていたことにした。
リズも同じような試練を大変な思いしてくぐったそうなので、試練がなかったなんて行った日には幸太郎の身の安全は保証できなかった。
そして試練を突破した結果、問題が解決したことを告げた。
「まあ、何にしても無事試練を終えたようで何よりよ。さすがは幸太郎ね」
「ええ、幸太郎さんは類稀なる才覚をお持ちだわ。この世界の誰よりも」
「ええ、幸太郎様は真の王でありますからそれは当たり前です」
「無論だ。我が主人と認めるお方なのだから」
リズが褒めて、ヘカテーが絶賛して、エルとヘルフレイムドラゴンがそれに続く。
(持ち上げすぎ!)
過大評価恐怖症の幸太郎にとっては、評価が高すぎて落ちたら即死確実だった。
「ヘルフレイムドラゴンとかヘルフレイムドラゴンとか呼んじゃうようなトンデモだもんね」
リズもそれに同意する。
(違うの、それはリザレのお陰で自分の実力じゃないの…って言えない)
リザレのことを説明し始めたら、連鎖的に数十万以上のカードを持っていることや、世界崩壊レベルのカードを持っていることが漏れる可能性がある。
それが悪意ある第三者に漏れたら、当然利用しようとつけねらってくるだろう。
(情報を漏らした結果、狙われるなんてことになったら目も当てられないし。というか今の段階ですら情報漏れすぎではないかとビクビクしてるし…)
そうでなくても手札を意味もなく晒すのは馬鹿のすることだ。
情報を極力伏せて相手に意図を悟られないように注意を払うことは、幸太郎がリザレをプレイする中で身につけた教訓であった。
「何よ?言いたいことあるんならいったらどうなの?」
「あ、いや、何でもないです。はい」
「はっきりしないわね。誰よりも才能あるんだからもっと自信持てばいいのに」
「…たいそうな評価もらうのに慣れてないんだよ」
「ふふ」
リズに詰め寄られ、幸太郎はそっぽを向く。
向いた先でヘカテーがにこやかにしていた。
(まあ基本は隠すべきだよな。ヘカテーにはどうも、自分がありえないくらいの数のビーイングやスペルを抱えていることは知られたようだし、自分の中に縛りとして存在するリザレのルールも把握された上で、こちらに好意的な態度を取ってくれているようだけど。みんながそうとは限らないし)
次に幸太郎はエルやヘルフレイムドラゴンを見る。
(ビーイング達は逆の意味で心配。彼らもリザレのこと把握している節があるけど、自分がそれを漏らしたくないのを理解してるようだし。というか下手しなくても情報を漏らすくらいなら死を選ぶような連中だし…そうならないように気を配らないといけないくらいだし…)
幸太郎はリズの方を見る。
(こっちは情報漏洩のリスク心配する以前にバレたらひどい目に遭わされそうだから余計言えないよな、うん)
と思うの程度には、幸太郎は修行でリズにひどい目に遭わされてきていたりする。
「なによ?」
(リズは見た目は可愛いのに、何でこんなに凶暴なんだろうな。アライグマは見た目に反して凶暴らしいけどそういうものなのかな)
アライグマの着ぐるみを被ったリズを想像して不覚にも萌えてしまう。
「いやぁ、リズは可愛いなあって思って」
「んな!」
幸太郎は誤魔化すつもりで、ついそんな言葉を口走っていた。
その瞬間、リズの顔は真っ赤に染まり、直後に鉄拳が飛んできた。
「ひでぶ!」
幸太郎はぶん殴られて、壁に叩きつけられてずり落ちる。
(なん…だと…)
「もう用事は済んだわ!馬鹿なこと言ってないでさっさと帰るわよ!」
そう言ってリズはさっさと神殿を出ていった。
幸太郎はそのまま気絶した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「止めなくてよかったのか?」
ヘルフレイムドラゴンがエルに問いかける。
「問題ないわ。殴る前に回復魔法なんて普通かけない」
幸太郎は派手に吹き飛ばされて壁に激突していたが、実際は即座に発動した回復魔法ですでに治療済みだ。
今は衝撃で気絶してしまっているが。
「それに止めなかったら貴方はリズを殺していたでしょう?殺気が漏れてたわよ」
エルがヘルフレイムドラゴンを睨みつける。
ヘルフレイムドラゴンは鼻を鳴らす。
「ふん、そんなことは主人が望んでいないことは知っている。だが主人に手を上げたのだ仕方なかろう」
ヘルフレイムドラゴンは主人が望んでなければ殺していたと暗に告げる。
「それに貴様も人のこと言えまい。僅かにだが怒気が出てたぞ。それも男と女にありがちなドロドロした甘露なやつがな。ククク」
そう言ってヘルフレイムドラゴンは嗤う。
エルはそっぽを向いてそれに肯定した。
「まあ、リズちゃんたら素直になれないのね」
ヘカテーは幸太郎の介抱を行なっていた。
気絶した幸太郎のそばに座り、幸太郎の頭を抱えて、膝の上に乗せる。
「素直になれないといいますか。感情を持て余しているといいますか」
「そんな感じよね。まあマスターに惹かれるのは当たり前ね」
「なるほど、あれは主人を慕うが故の矛盾した行動であったか、ならば致し方なし」
「ええ、そうでなければ止めたりしません。私が撃ち殺してます」
「強さだけを追い求めて神殿に来たリズちゃんが、世話を焼くくらいだもんねえ」
「ほう、武闘派であったか。しかも、呼ばれてないのに主人のために武の手ほどきとは殊勝な娘だ。礼として対価なしに我が殲滅の秘儀を伝授してやろう」
「そんなことリズに教えたら幸太郎様は悲しまれます」
「なぜだ?」
「幸太郎様は敵とはいえ、一方的に殲滅するのを良しとしない慈悲深い方なのです。それにむやみに敵を増やそうとしない深慮をお持ちでもあるのです。だからこそエンシェントデストロイヤーの神の雷という殲滅兵器を無意味に山に放って無力化なされたのです」
エルはヘルフレイムドラゴンにマルゴッドの街の出来事を語る。
「なんと!そのような顛末であったか。なんと慈悲深い方だ。主人に仕える機会を頂けたのは光栄の極みだ」
幸太郎が起きてたらツッコミたくなるような会話が続く。
だが、幸太郎は絶賛昏倒中であり、ツッコミの存在しないまま無駄に評価が鰻上りになる会話が続けられた。
「全くヘルフレイムドラゴンが羨ましいわ。マスターに召喚されるなんて!私も役割を放棄して、ついていきたいけどそういうわけにいかないし…」
「それは仕方なかろう。貴様は主人に呼ばれてないのだから」
「ああ、本当に。いつか呼んでくだされば良いのだけど…」
そう言ってヘカテーは幸太郎の頭を撫で続けてた。
「リズちゃんはマスターの秘密に気づいてないのね」
「幸太郎様はそれを望まれてませんから…」
「どうして?」
「知られてしまえば、今までと違う態度を取られてしまうから、だと思います。それがとても嫌なようです。女神様のように」
「あらそうだったのね。それはマスターに悪いことをしたかもしれないわね。てっきりそれが第三者に漏れることで問題が起こることを憂慮したのかと思っていたけど」
「それもあるとは思います。ですがそこまでは重視してないようにも思います。可能であればといったところでしょうか。それよりも正体を知られることを恐れているように思えます。知ってしまえば誰もが同じままで入られませんから」
「あなたと同じように?」
「……」
ヘカテーの問いかけにエルは顔を伏せる。
「気を悪くしたならごめんなさいね。でも秘密はいつかはバレるものよ」
「それでも私は…」
「エルフの娘よ。何を迷うことがある。主人を信じるのも従者の務めぞ」
「ええ、わかっています。だからこれはただのわがままなのです」
エルは拳を握りしめて、未だ気絶したままの幸太郎を見つめ続ける。
「私は幸太郎様の従者にして一本の矢。呼ばれた時から私の身は全て幸太郎様のもの。私は幸太郎様のためだけに存在し、それ以外は邪魔な要素でしかない。それでも私はその邪魔な要素を捨てきれないのです。精神的にも物理的にも」
「ふむエルフとはいえ、エルフもまた人。しがらみに囚われるのは人の業か」
「うーん、エルちゃんの懸念もわかるんだけど、意外と大丈夫な気がするんだけどね。私を叩いたくらいだし」
「幸太郎様があったばかりの人、それも女神を叩くなんて相当なんですが、一体何をされたんですか?」
「返答次第では…」
エルが目を見開く。
ヘルフレイムドラゴンもヘカテーが幸太郎に対して相当な粗相をしたと思ったようで殺気を膨らませる。
「べ、別に何してないわ!ただ、感謝された時に、祝福としてマスターの制約を変えたことを伝えただけで!」
ヘカテーは慌てて釈明する。
「ふむ何か我等が預かり知らぬ逆鱗に触れたのやもな。しかし軽く叩く程度であればそこまではないのだろう」
「幸太郎様は慈悲深く暴力を好まれないお方。暴力を振るうということは相当に大変な事態なのですよ」
「ううむ、であるならば常人ならば殺したくなるような逆鱗に触れたと見るべきか」
「そ、そんなわけないと思うわよ!?本当に祝福の内容を伝えただけなんだから!というか怖いからその殺気納めてよ!」
ヘルフレイムドラゴンの殺気が膨れがり、ヘカテーがそれを止めるよう懇願する。
「ふん、まあそういうことにしておいてやる。呼ばれてない身の上とはいえ、貴様からは主人に対する深い尊敬の感情が見えるからな」
「ほっ」
「まあ、幸太郎様はこの世界を統べる真の王になられるために呼ばれた至高の方なのです。この世界とは異なる至高の方々が住まう世界で生きてきたのであれば、我らとは違う感性や考えをお持ちなのも不思議なことではありません。我々はただ幸太郎様の従者として、幸太郎様がこの世界に馴染み、その自覚を持ち世界を統べるのその日までお仕えするのみです」
「なるほど至極当然のことだ」
「そ、そうよね。マスターはまだこの世界になれてないものね」
「そうです。幸太郎様はこの世界に来られてたった数ヶ月しかたってないのですから」
それが人間でいえばかなり長い期間になるだが、エルフや神や龍など寿命が長すぎてないに等しい連中には短すぎる期間だった。
「今しばらくは幸太郎様にこの世界になれていただくために不要な情報は伝えるべきではないでしょう」
「なるほどね。確かにたくさん情報を伝えても混乱するだけだろうし。あなたの希望も多分に含まれてそうだけど」
「それは心外です。あくまで幸太郎様のためを思っての提案です」
「…まあそういうことにしといてあげるわ。知りすぎると害悪にしかならないことは確かにあるし」
「うむ、我も主人を困惑させるのは本意ではない」
こうして幸太郎が気絶している間に、幸太郎が聞いていたら何度も詳細を聞いていたに違いない重要な情報を含んだ会話とそれを伏せる合意が幸太郎が目覚めるまで続けらた。




