女神の祝福で覚醒を
神殿の奥に女神を連れていく。
どうやらリズがついて来ようとしたが、2人に止められたらしい。
3人の声が聞こえない所まで移動する。
立ち止まると、女神はその場で跪いた。
「ああ、主よ。貴方をお待ち申しておりました」
(リズにこんな女神の様子を見られるのはまずい!色んな意味で)
何故いきなり女神まで幸太郎を崇めそうになったのかはよく分からないけど、その後リズがどういうことになるかは予想できる。
よくて混乱、悪くて狂乱するだろう。
(また地獄の修行メニュー組まれたら堪らないし!)
「女神様!なにを見たのかは知りませんが、リズの前で跪いたりするのだけはどうかやめていただけないでしょうか?」
「そ、そんな失礼なことできません。それに私は貴方より下の神格なのです。どうかヘカテーとお呼びください」
「女神様はヘカテーだったの?!」
ヘカテー
ビーイング
アタック500
ディフェンス500
マナコスト6
登場時、残りのマナを全て消費する。消費したマナ1ごとに最大値になるまでアタック/ディフェンスを+200/+200する。
ヘカテーはウルトラレアのカード。
マナコスト最大で登場したら1300/1300になり、ほとんどのビーイングは太刀打ちできない。
コンボ次第ではさらにその上を目指すことも可能だ。
「はい。ヘカテーでございます!」
女神ことヘカテーは満面の笑顔を浮かべる。
なんと言うか幸太郎の手を取ってから態度が急変しすぎであった。
「あの…試練は結局どうなったのですか?」
「ああ、申し訳ありませんマスター。あなたがそうだとはつゆ知らず」
「ちょっと待って今なんて言った?」
「はい。あなたがマスターだと」
マスターとはリザレのプレイヤーの通称。
それを聞き流すことは出来なかった。
「何故自分がマスターだと思ったの?」
「ええと…それはあなた様が全てを統べる御方だからです。全てを統べる御方を主と呼ぶのは当たり前のことです」
「全てを統べる主…」
幸太郎は、エルは過去に「それに幸太郎様は、万物を統べるマスターでは御座いませんか」と言われたことを思い出した。
それは当初、呼び出したビーイング、つまりリザレのことを知っている存在の言葉と聞き流したセリフだ。
だがそれと同じことを幸太郎のビーイングではないヘカテーが喋っている。
(この世界がリザレと関係あるのは自明のことだ。ビーイングやスペルが実在しているのだから)
リザレではプレイヤーのことをマスターと呼ぶ。
その理由は特に解説はされてなくて、ルールブックにそう書かれているのみ。
(だから、この世界はリザレを参考に作られたのかと最初は思っていた)
だが、取り敢えずそう書かれているからリザレプレイヤーはマスターだとみんな受け止めて使っていた。
ただ暇人がリザレプレイヤーをマスターと呼ぶことの意味を考察してたりしていた。
(だけど、これは一つの可能性。あくまで可能性だ。単なる思いつきと言ってもいい)
だがこの世界ではマスターはちゃんと意味を持っていた。
そしてこの奇妙な符号の一致は偶然とは幸太郎には思えなかった。
(でも、もしかしてこの世界が先なのか?リザレはこの世界を参考に作られた?)
思いつきだが、それはこの世界がリザレを参考に作られたと言う説よりしっくりきた。
(もし、もしそうだとしたら、リザレは何のために広められた?)
「はい。ですからマスターに試練などとんでもございません。むしろマスターの為ならば、喜んでお手伝いさせて頂く所存です」
またこの言動は幸太郎が呼び出した人型ビーイングのエルやシンパに通じる所があった。
ここにくる前にもエルに「幸太郎様は真の王たる自覚がないのです」と言われた。
これもまたエルやシンパから同じようなことを度々言われている。
幸太郎としては真の王はごめんこうむる。
生きるのに必要な食べ物と、リザレさえあれば満たされていた人生だったのだ。
これ以上は、自分の許容範囲を超えていた。
(自分はこの世界に来たのは偶然なのか?)
「ああ、マスターは遂に我らの前に姿を現された」
そんな苦悩する幸太郎をよそに、ヘカテーは至上の存在に出会えた興奮と喜悦で体を震わせていた。
「どうか我々をお導きください」
ヘカテーは幸太郎に懇願する。
(ど、どうしよう)
この世界には役割を求められて連れてこられたのではないか?
その疑問の答えが目の前で示されようとしていた。
(いや、そんなの無理だ。というかやりたくない。自分はどこにでもいるただのリザレオタクだぞ?この世界の真の王なんて大層なものじゃない。)
「せ、世界を見て回ってから考えさせてもらっても良いですか?」
だから幸太郎は時間稼ぎを選択した。
「はい。この世界はマスターのもの。どうぞ存分に堪能下さいませ」
ヘカテーは幸太郎の意のままにと女神の笑顔でそれに答えた。
「あと、その、できれば名前で呼んでもらえますか?」
「はあ…」
ヘカテーは首をかしげた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ではさしあたり、幸太郎様の魔力の循環を高速化しました。従来より早くなっているかと」
何とかヘカテーを説得して名前で呼んでもらうようにしてもらった。
「本当だ。90秒ほどでターン、もとい魔力が上がっていく。流石はヘカテー様」
代償に名前を呼ぶよう強要された。
「ありがとうございます。ですがそこは是非名前で呼び捨ててくださいませ」
「ならそっちも様外してくれる?」
「様を外すなどとんでもない!」
「ならこっちも無理だよ!」
呼び方についてはここが互いの妥協点になった。
マナの更新については今までは3分と結構長い時間がかかっていた。
これはターン制のリザレなら何の問題もない時間だが、先手必勝なこの世界では致命的になりかねない問題だ。
だからそれが半分になったことはかなり大きい。
「幸太郎様の魔力循環は特殊でございますね。普通は時間をかけて少しずつプールされるものなのですが」
プールというのは、使えるマナが補充されることを指すようだ。
話を聞く感じ、幸太郎は3分ごとに最大値まで一気にプールされているものが、この世界の普通の人は個人差はあるものの減った分だけ定期的に1ずつプールされるらしい。
つまり、 マナの最大値が5の人がマナコスト2の魔法を使うと、3/5となるが、それを1ずつ回復させて5/5に戻していく。
「幸太郎様の魔力には強い制約がかかっているようです。おかげで勝手がわからず困惑しましたが、今回はこの制約の抜け道を利用させてもらいました」
「というと?」
どうやら幸太郎にはなんらかの制約が掛かっているらしい。
幸太郎はその話の続きを促す。
「はい。幸太郎様の魔力循環についていた制約には干渉が強固な部分とそうでない部分があったので、後者を変更してみました」
「えっとつまり?」
意味がよくわからず幸太郎は聞き返す。
「幸太郎様もその気になれば魔力循環を高速化できる部分があったということです」
「…あ」
そこで幸太郎はようやく気付いた。
(ターン制で3分というのは、あくまで自分と相手のターンの合計、つまり半分の90秒は自分のターンだから、することがないならスキップできる)
すると「今更気付いたのか?」と言わんばかりに、今まで出てなかった「ターン終了」ボタンが現れて、その瞬間実行されていた。
「うわああああああああああ!」
「こ、幸太郎様!?」
幸太郎は思わずその場で転げ回る。
(ぬおお!なぜそのことに気づかなかった!)
こんなことは基本中の基本で、リザレなら当たり前のことだった。
それに気づかず、ターン終了まで大人しく待っているなんで、嫌悪すべき牛歩戦術をしてるわけでないなら、とんでもない初心者行為だ。
( いや、でもボタンが出てなければてっきりここでは使えないものかと思って…いや、待てよ。そういえば最初の時も、機能が欲しいと明確に望むまでカードもステータスもデッキ編集機能も出てこなかった…そういう、そういうことなのか!?)
「す、すみません。ちょっとあまりの自分の間抜けさに嫌気がさして死にそうでした」
全力で幸太郎が統合端末の機能を思い出すと、ボタンがポンポン現れ始めた。
「あはははは…」
幸太郎は今更ながら、統合端末の”全機能”が使えることを知って乾いた笑いをあげる。
(やっぱりこんな間抜けに真の王なんて務まらないわ、うん)
幸太郎はそう決意して、とりあえず地面に座り込んで、のの字を書くことにした。
「幸太郎様…」
「ごめんなさい。すこしほっといて下さい…」
穴があれば入りたい気分だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「幸太郎様どうか気を確かに」
その場に座り込んだ幸太郎を、ヘカテーが座り込んで慰める。
肩をやさしく触れられ、幸太郎がそちらを見ると、ヘカテーは神々しい慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。
「失敗は誰にでもあることです。私はそれを許します」
「ああ、女神様」
慈愛の態度がマジ女神だったので幸太郎は思わずそう呟く。
ついでに本当に後光が差していたりして、無駄に女神の力を使っている。
「はい。ですからどうぞヘカテーとお呼びくださいな」
「あ、言ってみただけです」
元の世界では女神どころか女神みたいな女性に出会うこともなかったので、一度言ってみたかったセリフだった。
幸太郎は立ち上がって裾を払う。
「ヘカテー様、改めてありがとうございます。おかげでリスクが軽減されました」
(とはいえ、短縮したとは言っても90秒はやはり長い。せめて1/1から開始することがなくなったらいいんだけど…)
幸太郎は修行中にリズと武器主体の模擬戦を行ったことが何度かあった。
すると3分経つ前に大抵勝敗は決着してしまうのだ。
3分というのは戦闘では恐ろしく長い時間になる。
それが90秒になったのはリスクが軽減されたのは間違いない。
だがそれでも90秒は長い。
リズと模擬戦した後に「だから魔法主体で戦う魔法使いは存在しないわ。魔法はあくまで切り札。戦士ほどではなくても武器の扱いに長けてないとお話にならないわよ」と言われた。
武器戦闘を重視しない魔法使いはいないというのは、冒険者組合長のザックにも言われていたことだ。
この世界では魔法は威力は高いが連発は出来ない必殺技のようなものだった。
だから幸太郎は武器戦闘の技術習得に励んできた。
初めてホーンラビットに襲われた時にろくに対抗出来なかった経験がそうさせた。
おかげで、ホーンラビットは倒せるようになった。
サンベア相手でも、遅滞戦闘に努めるなら、90秒は確実に持たせる自信がある。
だがそれ以上の格上が相手なら、次のターンまでに耐えきれるかどうかは保証が全くない。
たがそれは個人差はあれど他の魔法使いも同じこと。
(だからその為のチーム、その為の使い魔や召喚獣か)
だから、これまで出会ってきた魔法を主体にしようとする連中は、誰もがその間に身を守ってくれる存在を身近に置いていた。
ウォズならスリーロックの仲間。
西の悪しき魔女なら、使い魔や魔王軍の魔物。
リズなら召喚獣。
彼女らはそれらと連携して魔法を使う時間を稼いでいたり、彼らを魔法で援護したりするのだ。
(自分もリズと同じようにビーイングがいるんだ。自分1人で戦うことに無理にこだわる必要もないんじゃ無いかな?うんきっとそうだ。そう考えると、やっぱり身を守ってくれるビーイング達はちゃんと大切にしないとな)
問題の根本解決には至らなかったが、リスクの軽減と、大事なことの再認識が出来た事は良かったと幸太郎は結論づけた。
「リズにも感謝しないと。そうでなければこうして改善されることもなかったし」
「喜んで頂けたようで何よりです。他にも、対峙した相手の強さに応じて幸太郎様の魔力が下がることのないよう頑張った甲斐がありました」
「…いま、なんと?」
「敵の強さに応じて、幸太郎様の魔力がそれ以下になることがないようにしました。幸太郎様にかかっている祝福であり呪いたる制約は、私には解く事は出来ませんが、その解釈の範囲で、制約を変える事は出来ましたので」
幸太郎は即座にリセットボタンを押した。
デッキ30/40
手札10
マナ6/6
幸太郎はもう一度リセットボタンを押した。
手札がリセットされ、新たにカードが補充される。
デッキ30/40
手札10
マナ6/6
「これは?」
「幸太郎様の制約の中に、敵と常に同じ状況であるという前提がありましたので、それを解釈して利用しました。幸太郎様が制約で、魔力を奪われる際に、敵を制約に誤認させる事で、魔力を敵と同等以上に奪われる事を防ぎます。幸太郎様の眷属は流石に敵と誤認させられませんが、それ以外は柔軟に設定可能です。今だと私を敵と誤認させることで魔力を奪われることをある程度、防げていると思うのですが、如何でしょうか?」
ヘカテーのいう制約とはリザレのルールのことだろう。
敵と同じ状況というのは、こちらが1ターン経過したら向こうも同じターンになり、当然マナの最大値も同じ値になる。
(リセットしたら6ターン目の状況に変化した。そしてヘカテーを敵と誤認している。ヘカテーのマナコストは6。ヘカテーの存在をリザレのルールに認識させることで、マナコスト6のビーイングが場に出ている状況。つまり6ターン目とルールに誤認させている?)
それはつまり問題が消えたということだ。
もう綺麗さっぱり。
リセット直後に敵に不意打ちされても即座にリセットを押せば、少なくとも敵と同等程度のマナコストのビーイングを召喚できる状況になる。
(それは理想に近い完璧な状態だ。状態なんだけど…)
「あれ?幸太郎様、なんでそんなに不機嫌な顔をなさって…え、あ、痛い、なんで?なんで叩くんですか?」
大事なことを再認識してビーイング達を大切にしようと再認識した直後に、そんなこと不要ですと言われた気分になって、幸太郎は無言でヘカテーを叩き続けることにした。




