女神の試練を全力で
サンベアに特攻させられてぶっ倒れるイベントはあったが、それ以外は概ね問題なく、幸太郎も適度に魔物を倒しながら、目的地に到着する。
「ここが魔力の神殿よ」
そこは森に囲まれた一角にある巨大な神殿だった。
「…なあ。ちょっと疑問に思ったんだけど、なんでこんな不便な場所に神殿が?」
神殿があったのは街中ではなく、森に囲まれた一角にあった。
それはつまり魔物の支配する領域にあるということ。
出てくる魔物もそれ相応に強力な魔物ばかりで、少なくとも白金クラスあるいは金クラスが複数いないと返り討ち必須な場所にあった。
「あーそれは単純よ。神は人の沢山いるところはあまり好きじゃないの」
「はい?」
「街や村にいると、信者が殺到して大変なことになるからね。こういうところにわざわざ神殿を建てて意図的に人を制限してるの」
「あー」
幸太郎は納得した。
街ではシンパ目当ての信者のせいで散々な目にあっていたからだ。
「それに神の試練も兼ねているの。だからこの森を突破できない人は神に会う資格がないのよ」
「なるほどね」
「それに魔力の女神は森を尊びますからね」
「へ?」
リズの説明をエルが補足したことに幸太郎は驚く。
「エル、魔力の女神のこと知ってるの?」
「…一応は知っております。魔力の女神はエルフの主神でもありますので」
「ああ、そう言えばそうだったわ。魔力の女神は、この世界で魔力を供給している世界樹の化身とも言われているの」
「魔力を供給?世界樹って?」
「世界樹は私達エルフが治める聖域にある大樹の事です。世界の中心に繋がっているため世界樹と呼ばれています。世界樹はそこから魔力を生み出しているのです」
「私たちはそれのおかげでこうして魔法を使えるから、魔法使いは大抵魔力の女神を信仰しているわ」
「なるほどこの世界では影響の大きい神様なんだね。しかし聖域に世界樹か」
リザレにも聖域や世界樹に関連したカードが存在していたりする。
それは聖域を守るエルフなどのビーイングやそれに関わるアーティファクトにチラリと言及されている程度だが。
(それも確認しておきたいな。リザレの世界観はどのくらい反映されているんだろう?)
リザレの世界観は不親切なくらいに公開されていない。
だがそれでもカードのショートストーリーを組み合わせると、朧げながら世界観は浮かび上がってくる。
(そういう情報を繋ぎ合わせて世界観を考察するサイトとかあったけど、もしこの世界が、リザレ開発者が意図した世界観を100パーセント再現してるなら、その答え合わせが出来るかも)
そう考えて、幸太郎はリザレの世界観の謎が解けることを期待して、神殿の中へ足を踏み入れた。
神殿の中は誰もいない。
幸太郎は、あることが気になった。
「ねえ、ここって魔力の女神のおわす神殿なんだよね?いくら難所にあるからってこんなに人がいないことってあるの?」
神殿は綺麗に掃き清められているが、参拝者の気配は皆無だった。
「あーそれには理由がありまして…」
「私の信者はとても多くてね。一箇所に留まると殺到するから、定期的にお引越ししてるの。今の所ここで私を発見したのはリズちゃんと他数組くらいよ」
幸太郎が振り向くと、さっきは人がいなかった場所に、1人の女性が座っていた。
その女性は、白衣に身を包み、それと同じくらい白く輝く白金の神を持つ。
そしてその何もかも見通すような透き通る碧眼で幸太郎たちをじっと見つめてあた。
その美貌は神がかっておりその清楚を超えて清浄ともいうべき雰囲気で幸太郎は彼女こそが神であると否応無く思い知らされる。
「お久しぶりねリズちゃん。また会いに来てくれて嬉しいわ」
「お久しぶりです女神様」
リズがひざまずく。
やはり彼女は女神であるようだった。
幸太郎もそれにならう。
「そしてそちらのエルフは?」
「エルと申します」
「そう、エルと言うのね。初めまして」
そして女神は幸太郎を見つめる。
「は、初めまして女神様。幸太郎と申します」
幸太郎は緊張しながら口を開く。
(これがこの世界に実在する神。超越者の1人)
元の世界では実在が疑われていた存在。
それが目の前にいて緊張するなと言うのは無理な話だ。
例えるなら、総理大臣とか、それよりもっと上の人にあった時のような緊張感を覚える相手であった。
「幸太郎と言うのね。初めまして、よろしくね。今度はどのようなご用件かしら?」
「はい。今回もまた女神様にお願いしたき儀がありまして参拝いたしました。どうかこちらの幸太郎に女神様の祝福を授けていただけないでしょうか?具体的には幸太郎の中にある魔力の出力が安定しないという欠点を解消して頂きたいのです」
「なるほど、今回はこの子が試練を受けるわけね」
「はい」
「わかりました。では幸太郎、かかって来なさい」
女神は幸太郎にかかってこいと言わんばかりに手を振る。
「はい?」
「私に貴方の全力を示しなさい。もちろん魔力を使った力のよ?」
「幸太郎。魔力の女神様の試練は、女神様に全力を見せて認められる事なの」
「正確には、私を見つけることも試練の一つなんだけどね?こう言うところにいたり、定期的に場所を変えるのもそれが理由」
どうやら問題を解決してもらうための試練はすでに始まっていたらしい。
「いや、それってリズに連れてこられた自分は失格じゃ…」
「いえそんなことはないですよ。縁も力の内らしいので」
「そう言うことよ。神の力の源は人々の信仰。つまりは思い。ならば思いの連鎖である縁を大事にしない神はいないわ」
どうやらこの世界ではコネも立派な力ということらしい。
「そして全力をと言うのも、貴方の魔力に対する思いを確かめるため。さあ貴方の全力の魔力を見せて!」
そうして女神はカモン!といわんばかりに手を回していた。
意外と女神はノリがいいのかもしれない。
「あの、それって何でもいいんですか?」
「ええ、何でもいいわよ。でも全力じゃないと判断したら試練は失敗と判断するからね?…ふふふ、貴方の全力はどれほどなのかしら」
そう言って女神は不敵に笑う。
(全力ってマジか)
どうも本当に全力じゃないといけないらしい。
幸太郎は考える。
(それはつまり女神を殺せってことなのかな)
女神を全力で殺すなら、このスペルを使えば一発だ。
幸太郎を見ていた女神が目を細めたことに幸太郎は気付いていない。
幸太郎はかぶりを振る。
(そんなわけない!なんでそんな物騒な発想が自然と出てくる…普通にこれを使えばいいってことだろう)
魔力の女神というくらいだから幸太郎の全力はお見通しかもしれない。
その上で、全力をこの場で問題なく出せるかどうかが試練の内容かもしれない。
(なのに殺すって発想が自然に出てくるなんて…ちょっとこの世界に毒されてる?)
この世界は生きるのも厳しい世界だ。
そう思った幸太郎は全力を示せるだけのそれを使用することにした。
ヘルフレイムドラゴン
ビーイング
アタック800
ディフェンス800
マナコスト8
「ゴアアアア!!!」
灼熱の体を持つ巨大な龍が姿を現した。
女神はとっさに後方に飛び退いた。
だが龍はそれに反応しない。
幸太郎の呼び出した召喚獣は全てが状況を把握済みで瞬時に行動を開始する。
だから、ヘルフレイムドラゴンも戦闘の為でなくたんに呼び出されたことを承知のようであった。
(呼び出す瞬間に叫び声あげたりするのはリザレ方式なのかな…召喚時はSE流れるから)
龍はゆっくりと幸太郎の方を向く。
「グルル…お呼びでしょうか?ご主人様」
そして人語を喋りながら頭を下げてきた。
「え?君喋れたの?」
「はい。前は模擬戦中だったため、そのことをお伝えできず申し訳ありません」
「あ、うん。あの時はすぐに返してしまってごめんね…」
「いえ、主人の呼びかけに応じて現れ、用がなくなれば戻るのが我らの定め。お気になさらず」
「へ、ヘルフレイムドラゴン!?嘘…獄炎龍を…従えてる?ありえない…そんなことって…」
女神は、ヘルフレイムドラゴンを見て目を見開く。
その目は龍を呼び出した幸太郎とヘルフレイムドラゴンに交互に向けられている。
(全力出せって言うから全力出したけど、なにこの反応…予想外ですって全力で言われてるんだけど…)
「そんなの人間に出来るわけが…まさか」
女神は幸太郎に近づく、ヘルフレイムドラゴンが瞬時に間に入ってそれを遮ろうとする。
「退きなさい龍。ただ確かめるだけよ。貴方の主人が何者なのか」
「そう言われてハイそうですかと退いてくれる護衛などいない」
「…どいてあげて」
幸太郎はヘルフレイムドラゴンを止める。
何となく、そうしないとやばくなりそうな気配があったからだ。
(こんなとこで神と龍の決戦とかされたら自分が巻き込まれて死ぬわ!)
「…ご主人様がそうおっしゃるなら。しかし女神よ、もしご主人様を害したらその首が飛ぶと知れ」
「そんなことしないわよ。私の予想が正しければ…お手を失礼します」
そう言って女神は幸太郎の手に触れた。
その瞬間、魔力を感知する修行によって体内魔力を感知する術を身につけた幸太郎は何かが体内を駆け巡るのを感じた。
そして女神の表情が目まぐるしく変わる。
驚愕、疑問、納得、そして喜悦。
(あ、これ、あかんやつや)
村長や伯爵のいい笑顔を幸太郎は連想した。
「ああ、見つけた。主よ…」
「ちょおぉっと女神様!こっちへ来てもらえますか!2人きりで話したいことが!」
突然、女神が不穏なことを呟いてその場に跪こうとしたので、やばいと直感した幸太郎は大声で女神の声をかき消すようにして、女神の手を取って、神殿の奥に連れていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リズは呆気にとられていた。
女神が何か呟いたかと思うと、幸太郎が大声をあげて、女神を神殿の奥に引っ張って言ったのだ。
「ちょっと幸太郎さん!女神様になんてことをしてるの!?」
だからリズは慌てて止めようとする。
「いかせませんよ」
「ちょっとエル退きなさいよ!」
それをエルが邪魔をした。
「幸太郎様は2人きりで話があるといったのです。ついていくことは許しません」
「退いて!幸太郎はとんでもない粗相をしてるのよ!」
女神に触れて、暗がりに引っ張り込むなんて、天罰を受けても文句を言えない行為だ。
女神は好意的だが、だからと言って雑に扱って良いわけではない。
「エルは幸太郎の従者でしょう!召喚獣ならともかく、なんで止めようとしないの?!」
「それを幸太郎様が望まれたからです」
「ああ話にならない…」
無理やり突破しようかと思ったその時、
「ご主人様の邪魔をする気か小娘が」
今度は幸太郎が呼び出した龍が立ち塞がった。
そして全身から今まで感じたことのない殺気が放たれた。
(こ、殺される!?)
「ヒッ!いえそんなつもりは…」
幸太郎はリズには優しく甘いところがある。
リズの厳しい修行や無茶振りに文句はいうけど付き合ってくれるし、本気で怒ったところは見たことない。
そしてその性質は召喚者と精神的に繋がりのある召喚獣にも引きずられる。だから幸太郎の召喚獣もまたリズには優しく甘い。
普通は召喚者を害しようとしたら、召喚者を守るべき召喚獣は激昂するが、危険な修行や、時にリズが行う"指導"も、召喚獣達はおとなしく見守ってくれている。
幸太郎がそれを望んでいることを知っているからだ。
(幸太郎さんは、私に聞かれることを本気で望んでいないの?)
ヘルフレイムドラゴンに殺気まで放たれて止められたことでリズはそのことを理解した。




