参拝は神頼みのために
召喚士の村で、リズの仇を討った報酬として、召喚獣の返し方だったはずが、何故か召喚士の全てを教えるに水増しされて、拉致られて修行中のある日。
「お参りに行きましょう」
リズからそんなことを提案された。
「「お参り?」」
幸太郎とエルが聞き返す。
「そう。幸太郎さんの魔力出力に問題があるのはここ最近の課題よね?」
「まあ、そうだね。調子悪い時はホーンラビット並みの召喚獣しか呼べないし」
「ええ。最初は単に修行不足かと思って厳しいコース組んだけど改善の兆しなかったし」
「え、そんな理由だったの?…八つ当たりかと思ってたんだけど」
幸太郎は、ここ最近の修行メニューを思い出す。
普段の倍厳しい召喚獣なしの武器戦闘で叩きのめされて、山中に放り込まれて単独でサンベア倒してこいと言われて死にそうな目にあったのは記憶に新しい。
そんな殺すつもりとしか思えないメニューを組まれたのは、幸太郎の異常な魔力によって明らかにやさぐれていたリズの八つ当たりかと思っていた。
「八つ当たりも勿論あるけど、過酷な環境に放り込まれたらより成長するという経験則で試して見たのよ」
「やっぱり八つ当たりじゃないか!」
幸太郎は叫ぶ。
今でも夜中にサンベアに襲われる夢を見て目を覚ますのだ。
しばらくはサンベアを死体を見ることすら遠慮したいところだった。
「体調によって魔法がうまく使えないのは、あり得ると思うの。でも放出できる魔力の最大値が変わるのは基本的にありえないの。例えるなら、体調が悪くなって急に力が出なくなるのはありえても、それだけで急激に体格が痩せたり太ったりしないのと同じことだから。そんなありえないことが実際に起こっている。ねえ、幸太郎さんはそうなる心当たりはないの?」
「…いや、ないです」
それは嘘だ。
幸太郎はリザレのルールに縛られてることを知っている。
だから、デッキ切れなどでリセットされると必ずマナの最大値は1に戻されて1ターン、つまり3分経過しないと最大値は増えない。
「…まあいいわ」
リズは幸太郎が何かを隠していることに薄々気づいているようだが、幸太郎は頑なに拒むので、それを無理に聞こうとはしなかった。
「とにかくその欠点を解消する為にも魔力の女神にお参りに行きましょう」
「魔力の女神…」
リズがそう提案する。
エルが何か考えるように呟く。
「その解消手段が神頼みなの?」
リズが神頼みを提案したことに幸太郎は呆れる。
匙を投げた。
そう幸太郎は思った。
「あ、なんか失礼なこと考えてないでしょうね?」
「いや、神頼みってなんか運任せの別名じゃないの」
「いや、そんなわけないでしょう?神に頼んだら原因調べてくれて解決策を提示してくれることもあるのよ!」
「ん?ちょっとまって、神って実在するの?」
「当たり前でしょう!」
「ということは神頼みって文字通り神に頼みにいくの?」
「それ以外何があるのよ?」
どうやら神は実在し、それが当たり前のものとして認知されているらしい。
(流石異世界なんでもありだ)
「というか何だと思ったの?運任せってそんなギャンブルに行くわけじゃないのよ?神はちゃんと手順を踏んで願ったら願いを聞き届けてくれるわよ」
「あーうん。すまん。前の国では神はいると言いながらついぞ見たことなかったし、願っても聞き届けられたかどうかわからなくて…」
「それ…神を騙る詐欺か何かじゃないの?もしそうだとしたら、えらく罰当たりね」
「というか、マルゴッドの街の神殿はそんな感じだったような…」
「ああ、それはそうでしょうね。街の神殿は大抵出張所みたいなもので、どうしたって効果は限定的だわ」
「なんかシンパが張り切って浄化しすぎた土地に神殿立てるとか言ってたような…」
「ああ、あの天使様か…まあ限定的なものとしても聖なる素養の土地がないと神殿は立てようがないんだけどね。神の威光が届かないから。天使様が浄化した場所ほど、神の威光を届けるのに最適な場所はないわね」
マルゴッド伯爵が張り切って神殿を建てようとした理由がようやくわかった。
神の威光とやらが届く場所はかなり貴重なのだ。
「まあどんな神の威光が届くかは、建てて見るまでわからないんだけどね。とはいえ街の神殿は限定的。村の祠もそうだもの。だから行くのは神のおわす本殿よ」
「神は実在するの?会いに行けるの?」
「さっきからそう言ってるでしょう!なんでそんなに疑り深いの?なんか騙された過去でもあるの?!」
リズがジト目で幸太郎を見つめる。
「とにかく!魔力の女神に会いに行くわよ!」
そんなこんなで幸太郎達は魔力の女神がいるという神殿に向かうことになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
幸太郎達は神殿に向かうために馬車の人になった。
「というかリズってあまり村から出たことないのに、魔力の女神がいるという神殿なんてよく知ってたね?」
スケリトルドラゴンに引かせた馬車が道を進む。
エルはいつものように馬車の屋根の上で警戒を行い、その他適当に呼び出したビーイング達が周囲を警護している。
その車内で幸太郎はリズに問いかける。
「ああ、それはね。私が村を飛び出したのも、魔力の女神に会うためだったのよ。スリーロックの連中と出会ったのもその途中だったしね。…おかげで私は難を逃れたわけだけど」
「…そうか」
そういうリズの顔は暗い。
旅から帰ってきたらみんなが死んでいた時のことを思い出していたのだろう。
それについては幸太郎も迂闊に触れることはできなかった。
「それより幸太郎さんはいつもこんな感じで旅をしていたの?」
「ああ、うん。そういえばこれを見せるのは初めてだったのか。そうだけどどうしたの?」
「あ、いや、普通はこんなに召喚獣を呼び出すとなると魔力消費でぶっ倒れてもおかしくないのに、平気そうな顔してるから、うわぁって思っただけなんだけどね…」
どうやらリズは引いているようだった。
それも幸太郎の魔力のデタラメさに。
「これだけ、非常識な魔力持ってて、さらに欠点解消されたらなーって思うと、言った手前あれなんだけどつれて行く気が無くなりそうで」
「おい」
リズに半ば無理やり連れ出されたのに、やっぱりやめました。ではたまらない。
幸太郎は半目になってリズを睨みつける。
「と冗談はこのくらいにして、まあこれだけ連れて行くのはいいけど、これじゃ関所とか通るときに揉めないか不安で。実際私も最初は召喚獣連れて旅してたけど、しょっちゅう揉めたから、最後は隠すようになったし」
「あーそれなら多分大丈夫」
「はい?」
関所についた幸太郎は、マルゴッドの伯爵の紋章を見せた。
「こ、これはマルゴッド伯爵の紋章!ど、どうぞお通りください!」
「あ、ありがとうございます」
関所で兵士たちに速攻囲まれた幸太郎は、マルゴッド伯爵の紋章を見せて、また速攻で通行を許可された。
「えと、もしかしてなんだけど、幸太郎さんって実はかなり身分の高い人なの?」
「幸太郎様なら当たり前です。むしろ幸太郎様を取り囲んであまつさえ槍を向けた兵士は厳罰に処すべきかと」
「違うからね!あとそんなことしちゃダメだからね!マルゴッド伯爵の後ろ盾があるんだよ。不本意ながらだけど…」
幸太郎はマルゴッドの街で起こった出来事を簡単に説明した。
「幸太郎さんってマルゴッドの街の名士だったんですね!」
「え、いや、ちがわ…ないのか。説明しといてなんだけどそういうことになるのかな?」
街を救って、街の人に崇められ、その街の領主からも破格の扱いを受けている。
(うん、これ名士って言われても仕方ないわ)
今更ながらに幸太郎はそのことに気づいた。
むしろこれで名士でないとなると、一体なんなんだと言われそうである。
ふとエルがこちらをじっと見ているのに幸太郎は気づいた。
「…幸太郎様は真の王たる自覚がないのです」
「…エル?」
「…すみません。周囲を警戒します」
そういうと返事を待たずにエルは馬車の外に飛び出した。
「エル。どうしちゃったのかしら?」
「さあ?」
リズが不思議そうに問いかけ、幸太郎もまたエルの真意がわからずに首をかじけるしかなかった。
(エルが無駄にこちらを持ち上げるのはいつものことだけど、今回は何故か批難するような感じだったんだよな…何故?)
「真の王なんて真顔で言えるなんて、前から思ってたけど彼女やっぱり思春期特有の中二病というやつなのかしら?」
「そっち?!」
(エルは何か勘違いして、或いは召喚された影響で無駄に幸太郎を持ち上げているせいで言動がおかしい時があるが、中二病とかそういう痛いのでは決してないはず…一応)
幸太郎は健気に支えてくれるエルに不名誉な称号をつけないために必死にフォローすることになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
旅は順調すぎるくらいに順調に進んだ。
まず弱い魔物は、幸太郎の呼んだ召喚獣を恐れて近づかなかった。
近づくのは、それを恐れない強いビーイングなのだが、それはエルが的確に狙撃していく。
しかもバックアップ要員として、回復魔法が使えるリズがいるので、不測の事態にも万全であった。
だから不安に思うことは何もなかったのだが…。
「ちょっと!これじゃ幸太郎さんの修行にならないから!」
「えええ!?」
というわけで無理矢理、魔物をおびき出して、その戦闘に引っ張り出された。
「グマァ…」
相手はサンベアだった。
サンベア
ビーイング
アタック200
ディフェンス200
マナコスト2
「あ、召喚獣や魔法は禁止ね」
「はあ?リズは俺に死ねと?!」
「それ使わせたら修行にならないでしょ!武器なら持っているんだからそれで倒しなさい!」
「グマアア!」
幸太郎とリズが言い合っているすきに、サンベアは向かってくる。
「くっ仕方ない!」
幸太郎は覚悟を決めて、短剣を構える。
しかし、周りには幸太郎の召喚した召喚獣が幸太郎とサンベアを囲んでおり、エルがいつでもサンベアを狙撃できるようにしていた。
一方、サンベアからすれば、到底かなわないビーイング達に追い込まれ、訳も分からないまま戦いに繰り出されていた。
「グマアア…!」
サンベアは必死であった。
「ってこれじゃ弱いものいじめだよ!本当にごめんなさい!」
「グマアア!」
「のあああ!」
そして幸太郎はサンベアに吹き飛ばされた。
「…やっぱりまだサンベアに勝てるレベルじゃないわね」
「当たり前…だよ…まだ修行初めて数ヶ月なんだけど…」
幸太郎は仰向けになって荒い息を吐く。
幸太郎はサンベアの一撃で見事に吹き飛ばされていた。
「はあ、仕方ないわね」
ヒュバッ!
「グマアア…」
そしてその後を引き継いだリズが見事な短剣さばきでサンベアを瞬殺していた。
その力量差は同じ200/200とは思えないレベルだった。
「やっぱりリズってウニコに似てるけどウニコじゃないよね…」
「だからウニコって誰よ…」
幸太郎は答える気力がなかった。
そのまま倒れるように眠りについた。




