ウォズの魔法使い
召喚士の村で修行中のある日、珍しい客が訪れていた。
「久しぶりね。リズ、幸太郎も」
「ウォズ?どうしてここに?というか結界は?」
魔法使いの帽子に魔法使いのローブをまとった魔法使いらしい魔法使いのウォズはスリーロックという冒険者チームの紅一点である。
「それなら私が一時的に解いたの」
「リズが?え?どゆこと」
結界を解かないと普通の人は迷ってしまいまず村にたどり着けない。
だから結界を解く必要があるのだが、予め会う日付を決めておかないと村の結界を解いて招き入れるなんてことはできない。
しかし幸太郎はリズがウォズと連絡を取った手段に心当たりがなかった。
「この前、買い物で町におりたときに冒険者組合で手紙を受け取ったのよ。それで村に来たいと言ってたからこの日に来て欲しいってお願いしておいたの」
「あ、なるほど」
冒険者組合は、組合間で魔物や情勢などの情報交換を行なっており、その書類を運ぶついでに、郵便業務も副業として行なっていた。
書類運搬は冒険者チームが護衛としてついているため到達率が非常に高く、個人に頼むより確実性が高いので大変重宝されていた。
「スリーロックとは定期的に冒険者組合経由で連絡とってたの。そういえば幸太郎さんには言ってなかったわね」
「そうか、それで今回はどのようなご用件でここに?観光?」
「まあ、リズの村を見てみたいというのも理由の一つだからあながち間違いじゃないけど…勿論理由は別にあるわよ。ちょっと幸太郎の力を借りたいの」
「へ?自分?」
幸太郎は自分を指差す。
ウォズが頷いた。
「ええ、幸太郎の力を借りたいの」
「そりゃ内容次第だけど…」
「単刀直入に言うと、悪い魔女をやっつけて欲しいの」
「やだ」
「「即答!?」」
速攻で断られてウォズは予想外だと言わんばかりな顔をする。
リズもまた同じような顔をしていた。
「いやだって、いやな予感しかしないし…」
わざわざ幸太郎にウォズが会いに来た時点で厄介ごとの匂いしかなかった。
その時点でだいぶ警戒していたが、軽く内容を聞いた時点で幸太郎は断れるなら断りたい気分になった。
「わざわざこんな所にいる自分を訪ねて来たってことは、ミスリルにしか対応できない案件だよね?しかも悪い魔女っていうくらいだから相当な札付きだよね?そんなのと対峙したくないです」
ウォズは唖然としてリズをみる。
「リズ…」
「あー、幸太郎さんはそういうところがあるのよ。厄介ごとを極力嫌がるの。実力あるくせに」
リズは幸太郎の修行に付き合う中で幸太郎が厄介ごとを嫌がる節があることに気付き始めていた。
「それ自分の実力じゃないからね?召喚獣の実力だからね?」
「召喚獣の力が幸太郎さんの力じゃないなら何なのよ…」
召喚士にとって、呼べる召喚獣の強さも立派な実力と認識しており、それを切り離すことはリズにとって理解不能であった。
「なるほど…リズも苦労してるのね」
ウォズはリズの苦労の一端を理解して同情する。
「とにかく幸太郎と召喚獣の力を借りたいの」
「えー」
幸太郎は嫌そうな顔をする。
幸太郎自身は修行でだいぶ力がついたとはいえ、まだホーンラビットに勝つことができる程度の実力しかない。
なのでミスリルじゃないと対処できないような、恐らくはマナコスト4以上は確実な、危険な相手とは必要がない限り相対したいとは思わなかった。
(ビーイングの維持費問題も解決されたから無理にクエスト受ける必要もないし)
「ちょっと、ウォズこっちへ」
リズはウォズを引き連れて幸太郎から離れたところで内緒話を始める。
「…で、…だから」
「なるほど…なら…」
やがて何らかの結論が出たようで、こちらに戻ってくる。
「こういうことは言いたくなかったんだけど、というか断られるとは思ってなかったんだけど、幸太郎に拒否権はないわ」
「どういうこと?」
「この任務は幸太郎の言うとおり、ミスリルしか対応できない難易度の高い任務よ。そして私は冒険者組合の正式な依頼をうけてるの。幸太郎を任務に参加させろって」
「またまたそんなー」
「はいこれ命令書」
幸太郎は一枚の紙を渡された。
そこには幸太郎を任務に参加させるために、ウォズに冒険者組合の権限が特例で移譲されている旨が記されていた。
「今回の任務は、組合から発注される強制クエスト。断ったら最悪組合から追放ね」
「…まじ?」
「マジ」
幸太郎はこの世界の人間ではない。
最近はマルゴッド伯爵の後ろ盾が出来たが、それは勘違いで成り立っているであろう危険な後ろ盾だ。
頼ることはできない。
残るは冒険者組合という後ろ盾であり、身分というものが元の世界より重要である以上、簡単に失うわけにはいかなかった。
身分なんてなくても腕っ節で十分、なんて考え方は幸太郎にはできなかった。
「話を聞かせてください」
「素直になってくれて嬉しいわ」
ウォズが微笑む。
幸太郎は素直に任務を受けることになった。
「今回の任務は、交易路を封鎖している魔女の討伐よ。白金じゃ手に負えなかったから、ミスリルの幸太郎にお鉢が回って来たの」
「あの、もしかしてだけど手に負えなかった白金って…」
「御察しの通り私たちよ。クレインとボルクは治療院で療養中」
「マジか」
スリーロックは最近メキメキと実力を伸ばして話題になっているいる新進気鋭のチームだ。
それが返り討ちにあうとなると実力は相当高い。
幸太郎の中で魔女に対する危険度の認識が跳ね上がる。
「そんなわけで、標的までの案内は私が行うわ」
「その魔女ってのは人間なの?」
「一応はね。悪魔と契約した者を人間というならだけど」
「あああ、やっぱり化け物だよ…」
悪魔と契約した人間は超常の力を得る。
その代償は大きいだろうが、そんなことは本人以外には関係ない。
魂を犠牲に力を手にした連中なんて、幸太郎的には一番相手したくない連中だった。
(そんなの自爆テロすら辞さないようなテロリストまがいの連中と変わらないよ。絶対まともじゃない)
「その交易路はね。近々予定されてる魔王軍との戦闘で使う進撃ルートの候補の一つなの。そこを封鎖している魔女は魔王軍に加担、あるいは参加している疑惑がある」
(下手したら魔王軍の応援ありと…ますます行きたくない…)
聞けば聞くほどいやな予感しかしない。
「大丈夫よ。私たちが戦ったけど、魔王軍と戦うなんてそんなことなかったから」
ウォズが安心させるように言ってくる。
(だといいんだけど…応援を出すまでもなかったとかじゃないといいけど!)




