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赤い花は巨人の足元に咲き誇る

「す、すごい。こんな景色見るの初めて!」


 すでに夜はあけ、陽の光を浴びた世界は壮大で美しかった。

 はるか上空に飛び上がったペガサスの背中で、初めて見る景色にリズは感動する。


「そ、それはよかった」


 一方幸太郎は、あまりの高さに顔にを引きつらせている。


(落ちたらこれ絶対死ぬよな…)


 なので、ペガサスの手綱をしっかりと握って、鞍に足をかけていた。

 因みにリズはそんな幸太郎とペガサスの首の間に座り、手綱を両脇に挟んで、首に手を回すようにして捕まっている。

 これなら取り敢えず落ちることはなさそうだった。

 この辺りに四季があるかは不明だが、季節としては春から夏にかけての気候に近い。

 一応厚着してきたので、二人とも寒さはそれほど感じなかった。


 二人は眼下の世界を眺めながら、マルゴッドの街へと急いだ。

 空を駆ける天馬は、圧倒的な速度で飛んでいく。

 昼前には、マルゴッドの街に到着した。


「こ、幸太郎さん、なんか変なのが街の前に!」


 リズが指差したのは、幸太郎が街に置いてきたエンシェントデストロイヤーだ。

 その巨体ゆえに遠くからでもはっきり見える。


「なんか巨大なゴーレムが兵士に囲まれています!」


 エンシェントデストロイヤーは街から出てきた兵士に囲まれていた。

 すると幸太郎の気配を察知したのか、エンシェントデストロイヤーは顔を上げる。

 それにつられたかのように、兵士達が空を見上げ、こちらを指さして何かを叫ぶ。


(降りないと弓とか魔法(スペル)で攻撃されそうだよなあ。魔王軍に襲われたばかりだし、撃たれる前に降りよう)


「降りようか」

「いや、まずいよ!このまま降りたら不審人物で捕まるよ!今なら顔もよく見えてないだろうし、このまま少し離れたところで降りてから街に入ろう!ねえ話聞いてる!?」


(そんなことして万が一撃たれて墜落したら死ぬから。そうなる前にすぐ降りたいし…)


 全く見当違いなことを言うリズを無視して、ペガサスに下に降りるように伝える。

 幸太郎は降りても絶対に捕まらない自信があったが、それをリズに説明するよりは実際に見てもらった方が早い。

 そうして地上に降り立ったペガサスのところに兵士達が駆け寄ってくる。


「あああ…」


 武装した兵士が駆け寄ってくる様に、リズはビビり、幸太郎の裾を掴む。

 兵士と幸太郎の目が合うと、兵士は目を見開いた。


「し、召喚士様!」


 兵士達は慌ててその場に跪く。


「へ?私?」


 勿論召喚士様とは幸太郎のことである。

 兵士たちや冒険者は、幸太郎の召喚士としての実力に敬意を評して召喚士様と呼んでくる。

 幸太郎はその呼び方は受け入れていた。


(教祖様なんて呼ばれ方よりは遥かにマシだから!)


 リズが自分のことを指差しているのを無視して、兵士は幸太郎にこう告げる。


「丁度良いところに!実は召喚士様のお力をお借りしたく…」

「え?なんですぐバレてるの?バレないように帽子かぶってたのに」


 どうやら正体がバレたと思ったらしい。


(帽子もとってないし、召喚魔法(スペル)も使ってないのになんでバレるんだよ。というかマルゴッドの街の人は召喚士にツノが生えてることすら知らないぞ)


「何かあったの?」

「はっ!エンシェントデストロイヤーが暴走しまして、街に来た商人を踏み潰したのです。現在、エンシェントデストロイヤーを包囲しておりますが有効な対処方法が見つからず…どうかお力をお貸しください!」

「ええ!無理よ。あれ、私のゴーレムの数倍大きいじゃない!あんなのに勝てるわけがないわよ」


 兵士は困惑気味にリズを見つめる。


「君はさっきから何を言ってるんだ?召喚士様はそちらの幸太郎様のことに決まっているだろう」

「へ?」


 幸太郎がこの街では召喚士様と呼ばれてると知ったリズは地面に座り込んで、落ち込んでいた。


「リズ…」

「ごめん、しばらく放っておいて。ああ、恥ずかしい。死にたい」


 呼ばれて自分のことだと思い込んで返事してたらそうじゃなかった時は本当に恥ずかしい。


(召喚士様と呼ばれてすぐに自分のことだと思うあたり、外じゃそう呼ばれてたんだろうな)


 魔法(スペル)が使える術士は田舎の村では賢者として扱われる。

 勘違いしてる様が面白くてつい放置してしまったことにすこし罪悪感を覚えてしまう幸太郎であった。


 そんな落ち込んでるリズをしばらくそっとして置いてあげる。

 兵士たちに囲まれて、幸太郎はエンシェントデストロイヤーのところに向かう。

 よく見ると、エンシェントデストロイヤーの右足が血に濡れており、側には商人の乗って来たと思われる馬車が転がっていた。


(ああ、間に合わなかったか…)


 それを見て幸太郎は悲痛な顔をする。

 そして顔を歪ませる。


(ああ、見事に綺麗な赤い花を咲かせたじゃないか)


「こ、幸太郎さん?」


 ふと近くに来ていたリズがこちらを見上げるように覗き込んで来た。


「ん、どうたのリズ?」

「い、いえ、気のせいだったようです。」


 そう不明瞭なことを言ってリズは顔を背けた。


「あれ、あんた宿場町で飲んだ幸太郎じゃねーか?なんでこんなところに?」


 声をかけられた方を見ると、そこにはスリーロックの面々が立っていた。


「クレイン!ウォズ!ボルク!無事だったか!」

「いや、無事っちゃ無事だが…でも依頼主が潰されちまったんだよ」

「全くよ。おかげで折角森を抜けたのに報酬がパーだわ!」

「おまけに昇格も保留だな」


 リーダーで戦士のクレインが頭をかき、魔法(スペル)使いのウォズが嘆き、盗賊で弓使いのボルクが苦笑する。

 みんな無事だった。


「みんな!無事だったの!?」

「おお!リズじゃねーか!」


 そこに落ち込んでいたはずのリズが駆け寄ってくる。


「よかったみんな無事だった…」

「リズ!久しぶりね。元気そうでよかったわ」

「ウォズも無事でよかったよ!」

「なんだ?俺が恋しくて追って来たのかよ?」

「馬鹿ボルク!んなわけないでしょ!というかあんたとは何もないでしょうが!」


 4人は和気藹々と語り出す。

 そこには気の置けない仲間特有の暖かい空気があった。


「いや本当に無事でよかったよ。みんな踏み潰されてなくて」

「ん、そりゃどういう意味だ?」

「幸太郎様、それはどういうことでしょうか?」


 クレインか訝しみ、最初に話しかけて来た兵士である部隊長が意味を聞いてくる。


「それを説明する前に確認したいことがあるんだけど、クレイン達は商人の護衛を受けた時、何を運んでいるか聞いてた?」

「ん?確か珍しい動物のツノを運んでいるって聞いたぜ」

「んな!」


 リズがそれを聞いて叫び声をあげる。

 同胞を珍しい動物なんて言われたらそりゃ文句も言いたくなるだろう。


「そ、それだけなの?」

「それだけだ」

「……」

「因みに実物とかは見たか?」

「いや、それは見てないな。そういや」


 嘘は言ってないように思えた。

 顔には「なんでそんな事を聞くんだ?」と言った困惑する様子が見えた。


「なるほど、因みにだけど、あんたらはエンシェントデストロイヤーの足元は潜った?」

「ああ、潜ったぜ。なんかそんな面倒臭い規則が出来てたんだな。こんなデカブツが動くわけないよなって思って通ったら、最後に通った商人がいきなり踏み潰されてさ」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 クレインたちスリーロックの面々が、マルゴッドの街に来た時、まず目に入ったのは身の丈30mはありそうな巨大なゴーレムだった。


「でっけえなあなんだこれ?」


 今まで見たこともない代物に彼らはただ呆然と見上げていた。


「おい、そこの連中。とまれ」


 そこを通り過ぎて、街に入ろうとすると衛兵に呼び止められる。


「街に入りたければ、このゴーレムの股下をくぐって証明書を受け取れ。でないと街には入れないぞ」

「はあ。ちなみに理由を伺っても?」

「教える義務はない」


 クレインが問いかけるが、衛兵は全く取り合わない。


「久々に来たらわけわからない制度ができているな」


 よく見ると他の旅人も丸ゴッドの街の外周伝いにわざわざここまで来て、くぐって衛兵から通行証を受け取っていた。


「というわけです。どうします商人さん」

「…わかりました。それが規則なら仕方ないですね。私は最後に通りましょう」

「わかりました。ウォズ、ボルク。行くぞ」

「了解。しかしでかいゴーレムだな」

「本当ね。リズのゴーレムの数倍はあるわね」


 クレインたちは、言われた通りに股下をくぐる。

 それを見た衛兵は、くぐったクレインたちに通行証に木札を渡す。


「木札を門の衛兵に渡せ。そうすればあとは通常の手続きに入る」

「へいへい…ったく変な制度が増えたもんだ」

「意味不明よね。ゴーレムの足元をくぐり抜けるだけなんて意味あるのかしら?」

「全くだ。そもそも動くのかねこのデカブツ」

「動くわけないだろ?こんなでかいとどんだけ魔力が必要か」

「そうよね。どんな魔法(スペル)使いもこんなデカブツを動かせる魔力なんて練れないわよ」


 ゴーレムの足元をくぐり抜けた面々は口々に感想をこぼす。

 スリーロックの面々が無事通り抜けたのを見て商人も股下をくぐるのを決めたようだ。

 馬車から降りて、ゴーレムに近づいて行く。


「…自立制御モード起動…管理者命令による危険度判定…該当と判断…詳細測定…即時無力化対象と認定…」


 そして、ゴーレムが動き出した。

 ゴーレムはゆっくりと足を上げる。


「う、動いた」


 それを誰もが呆然と見上げる。

 その挙動はゆっくりと見えたが、それはゴーレムがあまりにも大きすぎるからだ。


「ば、ばかな!!」


 動き出したゴーレムを見て慌てて商人は馬車の方に逃げ込もうとする。

 だが、ゴーレムはそれ以上の速度で一歩を踏み出した。


「巨万の富を得る一歩手前だったのだ!!こんなとこ」


 ズウンンンンン!


 商人の叫びは、巨人の足音でかき消される。

 地響きとともに近隣にいたものたちが地面の揺れでバランスを崩す。


「のわ!」


 それは巨人にとっては小さな一歩だった。

 だが、矮小な人間にとっては天災に等しいものだった。


「しょ、商人が…」


 商人は逃げる事叶わず、人がありを踏み潰すがごとく、巨人に踏み潰されていた。

 間違いなく息絶えているのは誰の目にも明らかだった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 それを聞いて幸太郎は安堵する。

 エンシェントデストロイヤーが何も反応しなかったなら、それは彼らが無関係なことの証明だからだ。


「ならクレイン達は無実だよ。よかったなリズ」

「え?」


 リズが訳わからないと言った顔で幸太郎を見る。

 幸太郎はエンシェントデストロイヤーを軽く叩く。

 それを見た皆の表情がこわばる。


「お、おい。そいつはいきなり商人を踏み潰したんだぞ!危ないぞ」

「大丈夫だよ。こいつは悪人か街に害を及ぼそうと思ったやつしか危害を加えないから」


 幸太郎は、エンシェントデストロイヤーに命じた命令についてみんなに説明する。


(後、自分は絶対に傷つけるなと命令したし)


 それは幸太郎が、エンシェントデストロイヤーを使っていろいろ検証した結果、自信を持って言えることだった。

 幸太郎はエンシェントデストロイヤーに街に入ろうとする悪人の捕縛や、侵略者の撃退を命じた。

 そしてそれが正しく履行されるかどうか、ビーイング達を使って実験を行った。

 その結果非常に高い精度で、街に害意のある者や悪人の判定が可能なことが判明したのだ。


「流石は古代兵器、なんでもありだな」


 その時、幸太郎はそう呟いたが、もしセシリーがこの事を聞いていたら「あんたが言うな!」と全力で突っ込んでいたことだろう。

 ちなみにその過程でカシラが何度も実験台にされ、犠牲になりそうになって涙目になっていた。


 そうやって十分な検証をしてなければ、そしてスリーロックの話を聞いてなければ、幸太郎はエンシェントデストロイヤーに近づこうとすら思わないかっただろう。

 幸太郎の中でエンシェントデストロイヤーが誤判定して暴走した可能性は完全に0だった。


「じゃあ何、私たちが護衛した商人は、じつはとんでもない悪党だったから潰されたってこと?」

「ええ」

「私たちが無事だったのはそうじゃなかったから?」

「まあそうなりますね」


 それを見たスリーロックの面々はホッとした顔をする。

 巨人に踏み潰されて死ぬなんて、碌でもない死に方だろう。

 そうならないで済んで安堵したと言った顔だった。


「ですが、幸太郎様。確かにエンシェントデストロイヤーは悪人を見つけたら、街に通さないように捕まえたりしてくれました。しかし、いきなり問答無用で潰すなんてことは今までなかったのです。一体この商人は何をしたのですか?」


 部隊長が不安そうに訪ねてくる。


(う…それは自分も知りたいことなんだけど…)


 幸太郎は、エンシェントデストロイヤーがどういう状況になれば、このような事態になるのかの推測はついていた。

 だが商人が何をしたのかまでは幸太郎にもわからなかった。


(原則は捕縛のはずなんだけどな)


「それは馬車を見て貰えばわかります。リズ」


 だから、幸太郎は商人が潰されるに足る理由の一環を示すことにする。


「…ええ」


 リズは横転してた馬車に近づいていく。

 兵士達が道を開けて、リズは馬車の中に入ると、そこから一抱えほどの袋を取り出した。


「それで間違いないか?」

「ええ、間違いないわ。みんなの気配が漂ってたもの」


 そう言って取り出したのは、白く尖った何か。

 死んだ商人曰く珍しい動物のツノ。


「それ、全部召喚士の頭のツノなんだよ。そのツノを奪われた召喚士達はみんな死んでた。リズはその生き残りなんだ」


 リズは帽子を脱いで、召喚士特有のツノを露わにした。

 そして袋の中身を見せる。

 袋の中には同じようなツノが数えきれないくらいあった。


「「「「……」」」」


 前代未聞の大量殺人の証拠を前に、誰もが絶句していた。


「スリーロックの連中がこんなクズの道連れにならなくて本当によかったよ。そうなってたらリズがあまりにも救われなかった」


 幸太郎は安堵する。


「そういえばクレインさんたちが街に入る前に死ぬかもしれないとか仰ってましたね。それって…」

「うん。こうなるかもしれないと危惧してたんだ。巻き込まれるかもしれないって」


 そうなってたら幸太郎もまた罪悪感で押しつぶされていただろうから。

 幸太郎はエンシェントデストロイヤーがちゃんと命令を守って悪人だけを潰してくれたことに安堵する。


「商人に口封じに殺されると思ったわけじゃなかったんですね…」


 リズがジト目で幸太郎を持つ見つめる


「い、いや…護衛の依頼していたから街に着くまでは問題ないと思ったんだ!」


 幸太郎は慌てて弁明する。


「基本的には、魔物はともかく悪人は原則捕縛なんだよね」


(問答無用で殺したら流石に問題になりそうだし)


「殺すのは捕縛できそうになかったり、悪事を防げそうにない時の最終手段だったんはずなんだけどな」


 だから幸太郎は、捕縛の際に守ろうとして巻き込まれるなどの万が一の可能性として危惧していたのだが。


「まさかペシャンコに踏み潰されていたなんて…一体何しようとしたんだか」


 それだけが謎として残っていた。

 真相はエンシェントデストロイヤーのみぞ知る。

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