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天馬を駆るものたち

 帰し方を教えてもらうために、リズと仇を追うことになった。


「それで仇を探す当てはあるの?」

「それはありません」

「ないんだ…」


 幸太郎は肩透かしを食らった気分になる。


「ただ、仲間たちは死んで時間が経ってないようでした。まだ近くにいると思います」

「だとしてもそれって数日前のことだよね。もう大分遠くに行っているような。それに何で、その時追いかけなかったの?」


 幸太郎は素直に思った疑問を聞いてみる。


「それは、その…1人で仇を追いかけても返り討ちにあうかもしれないと思ったのです。それに仲間を葬らないとアンデッドになるかもしれないですし」

「あ、そうか」

「だから幸太郎さんのような方が味方してくれたらとても心強いです!」

「お、おう」


 リズは幸太郎という心強い味方を得たからこそ、敵討ちを決意したのだろう。

 幸太郎自身はそんな頼られても困ると割と本気で思っているが。


 そしてアンデッドは発生させたらやばい。

 リズの判断は仕方ないことだった。


(というかリズの言うとおり、毒を使っただろうとはいえ、召喚士達を虐殺した犯人を追うのってすごく危険なんじゃ…)


 そのことに今更ながら思い至り幸太郎は気が引けそうになる。


「それに召喚士のツノは、強い魔力を持っていますが、その分高価なはずですので、小さな村や町では売れないと思います。敵は何処か大きな街で売りさばくはずですので、地道に聞き込みしていきます」

「えー」


 犯人探しに及び腰になりそうなところに、気の遠くなるような話を聞かされて、幸太郎は嫌な顔をする。


(自分が犯人なら聞き込みする怪しい人間がいたらさっさと逃げると思う。いや殺人者なら殺しも選択肢に入る?ええ…)


「そ、そんな顔しないでくださいよ」

「でもどうやって聞きに行くの?召喚士のツノの売ってませんかって聞きに行くの?それに召喚士ってバレたらまずいんじゃないの?」

「確かに、私も召喚士であることを隠すために、基本的には帽子を被ります」


 リズは魔法(スペル)使いが使いそうな三角帽子を取り出した。

 確かにこれを使えばツノは隠せるだろう。

 ツノは斜め前に飛び出しているから、帽子は斜め前にズレる羽目になるようで、帽子を被ったリズは目が帽子で隠れたモブ魔法(スペル)使いキャラに見える。


「だから、これを使います」


 さらに取り出したのは、リズの頭に生えているのと同じツノのペンダントだった。


「それは?」

「我が家に代々伝わるご先祖様のツノのお守りです。これを見せて手がかりを聞き出そうと思います」


(なるほど、百聞は一見に如かず。聞き込みは大分楽になるだろうが)


「あれ?エルどうしたの?」


 そこでさっきまで会話に寄らなかったエルがじっとお守りを見つめている。

 リズがエルを見てお守りを抱いて後ずさる。


「この魔力の感じ。宿場町で見たものと同じです」

「え?」


 幸太郎は真実写しの眼鏡をかけて、お守りを見る。

 お守りからは魔力が迸っているのが見えた。


「緑の魔力…」


 それはスリーロックの連中が、護衛していた馬車の中から迸っていたものも同じものだった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「そんな、クレインさん達が」


 そのことを聞いたリズが絶望した顔になるのは仕方ないことだった。


(スリーロックの連中の話から気のおけない間柄だとは思っていたがこれほどとは)


「いや、まて、早合点するな。スリーロックの連中は、詳細を隠されて護衛の依頼を受けたのかもしれない」

「そ、そうよ!?確かにクレインさん達とは別れてすぐに村に向かったの。クレインさん達がやったなら時系列的におかしいわ。それにあの人たちがそんな依頼を受けるとは思えないし」


 リズは何とか気を取り直したようだ。


「村のみんなを殺すだけじゃ飽き足らず、クレインさん達を騙すなんて!」


 リズの瞳は怒りに燃えていた。


「商人の目的地はおそらくマルゴッドだろう。向かった方角もそっちの方だった」

「マルゴッドなら、正規ルートなら10日かかります。あの森のルートを使ったら追いつけるかもしれません。急いでいきましょう!」

「いや、無理だ。スリーロックの連中も森のルートを使っている。酒場であったときにそんな話をした」

「そんな…」


 リズの実力なら、あの森を突破するのも簡単だった。

 もし敵が正規ルートを進んでたら、先回りしてスリーロックの連中を説得して、仇を討って、村の仲間の形見のツノも奪還できただろう。


 半分諦めてたそのチャンスが、すぐに手のひらからこぼれていったのだ。

 落胆も大きい。


 なお冒険者組合に虚偽の依頼が発覚した場合は、程度によるが、依頼はキャンセルされ、場合によっては依頼者の捕縛で報奨金が出る。

 今回は召喚士を大量に殺害して手に入れたツノの運搬という犯罪行為の片棒を担がせるようなものだ。

 冒険者組合が受けるはずのない依頼であり、虚偽依頼は冒険者組合への敵対行為だ。

 ほぼ間違いなく報奨金が出る。


 スリーロックの連中が敵の仲間じゃなければ、喜んでこちら側につくだろう。


「いえ!それでも街についてすぐに売りさばかないかもしれない。それにクレインさん達に聞けば仇の顔も分かる!やはり今すぐ準備を整えて行きましょう!」

「いや、それじゃ間に合わないかもしれない」

「どういうことですか?!」

「スリーロックの連中…街に入る前に死ぬかもしれない」

「!?」


 幸太郎はその可能性があることにようやく思い至った。

 その側でリズが「口封じ…雲隠れ」とつぶやいている。


「ことは一刻を争う。今日中にマルゴッドの街に着かないと」


 計算が正しければ、早ければ明日には、敵はマルゴッドの街に到着する。


「ええ…でもそんなの無理です。ここからどんなに急いでも5日かかるんですよ!」


 ここから宿場町までは歩いて2日かかる。

 宿場町からマルゴッドは、正規ルートなら10日、危険な森を経由するルートなら3日かかる。


「馬を使おう」

「馬は森の魔物を恐れて嫌がります。正規ルートを使わざるをえませんし、結局同じくらい時間が掛かってしまいますよ!」


 そうそれも無理なのだ。

 だから…


「空飛ぶ馬を使おう」

「はい?」


 困った時のカード頼みだった。


 ペガサス

 ビーイング

 アタック500

 ディフェンス300

 マナコスト5


「ヒヒーン」


 幸太郎が召喚したのは、光り輝く空飛ぶ白馬、ペガサスだった。


「というわけでこれに乗って行きましょう」

「ちょちょちょっと待ってよ!これペガサスよね?あの伝説の?!」

「あ、ここでもそうなんだ。うん、そうそれ」

「天界に住むと言われる伝説の魔獣よ!?一体どうやって契約したの?!」


 200円のカードパック10枚入りに入ってました。

 単価は20円です。この世界なら2鉄貨ですね。

 とは言えない。


「ね、ねえ、他にも、もう1匹ペガサス契約してたりしてない?」


 もう1匹どころか数十匹いますよ。

 なんて言えない。


「もしよかったら契約を譲って欲しいなぁ。ねえ、ダメ?」


 そういってリズは上目遣いで物欲しそうに聞いてくる。

 リズはまだ幼さを残しているし、エルにこそ及ばないが、十分美少女といっていいレベルだ。

 そうやってねだられると「うんおじさんあげちゃう」と言いたくなる危うさがあった。


「そ、それは後でね。とにかくこれに乗れば空を飛んで大幅にショートカットできるから」


 幸太郎は精神力をかなり消費してその誘惑から逃れた。


「はっ!そ、そうね。クレイン達を助けに行かないと」


 リズは当初の目的を思い出す。

 だがそれがいつのまにか敵討ちではなく仲間の救出になっていたことに幸太郎は苦笑する。


(この子は強い。憎しみに囚われていないならこの子はきっと大丈夫だ)


「OK、エルすまないが他のみんなと一緒に留守番頼む」


 ペガサスは2人乗るのが限度だった。

 3人乗れば、飛べないだろう。


「承知しました。お気をつけて」


 ペガサスはかなり強いし、マルゴッドにはシンパもいるので、エルは特に反対することはなかった。

 上空は冷える。

 2人は厚着をして、リズは帽子をかぶって、外れないように紐で縛っていた。

 ツノを隠すためらしい。


「ヒヒーーン!」

「「ひゃああああ!高い!早い!怖い!!」」


 幸太郎とリズを乗せたペガサスは、凄まじい速度ではるか上空へと飛び立っていった。

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