無人の村の守護者
召喚士の村らしき集落で、幸太郎は困っていた。
「ちょっと状況を整理しよう」
幸太郎達は召喚士の村らしき集落を発見した。
そこは地図に載ってない村でそもそも結界を超えた先にあった村だ。
だかそこは畑や家はあったものの、全く無人だった。
「すいません。誰かいませんか?」
ビーイング達を引き連れて恐る恐る一件一件見て回った結果だからほぼ間違いない。
「これだけなら放棄された村かなとも思ったんだけど」
「ですが、その割には生活道具が放置されてます。しかもまだ使えそうな。そして畑は雑草こそ生えてましたが、収穫してもいい作物が実ったままです。
まるで、最近急に慌てて村人が逃げ出したかのような」
「うん。それで他に何かないか探して見つけたんだけど」
幸太郎達が見つけたのは、村の裏手にあった墓場であった。
ただそこで幸太郎はあることに気づいた。
「奥の方にはちゃんと掘られた墓が有るんだけど、手前の方の墓場は盛った土の上に石が置いてあるだけなんだよね。それが大量に村の近くまで続いていた。そして近くには放置されたスコップや土砂を運ぶ台車も放置されてた」
「何か流行病があって村が放棄されたにしては、使えそうな資材が放置されすぎてますね。多少は慌てて持って行こうとしたのか荒らされた形跡もありましたが」
「流行病か襲撃か。どちらにしても何かあったっぽいんだよね」
「はい。どうなさいますか?」
「帰ろうかと言いたいとこだけど、気になることあるから一晩泊まって行こうかな。もうちょっと調べたいし。正直気がひけるけどエル達が守ってくれるなら安心だし」
「はっ。お任せください」
以前の幸太郎ならすぐ帰ろうと言いたいとこだったが、何かあったのか気になる好奇心とビーイング達への信頼感から、ここにとどまることを決めた。
というわけで村の広場でキャンプを実施する。
とはいえやることは簡単で、スケリトルドラゴンの荷物を降ろして、布を解き、スケリトルドラゴンの背中にかける。
基本それだけで即席テントが出来上がる。
肋骨の中に寝袋を敷いて、幸太郎は寝て、基本不眠不休で動けるスケリトルドラゴンが警戒し、エルとフレイムタイガーが念の為交代で警戒する方針である。
「あのーやっぱり自分も交代した方が」
「幸太郎様が私たちの誰よりお強いのはよく理解しておりますが、私たちの役目は幸太郎様の守護。どうか幸太郎様は心安らかにお休みになってください」
「…はい。わかりました」
エルは口調こそ丁寧だったが、目は全く笑っていなかった。
本末転倒だから黙って寝てろ
なんとなくだけどそう言われた気分だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
幸太郎が寝てしばらくした後、スケリトルドラゴンが主に警戒し、エルとフレイムタイガーが交代するという変則的な二交代制で見張りをしていた。
フレイムタイガーがエルに近づき、弓を抱えたエルを起こす。
「ありがどうございます。何か異常は?」
エルが立ち上がり、フレイムタイガーに問いかけるが、フレイムタイガーは首を振ってそれを否定する。
「異常なしですか。ではわたしが引き継ぎます。あなた休んでてください」
それを確認したフレイムタイガーは、その場に丸くなって寝転がる。
エルが今度は、スケリトルドラゴンの周囲を巡回し始める。
その時、微かな異音を捉えた。
フレイムタイガーの耳がピクリと動き、ゆっくりとフレイムタイガーが起き上がる。
炎を消して、周囲を探る。
炎を出していたらいい的だからだ。
エルもまた同時に弓を構える。
エルの目は、夜ですら昼のように見通すことが可能であり、その目は音のした方角をしっかりと捉えていた。
やがて、その音が明らかにこちらに近づいてくるのを確信する。
「スケリトルドラゴン、申し訳ありませんが幸太郎様を起こしてください」
スケリトルドラゴンは頷き、テントの骨組み代わりの肋骨を器用に動かして幸太郎を起こす。
幸太郎はゆっくりと外に這い出てくる。
敵の襲撃など不測の事態があった場合は起きていただくことがあると聞かされており、その顔には緊張で強張っていた。
やがて音の正体が、空き家の影から姿をあらわす。
それは金属の体でできた人形だった。
ただし、その大きさは優に3メートルを超える。
「ゴーレム…」
ゴーレム
ビーイング
アタック400
ディフェンス500
マナコスト5
守護
エルはその姿を認めた瞬間躊躇なく矢を放った。
ヒュッ
カアアアアン!
甲高い金属音と共に、ゴーレムの左足を矢が貫通する。
「っ硬い」
エルは街売りの木の矢で、金属のゴーレムの足を貫通するという離れ業をやってのけたが、エルとしては足を砕けなかったことが不満だった。
「ウオオオオオ!」
ゴーレムがエルを危険視して突進してくる。
だが、左足を貫かれた為かその足取りは重い。
「グルル!」
そこにフレイムタイガーが横合いから突進してゴーレムに体当たりする。
「ウオオオ!?」
ダメージを受けた左足では踏ん張りきれなかったのか、ゴーレムはその場に倒れる。
「ガアッ!」
フレイムタイガーは倒れたゴーレムに火炎放射を浴びせる。
ゴーレムはそれをとっさに両腕でガードした。
金属製のゴーレムの腕の表面が溶けるが、それ以上は解けなかった。
このまま耐え続けたらフレイムタイガーは炎を吐けなくなるだろう。
「なるほど頭が弱点ですか」
ゴーレムはガードしながら声のした方を振り返る。
そこには、光り輝く矢を構えたエルがいた。
ヒュバ!
その瞬間矢が放たれて、ゴーレムの頭部に吸い込まれる。
ゴーレムは頭を吹き飛ばされた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「い、今のは?」
「ハイパワーショットです。命中率や飛距離を犠牲に大ダメージを与えます。魔力の消費が大きいのが難点ですが、エンシェントタートル戦の反省を生かして開発しました」
「あ、そ、そうなんだ。へーすごい」
幸太郎は感嘆することしかできない。
リザレでは、アタックとディフェンスとマナコストと効果しかわからないから、ビーイングが使える技や魔法なんて知りようがない。
(カードのルールや効果ですら変質したりして持て余しているのに、これ以上新しい概念増やさないでほしい)
この感じだとアタックやディフェンスはあくまで参考値説が現実を帯びてきそうだった。
(いや、でも、結果的に、フレイムタイガーとゴーレムは攻撃と防御で拮抗しているように見えたし、エルの攻撃も600以下のやつなら一撃で倒せる手段があることがわかったから、全く参考にならないわけでもないんだろうけど、ああ、リザレみたいにちゃんとダメージ計算してほしいなあ。そしたらわかりやすいのに。いや、そうなったらこの2人はとっくに墓場行きだからそれはそれで嫌なんだけど…勝敗が予測できないのも辛いし…どうすればいいんだ?)
と幸太郎が悶々してると、再びエルが弓を構えた。
エルにつられてゴーレムを見ると、ゴーレムが光に包まれて消えて行くところだった。
「え?これもしかしてカードの召喚現象」
それはリザレのビーイングをプレイするときに行われる現象と似ていた。
違いは召喚の逆再生のように、ゴーレムが光となって拡散して行くところだった。
同時に遠くから見ていた何者かが遠ざかる足音が聞こえてくる。
エルは夜でも昼のように見ることができる。
そしてここから一目散に遠ざかる影を発見した。
エルは遠ざかる影を狙撃しようとして、幸太郎に止められる。
「ダメだ。殺してはいけない」
「何故です?あれはおそらくゴーレムを使役している奴ですよ」
「だからだよ。生かして捕らえないと」
エルの矢は人間に風穴を開けてしまう。
撃たせるわけにはいかなかった。
「そもそもそのためにホーンラビットで包囲させたんじゃないか」
「きゃあっ!」
遠ざかる影がある地点で立ち止まった。
そして別の場所に逃げようとする。
だが、そこでまた立ち止まり、今度は反対方向に逃げようとして、すぐに止まる。
そしてその場にへたり込む。
幸太郎は真実写しをかける。
夜もはっきり見通せるようになったその目で幸太郎は、不審者がホーンラビットに包囲されているのを確認した。
「無事捕まえれたみたいだし、行こうか」
幸太郎はエルとフレイムタイガーを連れて包囲された不審者の方に向かった。
「幸太郎様を襲った不届きものよ。今すぐ武器を捨てて降伏するなら、すぐに殺すことだけはやめてやろう」
そう言ってエルは不審者に弓を向ける。
「殺すなら殺しなさい!盗賊に辱められるくらいなら今この場で自害するんだから!」
そう言って不審者はナイフを取り出して。
ヒュッ
「きゃあっ!」
エルの神業的な狙撃で、ナイフを弾き飛ばされていた。
「武器を捨て降伏しろと言ったはずですが?」
エルは冷たい目で不審者に告げる。
幸太郎の命令がなかったら武器を弾き飛ばすなんて悠長なことはせず殺すつもりだったのだろう。
その殺気に不審者はびくりと涙目になり。
「エル、ちょっとまってこの子、女の子だ。それに」
武器を飛ばされたときにフードが取れて素顔が見えるようになった。
フレイムタイガーの炎に照らされた、不審者の正体は銀色の髪のショートカットの女の子だった。
「ツノが生えてる」
ひたいの少し上からまっすぐに生えたツノは村で聞いた召喚士の特徴そのものだった。




