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天使の威を借る

 マルゴッド感謝祭が中止になって数日後のこと


 領主の館に幸太郎は来ていた。

 朝に使いの者がやって来て、昼頃に宿に送迎の馬車を寄越され、馬車までレッドカーペットを敷かれた上、馬車に乗り込んでからは多数の護衛に囲まれて、屋敷に向かうことになった。

 そして屋敷についてからもレッドカーペットを敷かれる徹底ぶり、文字通り下にも置かぬ厚遇だった。

 それもそのはず、幸太郎の背後には天使シンパが付き従うように浮かんでいるのだ。


 ちなみに他のビーイング達は、依頼を受けて、街の復旧作業の手伝いや、警戒任務を行なっている。

 護衛はシンパとのこったホーンラビットで十分との判断と、街の復旧に少しでも貢献したいという幸太郎の意向故だった。


 馬車でシンパのみを引き連れている幸太郎の顔は何も考えるまいと沈んだ状態のそれだった。


「どうかなさいましたか?」


 シンパが幸太郎に心配するように問いかける。


「いや…まあね。なんか凄い厚遇されているのが本当に申し訳なくて」

「一体何を仰っているのですか?幸太郎様はこの街を救った英雄なのですよ。誇りこそすれ、萎縮されることはないのでは?」

「いや、だってこれ自分の力じゃないじゃん…なんでか知らないけどリザレのカードを具現化できる能力のお陰じゃん。こんなの実力とは言えないよ…」


 幸太郎がこの世界に来てからずっと感じている申し訳なさ。それは幸太郎が身の丈に合わない能力を何故かもらっていることに起因する。


「それは幸太郎様に授けられた天運。どうか自信をお持ちになってください」

「うん、まあ、そう考えることもできるよね。開き直るのも一つの手。でもそれは宝くじに当たった人がいきなり性格豹変するようなタチの悪さを感じるんだ。というか他の人ってなんで大金手に入れたり、権力や能力を手に入れたらあんなに態度豹変するんだろう?」


 幸太郎にとって、財力や権力、能力をたてに横暴を行う行為は最低な行為としか思ってない。

 それが本人の努力などによって獲得した者ならともかく、そうでないものはなおさらだった。

 過去のいろんな経験から、それだけはすまいと心に決めていたから、今の状況は申し訳なさから針のむしろだった。

 ちなみにそんな幸太郎の密かな夢は「絶対的に有利だと思っている奴にノーを突きつけること」だったりする。

 小心者の幸太郎には今の所その夢は実現できてないが。


「なんと。本当に幸太郎様は謙虚でございますね。私も幸太郎様のその謙虚さを見習いたいです」

「うん。そう思うなら、浮かぶのやめて、天使の羽と輪っかを隠そうよ」

「それは嫌です」


 シンパ曰く、これを消すのは天使であることのアイデンティティの問題があって余程のことがないと隠したくないとのことだった。


「幸太郎様のためなら、便所掃除から夜伽までなんでもすることができます。死ねというなら喜んで死にましょう。しかし天使の羽と輪っかを消すことはできません。どうしてもというのであれば強制的にお命じ下さい」

「そんなことしたらまた泣くくせに…」


 今まで、ビーイング達は素直に従っていたからあまり気にしてなかったが、幸太郎が強く命令したらビーイングはその意に反した行動でも強制的にとらされるらしい。

 試しにシンパにそれをやって見たら泣きそうな顔になったので、その命令は解除している。

 ただそのおかげでビーイングに対して絶対命令権があることは確実になった。

 そのこと自体は彼らは実はリザレのカードであることからすんなりと納得いった。

 カードがマスターの指示に従わなければ、ゲームが成立しないからそれは当たり前のことだ。

 ただ問題は今のビーイングは意思のある存在であること。

 いくら絶対命令権があっても、幸太郎はそれを乱用しようとは思えなかった。

 何かを強制されるということがどれほど苦痛なのかは知ってたし、そのことの悪質さを改めて思い知らされたからだ。

 そのため、幸太郎は絶対命令権も余程のことがないかぎり、使わないでおこうと心に決めた。

 具体的にはビーイングが幸太郎を害そうとした時だ。

 もっとも、そうならないように行動するつもりであったが。

 その一環として、幸太郎はシンパを諭すことは早々に諦めた。

 ビーイングの好感度は高めになる選択をする。

 ある意味、いつも通りの選択であった。


「前にもいったけど、僕はシンパが嫌がるようなことを強制してまで行わせたくないよ」

「なんと、幸太郎様は謙虚なだけでなく、慈悲深き心もお持ち!このシンパ、幸太郎様のお心に触れ感動しております。では人前でないときは、この翼と輪っかは隠すようにいたします」

「いや、人前でこそ隠せよ」


 もっとも、すでにシンパが天使であることは広く知られているのだから隠すのは今更でもあるのだが。

 この頑なさは、人間より上位の存在である天使ゆえに、人間に侮られるのは我慢ならないというプライドの高さから来ているのかもしれない。

 そのプライドは幸太郎の前でだけ都合よく無視されるのはエルと同じだった。


「まったく、なんで天使もエルフもこんなにプライド高いの…」


 幸太郎は嘆いてしまう。


「エルフと天使を一緒にしないでいただきたい。あれは長生きでちょっと美しいからと他の種族を見下しているだけです。私は自身の立場と責任ゆえに誇りを持っているのです。あ、勿論エルは別です。彼女は同じ主人に使える大切な仲間ですので」

「ものすごいダブルスタンダード!?」


 幸太郎はこの清々しすぎる二律背反に頭を抱えてしまう。

 そんなこんなで領主の館に到着する。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「これはこれは幸太郎様、シンパ様。ようこそお越しくださいました」


 領主のマルゴッドがそう言って揉み手をせんばかりに2人を出迎えた。


 シンパが天使であることは、一瞬で町の隅々まで知れ渡ってしまった。

 一応箝口令は敷かれたのだが、規律の緩い冒険者の口に戸を立てることは出来なかったのと、逃げ遅れた一部の住民が、一部始終を見ていたためだ。

 天使の降臨は、信心深いもの達にとって大ニュースだ。

 信者ネットワークであっという間に広がるのも無理ないことだった。


 幸太郎の泊まる宿は即領主によって貸切となった。

 幸太郎以外の客は追い出され、周辺を兵士が二十四時間体制で警護することになった。

 さらに宿屋の前には信心深いもの達が、お供え物をおいていくようになった。

 なぜかというと、シンパが警護のためと言って、宿屋の前に浮かんでいたからだ。

 最初は兵士が近づくのを止めようとして危うく刃傷沙汰になりかけたが、シンパ自身が兵士を制止した結果、兵士もそれを止めることが出来なくなった。

 またシンパも天使らしく悪事を発見する能力があるらしく、幸太郎の了承をとって街中で起こる悪事を、幸太郎の警護に差し障りない範囲でやった結果、異様に治安が良くなった。

 その時に救われた被害者がマジ天使なシンパの行動を語るので、さらに貢物やお供え物を増やす結果になった。


 シンパが天使であることは見た目からも能力からも行動からも疑いようがない。

 そう誰もが認める頃には、「ならその天使シンパが守る幸太郎なる人物は何者か?」という疑問に移ったのは至極当然のことであった。


 まず、幸太郎が非常に珍しい召喚士であることは早々に広められることになる。

 スケリトルドラゴンや、フレイムタイガー、そしてホーンラビットを従えるその姿は目立つには十分だった。

 ただ、天使を召喚して、あまつさえ従えるというのは、それこそ歴史上に数人いるかいないかの伝説の域の話である。

 いくら珍しいとはいえ召喚士が容易にできることではない。

 百歩譲って、天使を召喚することはまあ出来たとしよう。

 しかし天使は文字通り神に仕える存在。

 召喚されたとはいえ、それが神の意志に背くことならば従うことはあり得なかった。


「幸太郎殿は召喚士としての才能だけでなく、神に認められ天使を使わされる伝説級の神官としての資格あるいは徳を有しているのでは?」


 まさかその幸太郎自身が、シンパにとって仕えるべき神であるなんて思いもしなかったのである。

 そしてとどめとばかりにもたらされた情報は、天使シンパは魔王の幹部らしき大悪魔、それも金クラス冒険者や大勢の兵士が束になっても叶わなかった化け物、を一瞬で浄化したという事実だった。


「神は魔王を討ち亡ぼして平和をもたらすために、幸太郎様とシンパ様を遣わしたのだ」


 そんな噂があたかも真実であるかのように町中に広まっていった。


「という話が市井では持ちきりとなっております」


 そういってマルゴッドは、応接室に座っていきなり、ジャブだと言わんばかりに、市井の噂について語ってきた。


「そ、そうですかー」


 幸太郎はその一言に頷くしかない。

 幸太郎自身はジャブを食らってダウンしたくなる面持ちだった。


「いやぁ、私も市井の噂と思ってますがねぇ。思ってますが、実際のところはどうなのでしょうかと思いまして」


 マルゴッドは意味ありげに幸太郎に聞いてくる。

 返答次第では、どう利用しようかといったところだろうか?

 ジャブを小刻みにはなっているともいえる。


「え、あ、そうですね…ほ、他に何か近況について聞かせてくれませんか?!」


 幸太郎は回答を延期するために、取り敢えず他の話を聞くことにした。

 マルゴッドの放つジャブは回避一択しかない。


「ああ、そうですね。近況としましては」


 マルゴッドが近況として語ってくれたのは、町の被害状況や復興の進捗度合い、また今回の襲撃による近隣諸国への影響などが含まれる。

 おおまかには、冒険者や兵士が大勢死んでしまい、また少なからぬ町の住人が巻き込まれたことで、各地から応援や義援金が集まっているが、進捗は芳しくないとのことだった。

 今はアンデッドが発生しないように、死体などを片付けて、浄化作業を行っているとのこと。


 因みにアンデッドは通常、死を起因にして発生する。

 死によって発生した負の思念が、偽りの命を得て、肉体を持たずに彷徨うようになるとゴーストと呼ばれ、それが死体に取り付いて動き出すと、スケルトンやゾンビになる。

 負の思念は、非業の死を遂げた者に発生しやすいし、そういう思念は元の持ち主の死体に宿りやすい。

 普通の人間の死体なら死体の状態によってゾンビかスケルトンに分類される。

 それらの中には、生前の記憶や能力を継いだ戦士のアンデッドであるゾンビソルジャーや、魔法(スペル)使いのアンデッドであるスケルトンメイジが存在したりする。

 アンデッドになるのは人間の死体とは限らない。

 例えばドラゴンの死体ならドラゴンゾンビとしてアンデッド化する例もある。


 中にはアンデッドの不死という特性に惹かれて、望んでアンデッドになる存在や、呪われた結果としてアンデッドになる存在もいたりする。

 前者の代表格は魔法(スペル)を極めんと禁忌の儀式を経て不死となった魔法(スペル)使いのアンデッド、リッチが主に該当する。

 後者は神の呪いによって不死となり、日光を避け、血を吸わねば消滅するアンデッド一族、ヴァンパイアが該当する。


 アンデッドは生前の素体の身体能力に加えて、生存本能がないためリミッターが外れたことによる常識はずれの怪力を持つ。

 痛覚なども機能しないため怯むこともなく、生命としての主体を素体に依存してない為、多少壊れても動き続ける。

 アンデッドは高位の魔法(スペル)で浄化するか、素体を完全に破壊しない限り永遠に動き続けて周囲に死を撒き散らす。

 そんなわけで死体の放置はアンデッドの自然発生を招きかねない。


 そしてアンデッドの発生は、アンデッドが生者を憎み、死を求めて死を撒き散らす習性から、その地域の負の思念による汚染の始まりとも言われている。

 現に、過去に悲惨な戦闘があった古戦場跡では今も多くの兵士の負の思念が、気の弱い人はそれだけで死に瀕するほど濃厚に、現在でも渦巻いている地がある。

 そこは更に負の思念によって発生した多くの凶悪なアンデッドが徘徊するため、浄化しようとしても容易に近づけず、数百年単位で負の思念が発散されて自然消滅するのを待つしかないため、囲われて封鎖されてしまった呪われた丘なる汚染地域すら存在している。


 魔王軍はアンデッドを戦力として組み込んでいるし、人間側にもアンデッドを使役する軍隊の存在があって、双方がアンデッドを利用している。

 現状では、アンデッドの有効利用の側面も段々注目されて研究が進んではいるが、上記アンデッドの危険性から反対の声は根強い。

 またこのように放置すると制御できないアンデッドが無尽蔵に増えて、汚染地帯となったら取り返しのつかない現状では、アンデッドの発生は未然に防止するべしが現在の常識であった。


 そんな話を聞くと、アンデッド系カードはますます危険だという認識が幸太郎の中でできつつあった。

 死の感染などは、文字通りその汚染地帯を生み出しかねない悪魔のカードだったと再認識してしまった。


(気になったからアンデッドのこと詳しく聞いたけど、これ放射能並みに危険な存在だわ。封印決定だわ)


 そう幸太郎は強く決意した。


「どうかなさいましたか?」

「あ、いえ、アンデッド発生防止作業も大変だなと思いまして。死体の回収や、その後の焼却、そして神官達による地域の浄化作業」

「ええ、そうなんです。今は神官も被害を受けて数が足らずこのままでは浄化は間に合わないかもしれないとか。そうなるとアンデッドが発生して少なくない被害を受けるかもしれません。ああ、そうなると大変なことに。神官は猫の手も借りたいと言ってました。それが神の手ならばいうことはないのですがねー」


 そう言ってマルゴッドは露骨に幸太郎の返事を待つ。

 どうやらアンデッド発生防止作業の話を振ったのも、幸太郎の情報を得るためのジャブの一環だったようだ。

 浄化作業を申し出るか申し出ないか、申し出るならそこからどれくらいの能力か確認し、申し出ないならその理由などから能力の底を測る算段なのだろう。


 天使を呼べるほどならば、相当高い神官の資質か徳を持っているらしい。

 そんな存在なら浄化作業はお手の物とのこと。


 そんなこと幸太郎の知ったことではないが、それがこの世界の常識である以上、浄化作業ができないなんてことになったら色々疑われることは間違いない。

 町の人はともかく、マルゴッドは街を預かる地方領主という立場ある人物だ。

 噂に惑わされず、幸太郎を見極めたいと思うのは至極当然のことだ。


「であるならば、私がお手伝い致しましょうか?わざわざ幸太郎様の手を煩わせるほどではありませんし」


 だから、天使シンパの申し出は幸太郎にとっては渡りに船だった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 天使シンパが多くの人が死んだ地に降り立って祈りを捧げると、その地から多くの魂が天に昇って行く光景が目撃されて、多くの人が、浄化作業中の神官含めて、泣いて拝んだ。


 という伝説がこの街に生まれた。


「な、なんという。さすがはシンパ様。噂に違わぬとはまさにこのこと」


 マルゴッドは天使シンパを絶賛していた。

 というか、マルゴッドもまたシンパが浄化して行く様を見て涙を流して拝んだ1人だったりする。


(うん、それくらいさっきの光景は神秘的だった。まさか天から光が降り注いで、魂が登って行く場面をマジで拝めるとは)


「私はシンパ様は天使だと最初から確信しておりましたが、これで他の者もそれを確信したことでしょう」


(その言い方だと、まるで最初は信じてなかったように聞こえるのは気のせいだろうか?)


 と幸太郎は自分にしては珍しく勘を働かせる。


「どこの世でも、神を偽る不届きな存在はいますもので」


 どうやら顔に出ていたようで、マルゴッド伯爵がそう告げてくる。


(ああそれもそうか)


 その台詞で幸太郎も納得する程度には、幸太郎もこの世界に来て適度に騙され続けていた。

 確かにマルゴッドは、シンパが直接悪魔を滅する場面を見たわけではない。

 人間には不可能な常時対空の魔法(スペル)を行使している存在だが、それだけなら悪魔にもできる奴はいる。

 如何に見た目がそれらしいとしても、偽装の可能性はある。

 悪魔には絶対に不可能な常識はずれの浄化能力を見るまでは信じきれないのは無理ないことだった。


「あの場所はわが町の神殿よりも神聖な気に満ちてしまいました。あそこには金輪際アンデッドは発生しないでしょうし、悪魔も立ち入ることはできないでしょう。なのであそこに神殿を新設することを計画中です」


 シンパは浄化をやりすぎたようだった。


 シンパが十分すぎるくらいアピールしてくれたおかげで、マルゴッドの幸太郎に対する疑いも綺麗さっぱり消えたようだ。

 その代わりにマルゴッドの中では「レアな召喚士であり、伝説級の神官の資質のある幸太郎と、それに付きしたがう高位の天使シンパをどう有効活用すれは、利益になるか?」という算段が目まぐるしく動いているだろうことは想像に難くなかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 一行は再び領主の館の応接室に戻った。

 ちなみにその間に通った場所では、街の人が崇拝するかのように跪いたり涙を流したりしていた。

 そしてその数は帰りの方が多かった。


(すいません、本当にすいません…)


 一応補足すると領主が通るときは、お辞儀程度でいいらしいので、街の人の反応は明らかにシンパとついでに幸太郎に向けられたものだろうと思う。

 マルゴッドの要件が幸太郎とシンパの見極めならば用事はほぼ済んだことになるが、幸太郎もまたマルゴッドに用事があったのだ。


(なんでこんなことに…いや、ここはお願いがしやすくなったと考えよう。うん、そうでもないとやってられない)


「エンシェントデストロイヤーの件についてご相談したく」

「うむ。確か悪魔の狙いはエンシェントデストロイヤーだったという件についてですな」


 幸太郎たちが、依頼があったとはいえ、エルだけ応援に向かわせてエンシェントデストロイヤーの前で待機していたのはそれが理由だったというのはマルゴッドに伝えてあった。

 それは結果的に正しい判断だった。

 街の門を攻めていた魔物たちはあくまで陽動であり、本命は街の奥深くに攻め込んでいたからだ。

 もし幸太郎たちがいなければエンシェントデストロイヤーは奪われていたに違いない。


「しかし、なぜ悪魔はエンシェントデストロイヤーなぞを狙ったのでしょうか?あれは三千年前の骨董品、動くはずもない代物」


 セシリーやマルゴッド、ザックの認識は、エンシェントデストロイヤーは三千年前の骨董品であり、その価値はエンシェントデストロイヤーに使われている部品や技術解析による軍事技術への応用にあった。


「確かにあれの研究によって軍事技術への応用が可能という価値はありますが、そのために多くの冒険者や兵士が駐屯する街に侵攻するのは割に合わないはず。実際に今回侵攻して来た部隊は全滅してるわけですし」

「仮に三千年前の骨董品が正常に動くとしたら?」


 幸太郎の一言にマルゴッドは眉をピクリと動かす。


「その価値は上がると思います。あれほどの巨大なゴーレム、しかも見たことのない金属で構成されている。その金属だけでも、矢は勿論、魔法(スペル)ですら通さない。それは現代の技術では再現不可能。稼働すれば軍と同等の戦力になるでしょう」


 マルゴッドの見立てはおそらく正しい。

 実際にエンシェントデストロイヤーはそれだけのスペックを持っている。

 けど本当はそれだけではなかった。

 エンシェントデストロイヤーは起動時に場に出ている相手のカード全てを破壊するという禁断の能力を持っているからだ。


(でもそれを素直に話すべきではないよなあ)


 相手というのが誰かによるが、それを魔王軍や、国家と指定して起動した場合、待ち構えるのは根こそぎ大虐殺の悲劇だと幸太郎は推測している。

 それは幸太郎の信念的には絶対に認められないことだ。


(確かにこれを使えば戦争は終わるかもしれないけど、それは核を使って一方的に殲滅するのと変わらない。そんなの認められるわけがない)


「なるほど逆説的ではありますが、魔王軍がエンシェントデストロイヤーを狙ったならば、それだけの価値がある。つまりはあれはガラクタではなく動く可能性が、兵器として利用可能な可能性があるということですな?」


 それはマルゴッドにとっても喜ばしいことだ。

 マルゴッドはそのために投資をしたのだから予想だにしない大きなリターンを得ることになる。

 魔王軍に目を付けられるということに目を瞑ればの話だが。


「ええ、魔王軍はエンシェントデストロイヤーが稼働可能という根拠を持って攻め込んで来たと推測されます」


 幸太郎は遺跡にたむろしていた、通常では考えられない異常なゴブリンの数を思い出す。

 今考えるとあれは魔王軍の尖兵だったのだろう。

 あれは発掘作業と人間たちの発掘作業の妨害を意図して配置していたに違いない。


 問題はどこからその情報を得たのか?

 おそらくはセシリーのように他の古代遺跡に眠っていた文献から情報を得たのかもしれないし、他に何か魔法(スペル)的な情報源があるのかもしれない。

 それは魔王軍あるいは滅んだアンドレアスに聞いて見ないとわからないことだった。


「となるとエンシェントデストロイヤーをあのまま街にとどめておくのはリスクが高いですな。処分するにはその耐久性の高さ故に不可能ですし、かと言って何処かに隠匿して投棄してもそれを魔王軍に察知されて回収される危険は残り続ける。起動できるとしても起動条件は不明で解明できる目処は立たない。そして対処方法が見つかるまでは街には強奪のため襲撃されるリスクを抱え続ける。今この街は多くの損失を出して戦力が足りない状態なのに…」

「ええ、今度魔王軍に攻められるわけにはいきません。ですので、これは提案なのですが」


 マルゴッドにエンシェントデストロイヤーの真の力を話すことはできないし、魔王軍に奪われるわけにもいかない。

 その上でエンシェントデストロイヤーを安全な状態にしようとしたら結局これしか方法はないという結論に至った。


「実は起動方法には心当たりがあります。なのでエンシェントデストロイヤーを起動させてこの街の防衛戦力にしませんか?」

「え?」

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