魔神との戦い
多くの魔物が街に押し寄せてきていた。
「「「グルオオオオオオオオ!!!」」」
最初の奇襲によって、街のいたるところに自然のものではない雷が落ちた。
その中の一つによって頑丈に作られていたはずの門が破壊された。
籠城は不可能。
かといって有利に戦うために、街の中に入れれば住民に被害が出る。
冒険者や兵士たちは門の外で魔物達を迎撃することになった。
もともと冒険者と兵士は指揮系統も戦い方も異なる。
そのため、兵士達が主体となり、冒険者は遊撃隊としてその支援にあたることになった。
「魔物どもを街に決して入れるな!」
「「「うおおおおおおお!!!」」」
兵士たちが押し寄せた魔物達に突撃を敢行する。
その槍と盾を構えて統率された突撃は、本来ならば魔物達を串刺しにして大打撃を与えることができただろう。
「ハハハハハハ!!脆弱な人間どもよ、これでも喰らうがいい」
しかし、ひときわ大きな魔物、いや悪魔が腕を振るうと、兵士たちがまとめて粉微塵に吹き飛ばされる。
「やめ、やめろおおお!」
「ぐあああああ」
「いやだああ」
それによって兵士たちは恐怖して大きく体勢を崩す。
「グオオオオ!!」
魔物達が襲いかかる。
爪で裂かれ、牙で噛みちぎられ、炎で焼かれる。
「兵士たちを救出しろ!」
そこに金クラスの冒険者達が兵士を救出するために突出する。
「ふん、やらせんよ」
そこに先程の悪魔がそれを邪魔するように前に出る。
「悪魔め!邪魔だぁ!」
冒険者の1人が剣を片手に飛び込む。振り下ろした剣は、悪魔の腕に阻まれる。
「な、刃が通らない!?」
「ならこれならどうだ?!」
背後に回り込んでいた盗賊が背中に矢を放つ。
だが、矢は背中に刺さることなく弾かれてしまった。
「ならば我が炎を食らうがいい!」
そう言って魔法使いの唱えたファイアーボールの魔法も、悪魔の左腕に受け止められて握りつぶされる。
「なんなんだ、なんなんだ貴様はぁ」
はじめに斬りかかった冒険者のリーダーが吠える。
「ふん、聖別されてない武器など通るものか」
そう言って、悪魔は体を回すように両腕を振る。
「ブポッ」
最初に剣で斬りかかった冒険者のリーダーが物言わぬ肉塊に変わった。
悪魔は石を拾い盗賊に投げつける。
「ブゥッ!」
それに直撃した盗賊が風穴を開けられて奇妙な音を出して崩れ落ちる。
魔法使いはそれを見て慌てて後退しようとするが、
「ふん、逃がさんよ。ダークホール」
「あああああ!!!???」
悪魔が呪文と共に闇色の球を放つ。
それは魔法使いに命中して、魔法使いは身体中が捻れた奇妙なオブジェと成り果てた。
「はっはっは。たわいない。これが金クラス冒険者とはなぁ!白金は?ミスリルはいないのか!?」
そう言って悪魔が高笑いをあげると、それに呼応するように魔物達が雄叫びをあげた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「くっこのままでは…」
指揮官は焦りを感じていた。
兵士たちも冒険者達もよく戦っているが、相手の戦力は明らかに上、特にあの大柄の悪魔によって大きな損害を被っていた。
「せめてミスリルの冒険者達が残っていてくれていたら」
この街にいたミスリルや白金の冒険者達は、先日の敗戦の穴埋めのために西の最前線に赴いている。
その隙を突かれた内陸部への侵攻だった。
このままでは敗北して、街に魔物達の侵入を許すのは時間の問題だった。
「予想外に苦戦してますね」
「き、君は?」
そんな指揮官の横に、フードを被った女性らしき冒険者が立っていた。
片手には弓を持っていることから弓使いだと思われた。
その弓使いの首元には、金色のプレートが光っている。
(金クラスの冒険者…だがそれでは焼け石に水だ)
フードを被った弓使いはそれに答えず、矢をつがえて弓を引く。
「ま、まて、あの悪魔の体は何故か矢を通さない。それにこの距離では当てるのは至難。味方に当たったら…」
戦場は現在乱戦状態に陥っている。
迂闊な射撃は味方を巻き込むだけだった。
だが、指揮官の注意を完全に無視して、弓使いは矢を放った。
「ぐああああ!!」
普通の射手なら射程外の距離。
にも関わらず、矢は大柄の悪魔に命中した。
しかも腕を吹き飛ばすという、明確なダメージのおまけ付きで。
「な、なんと!?」
今まで幾人もが挑戦してダメージを与えられなかった悪魔にあっさりとダメージが通った。
指揮官はそのことに驚愕する。
それは悪魔も同様だったようだ。
その証拠に悪魔は後退し、魔物達もまた動揺する。
あの悪魔は指揮官としての役割も果たしていた様だ。
その結果として兵士や冒険者達は立ち直る時間を得ることができた。
「弓や剣でどうしようもなかったあの悪魔を退けるとは…君は一体…」
指揮官は、弓使いにそう問いかける。
「一撃で仕留めるつもりでしたが、残念です」
金クラスの冒険者ですら歯が立たなかった悪魔にダメージを与えて退ける。
そんな快挙を成し遂げたにも関わらず、弓使いはそれでも不満だという。
「申し遅れました。わたくし、幸太郎様の従者のエルと申します。此度は魔王軍の襲撃と聞き、微力ながら参った次第です」
そう言ってエルと名乗った少女は一礼する。
「まさか君が?」
幸太郎という名前には聞き覚えがあった。
それは確か、ゴブリン大量発生をたった3人で制圧し、つい最近もエンシェントデストロイヤーの発掘に貢献した新人冒険者チームのリーダーの名前でなかっただろうか?
そのチームメンバーの少女が、再び弓を構える。
すでに悪魔の姿は戦場にない。
弓使いを警戒して後方に下がったのだろうと思われた。
だから、弓使いの標的は他の魔物に移った。
少女は弓を引き、矢を放つ。
「グゲ」
その棍棒を血に濡らして、次の獲物として兵士をなぶろうとしていたオーガの頭が吹き飛んだ。
少女は次の矢を引き、また放つ。
「ギギャ」
冒険者を攫って上空から落とすということを繰り返していたコウモリのような巨大な魔物が、羽を千切られて地面に叩き落とされた。
少女は次の矢を放つ。
「ピギャ」
兵士や冒険者を武器ごと飲み込んで消化してていたスライムが矢を受けて爆散した。
それら全ては、本来は兵士や冒険者が複数でかからなければ仕留めることができない大物だった。
それらをエルは弓矢で次々と仕留めていく。
「これは、なんという…だが今こそチャンスだ」
エルの参戦によって、苦境に立たされていた兵士や冒険者達は体勢を整えるだけでなく、反撃に転じる機会を得ることすらできた。
反対に指揮官を失い、大物をやられ続けた魔物達は完全に浮足立っていた。
「突撃ぃ!」
「うおおおお!!」
指揮官が突撃を命じると、今までの鬱憤を晴らすかのように、兵士や冒険者達が突撃を敢行する。
戦況はエルの参戦によって苦境が一転、防衛側の優位になりつつあった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「くっ、なんという奴だ。上級悪魔の私に傷をつけるとは」
肩を抑えた悪魔が羽を羽ばたかせて空を飛んでいた。
「まあいい。予定は変わったが、あいつらは所詮陽動。本命は別にある」
街に魔法で雷を降らせて人々を逃げるよう仕向けたり、それによって兵士や冒険者を集めて門の前で正々堂々戦ったのも、目的はエンシェントデストロイヤーから人々を遠ざけるためであった。
「まあ可能ならば、この機会に冒険者どもを殲滅したかったが、まさかあんな手練れがいるとはな…」
悪魔は腕を吹き飛ばしたあの弓使いを思い出す。
上級悪魔は普通の剣や弓矢でダメージを食らうことはない。
だが、あの弓使いの弓矢はこうして上級悪魔に消えぬ傷を与えている。
それはつまり魔法の矢を放たれたということ。
矢を受けた時、上級悪魔は下等な人間風情に痛みを受けた怒りでその弓使いを睨んだが、逆に弓使いの殺気に圧倒されてしまった。
(あれはまずい。まともに相手してはいけない)
戦えば倒せるだろう。
だが甚大なダメージを被るだろう。
悪魔の目的はこの街の冒険者の殲滅ではない。
悪魔は、部下の魔物達に冒険者や兵士、そして弓使いの足止めを命令して、目的の達成のためにこうして街に潜入していた。
「全ては魔王様のために」
魔王軍の襲撃によって無人となった街の中を悪魔は飛翔する。
やがてエンシェントデストロイヤーを発見する。
「チッ、やはりそう簡単にはいかないか」
エンシェントデストロイヤーは無人で放置されているかと期待していた。
しかし、そこには護衛らしき魔術士と戦士、そしてフレイムタイガーとホーンラビット複数体が展開していた。
悪魔は上空で羽ばたきながら滞空する。
(ホーンラビットは何十体いようが敵ではない。フレイムタイガーは強敵だが、これも一体だけなら問題ない。魔術士と戦士は未知数。だがこの街の冒険者程度ならこれも問題ない。…ただ数は多いな)
「おい、そこの人間と魔物どもよ。我は魔王軍幹部アンドレアス。今すぐこの場を去るならば命までは奪わん」
アンドレアス
ビーイング
アタック500
ディフェンス900
マナコスト9
一撃、墓地-4で速攻を付与
「アンドレアスってあのアンドレアス?」
「如何にも」
「コスト高い割に、能力的に微妙なあのアンドレアス?」
「バカにしているのか?」
普段なら、アンドレアスは有無を言わさず、攻撃を仕掛けているところだった。
だが、敵はフレイムタイガーやホーンラビットなど複数。
また弓使いによって、現在はダメージを受けていることから余計なリスクを背負うべきではないと判断して、こうして警告を行うことにした。
「さてその様子だと私のことは知っている様子。ならば、戦うことは無駄だと理解しているだろう?私の目的はあくまでそこのエンシェントデストロイヤーなのだ。おとなしく引いてくれるなら追撃はしないと約束しよう。お前達も端金で命を失いたいわけではないだろう?」
そう言ってアンドレアスは優しい声音で語りかける。
アンドレアスは街中に入った時から、悪魔らしい姿を角や羽が生えていることを除けば、美青年に見えるような姿に変えていた。
そんなものに優しく語りかけられれば、異性は勿論同性でも動揺しないものはいない。
「なんてこった。エルの予想通り悪魔が来た上に、それがアンドレアスだなんて。今の戦力で勝てるわけがない」
「た、大将、逃げやしょうよ。あれは悪魔ですぜ。しかも上級悪魔だ。剣や弓は通じません」
そう言って魔術士と戦士が動揺しているのが見て取れる。
(ふっ、この様子ならば戦うことなくエンシェントデストロイヤーを奪えそうだな)
アンドレアスはエンシェントデストロイヤーに近づこうとする。
「はあ、仕方ない。実験も検証もまだだけど…これを奪われる訳にはいかないんだ」
その一言でアンドレアスは近づくのを止めて魔術士の方を見つめる。
「ほう、この我と戦うと?」
アンドレアスは数百年を生きる大悪魔の1人、直前に不可思議な怒気を放つ弓使いに遅れをとったものの、普通の兵士や冒険者では束になっても歯が立たない攻撃力と防御力を持った存在だった。
(実験、検証、やはり人間たちはエンシェントデストロイヤーを利用する気か。愚かな。脆弱な力しか持たぬ人間風情がこの巨大な力を御しきれるはずがないだろう)
だから、魔術士がそう言ったときにも、アンドレアスが向ける瞳は愚か者を見るそれであった。
「命は粗末にするものではないぞ。まあしかし、望むならその命頂こうか」
そう言ってアンドレアスは魔術士に手を向ける。
それを見た魔術士が、構えのような姿勢をとる。
(魔術士ではなく格闘家?左手は手を広げたままだし、右手は親指が握り込まれてないし、あれでは殴っても親指を突き指するだろう)
アンドレアスは、魔術士の挙動不審な姿勢を訝しむ。
魔法で仕留めようかと思ったが、エンシェントデストロイヤーの側にいる魔術士に魔法攻撃を喰らわせるのは若干躊躇われた。
(魔王様曰く、魔法を受け続けるとエンシェントデストロイヤーが目覚めるという。それは避けなければな)
「最後に聞きたいんだけど、魔王軍はエンシェントデストロイヤーを手に入れてどうするつもりなの?」
魔術士はアンドレアスにそう聞いてくる。
恐らくは時間稼ぎのつもりだろう。
援軍が来ることを期待しているのか。
「それは喋る訳にはいかないな。聞きたいならば私を倒してみることだ。もっともお前みたいな新米冒険者に倒せるとは…」
天使シンパ
ビーイング
アタック600
ディフェンス500
マナコスト9
登場時、相手のビーイングかアーティファクトをひとつ消滅させる。
光の槍がアンドレアスを貫いた。
「は?」
貫かれたアンドレアスは何が起こったかわからずに、槍に貫かれたまま地面に激突する。
(なんだこの槍は?体が崩れていく!?)
アンドレアスは槍が飛んできた先を見つめる。
光の槍が飛んで来た先にいたのは、ショートで揃えた金髪と青く澄んだ瞳を持つ白衣に身を包んだ少年とも少女とも見える人間ではない何かだった。
いやその中性的な容貌の人物は、頭に光の輪を浮かべ、背中には純白の翼が対になって生えている。
「天使…だと…?」
そこにいたのは天使だった。
「ご主人様に敵対する悪魔よ。神の槍で浄化されよ」
「馬鹿な…天使…それも我より上位の…天使を従える…そんな存在が…」
アンドレアスの意識は体の崩壊とともに遠のいていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アンドレアスと名乗った魔物は、シンパの一撃を受けて、地面に落ち、そして跡形もなく消滅していた。
シンパの言うことが正しいなら浄化されたのだろう。
「うーん。なんでエンシェントデストロイヤーとかエンシェントタートルとかアンドレアスとか、立て続けに対処できないビーイングが出てくるのかな?」
それは幸太郎の本音であった。
だが、それを聞いてたカシラは「何言ってんのこの人?今対処できたでしょうが」みたいな感じで顔をひきつらせている。
「万が一のことを考えて、組み込み直しておいてよかったよ…」
(まさかあんな大物が来るとは。エルの推測通りだった)
エルから悪魔のことについて話を聞き、背後に高コストの悪魔ビーイングがいる可能性に言及された。
そのために、この世界において当たり前のように言われている魔法的常識「悪魔は天使や神の聖なる力で浄化できる」を参考に、かつそうでない場合も対応できるカードとして、封印していた天使系カードをデッキに組み込むことにした。
今回、天使シンパを使ったのは、アンドレアスが気づいたように、エンシェントデストロイヤーのそばでスペルを使うと、エンシェントデストロイヤーを目覚めさせる危険を回避する面もある。
ただ高コストビーイングの召喚は初めてだったため不安も大きかった。
制御が本当に可能か?というのは勿論、マナコストを貯めるのに時間がかかりすぎることから、カードの引きが良くないと無駄に手札調整系スペルを使うことがわかったからだ。
実はうまくシンパを引くことができておらず、かといってリセットすると、マナがたまるまで時間がかかりすぎるために、手札入れ替えのカードを使って調整したりしていた。
新たなる希望
スペル
マナコスト2
手札をすべて捨て、捨てたカード1枚につきカードを1枚引く。
なので必要なマナが不足しており、ターンが経過するまでアンドレアスが話に乗ってくれたのは幸太郎にとって僥倖だった。
そうでなければ、アンドレアスによって幸太郎は殺されていたに違いなかったからだ。
アンドレアスは単なるレアカードである。
コストが高いので後半戦でしか使えない割に能力が微妙なので、あまり組み込まれることのないビーイングだが、それが現実のものとなっていれば話は別。
一撃でどんな敵も抹殺できるし、墓地-4で速攻を付与された場合には、速攻で相手を一撃で葬り去る。
それはまさに魔神。
この世界で対処できるものはほとんどいない存在だろう。
しかも今回は確定除去という無条件でビーイングを破壊する切り札の一つをまた切った形になる。
「それが使わないといけないのが魔王軍幹部のレベルなのか」
幸太郎は改めて、身震いしてしまう。
カシラは「じゃあそんな幹部を一撃で倒す天使を呼び出す大将は一体なんなんです…」と言った感じで後ずさっている。
「主よ、盟約に従い参上いたしました」
(この天使も無条件で従うの?…いや従わないよりいいけどさあ)
そう言って降り立った天使シンパが跪くのを見て、カシラの顔がさらに面白くなっている。
天使シンパは、天使と悪魔の最終戦争で悪魔を裁きまくったと言ういわくのある天使である。
そんな天使が幸太郎に忠誠を誓うと言うのは、正体がカードであることを知っている幸太郎は、疑いながらもどこか納得していた。
当たり前だがリザレではカードは無条件でマスタの指示に従う。
それが踏襲されていると考えられるからだ。
だがそれが現実にこうして召喚されて、周囲がどう考えるかはまた別の話だった。
現にカシラの幸太郎を見る目が、強者をみるそれから、超越者とかそういうものを見る目に変わっている。
「ああ、なんと言う。神よ」
「違うから、自分神とかじゃないから!いつも通り大将と呼んで!シンパも立ち上がって!あとその呼び方はやめて!名前で呼んでください…」
「幸太郎様がそうおっしゃるのであれば、しかし私は幸太郎様の剣であり盾。この身は全て幸太郎様のもの。如何様にでもお使いください」
そういって立ち上がり、もとい浮かび上がり、胸に手を当ててお辞儀して来るシンパ。
それを見てカシラが眩しいものを見るかのように祈りの姿勢から土下座に移行していた。
「幸太郎様、ご無事ですか!」
そこに正門に援軍として向かってたはずのエルがやって来る。
そして天使シンパを見ると、一瞬それをじっと見るが、すぐに警戒を解いて幸太郎の前に近づく。
シンパもエルを見ても警戒することなく、それが当たり前であるかのように道を開ける。
「ああ、無事だよ。エルも無事なようで何よりだ」
「いえ、申し訳ありません。時間稼ぎを行うといっておきながら、大物の侵入を許してしまいました。奴は今どこへ?」
「アンドレアスならそこのシンパが退治してくれたよ」
エルはシンパを見て、それが格の高い天使だと気付いたのだろう。
シンパと幸太郎に対して跪く。
「そうですか。シンパ様、この度は幸太郎様をお守りいただきありがとうございます」
「いえ、そんな。幸太郎様をお守りするのは従者としては当然のこと。それに私とあなたは天使とエルフではありますが従者としては同格、どうかそうかしこまらないでください」
そういってシンパは優しさのこもった笑顔を浮かべて手を差し出す。
「シンパさんがそうおっしゃるのであれば」
そういって跪いていたエルはシンパの手を取って立ち上がる。
「シンパ様マジ天使…うっ」
カシラは土下座したまま動かないで嗚咽を漏らしていた。
多分天使の降臨という奇跡を目の当たりにした感激に身を震わせていることだろう。
ただ、エルもシンパも幸太郎もそれは無視していた。
(めんどくさい。そしてこの後のことを想像したらもっと憂鬱だ)
「幸太郎殿!悪魔はどうなったんだね?」
「幸太郎君、エンシェントデストロイヤーは無事!?」
「幸太郎君、無事かね!?」
領主のマルゴッド、研究家のセシリー、組合長のザックが、護衛の兵士や冒険者に囲まれてこちらにやって来る。
どうやら、門の方の攻防はひと段落したらしい。
初めはそれぞれ心配するものの違いから幸太郎に質問を投げかけてきたが、それらの関心は全てその場にいたシンパに奪われてしまった。
「そ、その方は!?」
「え、まさかそこにいる人って…」
「ま、まさかそこにいる人は…」
「幸太郎様なら無事です。エンシェントデストロイヤーに触れられる前に私がアンドレアスを滅ぼしましたので」
そういって安心させるような笑みを浮かべるシンパの頭には天使の輪が浮かんでいるし、
純白の羽根をこれでもかと見せつけてるし、しまいには浮かんでいる。
「「「て、天使様!?」」」
その場にいた信心深い人たちが速攻で跪いた。
(ええ、こうなると思ってましたよ。はい…)
この街にも長くいられないようだった。




