遺跡に眠る古代兵器2
遺跡の奥で、近づいてくる何者かにエルは容赦無く矢を放った。
ヒュッ!
そして間髪入れずに第2射が放たれる。
「グギャッ!」
「ゲギャッ!」
何かの悲鳴が聞こえて、叫びと倒れる音が響く。エルの射撃はその間もひたすら続く。
「ゲギャッ」
「キョバッ」
「ガバッ」
「ビギャッ」
それが何十発も放たれて、ようやくエルの射撃が止まる。
それから暫く足音がないのを確認して、幸太郎たちは先を進む。
暫く進んで見えて来たのは、矢に貫かれたゴブリン達の死体だった。
「終わりました」
「え、あ、うん、お疲れ様」
「……」
幸太郎とセシリーは呆然とそれを見守っていた。
「どうかされましたか?」
「いえ、あなたも幸太郎君の仲間だけあって凄いなーって改めて思っただけなの」
「そうですか」
そういってエルは幸太郎に向き直る。
「あ、うん、さすがエル。こんな薄暗い中でも命中させるなんて」
「いえ、そんな。幸太郎様の機転があればこそですよ。でなければ矢が足りなくなるところでした」
そういうエルは隣のフレイムタイガーを見る。
フレイムタイガーの背中には矢がぎっしり詰まった矢筒が何本も背負われていた。
これらは幸太郎が矢の嵐で出した矢が消えずに残っていたので再利用した結果である。
「しかもこの矢は使ってみたところ、かなり丈夫で質もいいです。可能なら後で何十本か持ち帰りたいですね」
そういってエルは矢の調子を確かめていた。
((でもやっぱり凄いのは、こんな薄闇で遠くのゴブリンに素早く何十本もヒットさせる技術なんだけどなあ))
とは幸太郎とセシリーの共通の思いである。
「だけど、このゴブリン達、矢傷以外にも傷だらけなんだど一体どういう事なのかしら?」
そんなことをセシリーはふと呟いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ゴアアアアアア」
「ガ、ガメラ!?」
「ガメラじゃないわよ!エンシェントタートルよ!っていうかガメラって何?!」
遺跡の奥、広大な大広間には、物凄い凶悪な人相をしたデカイ亀がいた。
エンシェントタートル
ビーイング
アタック700
ディフェンス700
マナコスト8
守護
相手のターン中、このビーイングへのダメージを-100する。
その姿形から、過去の怪獣映画にちなんでガメラとよばれているビーイングがそこにいた。
かつてない強敵の登場だった。
「ああああ、どうしよう!どうしよう?逃げなきゃ!まさかこんな化け物がいるなんて!ねえ逃げましょう!あれは、文献に出てくる古代都市一つを滅ぼした化け物よ!ゴブリン300体なんて目じゃない化け物よ!いくら貴方でも相手にならないわ!ここは引いて援軍を呼びましょう!」
足元に転がっているのはゴブリンだろう屍の山だった。
その数は外にいた分に勝るとも劣らない。
どうやら先ほどのゴブリンはこいつから逃げてきたようだった。
「ガアァ!」
セシリーの言うことはもっともだ。
今は新たな闖入者、とくにエルの尋常ではない魔力のこもった弓、を警戒しているのか威嚇に留めているが、そのうちこちらに突撃してくることは想像にかたくない。
フレイムタイガーもエルも戦闘態勢でそれぞれ構えている。
2人ともエンシェントタートルの尋常でない強さを感じているようで、片方は体を震わせ、片方は冷や汗をかいている。
「勝算はあるか?」
「無理です。一矢報いることは出来ますが、次の瞬間にはやられているかもしれません」
エルは冷静に現状を伝えてくる。
この世界では、アタック/ディフェンスが高いビーイングはそれ以下のビーイングより圧倒的に強い。
100/100のビーイングは、200/200のビーイングに対して4体でかかってようやく勝てるという弱者に厳しい世界だ。
リザレでは、アタックとディフェンスは単純な足し算引き算だったそれが、この世界では異なっていることについて、幸太郎は以下の様な仮説を立てている。
アタック×ディフェンスがこの世界におけるビーイングの実質的な戦闘力ではないかと。
そう考えると、上記の理由に説明がつく。
ホーンラビットは100×100で戦闘力1万で、カシラ(サージェント)は200×200で戦闘力4万と考えるなら、ホーンラビット3体で負けて、4体で勝てるようになるのもうなづける。
実際は圧勝だったが、それはカシラが連戦で絶望し4体には勝てないと後ろ向きだったのが関係していると思われた。
カシラが死ぬ気ならば相打ちに持ち込めた可能性は高い。
まあ実際は他にも相性や距離など複雑な要素が絡み合う。
例えばエルが遠距離から一方的に攻撃している時や、逆に矢が尽きた時とか、フレイムタイガーの吐く炎に弱い敵との相対はこれが当てはまらないので、この基準はあくまで同じ間合いで戦った時の参考程度にしかならない。
が、それでも相対的な敵の強さの判断基準にはなる。
そう考えた時、各自の戦闘力は以下の様になる。
ホーンラビット100/100は、1万、それが30匹なので30万
スナイパーエルフ600/200は、12万
フレイムタイガー400/400は、16万
合計58万
エンシェントタートル700/700は、49万
(戦闘力の合計値的には勝っている)
だが、問題は、エンシェントタートルが持つ効果
「相手のターン中、このビーイングへのダメージを-100する。」
この効果が現実ではどういう形で発揮されるのかが全く未知数だった。
文字通りの効果を発揮するなら、こちらが攻撃した時は、ダメージを軽減される。
ではこちらは受け身になっていればいいのか?というとそうはいかない。
この世界は相互破壊ルールが存在せず、常に先に攻撃した方が有利なのは現実と変わらない。
受け身でいる、よくいえば後の先をとるならば、もしかしたらこの効果は発揮されないかも知れないが、それで一撃でやられてダメージすらあたえられなかったら本末転倒である。
ゆえにこちらから積極的に攻撃を仕掛けなければいけない。
攻撃は最大の防御なのである。
となるとこの効果は常に発揮される類のものと思った方がいい。
ダメージ軽減効果は実質アタック軽減効果に等しいので、それを考慮するとビーイングの戦闘力はこうなる。
ホーンラビット0/100は、0、それが30匹でも0
スナイパーエルフ500/200は、10万
フレイムタイガー300/400は、12万
合計22万
戦力半減どころの騒ぎではなかった。
さらに戦闘力は差がありすぎると、大したダメージを与えられないことはカシラとの実験で明らかだ。
自分と相手の戦闘力比が1:2なら、相手が無傷で勝利する。
自分と相手の戦闘力比が3:4なら、ようやく相手に一矢報いることができる。
こう考えると、相手ははるか格上と言っていい相手だった。
希望があるとすれば、相手が亀だということがだろうか。
動作が鈍重ならば、エルが攻撃を避け続けて、狙撃し続ければ勝機は十分にある。
(ただその手段で簡単に勝てるなら、都市を滅ぼした化け物なんて言われるわけがない…)
エルやフレイムタイガーのように戦闘力が高いビーイングは速度も速い。
見た目に反して、エンシェントタートルが素早い可能性はある。
もしかしたらフレイムタイガーのように何らかの遠距離攻撃手段を、それこそガメラのように高速のビームを放ってもおかしく無い。
もしそうだった場合は攻撃すら許されずに全員やられる可能性もある。
(そうなると目も当てられないよ)
都市を滅ぼした化け物ならばそれが出来てもおかしく無い。
そう言う意味で、総合力の低いエルやフレイムタイガーは不利だった。
(どうするべきか?)
ゲームとは違い命のかかった状況に失敗は許されない。
今この瞬間に、幸太郎がどう行動するか?
それが、全員の生死に関わっていた。
(どうすれば…)
だが、そんな幸太郎の苦悩を感じ取ったのか、エンシェントタートルが幸太郎に襲いかかる。
「ゴアアアアア!!」
「セシリーさんは下がって!」
「わ、わかったわ!」
セシリーを数匹のホーンラビットと共に下がらせる。
大広間に続いている廊下はエンシェントタートルが通るには狭すぎる。
そこまで下がれば、セシリーに危害が加えられることは無いはずだ。
その間もエンシェントタートルはこちらに迫ってくる。
その巨体に反して素早い動きだ。
「幸太郎様も下がって下さい!」
幸太郎が狙われていると知ったエルが矢を次々と放つ。
それは魔法をまとった本気の矢だ。
それらが全て全くエンシェントタートルの前足に命中する。
「ギャアアアア!」
エンシェントタートルは倒れ込んで、地響きとともに突進が止まった。
エンシェントタートルがエルを憎々しげな目で見る。
その目には殺気が宿っている。
それまでダメージらしきダメージを受けてなかったエンシェントタートルにとっては、ゴブリンも幸太郎達も侵入したハエを追い払うようなものだったのだろう。
だが、明確にダメージを受けた事で、エルのことを敵と認識したようだ。
その間に幸太郎も後ろに下がる。
幸太郎はカードのことを除けば村人同然の戦闘力しか持ってない。
エンシェントタートルの前に出ても瞬殺されるだけだ。
「やったの?幸太郎君」
そこに廊下の奥に逃げたはずのセシリーがやってきた。
どうやらエンシェントタートルの叫び声を聞いてやってきたらしい。
「セシリーさん?!危ないですよ下がって」
そこで、幸太郎はエンシェントタートルがこちらに向けて口を大きく開けているのを見た。
そこから炎のようなものがチラチラと見える。
「!?」
判断は一瞬だった。
幸太郎はセシリーを抱いて、横に飛ぶ。
恐らくはエルに向けて放たれた炎だろう。
だがエルは幸太郎を守るために、エンシェントタートルと幸太郎たちの間に立っていた。
つまり炎はその直線状にいた幸太郎達にも届いくことになる。
「ッ!!」
幸太郎達はギリギリ回避する。
熱がチリチリと髪を焼く様な気がした。
「うう」
「くっ」
エルもまた無理に回避するためか、矢を何本か落としていた。
それらは、エンシェントタートルの炎に焼かれていた。
幸太郎もセシリーも無理に飛んだ後、倒れ込んでしまい、すぐには起き上がれない。
エンシェントタートルがまた口を開ける。
「第二撃!?」
ホーンラビット達が守るように前に出るが、防げるとはとても思えない。
「幸太郎様!」
エルが幸太郎を守るために駆け寄ろうとする。
だが明らかに間に合わない。
炎を放とうとしたエンシェントタートル。
「ゴルアアアア!」
その首元に炎の塊となったフレイムタイガーが突っ込んだ。
「グラアアアアア!!」
フレイムタイガーの牙による一撃で、エンシェントタートルは悶え苦しむ。
「ウガアアアアア!!!」
フレイムタイガーを引き離すため、エンシェントタートルはその巨体を振り回した。
「ッガア!?」
その結果、フレイムタイガーは遺跡の壁に叩きつけられた。
フレイムタイガーはぐったりと動かなくなる。
「フレイムタイガー!」
幸太郎は叫ぶ。
「くっ!」
エルは、フレイムタイガーへの追撃を防がんと立て続けに顔面に向けて矢を放つ。
エンシェントタートルは直前に顔を甲羅の中に引っ込ませた。
「何!?」
矢は全て甲羅に当たるが、どれも有効打を与えた気配が全く無い。
「相手のターン中、このビーイングへのダメージを-100する。」
その効果がどういう形で出るかを見せつけられた。
(ってちょっと待てこれ-100どころか普通にノーダメージのように見えるんだけど)
「幸太郎様、残弾...0です」
エルは幸太郎にそう告げる。
フレイムタイガーが背負っていた補充の矢はほとんどが焼かれ、砕かれている。
残りは後方に予備が置いてあったが、それを取りに行く暇はない。
エンシェントタートルは矢が尽きた頃を見計らったかのように顔を出してきた。
(まずい)
フレイムタイガーはぐったりして動かない。
(このままじゃ負ける)
エルは矢が尽きてしまった。
(それしか道がないのか?)
エンシェントタートルが口を開けた。
(今配られたカードで切り抜ける方法は?)
幸太郎は苦悩する。
(でもこれを使えばきっと…)
それはまるで勝ち誇った笑みを浮かべているように見えた。
(いや、躊躇うな俺。その結果死んだら元も子も無いじゃないか)
だから幸太郎は使いたくなかった切り札を切ることにした。
カードを一枚プレイする。
破魔の儀式
スペル
マナコスト5
相手のビーイングを一体破壊する
「グルア??!!」
突然現れた漆黒の穴にエンシェントタートルは飲み込まれる。
エンシェントタートルはいきなり現れた穴に避ける間も無く吸い込まれる。
吸い込まれまいと必死に地面にしがみつく。
「グオアアアアア!!!」
だが抵抗むなしく飲み込まれる。
ブシャアアア
直後、穴からエンシェントタートルの残骸らしきものが吐き出された。
(汚ねえ花火だ)
「…ふう、危なかった」
「え?え?」
セシリーが戸惑いながら、幸太郎とエンシェントタートルの残骸を見つめる。
「いやぁ紙一重でしたね危なかった」
幸太郎が額の汗を拭う。
それは本心からの一言だったが。
「どこがよおお!」
セシリーが幸太郎に詰め寄る。
「なんであれだけ苦戦した都市一つ滅ぼす化け物が!」
セシリーは幸太郎の首元を掴み。
「あなたの魔法で一撃なのよおおおお!?」
思いっきり揺さぶった。
「ちょ、セシリーさん、落ち着いて、く、苦しい」
「こ、幸太郎様!」
(あああ、絶対こう言う反応になるから使いたくなかったのに…あ、マジで苦しい…死にそう)
幸太郎は再び息が詰まりそうになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フレイムタイガーはなんとか生きていた。
回復魔法を使えば、確実に助かるだろう。
でもセシリーには回復魔法は見せてなかったはず。
目せたらどういう反応をするか幸太郎は想像して憂鬱になる。
(もういいや、なるようになれだ)
所詮隠し事なんて無理なら、当たり前のようにしておけばいいのだ。
という開き直った幸太郎は、フレイムタイガーにも回復魔法を惜しみなく使う。
ポーション
スペル
マナコスト2
マスターかビーイングを300回復
幸いにもセシリーは何か言いたそうだったが、結局なにも言わなかった。
もうすでに常識外のことが起こりすぎてこれくらいでは動じなくなっているのかもしれない。
「でっか」
遺跡の最奥に封印されたエンシェントデストロイヤーは座った状態でも十メートルはゆうに超えそうな巨大なゴーレムだった。
「見つけた見つけたわ!ついに見つけたわ!」
セシリーは念願の古代兵器に大はしゃぎでかけよる。
「ちよっとまってください!触ったら危険です」
幸太郎が止める間も無く、セシリーはエンシェントデストロイヤーに触れる。
(全く話を聞いてない。この人好きなものを前にするとダメになるタイプだ)
「三千年前の代物なのにこんな完璧な状態で残ってるなんて!ああ、凄いわ!」
エンシェントデストロイヤーに頬ずりしてたが、エンシェントデストロイヤーが動き出す様子はなかった。
「ほっ」
暫くしてセシリーは満足したようで、今後はエンシェントデストロイヤーの持ち出し作業を行うそうだ。
「え?持ち出すんですか、これを?」
「そうよ?依頼内容にも書いてたでしょ?遺跡を発掘するって」
「ああ、そうでしたね…」
幸太郎は不安に感じながらも、セシリー達の発掘作業を見守ることになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一旦馬車に戻ると、そこには後続の作業班が到着していた。
ここから資材を遺跡の入り口まで搬入してベースキャンプを設置する。
作業は幸太郎の不安とは裏腹に順調に進んだ。
時折魔物の散発的な襲撃があったが、それはフレイムタイガーやエルが的確に撃退し、作業班は安心して発掘作業を続けられた。
巨大な兵器を収めた遺跡には必ずそれを搬出する出口が存在する。
そこをセシリーは探し当て、作業班の手によって手動で扉が解放される。
そこにエンシェントデストロイヤーを運搬する台車やらを搬入していく。
「これ運べるんですか?」
「大丈夫よ。魔法で運べるから。というかあんな凄い魔法が使えるのにそんなことも知らないの?」
「あはは…」
幸太郎は適当にごまかした。
作業班の魔術士が魔法をかけることで、驚くことに少人数で運搬できる重量になる。
それをかけている間に台車に乗せて、運び出す。
効果が切れたらまた掛け直して運搬する。
そうして幸太郎の予想に反して驚くほど順調に搬出は進んだ。
エンシェントデストロイヤーが目覚める気配はなかった。
「これはもしかしたら大丈夫、なのかな?」
「油断は禁物ですよ。幸太郎様」
エルにたしなめられた。
うん、その通りだ。
油断なんかしてなくても散々騒ぎになっているのだ。
油断なんてした日には、もっと酷い騒ぎが待ち構えているに違いない。
「さしあたっては、やはりエンシェントタートルにやられてた死体。あの中に近隣では見慣れない魔物。それも悪魔が混じってました」
「悪魔?」
「はい。残骸なので流石に何の悪魔なのかはわかりませんが。そしてこれは推測ですが、ゴブリンは悪魔が率いていたのではないかと?その場合、次のようなことが予想されるのですが」
エルはこれまでの情報と合わせて、様々な推測を述べた。
「うん、確かにそうなるとまずいなあ」
「幸太郎君ちょっときてくれる?」
セシリーが幸太郎を呼んでいる。
どうやら何かあったらしい。
「エル、ちょっと行ってくる。そのことはまた後で話そう」
「はい」
幸太郎はセシリーのところに駆け寄った。
「どうしましたセシリーさん?」
「なんかねさっきから魔法をかけるたびに光る箇所があったから確認したらこんなのがあってね。 なんの魔法かわからないんだけど、凄腕の魔術士の幸太郎君ならわかるんじゃ無いかなって」
そう言ってセシリーが指差すと、エンシェントデストロイヤーの足の一部が光っている。
「これは…」
近づいて幸太郎は気づいた。
(液晶パネル…だよなあこれ)
そこには日本語ともこの世界の標準的な言葉とも違う文字が写っている。
真実写しをかけて内容を確認する。
起動シーケンス
エネルギー充填中
充填率9%
そんな文字列が並んでいた。
「先生!そろそろ魔法が切れますー」
「はいはいーじゃあ掛け直しますねー」
魔術士が重さを軽減する魔法をかける。
起動シーケンス
エネルギー充填中
充填率10%
「はあ、でもおかしいな…この魔法はこんなに燃費悪く無いはずなのに…」
そうブツブツ行って魔術士は離れていく。
(あ、これ魔法掛け続けたらあかんやつや)
多分この充填率が100%になったら、エンシェントデストロイヤーが起動する。
不幸中の幸いなのは、さっきの浮遊の魔法をかけても1%程度しか回復しないことだ。
この調子なら半分もいかないうちに確実に街につくだろう。
問題は街に着いた後だ。
「どう?なんかわかった?」
「え、ああ、はい。ここに表示されているのは、なんかの情報のようですね。ところでセシリーさん。街に着いたらこれどうするんですか?」
「ん?街に着いたらまずはマルゴッド感謝祭の見世物としてお披露目かな。その後は研究所に運んで研究のために色々調べるね」
「調べるってどうやって?」
「魔法で調べるよ」
幸太郎の顔が引きつる。
(ど、どうしよう…)
破滅のカウントダウンが始まっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おお、君がかの召喚士殿か!」
街に戻った遺跡発掘隊を出迎えたのは、なんと領主その人だった。
その側には冒険者組合長のザックも控えている。
「私はマルゴッド。この街を治めているものだ」
「初めましてマルゴッド様。幸太郎と申します」
幸太郎は努めて丁寧に挨拶する。
(この人が貴族か)
伯爵位を持つ本物の貴族だ。
幸太郎がこの世界において初めて会う貴族だった。
「噂は聞いとるよ。ゴブリン130匹討伐をほぼ単騎で行った猛者だと。初めはどんな大男かと思ったものだが…」
マルゴッドはしげしげと幸太郎を見る。
「ご期待に添えず申し訳ない」
「いやいや、それはこちらの勝手な妄想。聞けば君は召喚獣とやらで戦うそうだね。ならば魔術士と同じく、そんなに体を鍛える必要はあるまい。となると後ろの魔獣がそれかね?ふむ、燃える虎など初めて見たわ!」
マルゴッドは、フレイムタイガーに興味津々だった。
幸太郎が危険性がないことを示すためにフレイムタイガーの燃える背中に手を置いているためか、今にも触りたそうにウズウズしている。
「マルゴッド様その辺りで」
「んん、そうだな。今回はセシリーと共にエンシェントデストロイヤーを発掘して来たそうだな。この古代兵器の研究が進めば、新たな兵器開発に繋がり、果てにはこの戦争を早く終わらせることができると期待しておる!よく役目を果たしてくれた!」
そう言ってマルゴッドは幸太郎の背中を叩いて、そのままエンシェントデストロイヤーの方に歩いいった。
そこにザックが声をかけて来る。
「幸太郎君。今回も無事依頼をこなせたようだね。聞けばエンシェントタートルが出たとか」
「ええ、まあ」
「そして退治したと聞いて驚いているよ。あれは文献が真実なら軍を動員しなければいけない災害規模の魔物だと言うのに…それを跡形もなくとは…一体どんな召喚獣を使ったんだね?セシリーからは幸太郎君から聞けと言われたのだが…」
「ええとですねぇそれはぁ切り札といいますか…その…」
今回もまともに答えるわけにはいかない幸太郎は焦ってしまう。
まともに答えたら、また騒ぎになるのは、散々学習済みだ。
「ああ、すまない。冒険者にとって能力の情報は命そのもの。今回も難しいなら無理に答えなくてもいい。しかしよくやってくれた!これで領主の評価も上がった。幸太郎君の今回のクエストも大きく評価されているぞ。近日中にミスリルへの昇格が内定している」
「あ。ありがとうございます」
どうやら今回のことも大きく評価されたらしい。
幸太郎はたった数日でトップランク冒険者に登りつめてしまった。
「では後で組合に報告に来てくれ、私は領主と話があるので行くよ」
「はい、では」
そうしてマルゴッドのもとに向かうザックを幸太郎は見送った。
「幸太郎様」
「うん。やっぱり領主も今の所は打ち明けるの難しそうだね」
幸太郎は先ほどの会話を思い出す。
マルゴッド伯爵は、エンシェントデストロイヤーの軍事利用について言及していた。
だが今はまだ、エンシェントデストロイヤーの価値、いや危険性に気づいた様子はない。
「はい。エンシェントデストロイヤーの効果を知ったらほぼ間違いなく魔王軍に使おうとするでしょう」
「戦争だからしょうがないのかもしれないけどね。でもあれは使っちゃいけない類の兵器だと思う」
無差別大量破壊兵器は元の世界でも使ってはいけない兵器だと言われている。
「それに魔王と敵対したくないし…」
魔王軍のブラックリストに載った日には目も当てられない。
「力を見せて従えればいいではないのですか?」
「え?それ本気で言ってます?」
「はい。幸太郎様なら魔王ですら従えられると信じております」
(一体その自信はどこからくるのだろう?)
「いやそれに懸念点はあるんだよ。なんか魔王って自分と同じような存在かもしれない」
「?と言いますと」
「ほら、魔物を従えるっていかにもじゃない?」
「ああ!なるほど!確かに幸太郎様と似ているかもしれません。間違いなく下位互換でしょうが」
「お、おう」
(一体その根拠はどこから来るのだろう?)
「まあ、今は様子を見るしかないのかな」
祭りの目玉であるエンシェントデストロイヤーが搬入され、祭りの準備が始まっている広場は平和そのものだ。
「エルの推測通りならこの平穏はすぐ破られるんだろうけど」
幸太郎は封印を一部解除する必要性を感じていた。




