↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/67

草より鬼子

 スケリトルドラゴンの馬車に乗り、薬草採取のため、幸太郎は街の外に出る。


 今度は依頼請負書があったので、衛兵から簡単な検査だけで外に出ることを許可された。


 街の外で再び馬車の人となった幸太郎は冒険者組合でもらった金属のプレートをしげしげと眺めていた。

 新米の幸太郎は当然銅である。

 そこからランクが上がると銀になる。銀はホーンラビットやゴブリンの集団程度なら楽に殺せるレベルらしい。

 そして、サンベアなどが単騎で殺せるような冒険者は金に認定される。

 つまりカシラ並みが金の領域だ。


 銅クラス 001/001 ~ 100/100

 銀クラス 100/100 ~ 200/200

 金クラス 200/200 ~ ?/?

 白金クラス ?/? ~ ?/?

 ミスリルクラス ?/? ~ ?/?


 戦闘力はあくまで目安であり、実際は貢献度が重要らしいが、この基準はおそらく間違ってないように思える。

 いくら貢献度が高かろうが、戦闘力がなければ生き残れない程度には冒険者はシビアな職業だ。


「名前の掘られた金属のプレートを物の数分で作る技術はあるのに、メガネを作る技術はないんだな」


 受付で幸太郎はこのプレートを目の前で作られた。

 職員の一人が呪文を口ずさむと、何も掘られてなかったプレートに幸太郎の名前が光で掘られたのだ。

 こんな魔法(スペル)があるならレンズを作る魔法(スペル)もありそうだが、そう言うのはないらしい。

 それも眼鏡が高騰している理由に関係ありそうだ。

 この世界は魔法(スペル)を除けば技術レベルはかなり低いのかもしれない。

 ちなみにこのプレートは身分証でもあり、身元確認の時にも使われる認識票になるそうだ。

 平たく言うとドッグタグだった。


「でもそれなら貴重な金属を使うのは危険だと思うんだけどな。死んだ後に見つけた人に溶かされたり、生前も普通に盗まれそうで」


 もしかしたら盗まれないこともプロの冒険者の資格とか普通に言われそうだった。

 どうもランクが上がれば、そのプレート一枚で破格の優遇措置受けられるようだ。

 盗まれるのは当然として、死ぬのは論外なんだろう。

 あるいは死んだ冒険者のプレートを回収する任務も普通にありそうだ。

 遺族にとっては遺品だし、冒険者組合だって死亡確認は必要だ。


「幸太郎様を死なせなどしません!」

「あっとすまない。別に死ぬかもしれないと思ってたわけじゃないんだ」


 幸太郎はエルに弁明する。


「ですが先程から後ろ向きなことばかり仰られてます。われわれが護衛ではそんなに不安でしょうか?」

「いや、そう言うわけじゃ」

「それに幸太郎様は、万物を統べるマスターでは御座いませんか。なぜ他の眷属を召喚しようとなさらないので?」


 エルの視線は新たに召喚されたミニドラゴンに注がれている。


「そ、それは…」


 これ以上トラブルに巻き込まれたくないからなんて言えない。

 それはつまり、エルやフレイムタイガーが邪魔だといっているに等しい。

 トラブルには巻き込まれているが、これだけ尽くされて、命も救われているのにそんな酷いことは言えなかった。


「あ、あんまりたくさんの人で旅をしたくないから?」


 本当はたくさんのビーイングと言いたいところだが、ホーンラビットを数十匹喚んでいてそれは説得力がない。

 今は外に待機させていたホーンラビットも合流して随行させている。

 街から離れたので、警戒用に何匹かを前に先行させて、後は馬車を中心に周囲に展開させてある護送船団方式を取っていた。


「つまり幸太郎様はこれ以上人型ビーイングのお供を増えるのを好まれないと?」

「あーうんまあそうなるね」

「ではなぜ私を呼ばれたのでしょうか?他にも適切な人型ビーイングはおられたような気がしますが」

「え?」


 いや、それはたまたま手札にあったからなんてさすがに言えない。


「えと、そうだね。一目見てこれだ!思ったからかな。つまり直感というか…」


 ウソではない。

 本当に偶々だったのだから。


「え?ええ!?」


 だが、それを聞いたエルの反応は劇的だった。

 胸を押さえて、なぜか幸太郎と距離を取る。


(え?あれ?何で距離を取るの?)

「そ、そうでしたか…」


 そこで自分が幸太郎にとってマズイことをしていると思ったのが、居ずまいを正して正座する。

 そして深呼吸してから納得したかのように呟く。


「幸太郎様、私は弓と剣以外に能のない不束者ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」


 そう行ってエルは見事な正座での礼を見せてくる。


「え?あ、うん。よろしくね?」


 あらためてあいさつされたことの意味をよく理解できないまま、取り敢えず幸太郎は生返事をすることにした。


「しかし、幸太郎様の安全はやはり第一でございます。幸太郎様が必要とあれば、他の人型ビーイングもどうぞお呼びください」

「あ、うん。それはそうするよ。約束する」


 これ以上のトラブルは御免だが、それは目の前の生命の危機には変えられない。

 必要なら呼ぶことに躊躇してはいけなかった。


「それに幸太郎様は万物を統べる偉大なるお方…私にお気持ちを頂けたのは大変光栄で御座いますが、どうか私如きに気を取られてしまい、ご自身を害されることがない様ご自愛くださいませ。いざという時にはお切り捨ててください…」


 とすごく重いことを言ってくる。


「う、うん。わかった」

(途中のはよくわからんけど、つまり危なくなったら切り捨てろってことだよな。本当にビーイングはマスター第一なのな)


 リザレのゲームではカードに意思はなく、マスターの使用(プレイ)に絶対服従。

 そしてマスターこそが第一。

 ビーイングの命は二の次。

 それがこの世界でも染みついているかの様な言葉だった。

 それは本当にビーイングの意思なのか、それともリザレのルールとしての矯正された意思なのか?


 答えは出ない。


「私の命ある限り幸太郎様には尽くす所存ですが、他のものも同様です。ですのでお情けを頂けるのであれば、他のものにもそれをお与えください。私は幸太郎様の1番を頂けただけでも十分で御座います」


「う、うん?まあ他のも大切に扱うよ」


(これは自分だけ特別扱いするなと。他のビーイングも大切にしてくれというとことだよな?なんか言い方が仰々しくてすごい分かりづらい…)


「ありがとうございます」


 そう言ってエルはかすかに微笑む。

 その表情に幸太郎はドキリとする。


(え?あれ?何だろう。なんかエルのそんな顔はじめてみるというか、なんか普段冷静なところからは想像つかないくらい可愛い?なんかすごいドキドキする)


「…とは言え、ここには邪魔者も御座いますね」


 エルはそう言って、御者の方を見る。

 幸太郎もそれでここが馬車の上だったことを思い出す。

 御者台にはカシラが座っているはずだが、なぜかカシラは座ったまま項垂れており、背中から現れたマイニーが手綱を握っていた。


(え?なんでマイニー出てるの…ああ、内容を聞かれたらまずいと判断したのかな?うん、そうだ…そんな内容あったかな?)


「しかし、もしお望みであればいつでもお声がけください」

「え?ああ、うん。わかった」


 そう言うとエルは軽い身のこなしで、馬車のふちに手をかけて、くるりと体を回す様に、屋根の上に飛び乗って行った。


(用件があれば、呼んでくれ、か。しかし何でいちいちあそこまで仰々しいのだろう?)


 どこか会話が噛み合っていない。

 それも致命的な感じで。

 まるで気づかずに地雷原を抜けていたかの様な嫌な感じがする。


「…はぁ」


 幸太郎が悩む間に、どこからかため息の様な音が聞こえた。

 ふと御者台を見るとマイニーは消えてて、カシラが御者をやっていた。

 馬車は順調に薬草の群生地へと足を向けて行った。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「え?何あの数?」


 馬車から降りて、幸太郎とエルとフレイムタイガーは薬草の群生地に向かう。

 残りは馬車の護衛だった。

 そこでエルに伏せるよう言われて、見つけたゴブリンをひっそりと追いかけた先で見たのは、無数のゴブリンの群れだった。

 その数は数える気にもならない。


「130匹といったところでしょうか?」


 エルが正確に数えてくれた。

 さすがはスナイパーエルフ。

 標的の数を把握するのも必須技能なのだろう。


「1匹見たら20匹ね。それどころじゃない数だけどなるほど納得だわ」


 あんなにいたら、たかがゴブリンと言えどもかなりやばい。

 職員の注意は聞いてて正解だった。

 もし聞いてなかったら、ゴブリンが少数だった時に攻撃を仕掛けて、仲間を呼ばれてなし崩し的にあの数と戦闘になっていただろう。

 そうなったらタダでは済まない。


「どうなさいますか?」

「うーん」


 幸太郎は手札を確認する。


 フレイムタイガー

 ホーンラビット

 ホーンラビット

 スナイパーエルフ

 矢の嵐

 死の伝染

 新たなる希望

 癒しの光

 ミニドラゴン

 消滅の儀式


 墓地18

 デッキ6/40

 手札10

 マナ10/10


 ちなみに幸太郎は基本的にほとんどすべてのカードを3枚以上持っており、デッキに組み込む際は限度枚数3枚セットを基本にしている。

 例えば今のデッキ構成はこんな感じである。


 ホーンラビット × 3

 ゴブリン × 3

 ミニドラゴン × 3

 マイニー × 3

 スケリトルドラゴン × 3

 フレイムタイガー × 3

 スナイパーエルフ × 2

 ポーション× 3

 癒しの光 × 3

 死の伝染 × 3

 矢の嵐 × 3

 消滅の儀式 × 3

 スリ師の手口 × 2

 新たなる希望 × 3


「今回は死の伝染を使ってみるか」


 死の伝染

 スペル

 マナコスト3

 相手のビーイング一人を破壊する。

 自分の場にレッドゾンビを一人出す。


 幸太郎が集団戦を想定して今回加えたカードである。

 危険すぎて今までは試せなかったスペルだが、今なら使えそうなので試そうと思ったのだ。


「射程距離も試しておきたいしね」


 幸太郎が死の伝染を手札から引き抜いて場に出す。

 場に出された死の伝染は光り輝き、直後時間が止まった。


(これは?)


 時が止まったとわかったのは、周囲が完全に制止して幸太郎もまた動けなくなったからだ。

 エルもフレイムタイガーも目の前のゴブリンの集団も全く身動きしない。

 その中で、死の伝染カードとゴブリンが1匹だけ光り輝いていた。


(成る程そういうことか)


 幸太郎はこの現象に見覚えがあった。

 これは対象選択式スペルを使った時に現れるターゲット選択フェイズだ。


(ゲームじゃ時間が止まるなんてデタラメ発生しなかったけど、こっちじゃなんでもありだな)


 つまり今は自分のターンであるということだろう。

 幸太郎が視線を移すと、光が別のゴブリンに移っていく。

 視線でターゲット選択が次々に切り替わるようだった。

 幸太郎は集団の真ん中にいる体格の大きいゴブリンを選択する。

 発動すると意識した瞬間、カードは消え、時が動き出す。


「グオアアアアア」


 叫びとも呻きとも思える声を上げゴブリンが変質し始める。

 身体中から煙を上げて、皮膚がただれ始め、身体中が赤く染まっていく。


「ウ…アア…」


 レッドゾンビ

 ビーイング

 アタック200

 ディフェンス200

 マナコスト2

 敵を倒した時、自分の場にレッドゾンビを一体出す。


 現れたのはゴブリンのレッドゾンビだった。

 全身の皮膚が赤くなり、さらに傷口から血を流すそれは周囲のゴブリンに襲いかかる。


「グ?ゲゲゲ!」

「ギィギィ!」

「グゲギャア!!」


 不用意に近づいたゴブリンがレッドゾンビにやられて、異変に気付いたゴブリン達がレッドゾンビを倒そうとする。

 だがその前に倒されたゴブリンが起き上がりレッドゾンビとなってほかのゴブリンを襲い出す。

 レッドゾンビはゴブリンの攻撃に構わずゴブリンを倒してレッドゾンビを量産していく。

 ゴブリン達が1匹のレッドゾンビを倒す頃には既に数体のレッドゾンビが誕生していた。


「グギャアグギャア!」

「ゲ?ゲゲゲ?ガァ!」


 あっという間にレッドゾンビが優勢になり、ゴブリンは壊滅した。

 多分数分もかかっていなかった。


「え?何これ?」


 その惨事を生み出した張本人がそれを見て呆然としていた。


「数分でゴブリン壊滅?相手はマナコスト40でも足らないくらいのゴブリンの数だよ?」


 ゴブリンはビーイングとしては三匹で一枚だった。

 それはすでに検証済みだ。130匹のゴブリンを呼び出すには最低44回召喚しなきゃいけない計算になる。

 それをたかがコスト3のスペルで壊滅状態に追い込んだ。

 コスパがいいどころの話ではない。


「バランス崩壊もいいところだよ…」


 普通はレッドゾンビが発生しても、速攻で潰される。

 上手くやらないと死の伝染は起こらない。

 ところがこの世界では相互破壊の概念がなく、先制攻撃した方が圧倒的に有利な状況になる。

 レッドゾンビはマナコスト1のビーイングを瞬殺できるから、先制攻撃で簡単にレッドゾンビを作成できて、それはあっという間に広がることになった。


 今眼下に広がるのは元はゴブリンだったレッドゾンビの群れだ。

 彼らは一応自分のビーイングだから、こちらに殺到することはない。

 ないのだが、そんなことで安心できる気はしない。

 油断したらレッドゾンビにやられるんじゃないかと言う不安が拭えないのだ。


 エルが弓を構えたままだし、フレイムタイガーの毛が逆立ったままなのもその不安を補強した。

 彼女らもまたレッドゾンビが幸太郎の召喚したビーイングと知っていながらも、その理性をなくしたような異様な光景に警戒を解けなかった。

 レッドゾンビ達は倒されたレッドゾンビの死体を貪っている。


「うぉえー」


 幸太郎は思わず吐いてしまう。

 とにかくこの光景は気持ち悪かった。


「幸太郎様!大丈夫ですか?」


 エルが慌てて構えを解いて背中をたたいてくれる。


「あ、ありがとう。ちょっと気持ち悪くなっただけだから、後始末をなんとかしないと…」


 また討伐部位を回収しないと、冒険者組合で討伐したと証明できない。


 デッキ0/40

 手札10

 マナ10/10


 デッキが0枚になり強制リセットが行われたが、レッドゾンビたちは消える気配がない。


 デッキ34/39

 手札5

 マナ1/1


 スペルで呼び出したビーイングは消えるかもしれないと思っていたが、

 リセットしても場に出ているビーイングの状態が変わらないのは同じようだった。


「でもそれなら...レッドゾンビは全員停止」


 幸太郎がそう言うとレッドゾンビたちはピタリと動くのをやめた。

 ゴブリンたちに気づかれないように遠くに隠れている幸太郎の声が聞こえたとは思えない。

 山賊に襲われたの時と同じく、目には見えない何らかの魔法(スペル)的な繋がりがあるようだった。


「これなら…レッドゾンビは互いを攻撃」

「「「グオオオオオオ!!!」」」


 そう命令すると、レッドゾンビたちが互いを攻撃し合う。

 あっという間に自滅?して、レッドゾンビたちはゴブリンの死体に戻った。

 幸太郎は笑顔になる。


「死んでなお殺される。哀れなものだ」

「幸太郎様?」


 エルが心配そうに幸太郎を覗き込む。


「あ?…あ、うんどうしたのエル?」

「いえ、幸太郎様が少しおかしかったので」

「ごめん心配させて、ちょっとぼーっとしていた」

「…そうですか」


 幸太郎は墓地カウントを確認する。


 レッドゾンビが墓地にカウントされることはなかった。

 カードのみがカウントされるのか、墓地がリセットされなくなったことのバランス調整なんだろう。

 ロストありの代わりの救済措置がこの墓地カウントリセット無効と思っており、このカードの実験が期待通りであれば、墓地活用による戦略の幅の広がりが期待できたが、さすがにそこまでうまい話はないわけだった。


「ゾンビで墓地を埋め尽くして、墓地コストを上げる戦法は使えないか」


 基本的に墓地はあればあるほどいい。

 アーティファクトの中には墓地枚数が30枚を超えることで効果を発動する切り札的なカードもあるし、墓地消費でビーイング召喚し放題のものもある。

 最も前者は、幸太郎が懸念する危険な効果に変わってそうなカードなので現在は封印中だ。

 だから墓地を増やすことの主眼はアンデッド系デッキの墓地召喚に置かれていた。


「でもアンデッドデッキも考えものだわ。あんな惨状になるとか耐えられん」


 討伐の証となるゴブリンの部位の回収済は、検証用に呼んだゴブリンたちにやらせた。


「ゲギャ」

「グギャ」

「ゴギャ」


 ゴブリンたちは嬉々として死体から耳を剥いで行く。

 同族意識は全くない様だった。


「幸太郎様のゴブリンをあの様な下等なゴブリンと一緒にしたらゴブリンたちが可哀想です」


 と言うのは、エルの言だが全く意味がわからなかった。

 そのゴブリンは街に連れて行く気にはなれなかった。

 連れて行ったら色々と問題が起こる気配しかなかった。

 なので、この世界の探索を命じておいた。

 人に危害を加えない限り好きにしてもいいと伝える。

 事実上の解放である。

 放置ではない、多分。


「何か忘れているような...」

「幸太郎様、薬草を採取しないと」

「あ、それだ!」


 薬草は近くの群生地から採取した。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 幸太郎達は暗くなる前に、来た道を戻って街に戻る事ができた。


「幸太郎様!ご無事でございましたか!」


 中に入ると、冒険者達の声がやけに騒がしかった。

 朝見た時より多い人が、剣を研いだり、会話をしていたりして、そして誰もが険悪、あるいは真剣な表情をしていた。


(何かあったのかな?)


 そう思いながら受付に足を進めると、朝受付をしてくれた職員の女性が声をかけて来たのだ。


「一体何があったんですか?」

「その様子だと運良く出くわさなかったようですね。ご無事で何よりです。実はゴブリンの大量発生が確認されました。それも数十匹じゃなくて数百匹という異例の規模です。命辛々逃げ延びた冒険者の報告で発覚し、その一帯に立ち入り禁止命令がでたのですが、それが丁度幸太郎様が受け付けられたクエストの行動範囲と被っていたのです。丁度入れ替わりだったため伝えることができず、また早馬を危険地帯ギリギリまで出したのですが、道中見つけることができず、既に危険地帯に入ったものだと判断され…本当にご無事で何よりです!」


 そういって、お姉さんは涙ながらに手を握ってくる。

 どうやら本当に心配させたらしい。

 心配してくれるのはありがたい。

 とてもありがたいのだが、幸太郎はそれより気になることがあった。


「えと、今ゴブリンの大量発生があったと言いました?」

「はい。そうです。今非常招集をかけて討伐部隊を編成中です。幸太郎様におかれましてもお疲れのところ申し訳有りませんが、森の様子についての事情聴取と、あと討伐部隊への参加をお願いできないでしょうか?数が数ですので幸太郎様の召喚魔法(スペル)のお力をぜひお借りしたいのです」


 それを聞いて幸太郎は顔を青くなった。

 冒険者はここにいるだけでも30人を超えていた。


(ど、どうしよう?あれこんな大規模な討伐隊が必要な事態だったの!?)


 言うべきか言わないべきか。

 悩むのは一瞬。

 答えはすぐにでた。


 このまま討伐隊が出発してあれを見たら、調査が行われて遠からず幸太郎にたどり着くのは自明だった。

 ここで言わなかったらなぜ言わなかった?と非難され、最悪討伐隊の経費を請求されたら目も当てられない。


「あの…多分、それ既に討伐して来ました…」


 小さく言ったつもりだった。


「「「「はあああ!!??」」」」


 だがいつの間にか二人の会話に会話に耳を澄ましていた冒険者に聞かれて、お姉さんと冒険者からの詰問に会うのは幸太郎の予想通り避けられないことになった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 その場に投げ出したゴブリンの耳およそ130個を見て、冒険者達はみんなあぜんとしていた。


「そんなバカな、ゴブリン100体だぞ?単騎で挑むとか、無謀だろう」

「いや、召喚士には弓使いと戦士が仲間にいるぞ?」

「それでも三人だ。三人でも百体は無謀だ」

「そうだ。いくら弓を撃っても殺到されて終わりだ」


 冒険者たちが幸太郎に詰め寄る。


「「「「一体どうやって倒したんだ!?」」」」


「ええええええとですねえええ、それはあああ…」

「幸太郎様!組合長がお呼びです!」

「はい!すぐ行きます!」


 どう答えようかとシドロモドロしていたところに職員のお姉さんから声がかかり、幸太郎は天の助け!とそれに飛びついた。

 そして追求しようとする冒険者達から逃げ出して、組合の奥の方に入っていく。


「はあ、助かりました」

「いえ、冒険者さん達には後で私から言っておきますので!」


 そういって小柄な職員のお姉さんは拳を握る。

 大丈夫だろうかとも思ったが、冒険者組合に所属するお姉さんだ。

 きっとあしらい方も心得ているのだろう。


「よろしくお願いします」


 いいタイミングで呼んでくれた組合長とお姉さんには感謝だ。

 そう思いながら、幸太郎達は組合長室に入る。


「やあよく来たね幸太郎君!君ならやってくれると思ったよ!」


 熱烈な歓迎を受けた。


(あ、これ早まったかもしれない)



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「いやー私は幸太郎君ならやってくれると期待していたよ。ゴブリンの大量発生にはいつも悩まされていてね。その度に討伐隊の編成や近隣住民の避難にと大変なんだ。これだけ討伐証明があるから問題ないと思うが、君から聞いた情報を元に今調査隊を送っている。その結果次第だが、それ次第では君のランクアップは確定だな」

「ありがとうございます。こんなに早く認めてくれるとは思いませんでした。銅の次なので銀ですね?」


 銀は新米ではない冒険者として認められた証。クエストを受注する幅が広がるだろう。


「何言ってるんだね君は?金に決まっているだろう?」

「え?」

「3人でゴブリン100匹以上を討伐したんだ。そんな冒険者が銀な訳ないだろう?本来はミスリル相当だが、規則で一度のランクアップは二階級上までと定められているんだ。まあ君ならすぐに別の功績を挙げてくれるだろう」

「あ、ありがとうございます」


 なんと二階級特進だった。

 これはよくあることなのか、冒険者なりたての幸太郎にはよくわからない。


「まあ、冒険者になりたての君にはよわからないだろうが、普通は銀クラスになるには1年、金クラスになるのは3年と言われているからね?」

「3年!?」


 つまりはベテランの冒険者と同じ扱いを受けるわけだ。

 新米には破格の待遇である。


「でもそれは一般的な冒険者の話であって、たまに君のような才覚あふれた者や、元傭兵、元騎士のように別の分野で経験や功績のある者が、飛び級していくことはある。そういう意味では珍しいことではない」

「なるほど」


 つまりそれは中途採用のようなものということだろう。

 形だけ銅ランクから初めて、実力者はすぐにランクを上げる。


「さて、報酬を用意する間に君たちがどうやってゴブリン100体を討伐したのか詳しく聞かせてくれないか?」

「え、ええと、それはその…」


(やばいなぁ死の伝染は勿論、スペルも伝えたくない。絶対騒がれる)


 幸太郎はどう答えるのが正しいのか頭を悩ませることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。